ここだけレグルスに姉がいて幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
ある日、彼女からお話があります、と言われて、衝撃的な提案を受けた。
「お二人は、権能のおかげで歳をとる事はありません。ですが私だけは老いて行きます。ですので、どうか可能ならお姉さまのその手で、若いうちに私を殺してくださいませんか?なるべく綺麗な顔のうちに死にたい、私だけ置いていかれたくないのです。お姉さまが困ったり、拒否される事は重々承知の上です。ですが、これが、わがままで、強欲な私の最期のお願いです、どうか聞き入れてください」
無論、断った。
彼女の気分転換になる様に、近くの街に一緒にいってみたり、散歩をしたり、魔法を見せたり色々した。
しかし毎日毎日毎日毎日同じ内容を言われ続けた。
彼女の本心なのだろう。
レグルスも、彼女の考えに同意していた。
彼女が強く願うなら、それを叶えてあげたいと。
私はどうすれば良いのか分からなくなってしまった。
そして、ついに。
ついに。
―――私は。
最期に、綺麗な花畑を出す魔法をつかって彼女に花冠を作ってあげて、今までで1番幸せそうに"笑っている"彼女に向かって1番優しくて、痛くない様にした、人を殺す魔法を、ゾルトラークを、心臓に一線放った。
衝撃で血液と花びらが舞い上がる。
色とりどりの花びらが、はらり、はらりと彼女を包み込む。
彼女が死んでしまう事を除けば、とても美しく絵になる光景だった。
ゆっくりと倒れてくる彼女を2人で抱き抱えてあげる。
「私は、あぁ、本当に幸せでした。素敵な時間を、私にはもったいないくらいの時間を過ごせてとても楽しかったです、ありがとう、ありがとうございます。レグルス、お姉さま、大好きです。あなたたちに幸運を、私は先にいって、ずっとずっと、待って居ますね」
彼女は最期に言って、そうして……
笑顔のまま"笑って"逝ってしまった。
レグルスと2人で丁寧に埋葬して、花畑に囲まれた彼女のお墓を作った。
私は泣けなかった。
ぼんやりと思考を回す。
彼女が満たされて死んだのなら、それはそれで良かったのかもしれないと思った。お墓を作ったのだって、自己満足だ。独りよがりな、私の独善だ。
彼女と過ごした時間は、私にとって、ほんの僅かなものにすぎなかった。
ゆるやかに破綻していた生活だった。
それでも、大切な時間だった。
私は人への、他者への関心が希薄だ。
彼女の好きなものや、好きなことを、知っているつもりだった。
知っているつもりになって、勝手に決めつけていた。
彼女から聞いたことなど一度も無かった。
花畑を出す魔法が1番好き、それしか知らなかった。
私はフリーレンに似ていて、しかし、非なる存在なのだと再認識させられた。
フリーレンなら、ヒンメルが亡くなった時のように、なぜもっと知ろうとしなかったのだろうと、きちんと自分に向き合い、心から泣くことができた、そうだったはずだ。
彼女はそこで精神的な成長の第一歩を踏み出したのだ。
それに比べて、私はどうだ。
自分に向き合うことから逃げて、他者を知ろうとせず、きっとこれからも見て見ぬ振りをするのだろう。
人間には寿命がある。
もちろん、エルフにだって同じ事が言える。
しかし、人間の方が圧倒的に死に近い場所にある。
だからこそ、なのかもしれない。
レグルスはその権能によって永遠に近い寿命を手に入れたと言って良いだろう。
村を全滅させ、町を、国を落とした大罪人であるレグルスであっても。
それでも。
もしも権能がなければ、私にとって、一息の間に他の人間と同じようにレグルスは私を置いて死んでいってしまう。
あの惨状を引き起こした弟と、それでも唯一残った弟と一緒に過ごせる時間が、少しでも長く、永く続くことができるかもしれない事実、それは歪んだ一種の希望の様な、赦されない事の様な。
私は真綿で首を絞められる様な気持ちになりながら考える。
彼女は居なくなってしまった。
でもレグルスは居てくれる。
その事実に少しだけ、救われた気持ちになってしまった私はひどく冷静に、心の、どこか大切な部分が壊れていくのを感じた。
レグルスだけは、守らなくては。
家族として、姉として当たり前に聞こえるそれは、美しくも歪な家族愛になった。
レグルスは泣かなかった。
妻は美しく"笑って"自分ほどではないが満たされて、完璧な死を姉さんから受け取って、あんなにうれしそうに死ねたのだからこれ以上無いくらい良い人生だっただろう。
姉さんに殺してもらうなんて経験、もちろん誰にでも、僕にも権利はあるけれど僕は素晴らしい権能の力でそれが叶わない。
いや、実際には、僕の擬似心臓は最も大切な姉さんには皮肉なことに寄生できなかったから、今やってもらおうと思えば、できた。
でも、僕には未来がある。
この先、誰かに小さな王を使い、姉さんの側でずうっと一緒にいる未来が。
彼女は居なくなってしまった。
でも姉さんは居てくれる。
それに、僕の心臓には姉さんの心臓が一緒に密着しているんだ。
この喜びを他者は分からない。
この感情は僕だけのものだ。
だから、これは死んでいった彼女に対するただの羨望だ。
羨慕だ。
羨ましくて、悔しくて、ほんの少しだけ妬ましかった。
あぁ、僕だって。
できるなら、そうだな。
姉さんの手でぎゅうっと締めて殺してもらいたい。
姉さんの、美しい、冷たい顔を近くで眺めながら、姉さんの白く滑らかな手で。
でも、いっときでも長く、姉さんと一緒に居たかったから我慢した。
これでいい、これで良かったんだ。