ここだけレグルスに姉がいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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16話 姉さん

 

派手に吹っ飛ばされる。

 

痛みと、衝撃に耐えながら考える。

 

 

なんで、なんでなんでなんで……!

 

こんな奴らが、どうやって"強欲"の権能を!

 

僕の権利を!

 

 

 

ナツキ・スバルが何を言っているのか意味が分からなかったが、馬鹿にされていることは理解できた。

 

クソ、と思う間もなくエミリアの蹴りが腹に直撃する。

 

「最初の花嫁さんたちの分、ちゃんと当たってあげて」

 

「ふざ……けるな!!!」

言い終わる直前にエミリアが顔面を殴打し始める。

 

うりゃ、うりゃ!というかわいい声とは比較にならない、花嫁たちの思いをのせた重い打撃が一発、また一発と繰り返される。

 

顔がアザだらけになり、パンパンに腫れ、元の顔が見る影も無くなっていく。

 

 

 

殴打を続けながら言う。

 

「貴方、愛されていなかったわよ。貴方のお嫁さんたち、ひどく怒っていたわ」

 

「貴方のお姉さまが聞いたら、悲しむでしょうね」

 

 姉さん……?ッはああぁあああぁあぁ!?!?!?

 

 

「お前が姉さんのことを知るな!喋るな!考えるな!!!姉さんが穢れる!このクソ尻軽女!!姉さんのことを分かった風に口を――」

 

 

また一発、顔に打撃を打ち込む。

 

 

「だまって。お姉さんは貴方と違ってお嫁さんたちからとても慕われていたわ。貴方とは似ても似つかわない存在だったのでしょうね」

 

 

 

53発。

 

 

綺麗に、残った花嫁分の殴打を打ち込み終えたエミリアが侮蔑の表情を見せる。

 

 

状況は誰が見ても逆転している。

 

 

 

「あ、あのさぁ……!卑怯だと思わないのかなぁ!?」

 

「二人がかりで一人をいたぶるような真似して心が痛まないわけ?それって人として大事な部分がどうかしちゃってるんじゃないの?そんな自分達に疑問とかないのかなぁ。あって当然だよねぇ!?」と惨めったらしくレグルスは叫ぶ。

 

 

 

騎士が戦うのが道理だ、と主張し、話に乗ってきたスバルを心の中で笑う。

 

嗤う。

 

だが、もう遅い。

 

時間を割きすぎた。

 

騎士が来る。 空から、月から。

 

 

剣聖、ラインハルトが戻って来たのだ。

 

 

驚き、慄くレグルスはラインハルトの強烈な一撃によって上空へと打ち上げられる。

 

咄嗟に、獅子の心臓を使う。

 

ぐるぐると視界が回る。

痛い、身体中が痛い。

 

ありえない、ありえない、ありえない。

何で僕がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!

 

僕は魔女教大罪司教"強欲"担当、レグルス ・コルニアスだ!!!

この世で最も満たされていて最も個として完成された心身ともに揺らぐ余地のない存在!僕は悪く無い!何も悪く無い!お前らが悪いんだ!!!お前らが僕を哀れんでかわいそうがって……笑い声が聞こえる。

僕を見ているだろう!

僕を見て笑ったんだろう!!

僕の何がおかしい!?僕の何を見て笑った!?ヘラヘラと笑うな!

 

僕の最初の妻はそんなことをしなかった。

 

僕の妻はただ綺麗な顔をして僕に、姉さんに優しく笑ってくれた。

 

妻の家族を殺して、妻に言い寄る人間をみんな殺して、それで、一緒に微笑んでくれた。

 

他の妻は笑わなくて良い。

 

笑う必要が無い。笑う価値が無い。

 

 

 

だがなんで!

 

彼女以外の他の奴らは、どうして最期の瞬間にだけ"嗤う"んだ!

 

妻の最期のあの満たされた笑顔とはまるっきり逆の笑顔で!!

 

 

僕だけが残されて、まるで僕が1人きりになるのをうれしそうに、いい気味だなんて嗤うんだ!

 

ふざけるな!!!

僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない……

 

何でこんな事になっているんだ……!!

 

 

 

 

姉さん。姉さんに会いたい。

 

どうして、肝心な時に「来たよ、レグルス」って会いに来てくれないんだ。

 

 

……姉さん、姉さん、姉さん!!

 

 

瞬間、空へと落ちていく背中にズシリと重みを感じる。

「本来の決闘であれば、戦う意志をなくした時点で僕も剣を引くところだけどね」

 

ラインハルトだ。

 

ラインハルトが、レグルスの背に立ったまま、悠然と語る。

 

 

「バ、ケモノめ……」

 

 

「そうだね。僕は化け物を狩る化け物。――君も運命を受け入れるときだ」

 

レグルスの背のど真ん中に、ラインハルトの振り下ろす手刀が、ぶつかる。

 

その直前に。

 

 

 

 

 

キィンッ――!!

 

 

 

 

 

澄んだ高い音が空中に響き渡る。

 

何かによって弾かれた。

見ると、月明かりを受けて淡く色を変えて光る6角形の防御壁の様なものにヒビが入って、少し砕け散ってキラキラとカケラが空に舞っていた。

 

ラインハルトは何が起きたのか理解できないまま、風に流されていくカケラを目で追った。

 

 

その視線の先に、彼女は浮いていた。

 

 

 

「驚いた。咄嗟だったとは言え、かなり強固に張った防御魔法を、手刀で壊すなんて、本当に何でもありだね」

小さく呟く声が聞こえる。

 

冷たい瞳だった。

冷静に、しかしほんの少し驚いた表情を見せる彼女を、ラインハルトは驚きの眼差しで見つめる。

 

彼女はいつ、現れた?

 

気が付かなかった。

レグルスに気を向けていたとはいえ、あまりにも気配が希薄だった。

 

防御魔法を張った?

現れてから1秒に満たない時間で判断して、あれだけ強力な防御壁を生成したのか?

 

 

 

ラインハルトは、彼女を脅威と判断して、レグルスの背から一旦離れることにした。

 

 

「ぎゃッ」離れる際に踏み台にされたことで、レグルスの情けない声が響く。

 

 

レグルスは痛みに、高所の恐怖に耐えながら、訪れるであろう死というものに怯えながら、自然と足を身体に引き寄せ、腕で身体を抱きしめて、縮こまり、丸まった。

 

何が起きた? 何でまだ僕は生きている?

 

 

あまりの突然の出来事に、レグルスは姉が来た事すら分からずにいた。

 

 

どんどんと降下を続けるなか、ぎゅっと目を閉じて僕は悪くない、僕は悪くないと呟き続ける。

 

 

 

 

 

 

突然、ふわりと、何かがレグルスを包み込んだ。

 

抱きしめられている。

 

花の甘くて優しい良い香りがする。

 

嗅いだことのある、安心する匂いだった。

 

優しい声がする。

 

 

 

 

 

「来たよ、レグルス」

 

 

 

 

 

それは今、世界で1番求めていた声だった。

 

「遅くなった。本当にごめん。でも、間に合って良かった。本当に、本当に良かった。生きていてくれてありがとう」

 

姉の声だった。

 

熱望し、切望した姉の優しい声だった。

 

今日、この時ばかりは、権利の侵害だの、義務だのと憎たらしい口をきく気にはなれなかった。

 

 

 




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