機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百十五話 撃たせない――背中にあるもののために――
背中に喝采を浴びながら、シンは間に合った事に安堵した。
隣に立つルナマリアにも笑顔がこぼれる。
群衆の中にステラとマユ、アスランを見つけてシンは心底ほっとした。
今度は守れたのだ。
――守れた。
その事実が、胸の奥で何度も反響する。
遅れたらどうなっていたか。
間に合わなかった未来を想像するだけで、背筋が冷える。
ステラが震えていない。
マユが泣いていない。
アスランがまだ立っている。
それだけで、シンの心はわずかに救われた。
今度こそ。
今度だけは。
だがまだ戦闘は終わってない。
インパルスはブルーコスモスの部隊に向き直る。
セイバーも身構えた。
射撃戦なら外れた時に逃げる人たちに被害が出るかもしれない。
インパルスは対艦刀を、セイバーはビームサーベルを構えた。
――撃たせない。
それだけを、シンは強く思った。
敵を倒すためじゃない。
勝つためでもない。
撃たせない。
これ以上、誰も。
誰も傷つけさせない。
状況を把握しているアスランが逃げ遅れた人を誘導して離れていく。
それを遠目で見ながら、シンは唇を噛んだ。
あの背中に、もう無理はさせない。
アスランが守ろうとしたものを、今度は自分が守る。
脚を踏ん張り、インパルスは対艦刀を身構える。
「いくぞルナ!!」
「まかせてシン!!」
その返事があるだけで、胸の奥が熱くなる。
自分は一人じゃない。
ルナと並んで戦える。
同じ方向を向いている。
インパルスとセイバーは敵部隊へ突入した。
インパルスは対艦刀を振り先頭の一体を切り裂く。
ウィンダムを切り裂き、ダガーLを薙ぎ払う。
セイバーも負けじとサーベルを振るい、蹴りと拳を叩き込む。
衝撃が機体を通して伝わる。
敵機の装甲が割れる感触。
だがその感触に、喜びはない。
自分が人殺しだと言う事を忘れない。
だが背中で震える人々を救えるなら。
それでいい。
インパルスはウィンダムを斬り伏せると、
そのまま流れるようにダガーLの懐へ飛び込み、
反対側の腕で袈裟に斬りつける。
「……もらった!」
――速く。もっと速く。
その背後から別のウィンダムが狙い撃つが、インパルスはシールドを瞬時に展開、
反転して逆方向へ跳びながら、対艦刀を投擲。
「うぉおおおおっ!!」
叫びは、自分を鼓舞するため。
迷いを振り払うため。
回転しながら飛んだ刀が、
ウィンダムを真っ二つに両断した。
火花と爆煙。
吹き飛ぶ機体と共に、地面が震える。
「シン、後ろ!!」
ルナマリアが警告する間もなく、
死角から迫るダガーLのビームが発射される。
シンの反応が一瞬遅れた。
だが代わりにセイバーが前に踊り出る。
「シンはあたしが守る!!」
その言葉が、通信越しに胸に刺さる。
シンは自分がいつもルナに守られていることを思い出した。
辛い時苦しい時。
士官学校で伸び悩んだ時。
いつも隣で笑い泣き支えてくれた。
今も隣にいてくれる。
ルナマリアは叫びながらダガーLの部隊に突入していった。
シンはあたしが守る。
シンがステラを好きだって知ってる。
たとえ叶わなくても、あたしはシンが好き。
だからあたしはシンを死なせない。
セイバーは片腕に盾を展開しながら
ダガーLの一斉掃射を防ぎ、
跳躍。
空中で旋回しつつ、背後に回った敵へ急降下。
「はぁあっ!」
サーベルを一閃。
ダガーLが火花を散らして沈黙する。
だが、一瞬の油断も許されない。
左右から新たな機体が迫る。
――ここで止める。
インパルスは投擲した対艦刀を抜き直し、
突進してくるダガーLを一太刀で薙ぎ払う。
焦りはない。
あるのは、守るべき場所が背後にあるという確信。
セイバーが側面から飛びかかり、
機体を掴んで回転しながら地面に叩きつける。
勢いを殺さず、そのまま膝蹴りを叩き込み、
ビームサーベルを横に振るう。
「一気に決める!」
シンが叫び、インパルスのジェネレーター出力を最大にまで上げる。
胸の奥も同時に熱を帯びる。
