ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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スタートーチ学園に行ってて遅れました


作戦会議

 衛非地区には、ホロウと直接繋がるロープウェイが存在する。比較的安定したポイントと街を直接繋げるメリットは大きく、ラマニアンホロウで採掘できる輝磁はエーテルに対する対侵食耐性があり、衛非地区を代表する産業の一つとなっている。そこと直接行き来ができるのだからその利便性は推して知るべしである。

 

「やっと抜けられた……」

「やはりホロウの外は空気がうまい」

 

 上条とハベルの2人は、そんなロープウェイから出てくる。朗らかに笑うハベルと対称的にげんなりした表情の上条。その理由は至ってシンプルであった。隣のハベルが悪い。

 

「その鎧、外す気はないのかよ?」

「悪いが、これは私のポリシーみたいなものだ。外す気はないぞ貴公」

 

 そう、あの岩みたいなゴツい鎧姿のままロープウェイに乗り込み、そして衛非地区に居るのだ。当然目立つし、治安官だって目をつけるのは当たり前だった。そのフォローで弁解する上条がげんなりするのも納得である。

 

「さて、私はまだ用事がある。ここで別れるがもうホロウに入るんじゃないぞ」

「あ、ありがとうございました儀玄さん」

「すまないな貴公。世話になった」

 

 2人の言葉に全くだ、とため息をつく儀玄。ハベルがこうして衛非地区に居られるのも儀玄のお陰である。彼女はこの街においては一目置かれる存在であるらしく、彼女が言うなら……と皆が渋々納得してくれたのだ。

 

「しかし、その運勢ではな……そこの、お前だ」

「俺ですか?」

「ああ、何かあれば適当観に来い。最近あそこの門を開けていてな。ある程度のトラブルなら請け負ってやる」

 

 ではな、と再びロープウェイに乗り込む儀玄の姿を見送り2人は顔を見合わせる。

 

「で、だ。どうするつもりだ、貴公?」

 

 腕を組み、鎧の隙間から視線を向けるハベル。彼は上条が何かを思案するような表情をずっとしていた事に気がついている。既にホロウの危機から脱出し、普段の日常に戻れる。その瀬戸際、選択肢の前で彼は考えていたのだ。

 

「──俺たちが見た、あれは多分……」

 

 異様な光景だった。左右を敷き詰めるカプセルのような繭。そして奥で鎮座する花のような植物。まだ花開いていないそれ。

 

「讃頌会だろうな」

 

 ハベルは確信している。幾度なく彼らと単独で衝突した彼の直感が間違いなく奴らであると告げている。

 

「きっと、シルバーもそこの仲間なんだろうけどさ」

 

 そうだろう。あの場にいたシルバーと同じ姿の眼帯をした少女。シルバーに彼らは裏切られた。しかし。

 

「俺は、シルバーの全部が嘘だとは思えないんだよな」

「ふむ」

 

 そもそも、彼女が本当に上条達に嘘をついていたのかすら不明だ。喋れない彼女にその真偽を問うにしても難しいだろう。上条はまだ納得できていない。あの時の菓子を貪る姿に嘘があるようには、見えなかったから。

 

「ではまずは腹ごしらえをして作戦会議と行こう」

「いいのか?」

 

 証拠があるわけでもない。彼個人の感情一つだけ。しかし、ハベルはそれを否定するでもなく頷くだけであった。

 

「一つ、貴公は忘れている」

「忘れてる……?」

我々転生者は皆、そんな感情一つの為に動く者たちだと言う事だ」

 

 その言葉に、確かにと笑い上条はガションガションと煩い鎧のまま腹ごしらえのできる店に向かうハベルの後をついていく。そうして目についたのは、飲茶仙という飲食店。当然、室内にあの鎧で入れるわけもなく、外のテラス席につく2人。上条は、そこで自分が金を持っていない事に気がついた。

 

「悪ぃ、俺金が……」

「む?そうか?ならここは私が持とう。最悪経費としてかの会社に領収書を送り付ける」

「すまん」

 

 なにしろ何の準備もなくホロウに放り出された身だ。金なんてあるわけもなく、申し訳なく上条はお通しで出されたお茶で喉を潤し誤魔化す事にする。

 

「して、どうする?ホロウならまたロープウェイで……そもそも2人だけで行くのは無謀なのではないかと思い始めている次第だが」

 

 しかし、脳内で忙しそうに色んな話し合いをしている掲示板の面々を見る限り、今その余裕はないだろう。飛行船が落ちるとか言っている。

 

「最悪、シルバーだけでも連れ出すさ。讃頌会の企みが何なのか分かれば儲けものって感じでさ」

「いい判断である。こっちの戦力は限られているのでな」

 

 方針は決まった。後はホロウに入る手段だ。ロープウェイを再び利用する方法も考えたが、儀玄さんにああ言われて舌の根も乾かぬうちに、と言うのは少し憚られる。あとハベルの鎧のせいで白い目で見られるのも一因である。やっぱ外さないかその鎧?と上条は白い目だが本人は知らぬ存ぜぬで知らんぷりである。

 そんな2人の間に注文しておいた料理が並べられていく。中華で統一された内容だ。朝から何にも食べてなかった上条には危機を抜けた安心感もあってか、とても美味しく感じられるものだった。ハベルは、意地でも鎧を脱ぐつもりがないのか少しだけ隙間を開けて、その間から食べていた。

 

