ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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前に友人にこの小説を見せたら
1日1投稿しといて難産なわけねぇだろタコ(意訳)と言われてしまいました。


北へ

 ホロウ内部。普段であればホロウレイダーなどの無法者やエーテリアスが蔓延る魔境である筈の黒雁街跡地の共生ホロウは雷が降り注ぎ、その隙間を縫うように宝石の雨が雨あられとばばかりに行き交う地獄のような戦場となっていた。

 

「また消え──そこ!」

 

 H.A.N.D、対ホロウ六課の月城柳。強者揃いの中で実質的な指揮官とも言える彼女の実力は画面スクリーンで見た時とは全く違う。

 相対するカルロッタに最初の余裕は既にない。雷をひらひらと避けながら空中で両手に持った宝石のマスケット銃を構える。そうして放たれる弾丸は僅かに見える相手の影目掛けて飛んでいくが、当たるよりも先に回避されてしまう。

 着地したカルロッタの隙を狩るように姿を現した柳の持つ得物、薙刀が振るわれるもひらりと避けて鋭い蹴りがその腹へとクリーンヒットした。

 

「やりますわね」

「そちらこそ、こんな状況でも無ければH.A.N.Dうちにスカウトしたいくらいです」

 

 蹴りを受けながらとん、と軽い調子で立つ柳。

 

(蹴りを受ける直前に後ろに飛ばれた。随分と慣れた様子。作戦前にプロフィール情報を見ておいて正解でした。元防衛軍。しかも反乱軍との戦闘経験あり、でしたわね)

 

 言葉の応酬の裏で思考を回すカルロッタは頬のかすり傷から流れる僅かな血を手の甲で拭う。

 対する柳もまた思考を回し続けている。相対する的の実力もだが、その裏に存在する意図を読み通ろうとしていた。

 

(感覚加速を使って一気に決めるつもりだったのに上手く避けられる……連続使用は精神負荷が大きい)

 

 だが、相手にはここ一番で決め切ろう、という意思。言ってしまえば手心があるように感じられた。

 

(つまり相手に勝つ気はない?……時間稼ぎが目的、ならその目当ては?)

 

 柳は何かを掴みかけている。既に自分はそれを導き出すだけの情報、感覚を持っている。

 

「そちらの目的は何でしょうか。時間稼ぎが狙いとは分かりましたがその意図が分かりません」

「あら、貴方ならもう理解したかと思っていましたが」

 

 その言葉がそのままヒントとなった。

 普通に考えてみたらわかる事だ。重要参考の証拠を奪われた程度で六課が出張ってくる事は本来ない。それは治安局の所轄であるべきだ。 

 しかし、ブリンガー長官の強権により出動した今回の件はおかしいのだ。

 

(確かに、通信先のブリンガー長官の様子は妙だった)

 

 六課を出す程であるなら、その奪われたとする証拠とは一体何なのか。それ一つで全てがひっくり返るほどのものでもなければ──

 考えていて途中で柳はハッ、と気がついた。

 

(ヤヌス区総監選挙!もう1ヶ月を切っているこのタイミング!)

 

 点と点が繋がった気がした。長官はその選挙の全てがひっくり返りかねない証拠となる物品を確保したいのか、と。

 その時点で柳は武器を下ろし、改めて目の前の少女に尋ねた。

 

「貴方は……いえ、貴方達は一体何を追いかけているんですか?」

「そうですわね……説明はいたしますが、今ある証拠は奪取したものだけです。それでも構わないのでしたら」

「ええ」

 

 柳は頷く。我々六課は人に仇なす悪を誅する刃である。ならばその振りどころは何処か。その所在を掴もうとしていた。

 


 

 七海は苦戦していた。当然だ。迫る刃を何とか受け止める。一刀一刀、ビリビリと桁違いのパワーを持って放たれる斬撃を弾き返せるわけもないそれを、力を振り絞って軌道を逸らすことが精一杯。

 

「ぐっ……」

 

 数回、たった数回受けただけで手が震えている。弱まる鉈を握る自分の手。

 

「警告だ」

 

 目の前に立つ、凛とした佇まいをした彼女がこちらを見る。片膝をつく自分を見下ろすように。

 

「今すぐ道を開けろ。でなくば──」

 

 斬る、そう目が告げていた。

 

(事前に戦っていた人たちの話やデータを見ていなければ受け止めることもできなかった)

 

 しかし、こうも遠いのか。頂きとはここまで。

 

「それは、できない相談ですね」

「そうか」

 

 返ってきた返事は淡白。鞘に収められた刀の柄に手を掛け、引き抜き、そして振り下ろす。一連の動作がまるでスローモーションのようにゆっくりに見える。走馬灯というやつか、と萎え掛けた心のまま見る七海。

 だが、しかし。自分は全てを出したのか?否。断じて否。

 何のために努力してきた。全てはあの渋谷を超えて立つ為ではないのか?

