便利屋68:3 テラーズ・オブ・ザ・スペクトル 作:まーろう
十四時間前
事務所の呼び鈴が割り込んできた時、アルはシャーレにも並ぶ便利屋68の巨大オフィスビルの最上階にある社長室で、赤のグラスワインを片手に眼下の夜景を見下ろす夢を見ていた。
彼女は寝ぼけ眼をこすると、隣で寝ている仲間を起こさないよう慎重に体を起こした。
今のは聞き違いか?いや、あそこだ。
もう一度呼び鈴が目を覚ませとせかす。カヨコやムツキも不満気に起き始めて、アルのささやかな配慮は無になった。
アルは起き出して、しぶしぶ玄関へ向かった。扉に掛けた看板が見えないのかしら?「本日の営業は終了しました」と大きく書いたはずだ。ドアスコープから外を覗くと、鞄を持って封筒を大切に抱えた女性が立っていた。
黒いレインコートからは水が滴っている。天気予報では今夜雨が降ると言っていた。
「どちら様ですか?」アルはつぶやいた。布団の方ではカヨコが枕元に置いた拳銃を手に取った。物音を聞いてハルカも目を覚ましたみたいだった。味方か敵かに関わらず、この時間の訪問は気分の良いものではなかった。
「アル」向こうの女が静かに言った。「前に依頼をした連邦生徒会防衛室副室長の常闇ゲンゲツだ。話があって来た。開けてくれ」
ゲンゲツだって?一体どういうことだ?
しかし長たらしい肩書のおかげで、こんな闇夜の訪問の謎が解けた。おそらく日中は机仕事があるから、人目を盗んで事務所まで来るのが難しいのだろう。確かに前回来た時は夜中ではないが、それでもちょうど夕飯という時だった。
「開けてくれ、大切な話なんだ」
アルはこの要請に従った。
カヨコも銃を下ろすと、ハルカを連れて顔を洗いに行った。
扉が開くと、レインコートを着たままの人物は一歩入って扉を閉めた。雨音は尻すぼみになって聞こえなくなる。
「良い夢は見れていた?急に起こして悪いね」
アルは重いため息をついた。「それで何があったの?こんな時間に来るなら、よほどの理由があるんでしょうね」
五分後、ゲンゲツはレインコートを脱いで床に上がっていた。アルは来客向きの椅子を出そうとしたが、急な訪問で悪いと布団の上で話すことになった。
就業時間でないにも関わらず、常闇ゲンゲツは連邦生徒会にお決まりの白い制服姿だった。六つボタンの肩章がついたジャケットに群青色のネクタイ、スカートには星が二つあしらわれている。彼女はどんな用でも外に出る時は制服だった。着るものを選ばなくて良いというものぐさの知恵ではなく、彼女の場合は連邦生徒会所属という身分証明代わりの制服があらゆる障害をパスしてくれるという理由だった。それでも夜中に寮を抜け出してくるのなら服装を変えた方が良いのでは、と言いかけてアルは口をつぐんだ。レインコートは彼女なりの変装だろう。
髪はすみれ色。規則がないとはいえ、うなじが毛先の間から見える程度に短く切っていた。右目の上で七三分けにしているが、櫛を無造作にいれているからか端正にまとめた印象はない。それが返って親しみを感じさせやすくしている。目は紫色。歌劇団では男役を演じることもできるであろう面立ちだ。
カヨコが眠気覚ましに淹れたコーヒーが机に並んだ。香りとカフェインの苦みで一気に意識がはっきりした。時刻は午前零時を過ぎたところだった。ゲンゲツも口にしてから一息つく。
「ありがとう、生き返るよ。連邦生徒会は連日PMC問題で頭を悩ませているから、最近は帰宅時間も遅くなっててね。ところで今日──いや、正確には昨日か──生徒会である情報を耳にしたんだ」
ゲンゲツは少し頭を寄せた。アルも合わせて少し身を傾ける。
これが重要だと言いたげなもったいぶった口調でゲンゲツは言った。
「アル。奴の居場所が分かった」
