ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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書きながら寝落ちしてしまい気がついたらこの時間。
毎日投稿継続できるよう頑張ってたのに……


あっち側

 突如として視界がブラックアウトし、動きを止め周囲を警戒する雅は、開けていく視界の中自分が違う場所にいる事に気がつく。

 

「ここは……」

 

 何処かの地下鉄のホーム、だろうか。読めない文字とホームのデザインは何処か浮世めいたものを感じる。ありきたりな言葉で表すなら『異世界』のような──

 この場に2人しか存在しない空間。もしここに転生者の誰かが居ればこう言っただろう。『渋谷』と。

 

「ここは私の領域ですよ」

 

 先程まで片膝をついて男の姿が目の前にあった。相変わらずボロボロだが、先程よりもしっかりとした様子で立っている。

 

「領域……」

「種明かしはしませんよ」

 

 次の瞬間、七海が手を手刀の形にし、雅に向けると同時に雅の体を幾つもの打撃の雨が打ちつけ、後方へと数メートルは吹き飛ばした。

 

「──ッ!?」

 

 体の節々から発せられる痛みというメッセージに驚くも、すぐさま抜刀。空間を引き裂くように生まれた斬撃が地下鉄のホームを大きく破壊しながら七海へと迫る。だが──

 

「遅い」

 

 既に七海は懐に潜り込んでいた。呪力で強化された拳とそれを目の端で捉え、反射的に振るう刀が衝突する。

 

「ッ……!」

 

 先程までと威力が違う。拮抗すら許さなかった雅の一撃と正面からぶつかり合ってなお威力が衰えない。

 

「ふッ!」

 

 コンパクトに吐き出された息と共に力押しで刀ごと雅の体を吹き飛ばし、天井へと叩きつける。未知を前に混乱する雅の隙を、七海は逃さない。ここで勝負を決めるつもりで果敢に連撃を狙う。飛び上がって天井に張り付く雅目掛けて回し蹴りを叩き込む。

 

「ぐッ!?」

 

 苦悶の声が漏れる。蹴りを刀で受け止めたとしても、同時に全身を襲う打撃の雨が彼女の動きを鈍らせる。2人の衝突に耐えきれない天井が砕け、雅をさらに上へと大穴を開けながら吹き飛ばした。

 ドゴンッドゴンッ!と幾つもの天井を突き破り、勢いが失われた時には既に地下鉄を突き抜け、外へと舞台を移していた。

 所狭しとばかりに立ち並ぶ高層ビルの一つ、壁面へと着地する雅は思考を回す。未知を前にしてなお、彼女の闘志は萎えない。

 

 彼女の五体に流れる天賦の才か。或いは弛まぬ努力の果てか。この『領域』に対する回答を生み出そうとしていた。

 

(7:3のポイントによる強制的な弱点。にしてはこの領域とやらになってから体を打ちつけるダメージの一つ一つはそこまで強く無い)

 

 何故か?それを考えることに意味はない。しかし、無視もできない。ならばどうする。

 雅は自らの刀。妖刀『無尾』の力をを全身へと漲らせた。刀から発せられる蒼く冷たい炎が全身を包む。大穴から飛び出す七海に向けて再び斬撃の霰。しかし、それが彼の身体に到達するよりも先に霧散する。

 

(今、斬撃に向けて手を向けたな?)

 

 だが斬撃を無力化された事に驚く事なく冷静に観察する雅はこの領域に対し、ある程度のルールを把握し始める。

 

(遠隔でこちらを攻撃できる手段がある。しかしそれにはある程度条件がいると見た。その一つはあの手か?)

 

 あの手は何らかの照準の役目を果たしているのだろう。そしてもう一つ。

 

(やはりか、無尾の炎なら予兆なく襲いかかるこの打撃をある程度中和できる)

 

 虚狩りとしての経験か。瞬く間に対抗策を生み出す雅を前に、七海は歯噛みしたくなる衝動に駆られる。

 

(数回、たった数回である程度掴み始めている)

 

 向こうはこちらの振るう『呪術』のルールを知らないというのにだ。圧倒しているように見える七海だったが、その実もう後がない状態だった。

 領域展開、呪術世界における奥義、或いは奥の手に分類される必殺技。それだけに実現難易度はトップクラス。

 如何に黒閃を連続で決めた事によるポテンシャルの上昇バフを受けたとしても七海に実現は難しかった。故に、特定の条件を設け縛りとする事でその難易度を下げたのだ。

 

(領域に付与される術式の必中必殺とも言える効果を全部キャンセルした)

 

