機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

112 / 164
第百十一話 燃え落ちる空の下で――歌声が消えた街、焼き払われた平穏――

 第百十一話 燃え落ちる空の下で――歌声が消えた街、焼き払われた平穏――

 

 激しい振動と共に喫茶店のガラスが砕け散った。

 耳鳴りが残る中、床を転がる破片が鈍い音を立てる。

 粉塵が舞い、視界が白く霞む。

 

 破片からステラとマユを庇って伏せていたアスランが顔をあげると、コンサート会場が燃えていた。

 先ほどまでステラが平和と愛の歌を歌っていた場所が、理不尽な暴力で破壊されていく。

 舐めるように、炎がドームの天井を焼いていく。

 高温で歪んだ金属が悲鳴を上げ、照明が次々と落下していった。

 

 遠くから怒号と叫びが響き、何かの爆発音が轟いた。

 それは一つではなく、時間差で何度も続く。

 都市そのものが、断続的に殴りつけられているようだった。

 

 「二人とも大丈夫か!?」

 

 アスランの声は、無意識に怒鳴るような大きさになっていた。

 

 「ステラは平気。マユちゃんは?」

 

 「マユも平気だよ」

 

 震えを必死に押し殺した声だった。

 無事を確認し、アスランは一瞬だけ息を吐く。

 

 二人の無事にほっとしたアスランは、周りをステラの護衛たちがガードしているのに気が付いた。

 四方を取り囲むように配置され、誰一人として背中を晒していない。

 要人を狙ったテロに対して、彼らがどれほど訓練されているかは一目でわかった。

 

 護衛たちは油断なくステラとマユを庇い、崩れかけた壁や車両を即座に遮蔽物として利用している。

 赤毛の女性、シエルが状況を確認しながらアスラン達に近づいた。

 

 「ベルリンに対して、ブルーコスモスと思われる部隊が攻撃を行っています。現在ベルリン市も応戦中です」

 

 背後で、また一つ爆発が起こる。

 熱風が路地を吹き抜け、焦げた臭いが鼻を刺した。

 

 「敵の規模はわかるか?」

 

 「おそらくMS二個大隊規模かと。ただし……」

 

 シエルは一瞬だけ言葉を切り、空を仰ぐ。

 

 「敵には正体不明の巨大MAが三機、確認されています」

 

 アスランの眉がわずかに動いた。

 

 「やっかいだな。兎に角、空港へ急ごう。今ならまだ間に合う」

 

 そう言ってアスランはマユを抱き上げ、シエルは迷いなくステラを背負って走り出す。

 その前と後ろを護衛が固め、隊列は一瞬で整えられた。

 

 瓦礫の間から血に染まった手足が突き出されているのが視界に入る。

 アスランは即座にマユの目を手で覆った。

 

 「見なくていい」

 

 あちこちから呻き声が上がり、瓦礫をどけようとしている人々の姿が見えた。

 助けを求める声と、怒号と、泣き声が入り混じる。

 数十分前まで、歌に包まれていた街の姿はそこにはなかった。

 

 この襲撃はステラを狙ったものだろう。

 ブルーコスモスにとって、ステラは消し去りたいロドニア研究所の生き残りであり、

 コーディネイターとナチュラルの架け橋になりたいと願っている裏切り者。

 ――そう見なされている存在なのだから。

 

 理屈は理解している。

 だが、だからといってこの光景を受け入れられるわけではなかった。

 

 反射的にアスランは壁に隠れた。

 直後、彼が立っていた場所にビルの影から放たれた弾丸が弾ける。

 石片が飛び散り、耳元を掠めた。

 

 シエルたちもすでにステラを安全な物陰に隠れさせている。

 動きに一切の無駄がなかった。

 

 「アスランさん、マユなら大丈夫」

 

 「だが、マユに何かあったら……俺はニコルにあわせる顔がない」

 

 「マユだってそうだよ。アスランさんに何かあったら、マユ、カガリ様に叱られちゃう」

 

 そう言うマユの手は、はっきりと震えていた。

 恐怖を感じていないわけがない。

 それでも泣かず、立ち上がろうとする姿に、アスランは一瞬だけ胸が詰まった。

 

 「……強いな」

 

 思わず漏れた言葉を飲み込み、アスランは拳銃を構える。

 横を見ると、シエルも同じタイミングで照準を定めていた。

 

 後ろを走っていた護衛が追いつき、マユのガードに入る。

 

 「いくぞ、ええと」

 

 「シエルです。ザフトレッドと一緒なんて光栄ですわ」

 

