ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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何故讃頌会がいたのか

『それで私に声を掛けたと、中々いい判断ですねー!』

 

 ホロウに入って、3人が開口一番聞いたのはそんな元気溌剌な声だ。上条が持つ携帯のディスプレイ上でふわふわと浮かぶ少女、エネだ。

 

『そちらの方は初めましてですね?私、エネと申します!ホロウナビゲートは私の十八番です!おまかせを!』

 

 一方的に捲し立てられ、少し怯む柚葉。しかしそれも束の間、ウキウキと瞳に好奇心を見せながらディスプレイを覗き込む。

 

「なにこれー!?AIってやつ!?あ、私は柚葉ね」

『AIじゃありませんよー?電脳美少女エネちゃんです!私の事は良いんです、それで案内が必要との事でしたね?』

「うむ、こういった事には貴公の力が必要だと思ってな」

 

 良いですよー、と軽い調子で了承するエネ。まだ興味津々と言った様子の柚葉に、ハベルは気を引き締めるよう告げ、ホロウを進む。

 

『しっかし、ラマニアンホロウの中は随分と変ですねぇ。なんというか、悪意を感じますよ』

 

 幾度なくホロウの中を精査し導いてきたエネから見て、ラマニアンホロウは気味が悪いの一言に尽きる。他のホロウが迷路であって、何処か無機物的な、そこにあるだけのものなら、ラマニアンホロウは人を迷わす意思が見え隠れする生物的なホロウである。チラつく悪意をヒシヒシと感じるのだ。

 

「そういうの、わかるの?」

『これでも経験豊富ですからねぇ、他と違うのは間違いないですよ。ま、神の迷い路に比べたらマシかもしれませんがね!』

 

 かつて、蛇と共に攻略したホロウの事を思い出すエネ。あれは2度とやりたくない経験である。

 

「ふーん……」

「それで、探すアテはあるのか?何もないならとりあえず俺たちの目的を優先して、それらしい手がかりを探すけど」

「ラマニアンホロウの事しか書いてなかったんだよね……あ、でも一つ特徴があって」

 

 目撃者の話だと、赤いマフラーをしてたらしい、と柚葉は話す。前に入った時、そんな人物はいなかったが、運が悪かったのか或いはもう居ないのか。

 

「では、まずは二手に分かれて手がかりを探そう」

「二手に?」

 

 ハベルの提案に、疑問で返す上条。前に大量のエーテリアスに襲われたのだ。分かれるのは危険ではないかという懸念があった。当然、それをハベルも理解している。

 

「うむ。貴公らに約束してもらいたい。目に見える危険が迫った時、必ず逃げると」

 

 無理をしない。危うきに近寄らない。それがハベルの決め事。上条も柚葉も、その言葉に頷く。

 

「では私が1人で、貴公らは2人で動いてくれ」

 

 この中で一番戦闘力があり、ホロウ慣れをしているハベルが単独行動をする。2人も納得できる人選だ。

 

『分かれてもしっかりナビゲートするので、安心してください!』

「うむ、任せたぞ貴公ら」

 

 そうして分かれて行動する事となった上条と柚葉は手がかりを探しながら歩く事となった。幸いエーテリアスに遭遇することもなく平和な道だ。

 

「ねぇねぇ、上条って私と同じ学生だよね?私と違って武器もないのに、ホロウが怖くないの?」

 

 自らが持つ傘を示し、彼女は聞いた。どう見ても無手でホロウに入る上条に不安の様子はなく、その自信は何処から来るのかを聞きたくなったのだ。

 

「あー、うん。普通そう思うよな」

 

 一方上条はそう聞かれる事に慣れていた。ホロウで遭遇した人に尋ねられた回数も多く、その度に説明するのだが……

 

(何て言えばいいんだ……?)

 

 中2のそれみたいな説明をする事に羞恥心を覚える上条に、この質問の返答は困難を極めた。大した語彙力のない上条は悩んだ末に、分かりやすく、端的に言った。

 

「俺の右手は異能を消すんだ。それが神の奇跡だろうが異能なら問答無用で」

 

 それはエーテルやそれに連なるエーテリアスも例外ではない。大抵のエーテリアスは触れただけで消える。流石にニネヴェのような大型ネームドなどはそう簡単にはいかないだろうが、それでも効果はあるだろう。

 

「えー?なんだか胡散臭いねー?」

「だー!だと思ったよ!絶対言われると思ったわ!」

 

 言われてハイそうですかと信じる方が珍しいのだ。こればっかりは見てもらう他ない。

 

「証拠はないの?」

「証拠……まぁ、エーテリアスが出た時に見て貰えばわかる──隠れろ!」

 

 会話の最中、上条は視線の先で動く人影にいち早く気がつき、柚葉の手を引っ張り物陰へと隠れる。

 

「なになに、何があったの?」

「あれは──」

 

 気付かれないよう小声で会話する2人は物陰から覗き込む。そこには、白い服に、禍々しい杖を持った男達がいた。皆、同じような仮面を被り表情は見えない。

 

「やっぱりいたか……」

「あれって……」

 

 上条はやはり、とその存在を確認し、柚葉は過去を思い出し震えた。

 

「よし、尾行するぞ」

 

