ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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書いてたら久しぶりにプレイしたくなってブラボとSEKIROやってました。遅れてすみません。愛用武器は回転ノコギリです。


ゴーゴー!レッツゴー!

 柚葉は周りに信者やエーテリアスの影がない事を確認し、物陰に身を隠しながら進んでいく。

 

「……ちょっと、変かも?」

 

 静かだ。元よりエーテリアス以外の生物がいないホロウにおいて物音はそれに類するもの以外ないが、それにしたって静かすぎた。自らの呼吸の音、心音。そういったものが周りにも聞こえてしまうんじゃないか、と思うほどに。その事実に薄寒いものを感じながら走る。

 

『ここは元々宇宙開発センター、みたいなものだったみたいですねぇ。まぁホロウが原因でそれも頓挫したみたいですが』

 

 耳に刺したイヤホンからハツラツとした明るい声が聞こえる。口には出さないが、この静かさの中で柚葉の心を落ち着かせてくれる少女の声に感謝していた。余りの静けさにどうにかなりそうだった。

 

『ホロウによって生活圏が脅かされるのであれば、宇宙外に逃げてホロウのない宇宙空間で生活する、みたいな発想だったらしいですけど』

 

 仮にそれが成功していたら、その時は宇宙独立国家とか言って、地球に残る人たちと戦争でもしてたかもしれませんねぇ、と軽口で話すエネ。

 

『まぁ、あの天才兎頭のいいバカがその時に居たら話は変わってたんでしょうけどねー』

 

 まだ生きているセキュリティを話ついでに解除しながら先導するエネは、ひとつの目的地を指し示した。扉にはデカデカと『廃棄物処理室』と書かれている。

 

『この先です、ただ……ハベルさんの様子を見る限り門番がいるのは間違いないんで、警戒してくださいね』

「……うん、案内ありがと」

 

 扉を前に深呼吸をひとつ。意を決して扉に手を掛け勢いよく開いた。経年を経て錆びついた扉は、思いのほかすんなりと開き、その部屋の全貌を柚葉の前に現した。所狭しと敷き詰められた機械類。天井にはUFOキャッチャーのクレーンをそのまま大きくしたようなアームが吊り下げられている。明らかに用途にあってない機械類とのチグハグさからして、元々別の用途で使われていた部屋を後から改造した結果なのだろう。

 

「ここの機械を壊せばいいんだよね……」

 

 生憎機械工学に詳しくはないが、それでも自らの持つ傘を改造した仕込み銃であれば壊すことはできるはずだ。手当たり次第ぶっ放せば事足りる。そう思い構えた柚葉の耳に、カツ、カツと足音が鳴る。乾いた音だ。

 

「迷子、ではなさそうですね」

 

 機械の物陰から現れたのは、スーツ姿の男だった。メガネをかけ、神経質そうな顔立ちの男。

 

「ちょっと意外。頭のおかしい奴が来ると思ってた」

「失礼な……まぁ、讃頌会の連中に関して否定はできませんが」

 

 小さく呟く柚葉の言葉をスーツの男はメガネのずれを指で押し上げながら拾った。

 

「少しは話が出来そう……だったら、そこどいてくれる?ここの機械、壊さなきゃいけないんだ」

「それは無理な相談ですね。私の仕事は邪魔をする者達の排除です」

 

 武器を向けられてなお、スーツの男に動揺は見られない。

 

「へぇ、自信あるんだ」

 

 目を細め、実力行使に入ろうとする柚葉は、一歩踏み出す。殺しはしない。しかし、痛い目は見てもらおう。そう考えていた柚葉は、その認識をすぐに改めることになる。踏み出した柚葉の眼前、真横から気配なく刺突が飛んできたのだ。

 

「ッ──!?」

 

 全く反応できなかった。意図して避けたわけではなく、後一歩踏み込んでいたら頭を串刺しにされていただろう。その事実を前に冷たいものが背筋を伝う。

 

「チッ、運のいい……」

「サクリファイス……!」

 

 ゲッゲッゲ、と子供みたいな声で笑うサクリファイス。体はそこまで大きくない。精々が中級エーテリアスほどのサイズ。しかし、細く伸びた両腕と、その先端が肥大化した見た目。まるでフレイルのようだ。あれをマトモに喰らえば昏倒では済まないだろう。

 

「なんで」

「はい?」

「なんで、こんな事できるの」

 

 ハベル達から、サクリファイスの事は伝え聞いていた。その悍ましさも含めて。だからこそ怒りもあるし、一歩間違えたら自分もそうなっていただろうと思った。それを当たり前のように許容する目の前の男に、思わず尋ねた。言葉尻に怒りを多分に含ませながら。

 

「何をそこまで感情的になるんです?あぁ、倫理がどうとか、そういうやつですか」

 

 全く、とまるで駄々を捏ねた子供に言い聞かせるように男は語る。身振り手振りで、大仰に。

 

「サクリファイス、私は実にいい兵器だと思っていますよ」

 

 商売人として、サクリファイスには様々な可能性がある。と男は語るのだ。

 

「日々ホロウでの活動で消費される資源の数をご存知で?人的資源も含めれば1日で消費される資源の数はバカになりません。しかしサクリファイスなら?」

 

 エーテリアスと同じように動き、活動できる。ホロウ耐性も関係ない。コントロールが効き、用済みならすぐに廃棄もできる。

 

「人間と同じ構造、性能の機械を作るコストを考えれば、人間を作る方が圧倒的に優れている」

 

 そして、人間をサクリファイスに変えればそこから何倍にもできる。これほど夢のある話はない。男はまるで壮大な未来を語るように言うのだ。

 

「クローンなら、本来生じる人権問題もクリアでき、新エリー都に齎される利益は今より遥かに上でしょう」

「……狂ってる」

 

 柚葉は顔を歪めて、言葉を吐き捨てる。

 

「あぁ、理解できないようですね。貴方は今、そんな未来を妨害している。人類の発展を邪魔しているのですよ?」

「……未来とか、そんなの私には分からない。けど、間違ってるのはわかるよ」

 

 キッカケは些細なものだったけど、こうして理解した以上何もしないという選択肢は最初から無かった。

 

「……仕方ありません、穏便に済ませたかったのですが」

 

 男は、手元の機械のボタンを押す。すると、沈黙していたサクリファイスが動き出す。目の前の邪魔者を消すために。ギョロギョロと、肥大化した黄色の瞳がコチラを見ている。

 傘を持つ手に力が籠る。やるしかない。覚悟を決め構えた柚葉に、サクリファイスが襲いかかる、その直前に──

 

 ゴッ!!!

