ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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お久しぶりです。前回投稿より随分と間が開きました。新作ソシャゲエンドフィールドが出たりとか色々あってモチベが低下してました。

このままではいかん!と一念発起しこうして続きを書くに至ります。そのせいか、本来なら2話とかで分ける筈がこんな長さに。

めちゃくちゃ難産で書いた後もこれでいいのか、自分の中で解釈違いしてないかと苦悩してますがとりあえずこれで出します。

感想、お待ちしてます。


捕捉

 以前通った道を走る。あの時と違い、道中には根を張ったミアズマの植物が道を塞ぐようにあちこちにあった。それを右手で消していく。上条は終始無言であった。緊張がそうさせているのか、或いは集中しているからか。不思議と、道中にエーテリアスは居なかった。生物の絶えたホロウで自分の呼吸と足音しかしない様には不気味なものを感じていたが、それよりもだ。

 

『この先です、既にお二人が供給源は破壊してます。後は元を叩くだけですよ!』

「わかってる」

 

 そうしてあの時は逃げるしか無かった扉の前へと辿り着いた。予想していた讃頌会の信者達による抵抗はなく、その姿も無かった。おかげでこうしてすんなりと来れた訳だが、嫌な予感もする。予定通りな筈なのに、何処か誘導されているのではないかと思考が過ぎる。

 

「……考えても仕方ないな」

 

 そんなグルグルと回る思考を首を振って振り払う。例えそれが事実でも、事がここに至ったのなら成るようにしかならない。賽はとっくに投げられているのだから。やけに重く感じられる扉に手を掛ける。そうして低く響く金属の擦れる音を響かせ、扉は開いた。そこから見えた部屋の光景は変わらない。

 

「……シルバー」

 

 部屋の奥、こちらに背を向け立つ姿を見つける。こちらの声に反応し振り返るシルバー。こちらを見る目は見開かれ、何故戻ってきたのかと驚いているようだった。やけに乾く唇を湿らせ、上条は部屋へ一歩踏み出す。

 

「帰ろうぜ、またお菓子でも食べながらさ」

 

 上条は努めていつも通りを意識して声を掛けた。カツカツと歩き、シルバーに手を差し伸べる。

 

「──」

 

 その言葉に、シルバーは視線を右往左往させ、手を中途半端に伸ばしては下ろしていた。

 

「そうはさせないわ」

 

 しかし、そのやり取りを遮るように更に奥、中央に聳える巨大な花弁を背に、階段をカツンカツンと降りてくる影があった。

 

「……お前は」

 

 ツイッギー、そう呼ばれていた少女。こちらを見る瞳にはギラギラとした憎悪があった。

 

「ノコノコと戻ってきて、何をしに来たのかしら?」

「助けに来た」

 

 その言葉に、ピタリと。進めていた歩みを止め、ツイッギーは笑った。乾きに乾いた笑い声。

 

「笑わせないで」

 

 笑っていたツイッギーはすぐ真顔になり、合図を出す。すると天井からズシャッ……!と肉の塊がいくつも降ってくる。

 

「……下がってろ、シルバー」

 

 シルバーを背中に上条は構える。その姿に、ツイッギーは僅かに顔を歪めた。

 

「始末しなさい!」

 

 その言葉を皮切りに、降ってきた肉の塊、もとい量産されたサクリファイスの群れがこちらへと雪崩れ込んで来る。

 甲高い、無邪気さすら感じさせる鳴き声をあげこちらに肉薄する触手の刺突を体を仰け反らせて回避し、そのまま右手で掴む。それだけでサクリファイスはドロドロと形を失いエーテルへとなって床に散らばった。

 

「……ッ」

 

 それが何を意味するのか。歯噛みしながら上条は進む。予想もしなかった現象を前に、ツイッギーの目が見開かれる。

 

「何よ、それ……」

「俺はッ、お前と争うつもりはないッ、んだ!」

 

 サクリファイス達の攻撃を掻い潜り、息を切らし途切れ途切れに上条は訴える。避けきれず地面を転がり、みっともなく右手を振り回しては一体、また一体と消していく。

 

「お前だって分かってるはずだ、お前の後ろにあるそれが、何を齎すかなんて」

黙れ……

「クローンだって生きてたんだろ!?なんでこんな──」

黙れッ!!

