ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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そろそろ日常回を挟みたい気分です。


後日談

 ギャーギャー騒がしくなった病室を抜け出す様に、松葉杖をつきながら外に出る上条を迎えたのは、少し雑草が生えた石畳と埃や蜘蛛の巣が張った道場の様なところだった。

 

「ここは……」

 

 まだ衛非地区である事は何となく理解したが、全く見覚えがない場所だ。ジロリとこちらを見るやけに雰囲気のある犬が狛犬っぽい石像の隣に座っている。

 

「目を覚ましたと聞いたが、もう平気らしい」

 

 自分の場違い感に肩身の狭い思いをしていた上条は、門を潜りこちらに歩いてくる人に声を掛けられた。

 

「あんたは……」

 

 確か、儀玄と名乗っていた。前に助けられた人だ。

 

「相変わらずの大凶だな……お前さん、名前は」

「え、あ、上条当麻、です」

 

 なんというか、雰囲気のある人だと思った。思わず敬語で答えるも、儀玄はふむ、と上条当麻と名前を口の中で転がした。

 

「言いたい事は沢山あるが……まず聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「10年前……零号ホロウが暴走したあの日。青溟剣を抜いた姉様を助けたのは、お前だな?」

 

 尋ねているが、その表情は確信していた。目の前の少年こそ10年間探し続けた人物であると。

 

「あったような、なかったような……あの時は無我夢中で、必死だったからなぁ……」

 

 当時を思い出す様に空を見る上条は、近くに腰掛けられそうな階段に座り、自然と儀玄もその隣へと座った。

 

「当時、意識を取り戻した姉様は朧げな記憶の中で竜を見たと話していた」

 

 不思議なことに、青溟剣と姉様の繋がりはまるで消えた様に切れていた。再び使う事も出来なくなった。青溟剣は儀玄が厳重に封印した筈だった。

 

「それから姉様は雲嶽山に戻り、後進の育成に専念している。前みたいな事は出来なくなったからな」

「はぁ……」

 

 何のこっちゃ、と要領を得ない上条はそのツンツン頭をポリポリと掻きむしる。

 

「要は、お前さんに感謝してるのさ。お前さんがいなければ私は今頃、姉様の墓の前で毎日数時間はボーッとしてるだけになってたかもしれん」

 

 だから、と儀玄は立ち上がり、上条に向き直ると深く、深くお辞儀をした。

 

「ありがとう」

「……」

 

 それを見る上条の表情は、嬉しそうだった。自分のして来た事が間違っていなかったのだと教えてもらえた様で。

 

「今日はよく感謝をもらえる日だな、さっきツイッギーとシルバーにも言われたよ」

「そうらしい、お前さん、いつもこんな事をしてるのか?」

「いつも……うん、いつもだな。俺はどうにもそういうのが嫌いみたいでさ。見てると我慢できないらしい」

「難儀な性分だな……まぁ、なんだ。その傷が治るまでこの適当観で過ごすといい。まだそのつもりはなかったがいずれ適当観で活動を再開する予定だったからな」

 

 それに、その傷が治ったら頼みたい事もあるしな。と儀玄は続け、適当観の出入り口、門へと歩を進める。

 

「頼み?」

「あぁ、うちの弟子に兄妹がいるんだが……その片方が青溟剣に選ばれてしまった」

 

 お前さんなら、なんとかできるんだろう?と儀玄は流し目でこちらを見やる。無言で頷けば、儀玄はこちらに背を向け手を振りながら適当観を後にした。

 

「……」

 

 10年間、必死だった。目につく悲劇が嫌いだった。だから走って走って、掬い上げて来たものがこうしてその先の未来にいる。その事実を噛み締めるように数度首を縦に振った。

 

「よかったな……」

 

 今日くらいは、自分を褒めてやってもいいんじゃないか。そんな気分だった。

 

「──当麻ぁぁ!!」

 

 そんな、少しセンチな気持ちだった上条を混ぜっ返すような叫び声と、背中に響く衝撃が貫いた。

 

「うぼぁぁ!!?」

 

 ズシャーッ!と背中から押し倒され地面を転がる上条は、自分に抱きつく存在に目をやる。

 

「何処行ってたんだ当麻ーッ!!探してたんだぞーッ!いっつもほっつき歩いて!!」

「うぐっ、ま、待て猫又!首が締まってる……ッ!?」

 