彼女が何の話をしようとしているか、アルだけでなく全員が理解した。この後に誰が出てくるか検討がつく。ゲンゲツは茶色の大きな封筒を開いていくらかの資料を取り出すと、一枚の写真を差し出した。アルの頭に納得と期待がうずまく。重武装のロボット兵士たちに守られている中心にいる人物を、アルたちは見間違うはずがなかった。金髪、海賊を彷彿とさせる黒眼帯、コートに隠れた腰の革製ホルスターに収められた二丁拳銃。
ゲンゲツは名前を告げた。「下尊アス。この人物の詳細は君たちの方が詳しいだろう」
「ええ」アルは頷いた。「大企業カイザーコーポレーションの暗部、スペクトルの元メンバーでネオ・チャレンジャー基地占拠事件を起こした。彼女と出会ったのは、これが最初だったわ」
「今思えば不運のつき始めだったね」ムツキがにべもなくつぶやいた。
「当時のスペクトルのメンバーはアスを含めて四人だった。まずはグレネードランチャーと毒ガス兵器を扱う上我オル」
「重大法律違反だ」ゲンゲツはカヨコの紹介に軽い茶々を入れた。
「パワードスーツを身に纏った天独ソウ。高身長だからフィジカルも強い。個人的に二度と戦いたくない」
「高身長というと?」
「目算でおよそ一メートル七五センチ」
ゲンゲツは頷いた。「こいつらだけでサーカスの余興をやれそうだな」
「……早撃ちの名人な上に大型兵器も難なく乗りこなす下尊アス。でも本命は謀略と心理戦だと思ってる」
「さすが詳しいね」
「私とアルちゃんで一度倒したからね。狭い場所で戦えば勝算はあるよ」ムツキが補足した。
「そして狙撃手のリーダー天唯オア」
「犯罪者だ」
ゲンゲツがつぶやくとアルの厳しい目線が飛んだ。慌ててゲンゲツは補足を入れた。「あくまで一般論だよ。オアは傭兵会社RAXAの創始者であり統率者、最高指揮官だった。だがRAXAの活動は金のために戦場を渡り歩く、
アルは真夜中に思い出したくもない過去を想起させる話は避けたかった。油断すると夢に出てくるからだ。
特殊機関スペクトルは表立って行えない汚れ仕事や後始末を、カイザーコーポレーションが秘密裏に済ませられるよう設立された組織だった。そのため彼女たちの情報は一般大衆はおろか自社内でも限られた人物しか知らず、秘匿性の高い組織のため名前を出すことさえ躊躇われた。当然会社の組織図にも組み込まれておらず、しかし彼女たちは実在している。
ネオ・チャレンジャー基地占拠事件についても、今ではかなり全貌が分かってきていた。九ヶ月前に起こったこの事件は、そもそもの発端はCLG社とカイザーコーポレーションが共同開発した巨大ロケット──ネオ・チャレンジャー号が発射を間近に控えてスペクトルに基地もろとも占拠された事だった。スペクトルはCLGに身代金一千億円を要求し、拒否するならロケットを兵器として打ち上げると脅迫した。便利屋68はCLGの社長アックスと秘書のドルから依頼を受けて基地に赴き、スペクトルに苦戦したものの何とか倒すことができた。
だがそもそもネオ・チャレンジャー号は連邦生徒会への攻撃を目的として開発された殺人ロケットだった。スペクトルが倒されたと知ったCLGは制御権を奪って発射を強行。しかし自らが送り込んだ便利屋68の妨害により、ネオ・チャレンジャー号はCLG本社に墜落した。この一大事件は連邦生徒会を狙ったテロとして報告が上がったが、連邦生徒会の減りつつある威信を守るため発射の前倒しと技術的なミスにより起こった悲劇として大衆に報じられた。そのため世間では”ネオ・チャレンジャー号墜落事件”として、技術者間で忘れてはいけない教訓として語られることになる。
しかし事故の調査を進めるうちに、もう一つの真実が浮上してきた。ネオ・チャレンジャー号の発射間近にカイザーコーポレーションでは、アビドス砂漠で発見された古代兵器の件が持ち上がった。情報はカイザーPMCにより持ち上げられた。カイザーは連邦生徒会への攻撃を事故として済ませて、万が一の場合はCLGに責任を被せるつもりだったが、将来性やリスクに問題があった。検討の末にカイザーコーポレーションはロケット計画を一方的に破棄。キヴォトス転覆を図った証拠となるロケットの破壊をスペクトルに命じた。さらにCLGの口封じも命じられたスペクトルはロケットをCLG社に衝突させてまとめて葬り去る計画を立てていた。事件後のCLG社跡では、ロケットの誘導装置らしき金属片が見つかっている。
