機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第十話 祈りの歌
夜が明けきる前、ルナマリアはひとりで病院の裏手を歩いていた。
冷えた風の中に、焦げた街の匂いがまだ残っている。
それでもどこかで、花のような香りが混じっていた。
その香りを追って歩いていくと、崩れた建物の隙間に小さな中庭があった。
瓦礫を片づけて作られた仮の花壇
――その真ん中で、ステラ・ルーシェが歌っていた。
朝の光に包まれながら、細い腕を胸の前で重ねて。
声は風のように柔らかく、空気の粒ひとつひとつを撫でていく。
壊れたものも、傷ついた心も、抱きしめるような歌だった。
ルナマリアは言葉を失った。
立ち尽くして、ただ聴いていた。
その旋律が胸の奥を通るたび、息が詰まる。
――生きてほしい。
そんな願いが、歌の奥に宿っていた。
気づけば頬が濡れていた。
涙というより、熱に近い。
誰かのための祈りが、確かにそこにあった。
「……どうして、こんなに優しい歌を歌えるの」
無意識に口をついた言葉。
「ルナ、来てたんだ」
背後から声がした。振り向くと、シンがいた。
作業服は油で汚れ、髪も乱れている。
でも、その顔にはもう昨日までの険しさはなかった。
少し眠そうで、それでも穏やかな笑み。
「復旧作業?」
「うん。みんなでやってる。……ステラが歌ってる間は、不思議と力が出るんだ」
シンの視線の先では、ステラがまだ歌っていた。
目を閉じ、静かに息を整えて。
確かに、生きていた。
「……あんなふうに歌えるなんてすごいね」
「ずっと言ってたよ。『誰かのために歌いたい』って」
シンの声が、やわらかく響いた。
その音に胸の奥が揺れる。
命と心がつながっている二人
その絆の深さを、見せつけられるようで。
ステラの歌が終わる。
風が少し止んで、静けさが戻った。
彼女は小さく息を吐き、立ち上がろうとして――足をもつらせた。
「危ない!」
ルナマリアは駆け寄り、肩を抱いた。
「ありがとう……ええと?」
「ルナマリア。シンの仲間よ」
ステラは一瞬だけ目をぱちぱちさせて、それからふわっと笑った。
「ルナマリア。きれいな名前」
「あなたのほうが……」
言葉が喉で止まる。
ステラの瞳は、深い水の底みたいに澄んでいた。
その中に映るシンの姿が、まぶしかった。
ステラはシンの胸にもたれた。
「シン、汚れてる」
「作業中だって言っただろ」
「でも、みんなの為に頑張ってるシン、きれい」
シンは真っ赤になって笑い、彼女の髪をそっと撫でた。
その光景に、ルナマリアは思わず息をのんだ。
(……そうか。これが、“生きる”ってことなんだ)
胸の奥に、痛みと温もりが同時に広がる。
嫉妬でも、悲しみでもない。
ただ、静かな熱。
「シン、優しくて可愛い彼女ね」
「ルナ、ありがとう。……ステラは、宇宙一かわいいから」
その言葉に、ルナマリアは小さく笑った。
胸の奥の重たさが、ふっと軽くなる。
(そうか……私、もう泣いてない)
昨日までまとわりついていた痛みが、遠くに霞んでいく。
代わりに、静かな温かさが胸に残った。
戦場で置き忘れてきた“心”が、少し戻ってきた気がした。
ステラがルナマリアの手を取った。
その手は驚くほど温かくて、柔らかい。
「ルナも……生きて。ね?」
「え?」
「悲しいこと、いっぱい。でも……生きてほしい」
その言葉に、息が止まる。
ステラは何も知らないはずなのに、まるで心の奥を見透かしているみたいだった。
シンは何も言わず、穏やかな目で二人を見守っている。
(ステラ……あなたは歌で人を救ってるんだね)
心の中でそう呟いた。
その瞬間、胸の奥に小さな灯がともった。
それは恋ではなく、祈りのような想い。
「また来るね、シン」
「本当? 無理すんなよ」
「大丈夫。私、見た目より根性あるんだから」
軽く笑うと、シンもステラも笑った。
その笑顔が、春の陽だまりみたいにあたたかかった。
風が吹く。
ステラの髪がふわりと揺れ、もう一度歌い始めた。
さっきよりも強く、まっすぐな声で。
まるで、明日を呼び寄せるように。
ルナマリアは目を閉じた。
ステラの歌が胸の奥に沁みていく。
痛みが、悲しみが、少しずつ形を変えていく。
――誰かを守るために生きる。
それが、戦いのない今の“戦い”なんだろう。
(ステラ。あなたが守れない戦場のシンの背中を……私が守る)
ここが襲われたらシンは迷いなく戦場へ向かうだろう。
その背中を私が守ると心の中でステラに誓った。
小さく息を吐いて、空を見上げた。
白い空気の中で、花びらが一枚、風に乗って舞い上がる。
それは、祈りの形をして空へ昇っていった。
「ありがとう、ステラ」
声が風に溶けて消える。
けれど胸の奥で、小さな灯が確かに揺れていた。
――それは恋の炎ではなく、希望の光。
そしてその希望こそが、彼女自身の祈りになっていった。
このシリーズは純粋無垢なステラの天使の歌声と、地に足の着いたルナマリアの情熱の愛で出来ています。
そして二人のヒロインははシンが好きなのです。
これで燃えなきゃシン主人公降坂ですわ。