その報告を、ケルシーはホロウ内で聞いていた。ホロウ内でも見晴らしのいいコンテナが積まれた高台の上で。たった一人立つケルシーを狙い、エーテル活性化によって数を増やしたエーテリアスが集い始めるが、それらはmon3trが蹴散らしている。
「ミアズマ……だとするなら」
ミアズマとはただの高濃度エーテルの塊ではない。記憶、データを保存する高密度情報体だ。その最たる例が『夢縋り』だ。保存された情報からエーテル構造体を出力する現象。
では今回、奴らはそれを何に使っているのか?推論に推論を重ねるような、確実性に欠けた結論。直接見て、肌で実感して出された答えとは。
「ホロウ内に現れた三体のサクリファイス、恐らく奴らにとっても虎の子たる切り札」
それがただコアを潰せば勝てるようなものであるはずが無い。このミアズマと三体のサクリファイスには何らかの共生関係、或いは何か互いに補完しあう関係になっている筈だ。
以前、ラマニアンホロウで上条達が遭遇したという儀式もまた、同じような様子があった。
「エネ、ホロウ全体図はあるか?」
『はいはい!あります!』
ケルシーは手元のタブレットに表示される様々な計器と略図に目を走らせる。それから目線を離すことなく尋ねた。
「ゼンレス限界まであと何分だ」
『……』
その言葉に返事はない。沈黙するエネに、極めて冷静にケルシーは続ける。
「エネ」
『……残り、3分を切りました』
「そうか」
タブレットに向いていた目を正面へと向ける。今なお激しい揺れと爆発音に炸裂音が響く戦場を。残り3分。タイムリミットのそれを超えた時、このホロウは拡大を始め新エリー都を呑み込み始めるだろう。いや、既にその前兆がある。
「頼むぞ」
『……任せてください!この情報は必ず役に立つはずです!』
中央エリア。虚狩り含めた足止めチームと六課が到着。そしてそこに後から到着した迅悠一。錚々たるメンツではあったが、戦況は芳しく無かった。
サクリファイス、ブリンガーはこちらの戦力を的確に把握していた。虚狩りと赤い男。この二人だけを警戒しておけば危険はないと判断していたのだ。徹底的に距離を取り、攻撃を受けそうになったらその一部を切り離してでも下がる。
(いかに虚狩りと言えど人間。時間はこちらの味方だ)
時間が無い向こうからすればジワジワと減り続けるタイムリミットを前に焦りも生まれる。
「どうします?これ……」
息切れで疲れた様子で呟く悠真に、返事を返す余裕のない柳。相手はブリンガーだけでは無い。周囲に群がるエーテリアスもいる。まともにブリンガーに攻撃ができるのは限られた人数だけ。残りはエーテリアスへの対処に追われていた。
「やけに体が重い」
飛んでくる攻撃や、周りに群がってくるエーテリアスを排除し続けている朱鳶は肩を揺らし苦しそうに呟いた。
「……この周囲を漂うエーテルが原因か?」
引き抜いた刀を構えたまま、眉を顰める雅は冷静に考察する。やけに体が重い。パフォーマンスは通常の8割、いや半分くらいにまで落ちている。迫るタイムリミットと相まってこの場にいる皆の精神的負荷は凄まじいものとなっていた。
「とにかく、奴をさっさとやるしかねぇ」
「うむ、ダンテは横から頼む。逃げ回る奴の動きを止めねば──!?」
その時だった。雅の持つ妖刀『無尾』が突如として雅の意思に反して青い炎、いや紅く輝く炎を刀身から立ち昇らせた。カタカタと揺れ出す刀を必死に抑えようとする雅だが、その隙を目の前のブリンガーは見逃す筈もなかった。
「危ない!」
悲鳴にも似た叫び声が響く。ブリンガーが巨大な腕を召喚。上から叩きつけるように振り下ろされる寸前。
「やっばいこれ」
飛び出す影が一つ。迅だった。目の前に迫る巨腕をそのブレードと遠隔斬撃をフルで使い切り刻み、それでも無理だと判断して体ごと巨腕の前に立ちブレードでガードする。
しかし、それでも抑えきれずに迅は遥か後方へと吹き飛ばされた。
迫る巨腕を、なんとか踏ん張り地面との間に入ることでガードしたのはダンテだ。
「あぶねぇ……」
ここで雅を失うことがあれば間違いなく不味い。ヒヤヒヤしながらダンテは潰さんとする巨腕を両手で抑え続ける。地面が割れ今にも潰されそうだが、本人にはまだ余裕はある。本来であれば。
「──ダメだ、やめろ……!」
必死に制御しようとする雅は、両手でガチガチと刀を抑えるもの震え続ける刀はその炎の勢いを強くする
──斬れ
囁くように、刀は言う。その囁きに乗ってはならない。雅は確信しているが、刀は言うことを聞かない。一歩、一歩と引っ張られる雅。その先には──
──斬れ!!