便利屋68も最近になってようやく全容を把握した。それまで自分たちがキヴォトスを救ったと内心思っていたが、それすらもスペクトルの──ひいてはアスの手の内だった。
「この写真はグラウンドゼロの無人偵察機が撮影した。あの辺りはとても近寄れないからね」ゲンゲツが続けた。
ネオ・チャレンジャー号の墜落現場は一帯が焦土となっていた。爆風は周囲数キロメートルの建物を吹き飛ばし、衝撃による揺れは地面を伝って遠くのレッドウィンター連邦学園でも観測された。しかし墜落地点のCLG社跡には、さらなる不運が待っていた。墜落したロケットから漏れ出た液体燃料があちこちに流れ出して一帯の土壌を汚染した。ミレニアム植生研究部の報告では、焦土となった範囲の植生はほとんど全滅。賢明な復興作業を行っても向こう何百年は死の土地となるという救いようのない事態だった。現場がゲヘナ校区の一部と重なっていたこともあり、事態を重く見た風紀委員会は汚染区域を囲うように金網を設置した。一帯は永久立入禁止区域に指定され、グラウンドゼロと呼ばれるようになった。
「結局この時もアスに利用されてたのよね。生態系全滅の責任を負わなくて良いだけでも多少の慰めにはなるけど」アルはため息交じりに言った。
ネオ・チャレンジャー基地占拠事件の後、アスはしばらくなりを潜めていた。それが破られたのは半年後に起きた一騒動──便利屋68と事情を知る一部の者の間でブラックスター事件と呼ばれるものだった。
殺人兵器DAの情報を手に入れていたRAXAの元幹部、ブラックリスタはDAの情報が収まったディスクを手に入れようとしていた。壮絶な過去の体験から偏執狂的な暴力志向をしめした彼女は、海上要塞にDAを迎えて抑止力として抱え込もうとしたのだろう。ネオ・チャレンジャー基地からディスクを持ち出したヘルメットライダー団という組織をマークすると、DAの情報を知っている便利屋と共に始末するため一計を案じた(もっともこの案もアスの入れ知恵かもしれないが)。
ブラックリスタは便利屋とヘルメットライダー団を争わせて楽々とディスクを回収し、勝利しつつも消耗した便利屋からカヨコを攫った。おそらくDAについて知っている事を吐かせてから始末するつもりだったのだろう。
だがディスクは機密保持のため二つに分断されていた。便利屋68は交渉の鍵となるディスクを争奪戦を制して死守すると、洗脳から解放された立花ハヤテと共にカヨコを奪還した。空港での混乱に乗じてディスクを奪い逃げたブラックスターを追ったアルは、飛行機内でひどい責め苦にあう事になる。
原因を作ったのは、やはりアスだった。アスは鼻からブラックスターと便利屋68を争わせて、ディスクが自分の元へ転がり込むようにする腹積もりだった。それどころかアル達を使って、ブラックスターを駆り立てて倒すよう仕向けさせた。結果的には思惑通りブラックスターは倒れて要塞は壊滅、ディスクもアスの手元に渡ってしまった。
ゲンゲツは便利屋68のアスへの怒りに同情した。ただ働きどころか高い授業料を二度も払わされたようなものだ。いずれの事件でもほとぼりが冷めるまで便利屋は休業となり、当然その間の収入は無に近かった。元凶が現れたとなれば、法で裁かれる前に私刑にしてやりたいだろう。ましてやゲヘナの生徒なら尚更だった。
「本来ならこの件は連邦生徒会で対処する事案になるはずだけど、こちらが抱えてる戦力は融通が利かないしコストはかかるし動きが遅い。それに私たちの敵はアス一人だけじゃない」
「例のPMC兵たちね」
