「それで、俺たちはどうすりゃ良いんだ?」
それぞれが武器を構え、敵の動きに備える中、そんな事をダンテに尋ねるのはシーザーだ。
「シーザー!貴方聞いてませんでしたの!?」
「聞いてたけどよ、よく分かんねー感じだったからよ。つまりオレらはアイツをぶっ飛ばせば良いのか?」
「そういう事だ。いつもと変わらないな」
脳筋な言葉に同意し、サングラスを掛け直すライト。
「おい、なんで俺見ながら言いやがるシーザー」
「なんでって、そりゃお前も仲間だろ?」
「は!?」
ダンテは目を剥いて驚く。初耳である。何処にも所属しないつもりでいたから尚更の事。
「まぁ、そこは私も同意しますわ。実質カリュドーンの子メンバーですわよ貴方」
「入った覚えねぇんだけど!?」
「俺は元から歓迎してた。アンタも特に気にした風でも無かったから言わなかったが」
「ここに居ないパイパーやバーニスが居ても同じ事言うと思うぜ」
ていうか、バーニスに至ってはお前とコンビみたいなところあっただろ、とシーザーに指摘されたらぐうの音も出ない。ノリのいいバーニスとは会うたびその場がエーテリアス相手に馬鹿騒ぎするライブ会場になってしまう。
「言ってる場合じゃありませんよ!」
そんな側から見れば緊張感のない会話は、サクリファイスの攻撃で一時中断となる。上から叩きつけても弾かれると判断したのか、横薙ぎに地面を掬い上げるように巨腕が振るわれる。なるほど、これなら避けるのは難しいだろう。だがしかし、この場に居る者達は全て一騎当千の強者達である。
「ここは私が──!」
まず最初に出たのは、ライカンだ。両足の戦闘義足がフル稼働。ふくらはぎに当たる部分から冷気を帯びたジェット噴射でブーストされたシリオン特有の身体能力を活かした蹴りの乱舞で振るわれた巨腕の勢いを殺す。
「なら次は私ですね」
きらりとメガネが反射する。勢いの止まった巨腕目掛けて飛び込む七海は、首元のネクタイをほどき、拳を保護するバンテージのように巻きつけ、勢いよく殴り付ける。その衝撃で、地面が大きく割れ、巨腕が少し浮いた。
「術式の開示、なんていう狡い真似はしませんよ……なんて」
誰に向けた言葉なのか分からない事を呟き、さらに追撃。空いた片手に握られたナマクラ鉈を振るう。衝突の瞬間、雷のような黒い火花が散った。到底威力など期待できなさそうな武器にも関わらず、巨腕を一振りで一刀両断してしまう。
「援護は任せなよ」
「今のうちに行ってください」
視線で行けと七海がダンテに促す。彼は両手に拳銃を握ったまま、前腕部の半ばまで断ち切られた腕の上に跳び、サクリファイスの胴体目掛けて走る。
「どいつもこいつも人使いが荒いな!」
サクリファイスである以上、どんなに巨体であろうと弱点は存在する。コアだ。それさえ破壊すればいい。だからそれがあるであろう胸に向かって腕を駆け登っていく。しかし、相手もそれをただ傍観しているわけがない。腕の体表からズルズルッッと、粘着質な、肉肉しい音と共に出てくるのは、エーテリアスに似た化け物。恐らくサクリファイスの複製だろう。その実力も通常のサクリファイスと変わらないだろうそれを前に、ダンテは笑う。
「雑魚は黙ってな!」
拳銃が火を吹く。人知を超えた速度で連射される。弾丸の雨が化け物を穴だらけのチーズへと変えていく。しかし、それでも次々に生み出されていくそれに、接近を許すダンテ。それでも、彼の笑みは絶やされることは無い。銃を背中のホルスターにしまい、代わりに服の下から取り出したのは、両手両足に装着する籠手具足だ。ぬるりとした質感の金属で構成されたそれは、ピッタリと手足にハマる。
「こっからは肉体で語ってやるよ!」
篠ノ之束謹製の欠陥兵器の一つ。ギルガメス。液体金属を主軸にして作られた、蒸気機関を打撃の瞬間に生成してその蒸気を威力に変換する代物。問題があったのは、その変換された威力に常人の肉体が耐えきれず爆散してしまうことだろうか。威力と引き換えに命を要求するおバカ兵器である。人より強靭な肉体を持つ彼だから使える代物。
──これでも自重して威力落としたんだよ?ロマンに限度はないんだからね!!