「やめろ!!」
懇願するような叫び。しかし、刀は言うことを聞かない。そうして刀が選んだのは
「俺かよ……!」
今もなお巨腕に押し潰されまいと踏ん張り続けるダンテであった。両手が塞がり動けないダンテはそれを見ているしか無い。
「やめてくれ……!」
まるで、あの日の再現だ。旧都陥落、自らの母を貫かんとしたあの時と。かつてはそれをダンテが止めたが、今は違う。止められる者は居ない。
──ストン
やけに軽い感触だった。
刀身が布を裂き、肉へ入り、背中まで抜ける。
「あ……」
雅の指から力が抜けた。
だが無尾は離れない。胸を貫かれたダンテの身体に、深々と刺さったままだった。
彼の口が何かを言った気がした。
聞こえなかった。
次の瞬間、ダンテの身体は巨腕に押し潰されるように地面へ沈み、そのまま瓦礫の向こうへ弾き飛ばされた。
雅は動けなかった。
手のひらには、まだ肉を断った感触が残っている。
旧都の炎が見えた。
母の背中。
言うことを聞かない刀。
止めに入ったダンテ。
何一つ変わっていない。
「星見雅さん」
声がした。
反応できなかった。
「立てますか」
答えられない。
七海は雅の返事を待たず、迫った巨腕を鉈で受け流した。黒い火花が散り、衝撃に片膝をつく。
「彼の安否を確かめたいでしょう」
雅の肩が僅かに動いた。
「私もです」
七海は息を整えながら立ち上がった。
「なら、彼が戻ってこられる場所を残してください」
「……だが、私は」
「あなたが傷つけた」
七海は否定しなかった。
「その事実は消えません」
雅の指が震えた。
「だから何もしないのですか」
眼鏡越しの瞳が、まっすぐ雅を見ていた。
「あなたは、何を託されたんです」
その言葉に、炎の中で見た背中が浮かんだ。
母がいた。
守れなかった者たちがいた。
それでも刀を握ると決めた日の、自分がいた。
雅は俯いたまま、両手を握った。
無尾はない。
それでも、手は残っている。
足も動く。
まだ立てる。
ゆっくりと、雅は立ち上がった。
「……すまない」
「謝罪は後で」
七海は自分の鉈を差し出した。
「今は、これを」
雅は鉈を見た。
名刀ではない。妖刀でもない。使い込まれ、布を巻かれた、無骨な刃だった。
それを両手で受け取る。
「私は動けなくなります」
「何をするつもりだ」
「時間を作ります」
七海は両手を合わせた。
「その間、私を守ってください」
雅は鉈を構えた。
「ああ」
今度は迷わなかった。
「任せてくれ、七海」
「領域展開──」
景色が沈んだ。
港も、雨も、紫の霧も消える。
代わりに現れたのは、冷たい地下鉄のホームだった。
ブリンガーの巨体を覆っていたミアズマが、引き剝がされるように領域の外へ消えていく。
「な、何をした……!」
動揺するブリンガーに、七海は口の端を持ち上げる事で応える。
掌印を結んだ両手は既に震え、額から流れた血が頬を伝っていた。日に二度の領域展開。無理に無理を重ねた所業に七海の体が悲鳴をあげている。足りないものは、意思の力で補った。
「頼みましたよ」
雅は鉈を握り直した。
借り物の刃だった。
だからこそ今は、それでよかった。
雨が降る。崩れた建物の瓦礫を押し除け立ち上がるスネークを打ちつけるように雨が叩く。口の端に血を垂らし、息を切らし、それでも敵を睨む。
「どうする……」