 奴らの目的を探る。ラマニアンホロウで奴らが何をしようとしているのか。あの神殿のような場所を見た後だ、無関係はありえない。そう思い柚葉を見れば、彼女は肩を自らの手で抱きしめ震えていた。

 

「……柚葉?」

「……大丈夫、行こう」

 

 目を閉じ深呼吸一つ。こちらの目を見て柚葉は上条に言う。何かあるのは目に見えているが、それを掘り返す暇などないし、無遠慮な人間でもなかった。

 音を立てないよう、何処かへ向かう讃頌会の信者の後を追う。やがて何処かの廃墟地味た建物の中へと入っていく。入り口から見て、随分と薄暗く、まるで魔物が口を開けているような向かい風が音を立ててこちらを歓迎していた。

 

「……ハベルがいなくてよかった」

 

 あの鎧では、物音を立てず移動するのは無理だった。ある意味では幸運で、また別の意味では悪運かもしれない。もし見つかれば、2人だけでは勝てないかもしれないのだから。きっと、ハベルがいたら不用意に入る選択はしなかったかもしれない。しかし、それは仮定の話。上条と柚葉は、奥へと向かう事にした。

 

「ここって──」

 

 小さく、無意識に漏れたのだろう一言が柚葉の口から出る。余りにも見覚えがある場所だった。2人が進む通路の左右を敷き詰める頑丈な牢。錆びつき、扉も開放されたそれ。壁に描かれた稚拙な落書き。牢の外から漏れる陽の光。柚葉は知っていた。

 

「大丈夫か柚葉?」

「うん、大丈夫……行こう」

 

 ここからは外と違い、音の籠る室内だ。細心の注意で音を消さなければバレてしまう。そうして通路の奥へと進む信者達の後ろをゆっくりと進む。そうして通路はやがて行き止まりの部屋へとたどり着く。部屋を覗くが、いろんな機械が鎮座する部屋だ。計器が色々動いていて、まだ稼働しているように見える。

 

「──!」

「──」

 

 信者達は何か話しているようだが、話の内容までは聞こえない。しかし、何かを探しているように見える。辺りを探し回り、目的のものは見当たらず苛立つ様子で引き返してくる。

 

「ヤベッ……!」

 

 こちらに向かってくる。慌ててその場を離れようとする2人は、轟音を耳にする。

 

 ドゴンッッ!!と

 信者のいる部屋の中央、天井を突き破り2メートルは優に超える人が降り立った。こちらから顔は見えないが、埃に混じって揺れる首元の赤いマフラーが印象的な背中だった。

 

「なんだコイツは!?」

 

 信者達も、その存在を知らないようで驚きながらもその手に持った杖でエーテリアスを呼び出し襲わせる。だが、その人はその肉体から放たれる拳や蹴りでエーテリアス達を薙ぎ倒し、信者達をその拳で一方的に殴り殺してしまった。信者の仮面が砕け、血が飛び散り、肉片になるまで殴り続けるその様は、悲惨だった。

 

「見るな」

 

 咄嗟に上条は自分の体で柚葉の視界を塞ぐ。そう言う彼もまた、喉から酸っぱいものが込み上げていた。しかし、耐える。今存在がバレてしまえば襲われるのは、自分達なのだから。

 

「──ハァ……」

 

 その時だ。首だけを動かし、その人物は肩越しにこちらを見たのだ。音を出す事はなかったはず。何故バレたのか?目が合う瞬間、色んな事が頭の中を駆け巡る。せめて、柚葉だけでも逃す。その覚悟を固め、上条は拳を握った。

 

「──」

 

 しかし、その人物は入ってきた天井の穴から飛び出してその場を去っていった。確実に目が合っていた。暫く一言も話さずその場で何も起こらない事を確認し、ようやく息を吐いた。緊張のあまり呼吸を止めていたかもしれない。

 

「生きた心地がしないぜこりゃ……」

『喧嘩売らないのはナイス判断でしたよ……あれ、エーテル反応ビンビンでしたんで』

 

 強敵なのは間違い無いでしょうね、と続けるエネを他所に、安堵でその場に座り込む上条。柚葉は、あの人間が消えた穴をずっと見つめていた。

 

 


 

 

 彼と初めて会ったのは、牢屋の中だった。そこには幼い子供達がいた。その中で彼は一番の年長だった。いつもここから出られたら何をしようかとか、そんな話ばかりしていた。

 私はそんな未来などあり得ないと知っていた。この先にあるのが悲惨な末路である事を知っていた。だから、冷めた目で見ていたのをよく覚えている。

 そんな時だ。下の小さい子供達が泣き始めたのを見て、彼は話をし出した。こことは違う、何処か遠い世界のお話を。御伽話とバカにしていた子供もいたが、その話も次第に皆が引き込まれて、気がつけば彼を中心に輪を作り話を聞き入っていた。

 欲望とメダルのお話。メモリを巡る風の都の話。10の世界を巡る旅人のお話。愛と平和を創るお話。様々な話を聞く皆の表情は明るかった。また明日、と。続きを聞く事を楽しみにしていた。

 

──ふん

 

 私は、どうにも素直になれなくて、その輪の外でそっぽを向いていた。でも、いつしか私も何処かでその話の続きを楽しみにしていたんだと思う。

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