 領域は発動するだけで多大な呪力を使う。ただメリットを捨てただけでは無駄になる。だから七海は領域ではなく、自身の術式に領域内のみの縛りを追加した。

 

(7:3の点を攻撃した物体に弱点を付与する。その対象を限定。自身の呪力の7:3の点を弱点とする)

 

 領域内なら、自身の呪力で満ちている。必中を外しながら実質的に必中効果を実現させていた。何もない空に7:3を見出す事は難しいが、呪力という基準があるなら話は変わる。

 

「来る」

 

 ドンッ!とビルの壁面を大きく破壊しながら跳ぶ雅。簡易領域と同じく領域内の全てを把握している七海にとって見えないものではなかった。

 

──ガキィィィィン!!!

 

 懐に飛び込み放たれる横薙ぎの居合を両腕をクロスさせる事でガード。呪力による強化を受けてなおビリビリと痺れるこの衝撃──!

 

「ぐぁっ!?」

 

 しかし、そこで終わりではない。先ほどの意趣返しとても言いたげな回し蹴りが七海の頬を捉えた。ドコォ!と数十メートルはビル群を突き抜け吹き飛ぶ七海はゴロゴロと勢いのまま転がり、何処かのビルのオフィスへと突っ込んだ。痛みに悶絶する余裕などない。追撃が来る。

 

「ぐっ……!」

 

 立ち上がる七海の視界に戦闘機の如くカッ飛んでくる雅。すぐさま領域による術式を行使、手の照準通り飛んでいく幾つもの攻撃は当たった。当たりはしたものの、それらを無視した雅の斬撃が再び縦割りにオフィスの床や天井を真っ二つにしながら七海を切り裂く。

 

(あの炎がこちらの攻撃を自動迎撃しているのか!?落花の情のようにか!?)

 

 勢いを受けて再び派手に吹き飛ぶ七海は、吹き飛びながら無我夢中で掴んだ消化器を迫る雅に大してぶん投げる。

 

「──!」

 

 反射で切った物体はその内容物を撒き散らし、白い霧となり雅の視界を覆った。その隙に吹き飛ぶ身体を地面を蹴って踏ん張り、反転。再び振るう拳が雅に迫る。

 

「な──ッ!?」

 

 即座に反応した雅の刀が受け止め、ゼロ距離で放たれた攻撃が七海の体を肩から胴へ抜ける形で袈裟に斬った。再び吹き飛びグルングルンと振り回されて上下左右の感覚が狂う。

 

「こうも……ここまでしても……!」

 

 血を吐きながら七海は地面へと叩きつけられ悶絶する。領域を得て、『あっち側』の淵に僅かに指を掛けるくらいになった、と考える七海はそれでもなお遠いこの差に絶望する。

 

「──決着をつけよう」

「……」

 

 再び目の前に降り立つ雅は、徐に刀を納め、構えた。それに対し、七海もまた構える。溜めに溜め放たれる雅の一撃は、今日一のサイズと威力を持って放たれた。

 

「──」

 

 言葉がなかった。今までは全力では無かったのか。これが彼女の本気か。迫り来る、領域ごと断ち切らんとする特大サイズの斬撃を前に、吼えた。ありったけの攻撃をぶつけ続け、そして領域の外壁ごと断ち切られた七海はその意識を飛ばした。

 

 


 

 

 突如として起こる破壊の衝撃波がホロウ内を席巻した。すぐにその正体が自らの知己である事を察した六課のメンバーは集う。そこにはカルロッタに本部の姿もある。そこで見たのは、大の字で倒れる七海と、一息つけ、刀を押さえた姿勢のまま残心を解かない雅の姿だった。

 

「課長!」

「柳か……何か掴んだか」

「ええ、作戦は中止です。それよりすべき事があります」

 

 雅はその場にいる本部達に目を向け、そして倒れる七海へと目を向けた。

 

「……決して、楽に勝てる相手ではなかった」




領域展開『各各是業』
七海が掴み取った奇跡。
黒閃バフと必中必殺を捨てる縛りによって成立させたもの。

術式対象を呪力に限定する事で領域内で実質的に必中を実現させた。
呪力に対し十割呪法を発動してるため、直接的ではなく間接的に相手を攻撃している。

その為、通常より威力が落ちてしまう欠点がある。そして性質上落花の情のような自動迎撃で無効化されてしまう。逆に簡易領域や彌虚葛籠に対しては呪力そのものに効果を及ぼす関係上、有利となる。
本作においては無意味だが必中必殺を捨てた事で領域の発生が早く押し合いに有利を取れる。
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