 部屋の壁を突き破りながら、飛来する男の飛び蹴りがサクリファイスの横腹に突き刺さり、勢いのまま反対側の壁まで吹き飛ばした。

 

「な、なんだ!?」

 

 突如の事態にスーツの男が狼狽える。赤いマフラーをはためかせ、サクリファイスと対峙する男。その黒いロングコートに袖を通し、ガラガラと地面に倒れるサクリファイスから視線を外さない。

 

「……やっぱり、来た」

 

 柚葉は、その背中を見ていた。あの時も、そして今も。物言わぬ男は此方を一瞬だけ一瞥し、再びサクリファイスへと突撃していく。

 

「なんだコイツは……!?仲間か!?ふ、ふふ……だが無駄だ!」

 

 再び機械を操作すると、天井からベチャベチャ!と粘着質な音を立ててサクリファイスが複数、現れる。

 

「こんなに沢山……!」

 

 すぐさま動き出すサクリファイス達を前に、柚葉は走る。幾つもの肉槍が飛来する。時に屈みながらそれらを回避しつつ、仕込み銃で反撃していく。

 

「かまちー!」

 

 背中に張り付く狸、かまちーに指示を出す。柚葉の背負うリュックから器用に物を取り出し、地面に降りて走り出すかまちーを横目に、銃撃でサクリファイス達の気を引いていく。その隙をついて跳躍したかまちーが、手に持っていた爆弾を投下していく。幾つもの爆発を受けてサクリファイス達が怯み、蹈鞴を踏む。しかし、有効打になっても致命傷には程遠い。

 反撃が飛んでくる。再び走って回避しようとする柚葉だったが、その前を塞ぐように再び赤いマフラーの男が立ち塞がり、肉体を変形させ鋭くしたサクリファイス達の刺突を体で受け止めた。安渡と共に、柚葉は目を剥く。グサグサと、男は刺突を体で受けていたのだ。

 

「やめて!そんな事したら貴方が──!」

 

 上半身を串刺しにされ、空いた穴から気化したエーテルが漏れ出している。しかし、それでも男は何も言わない。ただ柚葉の盾となり立ち塞がる。

 

「は、はは。いいぞ!女を狙え!」

 

 スーツの男は、柚葉を守る赤いマフラーの男の姿にチャンスを見たのだろう。嬉々として柚葉を狙うようにサクリファイス達に指示を飛ばす。

 

「ッ!もういい!もういいから!」

 

 柚葉は懇願する。もうこんな事しなくていい。傷つかなくていいと。もう守られるだけじゃないのだと。このまま男が串刺しにされ、死んでしまうかと思われた時だ。先ほど壊され穴のできた壁から誰かが飛び出したのだ。

 

「ハァッ!」

 

 乾坤一擲、鋭い拳と蹴りがサクリファイス達を薙ぎ払う。そこに立つのは、金色の装甲と、黒い肌の生物。赤い瞳が此方を見ている。柚葉は、それを知っている。かつて、青年が語る物語にいた──

 

「仮面、ライダー……」

 

 神と対峙し、人の未来を奪い返した戦士が佇んでいた。

 

「間に合ったみたいだね」

 

 


 

 

 今にも落ちそうな瞼。言う事も聞かない体にはもはや感覚もない。ズルズルと、重力に負けてそこらの壁へ寄りかかり、座り込む。

 

「は、はは……」

 

 我ながら、とんでもない無茶をしたと思う。何の力もないのに。物語の主人公みたいに、カッコよくは出来なかった。

 

「あの子は……逃げられたかな」

 

 子供達。その中でも、赤い髪が特徴的な女の子。怖くて仕方ないのに。逃げるチャンスをくれた男の人に全部任せて皆で逃げる事だって出来た。なのに。

 

「仕方ないよなぁ……惚れちゃったんだもん」

 

 一目惚れだった。初めて会った時から。一度目の人生から見ても、あれほど恋焦がれた瞬間はなかったのではないか、と思うほどに惚れた。

 

「まぁ、全然カッコよくなかったけどさ」

 

 幼い頃追いかけたヒーローの背中には程遠く、自分の心に弱さが住み着いていた。それでも、奮い立てたのはきっと、彼女のお陰で。

 

「あぁ……」

 

 まだ幼いあの子が大きくなったら、どうなるだろうか?きっと、美人になるだろう。案外皆を引っ張るお姉さんになるかもしれない。そんな未来を想像すると、今にも眠りそうなのに笑みが溢れた。

 

「星でも見えてたらなぁ」

 

 生憎、ここはホロウ。空はエーテルに覆われ空なんか見えやしない。仕方ない。仕方ないから。青年は誰に願うでもなく、心から溢れた言葉を洩らす。

 

「──」

 

 そうして、がくりと首を垂れさせた。安らかな笑みを浮かべて。誰も看取る者のいない部屋。事切れた青年を、顔そっくりな赤いマフラーの男が見下ろしていた。

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