とは本人の談だ。ロマンに限度はなくとも人間には限度が存在するのだと辞書で100回引き直して欲しい。
しかし、それだけの甲斐があり、ダンテが振るう度にサクリファイスが1匹、1匹と肉片となって爆散していく。痺れを切らした本体のサクリファイスが腕に止まった蚊を叩き潰すようにもう一つの手で押し潰さんとしてくる。
「はっ、掃き溜めにしちゃ、意外とガッツあるな!」
その場でしゃがみ込む。拳を握り、折りたたんだ脚をバネのように跳ね上げ、飛び上がる。その勢いを下から掬い上げるように振り上げる拳に乗せ、迫る手をカチあげた。
「リアルインパクト、ってな」
弾くどころか、余りの威力に化け物の片手、いや片腕を遥か空まで吹き散らしていた。
「はいはい、調子に乗らないの」
後ろから同じように登ってきたのは迅だ。周囲のサクリファイスを切り刻みながらダンテの横に立つと、自分のブレードを指差し、構える。
「マジで言ってんのか?」
「コアまで登るよりマシでしょ、妨害は俺が止めるからそのまま行って」
「大丈夫かよ」
そう言いながら、跳ぶ。着地先は迅が構えるブレードの上。刃のない腹に足裏を載せる。
「大丈夫、僕最強だから?」
「その声で言うなよ、反則だろ」
──旋空弧月!!
いつも放つ居合の要領で、ダンテをカタパルトから発射する弾丸の如く射出する。風の抵抗で頬の肉が揺れる。化け物もその巨体に見合わない俊敏さで再び迎撃する。炎の触手の雨に、サクリファイスの複製が何体も。守りは硬いと言えるだろう。だが──
「そうなるのは知ってた、視えてるからね」
迅が持つブレードに漂う光の帯は既にない。それはつまり、使い切ったという事。ダンテを包囲するよう展開された攻撃の悉くをその更に外からの斬撃が切り刻み無力化する。
背中に背負った身の丈はある大剣を引き抜き、円盤投げのようにして化け物目掛けてぶん投げる。回転しながら深々と化け物の胸へと突き刺さるが、まだ浅い。コアにまでは届いていない。そのままでは。
「外がダメなら!」
取り出すはホルスターに収めた拳銃達。両手に掴んだそれを乱射する。ある一点を目指して。
──カカカンッッ!
幾つもの弾丸が、突き刺さった剣の柄頭を直撃する。その度、ズブズブと深く、更に深くへと刺さっていく。目的に気がついた化け物は、再び腕を生成すると横薙ぎに振るう。空中にいるダンテに回避する手段は──ある。
空中で、赤い魔法陣を足場にして再び跳ぶ。先ほどいた場所を通り抜ける腕。勢いのままダンテは突き刺さった剣目掛けて跳躍。柄を掴み、更に押し込む。その身体から赤いオーラを放出し、剣を更に深く──
『GYAAAAAAA!!!!???』
化け物が初めて叫んだ。赤子のようにみっともなく叫ぶ。それはまるで親に助けを求めるような、或いは初めて感じる痛みに恐れを抱いているかのような。
「jackpot!!」
ダンテの声と共に、コアを貫き、背中から剣と共に飛び出し、地面へと着地。振り返れば、あれだけ大きかった巨体は既に崩壊し始めている。ボロボロと、まるでゲームのポリゴンみたいに。
「やれやれ、事後処理に社長が頭を抱えそうだな」
後はしーらね、と言わんばかりにダンテは剣を納め、皆の元に向かう。その背後には、治安官らしい二人組が走ってきているのが見えた。
ルシウスは、身を苛む値の知れない恐怖に目が覚めた。目を開ければ、そこはどこまでも広がる何もない空間。黒と白の空間に、空にはまるで黒い太陽のような『何か』
人知の及ばない根源的恐怖。言葉として表すならそれが間違いないだろう。
「おい、おい!」
誰かいないのか。そう叫んでも誰1人として返事する者はいない。よく見れば、自分の手足は黒く霞み、ボロボロと虚空へと消えていくのが分かった。
「誰か……誰かァ!」
このまま、消えるのか。何も成さず、何一つ残さぬままに。それは嫌だ。俺は何も成し遂げていない。俺の夢、俺の野望。その全てを。
──ここは、虚無。
声が聞こえた。目の前に、誰かが立っていた。何もかもを奪う冷たい雨の中、黒い世界で赤だけが存在できるように、赤色の和傘を差す女性。腰に届くかと思われる白い髪に、和服をパンクチックに改造した肌の出た服装。紅の瞳がこちらを見ていた。
「貴方は、これから何処に向かう?」
「俺は、俺は戻りたい!俺は──!」
「そうか、私にしてやれる事はないが──貴方が行き着く事を祈ろう」
そう言って、もはや黒い塊となるまで崩壊し、消えていくルシウスを見届ける。
──あぁ、雨はまだ止まない。涙のような雨が。