久しぶりですがモチベの為にも感想、お待ちしております。
カツ、カツ、と。
乾いた床に革靴の鳴る音だけが響く。既に新エリー都全体が騒がしくなり始めた現在。かつてない真剣な面持ちで歩く安室透。誰も伴わず向かう先。廊下を抜け、人の気配を察知し自動で開く扉の先──
「お待たせしました」
プシュー、と背後の扉が間の抜けた音を鳴らしながら閉じていく。今回現在進行形で起きている事件に対する対策班チーム。それにお呼ばれする形で安室はここに来た。声に反応して、8対の目が一斉に向かう。それだけで体を蝕む圧力となって到来する。
「随分と遅い到着だな」
「この場合、重役出勤という事になるんですかね……あながち的外れでもなさそうですが」
臆する心をおくびにも出さず、安室は飛んでくる嫌味を軽口で返し、席に座る。
「……それで?どのような結論が出たんでしょうか?まさか、これだけのメンツが揃って何もない、なんてことは──」
「口を慎め若造」
ギロリ、と髪を白くした壮年の男が机越しにこちらを睨む。努めて軽薄な表情を崩さず降参するように手を挙げる。
「小競り合いは他所でしてちょうだい」
その一言に、その場にいる者達の視線が向く。発言したのは、TOPからの使者としてここに来た女性だ。鋭く、冷たい目だ。
「現在、ポートエルピスのホロウは拡大を続けているわ。内部で超大型エーテリアスが複数確認されてる。たまたま居た貴方のとこの兵士が応戦、別件でホロウにいた治安局員。それと巻き込まれた一般人。その場居合わせた人々が応戦しているけど、時間がない」
コーヒーに角砂糖を落とし、スプーンでかき混ぜながら、彼女は現状を伝える。
「だから、私も呼ばれたわけですね」
「ええ、何か聞けるかと思って」
何しろ、アナハイムは噂に名高い篠ノ之束を抱えている。何らかの手段があってもおかしくはない。言葉の裏で彼女は考える。今回の件、あまりに都合が良すぎる、と。
たまたま発生したホロウの異変に合わせ、アナハイムの私兵がたまたま居合わせた。しかも事前に治安局が動いており、近隣住民の避難が進んでいたところに発生した事件だ。
目の前で涼やかな顔をする男は、何かを知っている、いや、この件に一枚噛んでいるのではないか。と半ば確信すらあった。
「それで、対象となるエーテリアスは?拡大を防ぐなら手っ取り早い方法は討伐ですが」
「……言われずとも、既に虚狩りの一人が現場に向かったと情報があったわ」
「なるほど、なら安心できますね。それと、そのエーテリアスについての詳細は?こちらで情報を共有できればうちの部下達も動き方を変えられる」
ピクリ、と誰かの眉が動いた。そう、今回公の場、こうして世間の目に触れる事件の主題となるべきエーテリアスについて、何処まで話すべきか。一部の人間がそのラインを攻めあぐねていたのだ。
「……新種、というしかないわね。前例がないわ」
「なるほど……では此方でも調べてみますか。今回の件が片付いた時、うちの部下から情報も入るでしょう。虚狩りも到着した今、今後を考える必要がありますからね」
ニコニコと、そんな事を言う安室は脳内で飛び交う掲示板でのやり取りをずっと見ていた。
(耐えろ)
机の下、力の限り握られた拳から血が垂れる。本当なら今すぐ仲間達を助けに向かいたい。できない。出来なかった。
(俺がすべきは今後に備えて楔を打つ事。俺の戦場はここなんだ)
一人、また一人と倒れていく仲間達の言葉が掲示板に現れては消えていく。安室にとってそれは身を刺されるよりも辛い事だった。
向かってくる子蟲の群れ。対峙するストーム1に憂いの色など微塵もなかった。至って平常。彼からすれば、やっと見慣れた戦場になったと安心感すらあった。慣れた様子で幾つもの一抱えはあるだろう箱を片手でポイポイとその場に投げる。落ちた箱はその衝撃で展開。ガシャガシャと中からセンサーで動く自動小銃が領域外殻目掛け突っ込んでくる蟲の群れを撃ち落とていく。
「ストーム1!1匹も通すな!」
スネークが警告するように叫んだ。ストーム1のヘルメットとバイザーに隠された視線は確かに一度スネークを一瞥し、サムズアップすると再び肩に担がれたランチャーを構える。夥しく空中を舞う蟲が引き金一つで幾つもの爆発しながら空中で細切れに吹き飛んでいく。そのついでと言わんばかりに、武器をその場で切り替え、両手で保持する事も難しいだろうサイズの狙撃銃を構え、即座に発砲。
──ズドォンッッ!!