セイバーも呼応するように、背部ユニットのエネルギーを解放。
二機のモビルスーツが並んで空高く跳躍する。
地上からは、そのシルエットが双翼の騎士のように映る。
避難民たちが目を見開く。
誰かが叫んだ。
――見ていてくれ。
「行くぞ!!ルナ!!」
「行くわよシン!!」
二機のMSは空中で静止し、それぞれが敵陣を見据えた。
インパルスは対艦刀を構え、セイバーはサーベルを斜めに振り上げる。
そして――同時降下。
「うおぉおおおッ!!」
「はぁあああッ!!」
轟音と共に着地。
地面が割れ、周囲に衝撃波が走る。
土煙が舞い上がり、視界が瞬く間に濁る。
その中で、二機は踊るように動き始めた。
インパルスは対艦刀を縦横無尽に振り回し、
刃の軌跡が光の帯となって空間を裂く。
一太刀でダガーLを貫き、振り戻しでウィンダムの胸部装甲を削ぐ。
「まだまだァッ!」
守るものがある限り、止まらない。
インパルスは前傾姿勢で突撃。
一歩踏み出すごとに地響きを起こし、
周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
狙うは敵陣の中央、密集する機体群。
対してセイバーもまた、機体の可動域を限界まで使い、
ダンスのような動きで敵を翻弄していた。
サーベルの軌跡が美しい弧を描き、ビームの帯が交錯する。
回避する敵機を逆手で捕らえ、
空中へ持ち上げると、
そのまま地面に叩きつけた。
避難民は固唾を飲んで見守っていた。
先程まで絶望に染まっていた顔が、
今は希望の光を取り戻しつつある。
シンはそれを、感じていた。
背中に、確かに感じていた。
そしてついに――
最後の敵機が、シンの対艦刀によって真っ二つになり、
爆発の閃光と共に、ティーアガルテンの空に消えた。
静寂。
炎の匂いと煙の渦が漂う中、
インパルスとセイバーは悠然と立つ。
守れた。
今度は、守れた。
その実感が、やっと心に届く。
ティーアガルテンが、震えた。
それは、恐怖の震えではなかった。
絶望の慟哭でもなかった。
戦いの終わりと、命が奪われずに済んだ事への歓喜。
人々の拍手と歓声が、空間を満たしていく。
幼い子供の泣き声が混じり、大人たちの涙が、瓦礫の上で光った。
ステラとマユが、手を取り合いながら、震えながらも立ち上がっていた。
アスランがそっと後ろに控え、彼女たちを支えている。
その背中には、安堵と責任、そしてひとときの安らぎを刻んでいた。
ルナマリアが通信でぽつりと呟く。
「……守れたね、シン」
「ああ。守れた」
シンは操縦桿を握る手を緩めないまま、
小さく、深く息を吐く。
だが、この戦いはまだ終わったわけではない。
遠くの空には、依然としてブルーコスモスの艦隊と、あの巨大MAたちが控えている。
インパルスとセイバーは、互いに並んで立ち、
その視線は未来を捉えていた。
まだ戦いは終わっていない。
「アスランさん。私達は先に行きます」
ルナマリアがそう告げるとアスランは頷いて手をふった。
ここにいれば大丈夫だ。
そういう意味が込められていた。
「シン!!ありがとう!!」
「シンお兄ちゃんありがとう!!」
ステラとマユが大きく手を振ってくれるのを誇らしげに感じながら、シンは操縦桿を握りしめた。
まだ戦いは終わっていない。
「行こうルナ」
「ええ。この戦いが終わったら、ステラとマユちゃんといっぱい話しましょう」
笑顔で答えるルナマリア。
その笑顔が、どれほど尊いものだったのか。
その時の彼らは、まだ知らなかった。
次回予告
救出成功の報告に、ニコルの胸の緊張がわずかにほどけた。
だが戦場では、三機の連携に微かな歪みが生まれていた。
数値も反応も理想域。
それでも隊形だけが、噛み合わない。
一機が前へ出るたび、均衡が崩れていく。
戦果は出ているのに、呼吸が合わない。
理屈では説明できない違和感。
完璧なはずの編隊に、確かな亀裂が走り始めていた。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第百十六話 噛み合わない刃――完璧なはずの三機に走る歪み――