 

 ツイッギーは牙を剥いて怒鳴った。肩を振るわせ、怒りに無くなった腕の代わりの義手の拳を握って。

 

「欠陥品に、兵士としての価値がない。そう言っていたお前らが!」

 

 その言葉は、叫びだった。何処までも利用され尽くし、果ての果て。そこに行き着いた少女の怒りだ。

 サクリファイス達を消し終わった直後の上条にダンッッ!と踏み出し一気に加速、懐に入った。そうして握られた拳が上条の腹に突き刺さった。

 

「ガッ……!?」

「隊長や他の隊員と違い、私には力が無かった。廃棄され掃き溜めの中で何度も手を伸ばしたわ」

 

 鉄製の拳が幾度なく顔に、腹に、怒りを持って打ち付けられる。上条にとって、何よりも有効なやり方で。何の変哲もない右手。相手が異能の力でもない限り何の役にも立たない右手。

目の前で血を吐くように叫ぶ少女も助けられない右手。

 

「ぐちゃぐちゃと内臓中身を弄られ続けた時も!」

 

 軍人として育てられたクローンの拳が、素人に毛が生えた程度の自分を打ち据える。その叫びは止められない。何処までも正当な、真っ当すぎる彼女の嘆きだ。

 その通りだと思った。上条転生者達は間に合わなかった。その手から掬い損ねた。だからこそ。

 

「確かに、俺たちは間に合わなかったよ」

 

 殴られ続ける上条が、こちらに迫る拳を手のひらで包むように受け止める。

 

「ッ……」

 

 幾度なく打たれ腫れた頬と瞼の隙間から、確かにこちらを見る瞳をツイッギーは見た。その目はまだ生きている。

 

「辛かったはずだ、苦しかったはずだ、涙が出たはずだ」

 

 億分の一も彼女の事を理解できた、なんて口が裂けても言えないが。それでもだ。

 

「そんな痛みを、苦しみを、悲しみを──お前の妹たちにも、押し付ける気なのかよ?」

 

 その言葉に、ツイッギーは思わず上条の背後、未だ息を呑みこちらを見つめるシルバーと呼ばれ、Aと自ら名付けた少女の顔を見た。自分と同じ髪、背丈をした、誰か。

 

「止めるぜ、ツイッギー」

 

これ以上、誰かが泣かなくていいように。

これ以上、家族を悲しませないように。

 

「ッ、誰がお前なんかに──」

 

 そんなものでこの胸で燻るモノが消えるわけがない。だと言うのに。

 

「ッ──!」

 

 ダンッ、と掴み取った拳を振り払い、上条は前へと強く踏み出す。その両の手を握りしめて。

 

「ぐッ……!?」

 

 そうして振るわれる拳を避けて、ツイッギーは呻く。

 

──どうして

 

 なんで──こんな、なんてことのない拳に苦戦する。少し痛めつけてやればすぐに倒れそうなくらいフラフラだろう。

 

「私は!お前らなんて要らない!!」

 

 思いっきり殴り付ける。その勢いを受けて上条の体が後方へと倒れ込む。そう、倒れてしまえばいい。倒れろ。

 

「私は取り戻すんだ!あの家を!」

 

 こんな毎日をずっと、願ったあの日に。

 

「そこに誰もいなきゃ、ただの空虚な箱だろ?」

 

 倒れない。倒れそうになるたび、ガキリと歯を食いしばり、膝が笑う足に力を入れて。

 

「それでも──ッ」

 

 私にはそれしかない。隊長アンビー兵士ハリンにあった居場所なんて私には無かった。

 

「まだ残ってるモノがお前にはあるだろ!」

 

 ツイッギーの拳が、横から弾かれる。見れば上条がその拳の甲で向かってくる拳を弾いた姿勢でいた。

 

「──あ」

 

 致命的な隙を晒したツイッギーの眼前に、彼の拳が迫る。その時、ツイッギーはその背後で今も揺れた瞳でこちらを見つめるAと目が合った。だが、来ると予感していた痛みと衝撃は来なかった。

 

「──危ないところだったわね」

 

 やり取りの中で、不意に背後から声が聞こえた。ズルリ……と粘着質な音を立てて地面から生えるように現れたのは讃頌会の司祭。仮面を被り表情の見えないままこちらを見ていた。

 視線を戻せば、先ほどまで立っていた男は血を流し壁まで吹き飛び、そのままズルズルと倒れ込んでいる。どうやらこちらの危機と見て横から攻撃したようだ。

 

