ここだけレグルスに姉がいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
亜人は他の場所であっても差別的な目で見られることが多いと聞く。
みんなちょっと、前時代的な考え方だなぁと思いつつ、エルフとばれると話がややこしくなるから、耳を人間のものと同じ形にみせる魔法をかけて、村ごとに旅をして行った。
行った先で話を聞き、困り事があれば助けられる範疇で手助けし、路銀の足しにした。
旅は良かった。行く先々での出来事が刺激になって、新しい魔法のイメージが湧いてきて形を成す。
小さなものから、強大なものまで私の魔導書のページは魔法でどんどん埋まって行った。
周辺国をあらかた巡ったあと、ふと自分の村のことを思い出した。
エルフの時間の流れは、人間のソレとは異なる。
自分が旅に出てから、一体どれくらいの時間が流れて行ったのかはっきり思い出せない。
何年だ?かなり時間が空いてしまったのだろう。
流石に家族の様子を見に行こうと思い久しぶりに村へ行く事にした。
私の顔を知っている者がいれば騒ぎになる事がありありと予想できたし、それで家族に迷惑がかかるのが嫌で、フードを被り、顔を隠して村へ向かった。
村へ近づくにつれ、村の方から微かに焦げ臭い匂いがする。
火事でもあったのかと足を早めた。
なぜこんなことになったのだろう。
どうしてこんなことになっているのだろう。
村は焼け崩れ、崩壊し、崩落し、瓦解し、燦々たる有様になっていた。
全滅だった。
私を侮蔑の目で見ていた者の目玉が飛び出てその顔の近くに落ちていた。
私を嘲笑していた者の口が耳まで裂かれて大きな笑顔を作って死んでいた。
切り裂かれている者、焼けこげた柱の下敷きになった者、内臓がまろび出ている者、顔さえ分からない者。
もげた手足がそこらじゅうに落ちていて、ひどい有様で、ひどい、匂いだった。
グッと杖を握る手が震える。
魔獣や盗賊の襲撃があったのだろうか。
誰も居ない。
私をバケモノと罵った者であったとしてもいい。
どれだけ認知されないように身を潜めて、息を殺して生きてきたとしても、同じ村で暮らしたという薄く、儚い繋がりがあった者でいい。
誰か、誰も居ないのか、探し続けた。
見知った者が、大切に思っていた家族すらも、みんな消えてしまったのだろうか。
不安になった。ずっと頭は混乱していた。
とにかく家族を、レグルスを必死に探した。
それから幼馴染のあの子も。
もはや誰が誰だか分からなかった。
それでも探した。
実家があった場所から探し始めて、探して、探して、探し疲れて…ふと自分の住んでいた小屋を思い出して、もしかして、何か手がかりがあるかもと思い縋る様に向かった。
小屋は無事だった。
旅に出たあの日のままだった。
ゆっくりと扉を開けて、中に入る。埃っぽい空気を吸って、けほりと咳がでた。
空気を浄化する魔法を使う。
暗い室内の、テーブルの上に紙が一枚乗っていた。
"姉さん、僕は選ばれたんだ。僕や姉さんを馬鹿にしていた家族も、村の馬鹿どもも殺して、幼馴染と結婚したよ。次はこの村をどうでも良いと思っていただろう領地のやつらを、国を、僕の、僕と妻の人権の為に潰してくる"
レグルスだ。
これを引き起こしたのは、レグルスだったのか。
そうか、強欲の権能を手にしたのだ。選ばれたとは、きっとそういうことだ。
彼ならやりかねない。
いつも村人や家族に憎悪を向けていたから。
とにかく、どうなっているのか把握するためにこの領地の中枢に向かわなければならない。
外に出ようと歩き始めたその瞬間、心臓が、ドクリと音を立てて、胸が締め付けられるように痛み出した。
思わず床に手をつく。
激しい動悸がする。
口がカラカラに乾いて、ぼたぼたと汗が床に落ちる。
はっ、はっと短く早い呼吸を繰り返す。
苦しい、苦しい、何だコレは、苦しみのあまり床に倒れ、胸を押さえつけた。
理解できない、何かの攻撃か?
ぎゅっと瞑った目から涙が溢れる。
ひゅう、ひゅうと細い息をして、なんとか耐えようとする。
もがくように床に爪を立てる。あまりの強さに爪が剥がれ血が滴るが、そんなの気にならなかった。
5分か、10分か、分からない。
本当はそんなにかかっていなかったのかもしれないが、その苦痛は私にとっては、永遠にも感じられた。
ふと、なにもかもが急に楽になった。
コレは、何かの病かと思った矢先、倒れ込んでいた床に、本の様な物があることに気がついた。
無意識に触ったソレは、旅で回った村でも偶然目にした事がある、魔女教の"福音書"であった。
あぁ、分かる。理解してしまった。
弟と同じだ。
なんて皮肉なんだろう。
お揃いは、クセのある白髪と目の色だけでよかったのに。
よりによって揃いの"強欲"の権能を手にした。
力は絶大だ。
絶対に完全で完璧なる、完璧になれる、なれてしまうその力。
能力の仕組みはたしか―――前世の記憶を辿るが、うまく思い出せない。
いや――、そうだ。
心臓。
心臓を止めている間は無敵。
それともうひとつは確か擬似心臓を寄生させて時を止めるものだったのでは、と想起してしまった。
能力を具体的に想像してしまったことが状況の悪化に拍車をかける。
私の権能も弟のソレと似たような能力になったのを感じる。
やってしまった。
イメージしてはいけなかったんだ。
思い描いてはいけなかった。
獅子の心臓に、小さな王。
それから、私だけの、申し訳程度に付与された3つ目の権能、獅子の尾とでも言おうか。
獅子の心臓は、自身の心臓を止めている間だけ自分や他の物の時間を停止させる能力だ。
心臓を止めるのだ、多く見積もって、5秒が限界だろう。
それを補う手段になるのが、他人に自分の擬似心臓を寄生させる力、小さな王だ。
どうやら、私の小さな王の力はかなり限定的な能力になったようだった。
弟であるレグルスにのみ擬似心臓が寄生できるらしい。
権能の発動、解除をこちらの意思でできることも分かった。
私の3つ目の権能、獅子の尾は……誰かから"何か"を指定して半分奪うというものだ。
さらに申し訳程度の能力として同じ"強欲"の権能を持つ弟の居場所が分かるらしい。
指定された当人は能力を失わない、ただ収集するだけのモノと言っても良い。
実に私らしい、強欲らしい権能ではないか。
魔法を集めたいと言う自身の欲に駆られて、人々を、家族を、レグルスを、彼の幼馴染を蔑ろにした結果がこれだ。
これが、私だ。
最低だ。
村人が私に向けた言葉、目線が想い起こされる。
侮蔑、蔑み、憎悪、嫌悪。バケモノ。
……そうだ。それが私だ。
忘れてしまっていた。
忘れようとしてしまっていた。
忘れてはいけなかったんだ。
レグルスや、彼の幼馴染との時間、行った先々の村で得たものは、得たと勘違いしていたものは私の、身勝手なエゴでしかなかったんだ。