周囲に目を向ければ、皆同じような状態だ。応援が来たとは言え、相変わらずの相性の悪さだ。皆強力な個と向かい合う事はあっても、多数の群れに対して戦闘スタイルが合っていない。
依然として、蟲の群れを向け続ける本体はどっしりと構え、動く様子を見せない。本体を叩かぬ限りジリ貧なのは目に見えているが、此方には蟲の群れを突破して本体にまで行けるだけの火力がない。
「どうもこうもない、やるしかないだろ」
ゴツいリボルバーの弾倉を確認しながら片膝をつき応えるのはレオンだ。蟲の一つを掴み取りハンマー投げの如くぶん投げるフランクの姿を横目に改めて奥に控える本体たるサクリファイスを観察する。ホバリングしながら動くことのない姿を。
「どう見る?」
蟲の群れを放つまでの僅かな時間で、作戦会議するスネーク達。
「奴からすれば何もする必要はないんだ。時間を稼げばその分だけ奴が有利になる。ただ蟲を放つだけですり潰せる」
「こっちにはタイムリミットという明確な敗北条件があるからな……くそ、手立てがないぞ」
装甲車に備え付けられた機銃も、数を相手にした時には力不足だった。せめて本体に近づけたなら……!
歯噛みしていたその時だ。こことは違うエリア、中央エリアを覆い尽くすように展開される黒い膜が見えた。
「あれは……」
『限界値の上昇が止まりました!七海さんが中央とミアズマの接続を遮断しています!』
ここからでも見えるほどデカい障壁だ。しかしそれは敵も同じこと。あれを見て何もしない筈が無い。
「奴らをあの領域外殻に近づけさせるな!」
負傷で戦線離脱し、一般転生者達の兵士は既に残り少ない。しかし、対処するだけで精一杯な今、奥にいる本体が動けばこの均衡はあっという間に崩れるだろう。
何回目になるかも覚えてない蟲の群れが再び殺到し始める。それはこちらだけでなく、あの黒い領域の外殻へとだ。
「くそッ!」
こちらに迫る蟲達を無視して、外殻目掛けて飛ぶ蟲に攻撃するも、全てを撃ち落とす事はできなかった。吐き捨てるように叫ぶ。
──すまない……!もうダメだ……!
せっかく時間を延ばしてくれた筈のチャンスを不意にした。謝罪が口の中を転がる。目の前で外殻目掛け突撃していく蟲達を前に、思わず目を瞑った。
──青い地球を守るため〜
しかし、予想していた未来は訪れない。歌声と共に爆発音が響く。蟲の群れ、その一角が突如爆発で叩き落とされ、木っ端微塵に。狼狽える蟲がそれでも外殻を攻撃しようと動くが、先回りして追尾するロケット弾の群れが悉くを撃ち落としていく。
「あのでたらめな攻撃力は……まさか!?」
スネークは知っている。この現象を知っている。
「その歌は……!」
ネームド含む転生者達の兵士達は居るはずのない人物の登場に息を呑む。喉から手が出るほど欲しかった、一体多を専門としたスペシャリスト。
「ストーム1!!」
男が立っていた。敵を前に雄々しく立つその姿。
「ニヤリ」
【ルール】
・自分の転生キャラになりきること(解釈違いを恐れるなかれ!)
・キャラ達の原作でやらない行動はできるだけ避けること
掲示板ネームストーム1
ゲーム『地球防衛軍』シリーズよりストーム1。
転生者tierトップの一人。この世界では『ダークウォール調査隊』所属。定型文しか喋れない男。
因みに調査隊の選考理由は「こいつは何があっても死なんやろ……」という転生者達による投票制。こいつは満州一致だった。
今回の装備は
ライサンダーz
MLRA-TF
ZEXR-GUN
CA90爆弾