「─ッ、ええ、助かったわ」

 

 先ほどまでの動揺を隠し、取り繕うように礼を言った。その内で疼く心に蓋をしながら。

 

「そうそう、連絡事項なのだけど。ここは放棄する事にしたわ」

 

 面倒な奴がここを探っている、と司祭は続け。

 

「待って、そうしたらここにいるのは」

「ええ、クローンは廃棄するわ。データが残っていればいつでも再開できるもの」

 

 ジロリ、とツイッギーの後ろに立つAを司祭は見た。その意味するところが何なのかをツイッギーはすぐ理解して、間に入るように立った。

 

「待って、まだ私たちは必要な筈よ」

 

 私は一体何をしているのだろうか。いくらでもクローンは作れる。今更何を気にするのか。だけど、何故かそれが嫌だった。

 

「そう、残念ね」

 

 その言葉は最後通牒だった。瞬きするよりも早く、ミアズマの形状を変化させた槍の刺突が私の肩を貫いた。だけど、それで済んだのは。

 

「A……!?」

 

 黙って見ているだけだったAが私を突き飛ばし庇ったからだ。庇った彼女の体には幾つもの槍が突き刺さっていて、力無くこちらを見て笑った。

 

「せめて苦痛なく、というのが私の慈悲だったのだけれど……」

 

 そんな様子を鼻で笑うように、司祭は言った。まるで出来の悪い紙芝居を見ているかのような口ぶりだった。それに対して怒る間もないまま、再び攻撃が来る、筈だった。

 音も無く、彼が立っていた。ポタポタと頭から血を流し、何処か軸がズレた歩みで。飛来する槍の群れを右手で薙ぎ払った。

 

「な……ッ」

 

 さしもの司祭も言葉を失った。手加減なんて一切なかった。間違いなく死んでいた筈の少年がいた。いや、それはまだいい。何の変哲もない右手が、自分の攻撃を逸らすでも、躱すでもなく、掻き消した。その異常さがよく理解できたからだ。

 

「おい」

 

 静かで、小さい。そんな呟きの一言はやけに鋭くその場にいる者達の耳に刺さった。

 

「お前が、泣かせたのか」

 

 その少年の目は、司祭を見ていなかった。虚ろで、まだ幻を彷徨っていた。だが、こちらを射竦める瞳に、司祭は自身が身を硬くしている事に気がついた。

 

「──ッ!化け物が!!」

 

 そんな自分を信じられなくて、虚勢を張るように叫ぶ司祭は片手を上へと掲げた。空間を支配するようにミアズマが集約されていく。手のひら大だったそれが肥大化し、部屋の壁を押し除けるように膨らんでいく。

 どうせ、ここは破棄するつもりだった。それよりも、ここでこの男は始末しなくてはならない。そんな直感が司祭にはあった。

 

 今更逃げる事も出来ない。目の前に迫るそれを前に、ツイッギーとAは諦めたように座り込む。だが、少年はそれでも立っていた。

 

「消えろッッ!!!」

 

 そうして放られた肥大化し巨大な球体となったミアズマの塊が向かってくる。それに対して少年は硬く硬く、岩のように握られた拳をぶつけた。衝突は激しい衝撃波となってその場に撒き散られる。その中で、確かに彼らは生存していた。

 ジリジリと、押さえ込む右手が打ち消し切れずにその肌を傷つけていく。

 

「俺はまだ聞いてねぇぞ!」

 

 衝撃によって意識を取り戻したのだろう、少年はその背中で守る2人の少女に言った。

 

「お前らはどうしたい!このまま思い出の中で死んでいくのか!?それとも、もう一度やり直してみるか!」

 

 その言葉に、ツイッギーは無意識に俯く。彼女の四肢を雁字搦めに縛る諦観の鎖。

 

「やり直せる訳がない、なんて泣き言は聞かねぇ!」

 

 例え後悔に塗れ、悲惨な末路があったとしても。死ぬ直前であったって。やり直しを決めるのは自分自身なのだから。そう決めたなら少年はその背中を何処までも支える覚悟があった。

 

「私は……」

「わ、たし……は……まだ生き、たい」

 

 俯くツイッギーを前に、その腕の中に抱えられたA、いやシルバーは辿々しく、途切れながらその意思を示した。

 

「A、貴女……声が」

 

 驚くツイッギーの手を、震える両手で包み、いつものようにシルバーは笑った。

 