「ホロウに入る方法、他に知らないのか?」

「ラマニアンホロウはあまり入っていないのだ。他にもあるにはあるだろうが、詳しくない」

「調べるにしても時間がかかる、何かあればいいんだけどな」

 

 言っても仕方がない、と上条は肉まんの最後の一欠片を口に放り込もうとしたところを横から何かに奪い取られた。

 

「あぁ!?」

 

 何かと机を見れば、小さい狸が上条の持っていた肉まんを奪い取り、見ている前でパクリと食べてしまったのだ。

 

「最後の一個だったのに……不幸だ」

「──貴方達、ホロウに入りたいの?」

 

 だらりと、狸に伸ばした手を下ろして落ち込む上条と、それを見て笑うハベルの横に、誰かが話しかけてくる。2人して見てみれば、そこにいたのは学生服の上にピンクのカーディガンを着た赤髪の少女だった。

 

「そのつもりだが、貴公は?」

 

 突然の登場に驚く事なく聞き返すハベルに、少女はイタズラっぽい笑みで返す。

 

「私、浮波柚葉。ホロウに入りたいって聞こえたんだけど本当?」

「ハベルだ。その通り、我々はホロウに入る手段を探している。諸事情でロープウェイが使えないのでな」

「俺は上条当麻、諸事情っつーかお前のせいっていうか」

 

 この鎧がなきゃもうちょい楽なんだけどなぁ!と愚痴る上条をスルーし、柚葉と会話するハベル。

 

「私、ロープウェイを使わないホロウに入るルート知ってるよ」

「ふむ?それを言って、我々に何をして欲しいのだ?貴公よ」

 

 単なる善意でそんなことは言わない。ホロウに入るのは許可された労働者などを除き一般人が入ることは公には禁止されている。だからホロウレイダーを治安官が捕まえている訳だ。上条のように、巻き込まれる例もある為一概に言えないが、概ねそのようになっている。では、こうして尋ねる目の前の少女は?

 

「私、ホロウで探してる人がいるの」

 

 柚葉は語る。幼い頃に助けてくれた人が最近インターノットの噂になっていると。もう会えないと思っていた人がいるかも知れない。でも、1人じゃホロウに入るのは危険だ。だから一緒に入る人間を探していた所に上条達の会話が聞こえたようだ。

 

「真斗……あぁ、私の友達ね。頼もうと思ってたんだけど、今忙しいらしくて」

「んん?」

 

 不幸を嘆く上条は、彼女の口から知り合いらしき名前が聞こえて反応した。いや、しかし気のせいかも知れない、と持ち直して取り敢えず話を聞く。

 

「事情は理解した。しかし貴公、我々の目的もある。手伝うのは構わないが……危険だぞ、それでもいいのか?」

「ホロウが危険なのは百も承知。どうしても私は、あの人に会いたいの」

 

 そう言って、こちらを見る柚葉にふぅむ、と考え込むハベル。彼女の何気ない仕草や視線、そう言った細かい所作にホロウでもそれなりにやれる人間と推測する。戦力が増える事には歓迎だが、無関係の彼女を何処まで付き合わせていいものか、と。

 

「お願い!」

「──分かった、頼む」

 

 結局、折れたのはハベルだ。ここで断り、1人でも行くだろう彼女を放っておくより、自分達がついて行く方が幾分マシだと判断して。

 

「その会いたい人ってどんな人なんだ?」

 

 話が纏まった所で、上条は疑問半分、好奇心半分といった様子で尋ねる。ここまでするほどの人だ。一体どんな人なのだろうか、と。

 

「冴えない人だったかな……でも、色んな事を話してくれたんだ。私が怪談を始めたきっかけかも」

 

 皆の笑顔を守る為に戦った仮面の戦士とか、色んな物話。と彼女は言った。

 

「そうか……」

 

 上条は、そう返すしかなかった。

 

(そんな悲しそうな顔で言われたらな)

 

 聞くべきじゃなかったかも、と少し後悔する上条はその空気を変えるべく、話を変える、

 

「じゃ、話は纏まったし……行くか?」

「私は構わん。案内は彼女に任せよう」

「え?ホロウだよ?あなた達、プロキシなの?」

 

 プロキシ、ホロウにおける案内役ナビゲーター。地図であるキャロットも含めそう言った準備もなくホロウに入るのは一般的に自殺行為である。が、この2人にそれは当て嵌まらない。

 

「あー、そういうものか」

 

 上条は普通はそういうものだったと、今更理解した。いっつも突然ホロウに投げ出されているので普通に入った試しがなかった。

 

「その点は安心するといい、我々には力強い味方がいる」

 

 そうハベルが返せば、大丈夫かなこの人……と勢いで声をかけてしまった自分に今更少し早まったかと思った柚葉である。多分街中でゴツい鎧を着る男がいる時点で気づくべきだったかもしれない。

 


 

 

「チッ、逃げ足が速い奴らね」

 

 追いかけた相手に逃げられ、不機嫌に自らの体を抱く眼帯の少女は、隣にいるAと呼ぶ少女を見る。何処か遠くを見ているような様子に、苛立ちを八つ当たりする気も失せた

 

「……貴女はここを見てなさい、奴らまた来るかもしれないわ」

 

 眼帯の少女はそう言いながら、研究所の奥で眠る花の蕾を見つめる。

 

「もう少しよ……隊長」

 

 あの頃のシルバー小隊に戻る。それが少女の家であり夢なのだから。その様子を見ていたAはいつまでも彼らが走り去った扉を見つめていた。その胸の奥でチクリと疼く何かに戸惑いながら。

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