「そう、連邦生徒会の頭痛の種にもなっているPMC離反兵問題。カイザーPMCを筆頭にした各社PMCも金と引き換えに戦力や兵器を提供する民間企業だ。信念もなにもない、金で動く連中だ。銃社会のキヴォトスでは君たちが個人経営店とするなら、PMCはチェーン店みたいなものだね。銃が消滅しない限り成り立つ商売だから、信用さえあれば安定した産業となるはずだった」
話している内に頭痛の種が騒ぎ出したようで、ゲンゲツは神妙な面持ちになった。
「だが最近、PMC軍が分裂を始めている。離反兵同士が結託して兵器を奪いテロリストになった。そう、テロリストだよ。他に適切な呼び名はない。彼らはキヴォトスの各地で破壊行為、背信行為を働いている」
「彼らの事なら覚えがあるわ」
「皆にも以前に鎮圧依頼をしにきたね。武器生産工場を爆破した離反部隊を制圧する事が任務だった」
ゲンゲツの依頼を受けた便利屋68は、武器工場爆破の実行犯である離反部隊を強襲した。ハルカが前線を張り、ムツキが撹乱し、カヨコのサポートを受けて、アルが急所を撃つ。敵は戦車まで備えていたが、四人の連携の前にはただの案山子だった。制圧後は連邦生徒会に身柄を引き渡して、久々に満足のいく結果で仕事を終えていた。
「そもそもPMC離反兵問題が持ち上がったのは、一ヶ月前のサンクトゥムタワー襲撃事件がきっかけだ。カイザーコーポレーションのプレジデントと同調したカイザーPMCのジェネラル派が起こしたクーデターは、先生を拉致して行政権まで奪う一大事だったけど先生の活躍により目論見は潰えた。彼らはキヴォトス全土の掌握を目的にしていた」
「企業としての信用をかなぐり捨ててでも、か……」カヨコがつぶやいた。
「もともとプレジデントは社内でも異常な権力志向を示していたらしい。それにたまたまPMCのジェネラルが合流した」
「実際あの事件からカイザーPMCへの世論は厳しいものになったね」
「事件が収束してからカイザーはクーデターの火消しに躍起になってる。彼らの影響力なら社内の隅々に指示を行きわたらせることは造作もないはずだった。ところがクーデターが失敗に終わってから、次々に離反兵がテロリストに変貌して立て続けに事件を起こしている」
ゲンゲツは新聞の切れ端をいくらか取り出した。
「製薬会社 社長暗殺」「武器工場で火災」「消息不明 飛行機606便はどこへ」
いずれの事件でも背後にはPMC離反部隊があった。彼らは所属を隠すどころか、堂々とPMCの名を前面に出した上で悪事を働いている。社会の厳しい目が向けられるのも必然だった。連邦生徒会内でもPMC弱体化を唱える者が増えてきている。ゲンゲツもその一人だった。直属の上司にあたる防衛室長、不知火カヤにPMC業務停止命令案を進言したが却下されていた。
しかしPMC離反兵たちの真の狙いは何なのだろう。このままPMCへの風当たりが強くなれば、自分たちの立場が悪くなるのは目に見えている。ほとぼりが冷めていないカイザーコーポレーションは離反兵問題を受けて軍部への締め付けを強めているから、キヴォトス転覆が狙いではないと分かる。各事件の狙いもばらばらで、離反部隊同士の協力があるとも考えにくい。クーデターの失敗による権威失墜が離反兵を生み出しているのはないか、と心理学の専門家は分析していた。
「グラウンドゼロのPMC離反部隊は駐屯地としてのキャンプサイトを作っている。学園都市のテロリストと指名手配犯が人目のつかない天然の要塞で鉢合わせた。当然これも何かの偶然かな」ゲンゲツは皮肉交じりに言ってみせた。だが紫色の目でアルに問いかけていた。
アルはゲンゲツの考えている事が手に取るように分かった。彼女はアスがPMC離反兵問題の首謀者だと睨んでいる。アスの所在が明らかなのは今しかない。すぐに動けない連邦生徒会はあてに出来ないと判断して、夜中に抜け出してまで情報を持ってきてくれたのか。
話が一区切りすると、ゲンゲツは残りのコーヒーに口をつけ始めた。
