―――ありがとう トレスマジア 最後に良いものが見られました
―――ありがとう キウィちゃん こりすちゃん 真珠ちゃん ネモちゃん 今まで楽しかった 本当に
―――私はここが 潮時みたい
剣を象った羽衣と飛来する拳が、同時に悪の幹部の少女、マジアベーゼの身体を貫く。レオパルトの伸ばした手は、空を切った。
「がっ……」
「ベーゼちゃん……!!!」
レオパルトの悲鳴が上がると同時、激しく吐血したベーゼはゆっくりと前方に倒れる。
うつ伏せに倒れたその背中からは、生気が感じられなかった。
「やった……の?」
「ああ、奴さんの焦りよう見りゃわかるわ。エノルミータ総帥マジアベーゼは今、ウチらの手によって倒されたってな」
マジアマゼンタが呟くと、マジアサルファがそれに応える。
「ベーゼちゃん……!ベーゼちゃんベーゼちゃんベーゼちゃんってば!!」
駆け寄ったレオパルトがいくら呼びかけても、マジアベーゼから返答はない。
「ベー……ゼ、ちゃん……」
マジアベーゼの身体を支えていた腕が力なく垂れ下がり、その身体から魔力が霧散していく。
項垂れるレオパルトの背後で、サルファが再び戦闘態勢を取った。
マゼンタの能力により回復したトレスマジアと、満身創痍のエノルミータ。既に大勢は決していた。
「さて……感傷に浸っとるとこ申し訳ないけど、あんたも倒さんと平和が訪れんさかい、往生しいや」
「ええ、彼女を倒して決着をつけま……え……?」
それに続くようにマジアアズールも剣を構える。しかしアズールは、その一瞬、見えたものに目を疑った。
その時、アズールとサルファを目掛けて何かが頭上から飛来した。
「2人とも危ないっ!!」
「「!!」」
マゼンタの呼びかけで間一髪回避する2人。
轟音と共に着地したそれは―――
「……」
「あ、アリス……」
―――巨大なネコのぬいぐるみに乗ったネロアリスだった。
「…………!」
「ここは退くって……?ふざ……けんなよ。アイツら、ベーゼちゃんを……!」
「…………」
アリスを乗せたぬいぐるみは、2人を抱えると一目散に駆け出した。
「待ちなさい!」
それを追おうとするアズール達の行く手をアリスのおもちゃが塞ぐ。その隙にアリス達はワープゲートの中に姿を消した。
「チッ、あいつら……」
「で、でも私たち勝ったんだよ!3人で力を合わせてマジアベーゼに勝てたの!…まぁ、私はほとんど何もできなかったけど…」
「いや、あの回復が無かったら、間違いなくウチらは負けとった。ほんまおおきに、はるか」
「えへへ…2人ともカッコ良かったよ!」
変身を解除しながら悪態を吐く薫子と、2人を労うはるか。
「……ええ。ありがとう」
一方、小夜の表情は晴れないままだった。
(そんな…まさか…でも…)
一瞬の見間違いだったと信じたい。激戦の中で、不意に見た幻覚であると思いたい。
しかし小夜の脳裏には、レオパルトが抱きかかえた”柊うてな”の顔が焼き付いたまま離れなかった。
□ ■ □ ■ □
ここは悪の組織エノルミータの本拠地、ナハトベース。
「ふげ!!」
戦場から帰還したレオパルトは、戻るなりアリスの持つドールハウス内のベッドに叩きつけられた。
「痛てーなアリス!もっと優しくしろっつーの!!」
「………」
レオパルトがギャアギャアと叫びながら辺りを見回すと、
「るっさいわね!ちょっとは静かにしなさいよ!」
「おめぇもうるせぇよ……レオも何とか無事だったようだな。まぁ無事と言えるかは知らねぇが……」
2人とも包帯も相まって見た目はかなり重症に見えるが、喋れる程度には回復しているようだった。しかし今のレオパルトに、それを気に掛ける余裕はなかった。
「ベーゼちゃんは!?ベーゼちゃんはどこだアリス!!
レオパルトはベッドから跳ね起きアリスに問いかける。全身の痛みが無ければ今にもアリスに掴みかかりそうな勢いだった。
「それについては僕から説明するよ」
抑揚の無い声が響くと、ドールハウス内に新たにワープゲートが生成され、その中から黒いぬいぐるみが現れる。エノルミータのマスコット兼自称参謀、ヴェナリータだ。
その手には汚れた星型の変身アイテムがあった。
「そ、それ……」
「端的に事実だけ伝えようか」
レオパルトのセリフを遮るように、ヴェナリータは相変わらず、気味の悪い程抑揚の無い声で淡々と告げた。
「
「!!」
「……!」
「そんな!?」
「なッ!?」
驚愕と戦慄が一同に走る。次の瞬間、傷が開くのも厭わずレオパルトがベッドから飛び出し、ヴェナリータに詰め寄っていた。
「うてなちゃんが死んだって……どういうことだよ!!……ゲホッ!」
「そのままの意味さ。彼女はトレスマジアの攻撃によって命を落とした。僕がアリスから彼女を回収した時には、既に絶命していたんだ」
ヴェナリータの言葉に一瞬沈黙が流れる。
「うてなちゃんが……死んだ……?うてなちゃんが……ゲホッゲホッ!」
レオパルトはその場に崩れ落ちる。と同時に激しく吐血し、変身が解除された。
「お、おいキウィ!大丈夫か!」
「うてなちゃん……うてなちゃん……」
変身が解除されても、キウィの目は虚ろなまま、譫言のようにそう呟き続けていた。
「チッ、そんなことってあるかよ……」
ネモは思わず舌打ちをする。真珠は口元を抑え、無言で俯いている。
「そこで、今後の活動方針はレオパルト、君に一任したいと思う。返事は任せるが、まぁ今はしっかり休んだ方が良いね。アリス、お願いするよ」
ヴェナリータがそう促すと、アリスは懐からおもちゃの注射を取り出し、その先端をキウィの腕に当てる。それはどうやら眠気を誘う効果があるらしく、キウィはその場に倒れ込んだ。
そして、周りのぬいぐるみたちがキウィを抱き上げ、元のベッドに戻し、治療を再開した。
「じゃあ僕はこれで失礼するよ」
ヴェナリータはそう言うと再びワープゲートに姿を消す。
場には重たい空気だけが残された。
しばらくすると、沈黙に耐えきれなくなった真珠が口を開いた。
「そ、そういえばアリス、あんた自身は大丈夫なわけ?あの攻撃を直接食らわなかったとはいえ、あんたも怪我してるでしょ」
「……」
「そう。自分で治療したのならいいけど、その、無理しないでね……」
「もうちょっと何かあんだろ……口下手かよ」
「何ですって!」
「……」
慣れないフォローをする真珠、それにツッコむネモ、2人を治療するアリス。いずれもどこかぎこちなく、晴れない表情のままのやり取りであった。
「はぁ……アタシらどうすんだ、これから……」
ネモの呟きに、応える者はいなかった。