 「昔の話ですよ」

 

 そう思いつつ、アスランは一瞬だけ呼吸を止め、物影から飛び出した――

 アスランに向けて放たれそうだった銃弾は、射撃地点を見抜いたシエルによって狙撃手ごと沈黙させられる。

 そして、アスラン自身も拳銃を抜きながら走り込む。

 シエルとアスランの前に、銃を構えた五人の武装兵が立ちはだかる。

 

 「お前がパトリックの子か!!死んでもらう!!」

 

 「断る。ステラとマユを、生きて空港まで届ける」

 

 男が引き金を引く瞬間、アスランは素早く身を低くして瓦礫の影へ滑り込んだ。

 その直後、銃弾が火花を散らしながら壁を撃ち抜く。

 シエルの狙撃が正確に敵の右腕を狙い、銃を持つ手を打ち抜いた。

 

 「ぐあっ!」

 

 アスランは間髪入れず前進する。

 接近戦に持ち込むのが最も速い。

 だが、敵のリーダーが冷静に対応し、サブマシンガンを手に取る。

 その瞬間、シエルの第二射が敵の脚を貫く。

 

 「くそっ……!」

 

 「そこ!」

 

 アスランは倒れ込む敵に一瞬視線を送らず、残りの敵へ迫る。

 狭い路地で遮蔽物を利用しながら、確実に一人ずつ排除していく。

 シエルもまた、正確な射撃でアスランの援護に徹した。

 数分後、二人を囲んでいたブルーコスモス兵は制圧されていた。

 

 「よし、このまま空港へ行こう」

 アスランはブルーコスモスが使っていたと思われる大型トラックを奪い取る。

 電子ロックを易々と解除して後ろの荷台にステラとマユ、そして護衛が乗った。

 シエルが助手席に座った。

 

 「どうするつもりです?」

 

 「急いでこの街から離れないと」

 

 「どこへ?」

 

 「オーブへ。ステラとマユをオーブで匿います」

 

 「プラントのほうが安全では?」

 

 シエルがそう言うのも無理はない。

 普通に考えればオーブよりプラントのほうが安全だ。

 だがプラントにもステラをナチュラルと敵視する者もいる。

 ブルーコスモスからは裏切り者、コーディネイターからは下等なナチュラル。

 それがステラの立場だった。

 

 トラックから見えるベルリンの街は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 先ほどまでステラの歌があちこちから聞こえていた平和は突如として終わりを告げた。

 彼らが何をしたというのだろう。

 ただ自分たちの置かれた立場に異議を言っただけなのだ。

 その答えがこれだった。

 

 アスランは悔しさに歯噛みした。

 だがステラとマユを保護できた事は幸いだ。

 あとは空港へ辿り着くべく、アスランはアクセルを目いっぱい踏み、混乱する街を走り抜ける。

 

 右手に空港が見えたとき、アスランはトラックを止めた。

 空港に火の手が上がっている。

 航空燃料が爆発しているのだろう。

 破壊された空港は使えない。

 

 アスランは舌打ちして、運転席で身体を硬くした。

 目の前に広がるのは燃え盛る滑走路と、煙が立ち昇るターミナルビル。

 

 「くそ……もう使い物にならない」

 

 助手席のシエルが眉を寄せて呟く。

 

 「別の脱出路を探さなくては。空港ルートは完全に塞がれていますね」

 

 アスランは前方の道路に目を凝らした。

 遠くから複数のエンジン音が迫ってくる。車載無線からは爆音混じりに叫び声がかすかに漏れていた。

 

 「ブルーコスモスの地上部隊だ……正面突破は無理だな」

 

 「どうするんです?」

 

 「ベルリンに戻るしかないだろう。ベルリンにザフトは?」

 

 「います。それにミネルバも来てくれるでしょう」

 

 「わかった。ニコル、シン、頼んだぞ」

 

 アスランはハンドルを切り、燃えさかるベルリンへとUターンした。

 

 

 次回予告

 

 警報が鳴り響き、

 食堂に残された温かい皿だけが、平穏の名残を語っていた。

 

 若者たちは席を立ち、

 誰にも見送られぬまま、戦場へと走る。

 

 ベルリンが燃えている。

 歌が終わった直後に、世界は壊された。

 

 守れなかった後悔と、

 守りたい想いが、胸を焦がす。

 

 それでも彼らは出る。

 哀しみを背負い、誓いを胸に。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第百十二話 食堂に鳴り響くコンディションレッド  ――残された皿、哀愁の背中と、終わらせない誓い――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。