 襟元掴んでガックンガックンと振り回される上条は吐き気を抑えながら必死にその手をタップして降参の合図を出す。手を離す猫又。

 

「しかも!こんな大怪我まで……!」

「ゲホッゲホッ!い、いや……つーかよくお前此処がわかったな」

「探してた私を案内してくれた人がいたんだ!」

「案内?」

 

 はて、誰だ。転生者の誰かだろうか?そんな風に考えを巡らせる上条に答えはすぐ近く聞こえた。

 

「俺が案内したんだ」

 

 聞き覚えのある声にそちらを向けば、赤く染められた前髪、シリオンを示す犬耳と尻尾。そして歳に似合わぬガタイの良さ。狛野真斗がそこにいた。

 

「おまっ、狛野か!?」

「柚葉から話を聞いてな、そんな時にお前を探してる嬢ちゃんがいたからよ」

 

 相変わらずだな、と何処か呆れた様に口の端を持ち上げる目の前の悪友。

 以前、荒れていた時期の狛野と殴り合いの喧嘩をした事があり、それから友人と呼べる仲になった二人だ。まさか来るとは思っていなかった上条は驚くばかりである。

 

「当麻はあれか!?もう首輪か何かで繋いだ方がいいのか!?」

「なんでだよ!?上条さんにそんな倒錯的な趣味はありませんことよ!?」

 

 ゴロゴロと転がり、良からぬ考えをし始めた猫又から緊急脱出する上条は猛獣を前にしたかのような構えでジリジリと距離を取る。松葉杖が必要な上条にとって、焼け石に水だがそれでも身の危険を感じたのだから仕方ない。

 

「そうでもしなきゃまたどっか行くだろ!?折角私もバイト合格したんだって報告したかったのに!」

「バイト?」

「そうだ!邪兎屋ってとこに入ることになったんだ!」

 

──嬢ちゃんも苦労してんなぁ……

 

 そのやり取りを外から見ていた狛野はしみじみとそう思った。

 

 


 

 そんなやり取りを適当観の屋根に座る二人が見ていた。銀髪で、片方は眼帯もしていた。

 

「……いい、の?」

 

 辿々しい、掠れ混じりに尋ねたのはA、いや今はもうシルバーと呼ばれた少女だ。

 

「いいのよ、これで」

 

 病室での上条との会話を思い出しながらそう返すのはツイッギー。眩しそうに屋根の下で行われるやり取りを見ながら。

 

「場所も紹介してもらったしね、これ以上贅沢が言える立場じゃないわ」

 

 フィランソロピー、上条が言った組織への紹介とその仲介人の存在を教えてもらった。命を救われ居場所も教えてくれた。これ以上を望んではならない。

 二人は救われた。しかし、それで終わりではない。どんな理由であれ、二人は多くの屍の上に存在している。その償いはこれから続くだろう。一生、それに向き合わなくてはならない。

 だが、それを前にした二人の顔は前を向いていた。

 

──これからどんな道を行くのか、分からないけど、お前らがまた膝をつきそうになったら言え。今度はお前らの側についてやるからさ。

 

 感謝を告げられた彼は、そんな風に笑って言った。

 

──目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、心で噛み砕け。そうして前に進め。お前らが思うより世界はシンプルで、怯えなくてもいいんだから。

 

 そう言って、二人の頭を撫でた。その感触を思い出し自ら頭に触るツイッギーは、不思議とその暖かさが嫌いではなかった。




「柚葉、もう平気なの?」

 オッドアイの目をパチパチさせながら目の前の友達に尋ねる。

「大丈夫だよアリス、もう平気。それにいつまでも引き摺ってたらそれこそあの人に怒られちゃう」

 そう言いながら二人を挟むテーブルの上に広げるのは、丸っこい文字でまとめられた都市伝説の数々が記されたノート。

「これから活動しようと思ってるんだ」
「前に言ってたものよね?名前が決まらないって嘆いてたけど……」
「ふふん、決まったよ!その名も──怪談屋!」
「いい名前なのだわ!活動内容は──」

 友達とこれからを話す柚葉の日常が再び動き出す。それを歓迎するように首に巻かれた赤いマフラーが静かに揺れた。
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