 

──立て。まだ終わってない。どうせ倒れると言うのなら全てを出し切ってからだろう!

 

 振り下ろされた刃。それだけで風圧を伴い斬撃がこちらに迫る。

 

「ッッ!!!」

 

 乾坤一擲。捉えた斬撃の『目』。7:3のポイント目掛けて放つ鉈の一撃が斬撃そのものを打ち払ったのだ。

 

「──何?」

 

 今目の前で起きた現象に彼女の眉が動いた。明らかに威力に見合わない。到底打ち消すことなどできる筈がない。しかし現実は打ち払われた。

 

「──私の術式は、対象物の長さに内分される点。7:3のポイントを強制的に弱点に変えます。先ほどの現象はそれが原因」

 

 ベラベラと、自分から種明かしする七海だったがそれにも理由がある。自分の術式を開示する事によるデメリットを引き受ける事で威力や精度、その他にメリットを受ける即席の『縛り』としたのだ。

 

「なるほど……ならば」

 

 それを聞いた雅は距離を取り、再び抜刀。そうして放たれる斬撃の雨。

 

「対象となるものを捉えきれなければ発動しない」

 

 開示した情報から逆算して出されたそれは正解である。攻撃手段が自身の手足である以上面に対して攻撃手段がない七海にとって斬撃を捉えきれなければ即ち死である。一応カバーする方法はあるが今の現状では使えない。

 ではどうするか。その答えを七海は既に得ている。この世界に根を下ろし長きに渡り磨いてきた努力の結晶が。

 

「ふッッ!!」

 

──簡易領域

 

 裂帛の気合いで向かってくる斬撃の全てに対応する。彼の射程圏内に入った斬撃を領域が知覚した瞬間を狙って全て霧散させていく。

 

「簡易領域。これを習得するのに10年は掛かりました。──掴みましたよ」

 

 まるで余裕、と言うように不敵に笑う七海だが状況はまるで良くない。対等のように見えて、それは薄氷の上に存在する均衡に過ぎない。

 『簡易領域』。弱者の為の領域と呼ばれるそれを成立させる為、七海は二つの『縛り』を設けている。発動中その場から動かない事。事前に定時と定めた時間を超えて活動する『時間外労働の縛り』を達成している事。

 その二つが揃い発動可能にしたこれは、目視すらできない雅の速度に対応するために活用している。領域に入ったものを視覚ではなく肌感覚で把握し、反応できるようにしたのだ。

 

「日下部さんみたいに出来たらそれが理想だったんですが……」

 

 縛りという下駄を履かせて漸く到達した自分に望むべくもない高望み。後は──

 

「……名を聞きたい」

 

 刀を納めた雅は残心をしたまま目の前に立つ男を見る。先ほどまであった何処か余力を残した様子ではなく、今もピリピリと肌を突き刺すような気配を漂わせ、尋ねた。

 

「七海建人です」

「そうか、七海。先ほどの非礼を詫びよう」

 

 頭を下げる雅だが、気配は戦いを終わりにするものではない。むしろ──

 

「お前の目に宿る覚悟を侮辱していた。故にここからは──剣士として相手しよう」

 

──参る。

 

 そう涼やかに宣言すると同時に、怒涛の攻撃が迫り来た。まるで濁流。上から打ち付けられる滝行。濃密な斬撃の弾幕である。

 

「ッッ!!?」

 

 先ほどまでの余裕などまるでない。ただその奔流が止むことを願いながら必死に凌ぎ続けるしかない。彼女が取った戦法はシンプルだ。

 

(こちらが抱えきれなくなるまで物量で押し潰す気だ!)

 

 よく見れば、星見雅自身も七海の周囲を高速で飛び回りその場所を悟らせないようにしている。

 

「うおおおおおおおッッ!!!」

 

 吠えた。凌いで見せると吠えた。直接彼女自身が斬りに来ないのは万が一でもこちらの攻撃が当たる危険性を理解しているからか。

 七海の術式の性質上、例え虚狩りであっても直撃すればダメージは免れない。実に理に適った戦法だ。

 スーツに幾つも傷をつけ、出血を強いられながら生存だけを繋いでいく。弾き切れない斬撃がまるでシュレッダーみたいに体を傷つけていく。

 

