ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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おかしい、最初はこんなつもりじゃなかったのに気が付いたらこんな展開に。


水面下で動く者たち

 治安局。今日も今日とて署内は忙しく走る者や山積みの書類を抱え歩く者。事務机に齧り付くあの人はもう徹夜三日目と聞く。

 

「うーん、修羅場修羅場」

 

 そんな中、廊下をタバコを咥えながら歩く男が一人。その隣を歩くのは、治安局には似つかわしくない妖艶な女性だ。

 

「その中でのんびり歩く貴方はまるでお代官ねリンドウ?」

「そう言うなよジェーン。これでもさっきまで長官に絞られた後なんだ」

 

 特務捜査班の一人、ジェーン。その名前も本名なのか怪しいが。

 

「それで、デート・・・はどうだ?」

デート・・・ね?悪いけどまだ無理だわ。もう少し都合が合えば考えてあげるんだけど」

 

 『デート』と言いながらそれを口にする二人に爛れた様子などなく、それが何かの隠語である事が察せられた。

 まるで世間話の延長のようにプライベートな話をする二人に、たまたま横切った職員が怪訝な顔をしていたが。

 

「ま、気長に待つとしますか。あぁ、あとセヴァリアン監察官からよろしくって伝言が」

「あら、珍しい人選ね?」

 

 そう言うジェーンの顔に驚きはない。今回の件を追うなら意外でもない人物だ。リンドウにも変わった様子はない。

 

「……荒れるぜ」

 

 不意に、目を細め呟くリンドウ。笑みを止め、妖艶な笑みから治安官の顔になるジェーン。

 

「ええ、荒れるでしょうね」

 

 二人の治安官は同じ方向を見ていた。

 


 

 所変わって同時刻。一人の男が普段立ち入ることのない場所へと歩を進めていた。

 

「へぇ〜、中に来たのは初めてだけどこんな風になってるんだ。うちにも欲しい設備がチラホラある」

「ええ、H.A.N.Dは常に最先端テクノロジーを導入していますから」

 

 案内として前を歩く女性に話しかける軽薄そうにもみえる男の名は迅悠一。そして目の前を歩くバリバリのキャリアウーマンにも見える女性はH.A.N.D所属ホロウ対策六課の隊員、月城柳。

 

「わざわざごめんね柳さん」

「いえ、必要なことですから」

 

 何故関係の薄い迅がここに居るのか。それは──

 

「そう言われても、こっちの我儘に合わせてもらってるからねぇ」

 

 今後予定されてるヤヌス区総監選挙に向けた警備についてアナハイムも一枚噛む事になり、その打ち合わせの為出向してきたのが迅だ。その時に噂の虚狩りに会ってみたかったのでダメ元で会いたい旨を伝えた所、まさかのOK。

 

(いやー、言ってみるもんだなぁ)

 

 ゲーム時代、二凸して使っていた事もある迅にとって会えるのは嬉しい。端的に言って初めて学校に行く子供のようにウキウキしていた。

 

「こちらです。課長、言っていた方がいらっしゃいました」

 

 六課のオフィスへ足を踏み入れた迅を迎えたのは、低い背丈には似合わない大きな背もたれのある椅子に座る星見雅の姿であった。

 

「そうか」

「あー……」

 

 ウキウキしていたが、実際に会うとなんだか言葉が出なくて困る。とりあえず手を差し出しながら前に出る。

 

「初めまして、実力派エリート、迅悠一です」

「星見雅だ、知ってはいるだろうが虚狩りをしている」

 

 席を立ち、差し出された手を握り握手する二人の姿は模範的社会人の挨拶そのものだったが内面の感情は正反対であった。

 

(うわぁ、手ぇ握っちゃったなぁ)

 

 まさにファンボーイと化した迅は無敵である。対する星見雅の感想は。

 

「──」

 

 硬い。鍛え込まれた手だ。幾つもタコがあり、立ち振る舞いに出る重心の偏り、そしてこの手からして振るう得物は自分と同じ剣だろう。

 みてみたい、そう思った。目の前の男が振るう剣を。

 

「柳、演習場の用意を頼む」

「課長?」

 

 気がつけば迅の後ろで待機する柳へと頼んでいた。

 

「え?」

「迅、付き合ってもらえないだろうか。これも……修行だ」

 

 何を話そうかと考えていた迅はまさか開口一番でそんな事を言われるなど露も思わず愛想笑いの笑みが固まる。

 混乱してるうちに瞬く間に外堀を埋められた迅は気がつけば演習場の一つに居た。目の前には妖刀『無尾』を携えた虚狩りである。

 

「……参る」

「ちょちょ」

 

 やっぱ止めましょうよ、なんて言おうとする暇もくれず、一気に飛び込んでくる星見雅は鞘から解放した妖刀による横一文字に居合の薙ぎ払い。

 

「ッ!?トリガーオン!」

 

 脳裏に過ぎる自分が胴体から真っ二つになるビジョンに冷や汗が背中を伝う。すぐさま姿勢を低くする事で回避。手に持ったトリガーを起動する。

 

「っは……あいつの言ってる事、冗談じゃなかったんだな」

 

 前にダンテにそれらしい事を言われていたが、マジだとは考えていなかった。

 独り言を漏らす迅を前に、再び加速する雅は再び納め、そして居合として放つ。迅をすり抜けるように突き抜けながら放たれたそれは、先ほどと違い格子状に切り刻まんと迫る斬撃の群れであった。

 

「っと……!」

 

 しかし、いざ戦闘となれば思考を切り替え即座に対応する迅。避け、いなし、それでも無理ならブレードによるガードでやり過ごす事に成功した。

 

「──」

 

 それを外から見ていた柳は驚き目を見開く。数秒持てばいいだろう、と考えていたが結果は全くの予想外。同僚として、友人として雅の剣の腕を信頼する彼女をして防がれたと言う事実。それは驚嘆に値するものだった。

 

(それに課長は、最初から手加減をしてなかった。なのに防がれた)

 

 対して相対する雅の胸中は自分の攻撃を防ぐ迅の剣に感嘆していた。防いだ事もさることながら、その実直な剣技は一つの到達点であると雅のセンスが見抜いていた。

 

(数え切れないほど、何かを守ってきた。そんな者が持つ守りの剣……なるほど)

 

 初見でこちらの速さに対応した事といい、かなりの場数を踏んでいる。そう判断した雅はギアを1段、いや2段は上げる。

 

「見えてるよ」

 

 踏み込み加速する、その直前。一瞬の間を縫うように横から飛んできた刃の防壁が雅の加速を止めた。

 

(全くの別方向からの斬撃……)

 

 予想外な攻め方に硬直する雅だったが、迅もまた内心で舌を巻いていた。

 

(参ったな、完全に不意打ちしたのに見てから回避された)

 

 とても長い戦いになりそうだ。そう結論つけた迅は不敵に笑う。

 自分の実力が虚狩りに届くのか。悪くない機会だ。

 

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