アルはゲンゲツが自分たちを頼ってくれたことが素直に嬉しかった。常識にとらわれない策で活路を開く彼女のやり方は、旧態依然の連邦生徒会には不可欠だろう。私的に因縁深い便利屋68にアスの始末を命ずる辺りも、彼女の抜け目なさを表す良い例だ。私たちに関する資料をどっさり読んで過去を知っているから、表立った介入にならないよう決着の機会を作ってくれている。独断で動かず連邦生徒会が本格的に動き出すのを待っていたら、せっかくの機会を不意にしてしまったかもしれない。連邦生徒会内に理解ある人間が現れた事は喜ばしい。問題はあまり時間がないことだった。
「ゲンゲツちゃんはアスがPMC問題に関係していると睨んでる。そういう認識で良いんだよね?」ムツキが念を押した。
「ああ、アスを捕まえて聞き出せば事実もはっきりするよ。仮に関係なくとも指名手配犯を一人檻に閉じ込められる」ゲンゲツは鞄からガスマスクを四つ取り出した。「グラウンドゼロは大気汚染も深刻だけど、これをつけていれば大丈夫」
ずっと黙って会話を聞いていたハルカがおずおずと聞いた。「あ、あの、これって物資の横流しにあたるんじゃ……」
「失敗したら大目玉だろうね。でもそうはならないんでしょ?」ゲンゲツはけろりとしていた。
アルは思わず微笑を浮かべた。ゲンゲツもつられて笑みを浮かべたが、すぐに真剣な面持ちに戻る。
「さて、私にできることはもうない。いいかい?」ここで一呼吸置いた。「この際手段は問わない、アスを捕らえてほしい」
ムツキ達の視線はアルに向いた。返事は決まっている。だがアルは少し考えてから、はっきりと返事をした。
「もちろんアスは捕まえるわ。でもあなたからの依頼は受けない。これは私たち自身の意思による私的な闘いよ」
ゲンゲツは少し面食らったが、ためらうように言った。「すまない。本当はちゃんと支援してやりたいけど、前回と違って連邦生徒会の名で依頼はできない。だがアスを野放しにしておくわけにもいかない。これは正義じゃない」
「もとからこっちは正義じゃないわ。私たちは冷酷無比なアウトローなんだから」
ゲンゲツは小さく頷いた。「そう、そうだったね」
現在
闇夜に紛れた密会から半日ほどが過ぎたが、連邦生徒会防衛室にある自室の机で常闇ゲンゲツは頭を抱えていた。
一時間前にもたらされた突然の通報は、落雷にも似た衝撃をゲンゲツに脳天から浴びせかけた。グラウンドゼロから飛び立つPMCのヘリコプター群を無人偵察機が捉えた。そこにはグラウンドゼロを離れるアスの姿がはっきりと映っていた。それからしばらくしてグラウンドゼロが、突然飛来した攻撃機二機の大規模空爆によって火の海になった。偵察機も空爆で破壊されたからか、監視映像は炎に飲まれる直前で途切れていた。
さらに自身が送り込んだ便利屋68がグラウンドゼロの近くで行き倒れていたのが、駆けつけた連邦生徒会の職員により発見された。近くにはひっくり返って廃物となったPMCのジープも見つかっている。大規模な爆発が便利屋68によってもたらされたという考えに至るまでに時間は用さなかった。便利屋68の身柄は連邦生徒会がすぐに隠したが、彼女たちが身に着けていたガスマスクが連邦生徒会の物資だと発覚したため事態は混乱を極めた。そこからあれよあれよという間に過去の行動記録が調べ上げられて、真夜中に寮を抜け出すレインコート姿の生徒までたどり着くことになった。
ゲンゲツの体は鉛のように重くなっていた。口の中はずっと乾きっぱなしだ。胃の奥では不快感が居座っている。時計を確認して重い腰を上げると、しぶしぶと部屋を後にした。
室長のカヤは既に出かける準備を済ませていた。こちらを一瞥すると、先頭に立って廊下に繰り出す。ゲンゲツは死刑囚のよう足取りで後に続いた。
これから自分の聴取会が開かれる。厳しい追及は免れないだろう。なるほど、今ならカイザーの気持ちが分かる。なんとか矛先を逸らしてやりたい。とぼけたふりをして、うやむやにやり過ごしたい。