余りの威力に銃口が火を吹き、その弾丸はマッハ10を軽く超える速度と質量を持って、遠くで此方を見下すように佇むサクリファイス本体の体の一部を千切り飛ばすに至る。
『──!!?!?』
これにはサクリファイスも痛みに叫ぶが、その叫びには何故、という疑問も含まれていた。
そんなサクリファイスの反応に見向きもしないでストーム1は再びランチャーに切り替え、向かう蟲を再び叩き落としていく。そうしたら再び狙撃銃で本体を狙い撃つ。そのルーティンが完成していた。
「……彼は一体何者だ?」
こちらに対する圧が消え、会話する余裕を得たヒューゴは頬についた自らの血を手の甲で拭い、彼らに尋ねた。
「奴はストーム1。……俺と同じ、戦場で生きる男だ」
「結構愉快な奴だぞ?ポーカーでは俺も負け越してるけどな」
「ホロウばっか潜ってるからあんまり外に出ることはないけどな」
三者三様の返事を前にヒューゴは思案する。聞いたことのない名だった。裏世界に身を投じて日の長いヒューゴをして聞いたことがない。一体、彼は、いや、彼ら『フィランソロピー』とは?
疑問が次から次へと湧いて出る。しかしその疑念に答えが出るよりも先に、事態は動く。
「何っ!」
ストーム1が思わず、といった様子で叫ぶ。このまま削り殺せると思っていた矢先、サクリファイスに変化が起きた。
そう、変化。サクリファイスは考えたのだ。このままでは目的を果たす前に消えてしまうと。ではどうするか。殻に閉じこもる事を選択した。ドロドロとした液を分泌、外に出る事ですぐに凝固したそれは何物も通さない防壁。
「まるで成体になる前の蛹だな、バルサンでも焚くか?」
その様子に言葉を漏らすレオンだったが、その返事はストーム1の激しい銃撃音で答えられた。再び飛翔する弾丸はしかし、その新たに現れた殻に弾かれた。
「どうなってる!?」
「依然として蟲は出してるが……あれを倒さない限り出続けるだろうな」
叫ぶストーム1を他所に、スネークが冷静に分析する。あれを突破し、本体に直接攻撃を仕掛けなければならない。
「あの殻を貫いたとしても、恐らく一撃で倒せなければまた殻を作るだろう。七海のお陰で時間が出来たがそれでも足りん」
僅かに伸びたに過ぎない残り時間。僅かな猶予を前に尻込みする暇など無かった。手短にその場にいる者達に尋ねる。
「あれを突破できる手段に心当たりはあるか?」
「……そこらのエーテリアスなら兎も角、俺の鎌でも難しいだろうな」
顎に手を当て思考し、答えたのはヒューゴ。それに続くようにレオンは手に握られた大型拳銃を片手に掲げ
「俺の銃……レクイエムなら、いや、それでも足りないか」
「……さっき貰った、サクリファイス用の試作弾ならどうだ?」
淡々と状況を整理していく。その間にも向かってくる蟲はストーム1が無言で撃ち落とし、残りも彼の設置したタレットが一掃する。
「奴の本体ならともかく、あの殻には効果が薄いだろう。まずはあれをぶち抜けるだけの火力がいる」
「──武器アイテムがある」
数秒間の話し合いで一通り出来ることが出揃ってきた。その時だ。ストーム1はそう言った。
「何かあるのか?」
スネークが尋ねれば、彼は何処から取り出したのか、箱ほどのサイズの爆弾を取り出した。
「……やれるか?」
「やるだけやってみる、出来ないとは言わないが」
この爆弾を至近距離まで近づき取り付け爆破、その後集中砲火する。大雑把であるが今できる作戦はこれしかないように思えた。後は実行するのみ。
「ほらほら!イヴ!遅れるわよ!」
ホロウ内にに似つかわしくない明るい声。それに追従する彼女はやれやれと呆れ気味だ。
「やれやれ、守る此方の立場も考えてくれ」
炎が近寄るエーテリアス達を滅していく。
「あら、貴女が守ってくれるんでしょう?」
「ボディガードだからな」
「──はいはいどいてどいてー!」
軽い調子の彼女達を退かすように呼びかけるのは、メイド服に見えるように改造された機械仕掛けのウサギ耳をした女性だ。
「全く、こんな事態でもなきゃ突貫で仕上げる必要無かったのに!」
「でも楽しかったわ!あれ何だったの?」
ウキウキとした様子を隠さないまま彼女は博士に尋ねる。明らかに瞬間移動したようなショートカットでここまで来たのだから聞きたくもなるだろう。横で聞いていたイヴリンも声にこそ出さなかったが疑問は同じだ。
「んー、あんまり使っちゃまずいんだけどねぇ。昔の同僚が遺してくれた『近道』だよー。内緒にしてね?」
そう言う博士の脳裏に過ぎるはケチャップが主食だったジョーク好きの誰かさんだ。懐かしい記憶だが、今はそれどころではない。
「敵さんがあんまりにもやりたい放題だからさ?ここらで逆転の一手を打ちたくて……前に話してたやつ、今やるからね」
「わかったわ、任せて!」
「その間、エーテリアスは任せろ」
三者が持ち場につく。持ち込まれた機械がズゥン……と低い音で稼働を開始。
「さぁ、やろうか!」
ニコニコと、博士は笑った。