時間は少し戻り、七海達が時間を稼いでいる間、スネークはエネの案内を受けながらホロウの出口まで進んでいた。
『そろそろ着きますよ!』
「了解」
「どこに繋がってんだ?」
「比較的安定した抜け穴でな、フィランソロピーヤヌス区支部の近くだ」
手に入れたコアと証拠をアナハイムが奪取し、白日の元に晒す。そうすれば少なくともブリンガーは終わりだ。既に仲間が動いている。そちらの状況次第ではあるが……もはや世間からブリンガーは英雄ではなく、地に落ちた犯罪者と見るだろう。讃頌会は……これでは致命傷にはならんだろう。被害者は間違いなく減るだろうが。
「うっし、なら──」
「ッ!離れろ!」
突如としてバイクの後ろから飛び出し、シーザーを蹴りながら地面へ緊急脱出。
「な──」
シーザーの抗議は途中で途切れる。見ればつい先程まで乗っていたバイクが上からの瓦礫の落下に巻き込まれ潰れていたからだ。
「──シッ!」
スネークは真横から聞こえる鋭く息を吐く音に反応。再び跳んだ。空中で捻りを加え、体全体を回転させながら懐から拳銃を取り出し発砲。自分の体の僅か数センチ下を通り抜ける刃と、相手の被る帽子を弾丸が弾き飛ばしたのは同時であった。
「……お前は」
「ご機嫌如何かな、英雄殿」
色白の肌に、とんがり耳。灰色と赤色のオッドアイ。カシャンカシャン!と大鎌を納めアタッシュケースへと変化、この場合は戻したのだろう。
「確か、モッキンバード……だったか」
スネークは油断なく銃口を向けながら立ち姿勢へ。それを涼やかな目で見るのは、世間では伝説的な怪盗団として名を馳せるモッキンバードの首領。ヒューゴ・ヴラドであった。
「ほう、伝説の英雄に名前を知られているとは。光栄な事だ」
「御託はいい。何が目的だ」
「貴公が持つそのコアだとも。以前から狙っていた代物ではあったが、まさか見つかるとはな」
何故この場所が、いや、予め張っていたようにも見える。何処から情報が漏れたのか。一瞬で思考を回すスネークはゆっくりと銃口を向けて歩く。まるでウェスタンにおけるガンマン同士の睨み合いのように、弧を描き二人は歩く。
「……このコアはただの宝じゃない。わかっているだろう」
「もちろん、だが俺の目的の為には必要なものだ」
『確か、ヒューゴさんはレイヴンロック家を含む貴族達の失墜が目的でしたよね……』
原作を思い出しながらスネークにしか聞こえない通信でそう喋るエネと。その情報を元にその場でスネークが取った行動は──
「俺と、いや俺たちと協力しないか」
「なに?」
銃を下ろし、そう提案するスネークに怪訝な目を向けるヒューゴだったが、彼の話すこれからの作戦と、ヒューゴの目的。その二つは同時に出来るという提案を聞くにつれ、思案し始めた。
「俺たちの目的はブリンガーを下ろす事だ……その後であれば、このコアを差し出すのも無理な話ではない。それだけじゃない。俺と、俺の仲間達がお前を支援する事も考えよう」
「……それが嘘ではないという保証は?」
「俺の潜伏先の座標と拠点を教える。俺は指名手配を受けている身だ。お前ならその情報だけでどうとでも料理できるだろう?」
「……」
悪い話ではない、とヒューゴは考える。企業という後ろ盾があるなら貴族達に接触することは容易だし、融通も効く。それでいて後ろ暗いものがあるならそれを盾に揺することも可能だ。
「貴公はブリンガーを下ろして、どうするつもりだ?」
「讃頌会を潰す」
野放しにすれば、奴らは旧都陥落の再来を招くだろう。その確信があるスネークはそう答えるのに迷いはなかった。
「なるほど……流石は伝説の傭兵だな」
「……俺は自分が伝説になったつもりはない。俺は人殺しだ、それが正当化される事もない」
旧都陥落。新エリー都と零号ホロウを隔てる断層を作り出し人々を救った伝説の傭兵。と世間は言うが、決してそのようなものではないとスネークは断言できる。
二人の視線が交差する。薄ら笑いに感情を隠すヒューゴと、鋭い目で真顔のスネーク。
「協力する、って事でいいのか?」
その話の流れを断ち切るように、話の行方を見守っていたシーザーが尋ねてくる。
「ああ、構わないな?」
「……良いとも。一時休戦としようじゃないか」
肩の力を抜く二人。難しい話はよくわからんと嘆息するシーザー。
「所で、よくここが分かったな」
明らかな待ち伏せ。こちらの場所が漏れていたとしか思えなかった。
「俺の仲間が治安局に潜入していてね……スネーク、貴公のした事は既に世間に大きく知られていたよ。今頃治安局は大荒れだろう……それも計画通りだろうが」
「……これでブリンガーを捕える事が出来るならいいが」
そうはならないだろうな、とスネークは一人原作を知る身としての感想を漏らすのだった
「ところで貴公、その格好は何か目的が?」
「……合理的な変装だ」
「どう言う事だ!何故情報が漏れている!?」
緊急捜査チーム、として集められた面々は部屋に入るなり開口一番で怒鳴りながら机にバンッ!と新聞を叩きつけるブリンガーの声が響いていた。
「どう、と言われても……」
戸惑い狼狽える若い治安官がそう答えるもそれは火に油というものだ。ブリンガーの怒りは募るばかりであった。目下、彼の頭を悩ませていたのは叩きつけられた新聞の内容であった。
『謎の仮面をつけた男!?治安局に宣戦布告か!