「で、きる。こと、なら……一緒に。ダメ、かな」

 

 ツイッギーにとって生きる事は地獄かもしれない。それでも、シルバーは一緒に生きたいと。ねだる様にツイッギーを見る。

 

「……」

 

 そのうちにどんな葛藤があったのか。それは彼女にしか分からない。

 

「私達を……助けて」

 

 幾度なく繰り返した、空手形のような言葉を。祈る様に、彼女は言った。それを聞き届けた少年は口の端を持ち上げて、正面を見据える。

 

「任せろ!!」

 

 そう言うと同時に、もはや形を成さない壊れた入り口の扉が吹き飛んだ。そこには柚葉が、ハベルが、そして仲間達が。各々役目を果たし集まった。そこには、以前会った白髪の女性、儀玄もいた。

 とても驚いた様に目を見開き、こちらを見ていた。

 

「バカな、その右手は」

 

 一目でその特異性に気づいた儀玄の呟きが漏れる。

 

「ッ……!」

 

 ビキリ、と肘から肩にかけて嫌な音が聞こえる。あまりの威力に肩が外れかけているのだろう。それでも、一歩、また一歩と歩を進める。

 

「……ふざけるな!潰れろ!」

 

 更に威力が上がる。ミアズマを操る司祭にとって彼の右手は死神の鎌に見えているのだろう。怯えが混じっていた。

 

 余りの威力に崩れていく天井。それでも押し続けた上条の右手、右腕が肩からもげて弾け飛ぶ。宙を舞う右腕に、司祭は安堵するも、事態はすぐに変わった。

 

「な……」

 

 言葉が出なかった。ギロリと、蛇に睨まれた蛙のような心地だった。何故なら──

 

「竜……!あれが、姉様の言っていた」

 

 その様に儀玄が呟いた。

 吹き飛び、血を撒き散らす筈だった少年の右肩から異形の竜がその顔を覗かせていたからだ。それは飛び出しミアズマの塊をまるで食事でもするように、その顎で喰いちぎり、噛み砕き、瞬く間に消えていく。そうして、まるで何もなかった様に全てが消え去った。

 


「はぁ……はぁっ……!」

 

 恐怖のまま、息を切らしミアズマの流れるままに潜る。とにかく逃げなくては。その思いが誰よりも早い行動へと繋がったのだろう。

 

「なんなんだ、あの右手は……!?」

 

 疑問は尽きず、しかし今は生き延びれた事に安堵する。ミアズマの道を通した此処なら追って来れない。そう確信していたからこその安堵。しかし──

 

「なぁっ……!!?」

 

 今度こそ息が止まった。ミアズマの奔流、自分を追いかける様に少年は迫っていたからだ。

 

「バカな!?何故ここが!?」

 

 ミアズマの奔流は本来ランダムだ。例え場所がわかっていたとしても狙って追いかける事は例え雲嶽山の宗主でさえ不可能。そもそも、ミアズマの中にどうやって来たと言うのだ。たまたま・・・・足を滑らせたとでも言うのか!?

 

「お前が、アイツらの命を思い通りにできるなんて思い上がってるなら──」

 

 その幻想を、ぶち殺す。司祭はその言葉を最後に突き刺さった拳の衝撃によってその意識を飛ばした。

 

 

 




 ミアズマの流れに呑まれつつある上条は、どうやって抜け出そうと考えていると不意に服の襟元を摘み上げられ、引っ張られている事に気がついた。見れば、黒い墨のような鳥がその嘴で自分を引っ張っていた。

「助けてくれてる、って事か?」

 そんな時だ。しゅるしゅると、ミアズマの中からこちらを捉える様に触手がいくつも手足に絡みつこうとしている事を気がつく。
 ギョロリと、何かに見られていると感じ、その方向を見据える。

──せ、かいのそと。

 頭に響く、何者かの声。誰かもわからないまま上条は敵だと直感し拳を突きつける。まるで逃がさないとばかりに力強く引っ張られるそれを消すより早く

──迸れ、過去の電閃

 バチバチィ!!と空間を引き裂く様に飛んできた斬撃が全てを断ち切り、ミアズマそのものに大穴を開けた。拘束が緩む。その隙に黒い鳥が上条の体を持ち上げて浮上していく。その前に上条は挑む様に拳を握る。

「俺たちは、必ずお前を倒す!必ずだ!」

 この世界を巣食う悪意に向けた、宣戦布告だった。
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