 時間にして数十秒。数十分、数時間にも感じられた濃密な斬撃の雨が止んだ時、再び膝をつく七海。その姿は先ほどまでの元気などなく、ジャケットは細切れ、整えられた髪は乱雑に下ろされ、左目は血で濡れ視界が潰れている。

 

「……ッ」

 

 今すぐにでも倒れてしまいたい、そんな甘い気持ちに喝を入れて立つも、満身創痍。そんな言葉が相応しい姿であった。

 

「……見事だ」

 

 その姿に雅は賞賛した。何が彼をそこまで動かすのか。並々ならぬ覚悟と気迫で対峙する相手。実力は一段、いや二段も三段も離れているだろう相手を前にここまで持たせたのだ。

 手心など加えていない。それでもなお立っているのは彼の研鑽がそうさせているのだ。その全てに惜しみない賞賛を。だが──

 

「決着だ」

 

 トン、と軽い音で地面を蹴った。そして隙だらけの彼の懐に飛び込み、刀を振るう。

 

(命は取らない。お前にも背負うものがあるのだろう)

 

 峰打ちでその意識を飛ばす。そのつもりで振るったその瞬間。雅は見た。俯く彼の口が、うっすらと笑っていた。

 

「──ッ!」

 

 振るった刀がガッチリと止められた。片手でガッチリと刃を握りしめる。呪力で固められた手は刃の鋭さを抑え込み、その握力で固定。

 

「─ッ、白刃取りか!」

「ええ、必ず耐え続ければ貴方は来ると思いましたよ」

 

 そして、このチャンスを七海は見逃さない。逃してはならない。ここを逃せば勝機はない。その確信がある。空いた片手による鉈の一撃。袈裟斬りの一撃が雅に直撃した。直撃の瞬間、溜められた呪力が黒く火花を散らした。

 さしもの虚狩りと言えど、この威力には顔を歪め苦悶の表情を浮かべたが、それでもすぐに後方へと下がろうと反射的に動く。

 

「逃しません」

 

 掴んだままの刀を引っ張り再び間合いを埋め、再び鉈を振るう。

 

「ッ、やらせない!」

 

 初めて見せた痛みによる焦りの表情のまま、握られた刀を強引に引っ張り振り払い、そのまま刀でガードする。鉈との衝突で黒い火花が再び散る。

 

「まだだ!」

 

 ダンッ!と大きく踏み込み握った拳による打撃が雅の肩に直撃。黒い火花が散った。

 しかし、直撃の瞬間、くるりと体捌きで受け流すことでダメージを軽減。そうして作り出した僅かな息を整える間。

 その間に刀を再び納め、一気に抜刀。一切の余裕を無くした手加減なしの斬撃と、七海の鉈が衝突する。その衝撃は青い炎と黒い火花を周囲に撒き散らし地面を大きく砕いた。そして、その結果は。

 

「……私の勝ちだ」

 

 吹き飛び何処かあらぬ方向へ飛んでいく鉈。片膝をつく七海と、刀を突きつけ立つ雅。勝敗は明らかであった。そんな七海の胸中は全てを出し切ったという清々しさ。そして悔しさ。

 

(すいません、皆さん。後は──)

 

 頼みます。そう心の中で呟きかけて止まった。

 沸々と、少しでもそう思ってしまった自分に怒りが湧く。

 生前、七海建人が好きだった。本で好きになり、アニメで動く姿が嬉しかった。そんな彼が死んでしまった時は悔しかったし泣いた。

 彼はこんなところで死ぬべきじゃない。もっと強くなれる筈なんだと。そう信じる心が自分をここまで導いた。では、そんな自分が諦めるのは、許されるのか。違うだろう。また誰かに呪いを残すつもりか七海建人!

 

 脳裏に過ぎるのは、作戦前に会いに行った友人との会話。

 

──領域について知りたい?

 

──ええ、方式、理論は違えど起こす現象はとても似通っている。何か参考になるかと。

 

──うーん、俺もそこまで説明は出来ないけど。心象風景を現実に下ろすってそこまで難しいの?

 

──ええ、出来たら一般的に天才の部類に入るでしょうね。

 

──俺も漠然とした直感で、出来る。って気がしたんだけど。

 

 その言葉を思い出して薄く笑う。無手となった両手を合わせた合掌のポーズへ。

 そんな姿に、雅は何かする前にトドメを刺そうと刀を振るう。しかしその判断は遅かった。

 

(出来る、という予感ですか。案外その通りでしたね)

 

 既に自分は黒い火花を、黒閃を4連続でキメている。今なら多分出来る筈。その確信が七海にはあった。

 

 

「領域展開── 各各是業」

 

 

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