』
そんな風な見出しでデカデカと映る新聞に載せられた写真には、コアを奪った男とそれを前にしたブリンガーや治安官の面々が鮮明に映されていた。
「まだ奴は見つからんのか!?わざわざH.A.N.Dにも出動要請を送っているのだぞ!?」
「現在ホロウ内に突入後からまだ連絡がありません……」
詳しく調べられても困るが、あれを盗られるのまた不味い。一度回収さえ出来れば誤魔化しは幾らでも効く。そうブリンガーは考えていたが、この新聞の内容は頂けない。何処からか隠し撮りされた写真とこの内容。選挙が近い今、無視する事はできず、しかしこうして大きく知られてしまった以上署の内部で揉み消す事も難しくなってしまった。
いざとなれば──この懐のポケットに入った注射器を意識する。保険はあるが、使いたくはない保険だ。厄介な虚狩りも今はいない。これを使えば自分に勝てるものはいないのだから。
「失礼しまーす……っと、どうも長官。外まで声がまる聞こえですよ」
その時、気怠げなノックをしながら部屋に入ってくるのは特務捜査課リーダー、リンドウとその部下達であった。続くように朱鳶、青衣、ジェーンの姿がある。
「リンドウ、何しに来た!貴様らは奴の捜索担当だろう!?」
「いやぁ、奴さん。どうにも逃げ足が早いようで……ですがそのうち捕まるでしょう。それより──」
吸っていたタバコを吸殻入れに押し込みながら、リンドウはへらっと笑う。
「やーっと、尻尾出したなブリンガー……お前には容疑が掛かってる。過去の事件に関わる証拠捏造、隠滅。金の横流し……不埒な輩との関わり。これらの証拠は揃ってる、既に監査官に提出済みだ」
そして、その監査官からの令状も取れた。と懐から取り出された一枚の紙には確かにその署名があった。
「な──ッ!バカな!それこそ捏造だろう!?」
「ま、そうかもしれないが。これはこの場の議論ではなく、法廷で長く議論されるべきものだ、少なくともね」
だから拘束させてもらう、と視線で指示すれば、前に出た朱鳶と青衣が手錠を手に近づいてくる。
「長官……」
悲痛な面持ちで、悔しそうに呟く朱鳶はゆっくりと、近づく。しかし、ブリンガーは大人しくするつもりなど毛頭なかった。もはやなりふり構うこともなく、暴れ出し、その体格の大きさを生かしたタックルで朱鳶を退かすと外に繋がる窓を突き破り、外へと逃げ出してしまった。
「ジェーン」
「ええ、任せて」
リンドウの指示を受け、即座に同じく窓から飛び出すジェーン。その場に残るのは、状況についていけない治安官達と、悲痛な面持ちで床に座る朱鳶と、その背中を摩る青衣だった。
「リンドウさん……貴方は、最初から知っていたんですか」
「……まあな。以前から疑いがあった。だからジェーンに裏を探らせてたんだ」
そして、その裏で動くアナハイムやフィランソロピー。
「私は、どうしたらいいんでしょうか……」
この道を志すキッカケとなったのは、若き日にブリンガーの背中を見たからだ。その憧れが、今は自分を打ちのめしている。
「……確かに、お前が見てきたものは偽物だったかもしれない」
静かに。いつも軽薄で軽い調子の上司は今この時だけは確かに真摯で真面目なものだった。
「だけどな、お前がその時抱いて、お前が感じた全てまで偽物にする必要はねぇだろう」
その想いが今を作り、その心にある限りお前はお前だ。と頭をポンとひと撫でし、リンドウはその場にいるもの達に指示する。
「これより俺たちはブリンガー容疑者の捜査及び逮捕に向けて動く!」
作戦はある程度の成功を収めている。後は……今ある戦力でブリンガーの拘束を果たすのみである。しかし、先を知る転生者達はそれが一筋縄ではいかないと知っていた。
次回、人外魔境虚港