ここだけレグルスに姉がいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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本編 [完結]
1話 だいすき


なんてことはない、いつも通りの会社帰りの事だった。夕日が沈みかけていて、街全体が夕焼けで優しい色合いをしていた。

 

 

学生時代からの友人である同僚と、コンビニに寄って新作のスイーツを買って、上司への愚痴やら今度開かれる飲み会やらの他愛のない話をしながら歩いていた。

 

それぞれの家への分かれ道になる大通りで、それじゃあ、また明日ね、と言おうとした時に、突然彼女に声をかけられた。

 

 

「あのね」

 

 

なぁに?と言いながら彼女の方へ向いた時、こちらへふらりと彼女が倒れ掛かってきたので、慌てて反射的に彼女を支えようと手を回す。

あっ、と、と抱き抱える寸前だった。

 

ズプリと刃物が腹部に刺さり、そこへさらにグッと体重がかけられて、ヌチュリ、と引き抜かれる。

そのままズブ、ズチュ、二度、三度と繰り返される。

 

 

 

 

……え?

 

 

ぐらり、と身体が倒れ込んだ。

アスファルトが、この季節にしては冷えていてそれが少し心地良いな、なんて、痛みを感じるより先に、そんな的外れな事を思った。

刺された所が熱く、ひどく鈍い痛みを訴えてくる。

 

 

ドクン、ドクンと大きくなった拍動にあわせて温かい血液が、身体の内から外へ、服へ、道路へと、じわじわと、だけれど確実に、どうしようもないくらい流れ出るのを感じる。

頭がぼんやりする。なんで、こうなったのか、考えようとするけれど思考がうまくまとまらない。

 

 

叫び声がする。それが、私のものか、違う誰かのものか、それすら分からなかった。

 

 

かわりに浮かんでくることは、あぁ、コンビニのプリン、せっかく買ったのに食べ損ねてしまったなとか、明日の会議の資料、どうなるのだろう、とか、あのアニメ、まだ途中までしか観られなかったなぁだとか、くだらない、ありふれた日常のささいな出来事で、人生最期にこれまでの事を振り返るはずの走馬灯がコレだなんて、何だかおかしなものだ、と痛みに喘ぎながら思った。

 

 

ひゅう、ひゅうと息が細くなり、刺された箇所の痛みがいよいよ激しくなってきた。

遠くで、人々の悲鳴や、ざわめき、子供の泣き声が聞こえる。

 

 

しかし、友人だと思っていた子に刺されて死ぬことになるとは思わなかった。

 

 

頭をゆっくりと持ち上げられて、ぺたんと地べたに座った彼女の膝の上にそっと乗せられる。私の頬を優しく撫でたその手にはべっとりと私の血がついていて、見上げた彼女はいつも通りの顔で、満足そうに、うっそりと笑っていた。

 

 

「あのね、あのね、あのね、あのね、あのね。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずうっと思っていたの。ねえどうして?どうして他の子に優しく目を向けるの?どうして他の子に優しく声をかけるの?どうして他の子のことを優しく助けるの?どうして他の子に優しく寄り添ってあげるの?どうして私だけにその優しさをくれなかったの?どうして私だけのあなたじゃなかったの?私にはあなただけだった、あなたしかいなかった、あなたがいてくれた、あなただけが優しくしてくれた、私を見てくれた、理解してくれた、助けてくれた、救ってくれた、あなたしか私に興味も持たなかった、だから私はあなただけを信頼して、頼り、縋って生きてきたんだよ、でもあなたはちがったね、あなたはいつもみんなに優しかった、みんなに囲まれて、幸せそうで、かわいくニコニコと笑っていたね、あなたの周りのやつらをみるたびに、私は反吐がでそうで仕方がなかったよ。

私に向けてくれるはずの笑顔を、かけてくれるはずの言葉を奪うなって、私を気にかけてくれる時間を、そんなどうでも良いことに消費するなって、ずっと、ずっと思っていたよ、我慢していたんだよ、でも、もうだめだ、間に合わないって思った、だって聞いちゃったんだ、あの下衆男、あなたの事が好きなんだって、今度その気持ちを伝えるんだって、馬鹿らしい、勘違いも甚だしい、虫唾が走る、厭らしい、下賤な男が、あんなクズにあなたの視線の、その一つたりともくれてやるものか。

でも、大丈夫。もう、大丈夫。

これで、あなたはやっと私だけを見てくれる、この想いは私だけのものだから、あなたと私だけの思い出ができる、私にはあって、あいつらにはない、一生分の思い出が。それってとってもすてきでしょう?私があなたを手にかけて、一番大切な命をもらって、あなたは私の元で眠りについて、一緒に幸せな最期の時間を迎えるの。それって、まるで夢物語の様でしょう?」

 

 

私の耳元で、愛しい子供に親がそっと話して聞かせる様に、あるいは憎い相手に永遠と呪詛をかける様に彼女は囁き続ける。

 

あの下衆男って、いったい誰だったんだろうな、とぼやぼやする頭で考えたが分からなかった。

 

視界の端がどんどん暗くなっていく。

 

 

駆けつけた警察が彼女を取り押さえても、彼女はずっとずっと笑っていた。

 

 

 

微睡の中へ沈むように、意識が落ちていって、そして――




閲覧してくださりありがとうございます。拙い文章ですみません、感謝です。
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