機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百十七話 噛み合わない歯車――少女の焦燥を包む仲間――

 第百十七話 噛み合わない歯車――少女の焦燥を包む仲間――

 

 その時だった。

 レイの低い声が、通信回線に滑り込む。

 

 「――接近する。シンとルナマリアだ」

 

 短い報告。

 だが、その一言で戦域の空気がわずかに変わった。

 ニコルの視線が、瞬時に上空を走る。

 センサーの端に、新たな高速反応。

 

 インパルスとセイバー。

 

 (――来た)

 

 胸の奥で、わずかに張り詰めていたものが緩む。

 だが同時に、ニコルの思考はすぐさま戦術へ戻っていた。

 

 「アグネス、突出しすぎです。一度――」

 

 「まだやれる!」

 

 被せ気味の即答。

 間違いなく技量は落ちていない。

 むしろ、研ぎ澄まされすぎている。

 だが噛み合わない。

 ニコルの眉が、ほんの僅かに寄った。

 

 (……どうしてだ)

 

 今までの彼女なら、ここまで独断で前に出ることはない。

 熱くなることはあっても、戦場では必ず最適解に戻ってきた。

 なのに今は違う。

 わざと噛み合わない動きをしているようにさえ見える。

 その時。

 

 戦域上空を、鋭い推進光が切り裂いた。

 

 「遅れて悪い!」

 

 聞き慣れた声。

 荒っぽく、それでいて真っ直ぐな声音。

 ニコルの口元が、ほんの僅かに緩む。

 

 「シン……!」

 

 インパルスが、高速で戦域へ滑り込む。

 ほぼ同時に、セイバーが側面へ展開。

 乱れかけていた隊形の外縁を、一瞬で押さえ込んだ。

 レイが短く評価する。

 

 「……流石シンとルナマリア、判断が速い」

 

 感情のない声。

 だが事実として、戦線は立て直されつつあった。

 アグネスの機体が、わずかに減速する。

 ほんの一瞬。

 本当に一瞬だけ。

 

 (……来た)

 

 胸の奥が、ざわついた。

 安心したわけじゃない。

 違う。

 

 なのに――

 

 「前、出すぎだ! 何やってるんだよアグネス!」

 

 シンの鋭い指摘が飛ぶ。

 反射的に、アグネスは機体を少しだけ引いた。

 自分でも、なぜ従ったのか分からない。

 

 「……っ」

 

 奥歯を噛む。

 その間にも、戦況は大きく動いていた。

 ニコルが即座に指示を再構築する。

 

 「隊形を組み直します。レイは後方警戒。シンは左、ルナマリアは右をお願いします」

 

 「了解!」

 

 迷いのない返答。

 セイバーが、インパルスの死角を自然に埋める。

 ほんの数秒前まで噛み合っていなかった戦線が、嘘のように滑らかに回り始めた。

 その変化を、アグネスは誰よりもはっきり感じてしまった。

 

 (……なによ、それ)

 

 胸の奥が、ざらつく。

 自分が乱していたのか。

 自分が、足を引っ張っていたのか。

 そんなはずはない。

 

 そんなはずは――

 

 だが、現実は無情だった。

 レイの射撃。

 ニコルの制御。

 シンとルナマリアの突入。

 

 四機の動きが、まるで最初から組まれていたかのように噛み合い始めている。

 アグネスの指先に、わずかな震えが走った。

 

 (……違う)

 

 違う。

 私は、間違ってない。

 

 そう言い聞かせるように、彼女はスロットルを握り直した。

 次の瞬間、戦場の空気が一変した。

 

 「全機、隊形固定。敵前衛を削ります」

 

 ニコルの声は静かだった。

 だが、その一言で全員の動きが噛み合う。

 レイが即座に後方へ半歩下がり、精密射撃の姿勢を取る。

 インパルスが前へ。

 セイバーがその半歩後ろ、死角を埋める位置。

 

 そして――

 

 アグネスは、わずかに遅れて隊列へ滑り込んだ。

 

 (……遅れてない)

 

 心の中で言い訳が走る。

 遅れてなどいない。

 ただ、タイミングを見ていただけだ。

 だが。

 ニコルの指示は、容赦なく次を刻む。

 

 「三時方向、ダガーL群接近。シン、正面を」

 

 「任せろ!」

 

 「任せて!!」

 

 インパルスとセイバーが爆発的に加速した。

 青と赤の機体が一直線に敵陣へ突き刺さる。

 対艦刀が一閃。

 先頭のダガーLが、反応する間もなく両断された。

 

 爆炎。

 

 その爆煙の中へ、セイバーが滑り込む。

 

 「てりゃあああ!」

 

 ルナマリアの声と同時に、ビームサーベルが弧を描いた。

 回避した敵機の進路を、正確に限定する一撃。

 逃げ場を塞がれたダガーLを――

 

 「……そこだ」

 

 レイの一射が撃ち抜いた。

 無駄のない連携。

 まるで歯車が噛み合うように、敵数が削れていく。

 アグネスの瞳が、わずかに揺れた。

 

 (……なによ、これ)

 

 強い。

 速い。

 そして――完成されている。

 

 「アグネス、左が薄いです。押し上げを」

 

 ニコルの指示。

 いつも通りの、落ち着いた声音。

 命令口調ですらない。

 対等な確認。

 それが、逆に胸を刺す。

 

 「……言われなくても!」

 

 アグネス機が一気に加速した。

 今度は突出ではない。

 正確な角度。

 最短距離。

 彼女本来の、鋭い突入。

 ビームが交差する中を縫い、至近距離へ。

 トリガーを引く。

 一機、撃破。

 さらに機体を捻り、二機目の懐へ潜り込む。

 

 (見てなさいよ……!)

 

 サーベルが閃いた。

 敵機の腕部が吹き飛ぶ。

 その瞬間。

 ニコルの声が、ほんのわずかだけ柔らいだ。

 

 「……ナイスです、アグネス」

 

 たった一言。

 それだけ。

 それだけなのに――

 胸の奥が、強く揺れた。

 

 (……だから、そういうの)

 

 嬉しいわけじゃない。

 そのはずなのに、胸の中が温かくなる

 認められたいわけでもない。

 なのに。

 ニコルが自分を見ていてくれる。

 

 わかっていた。

 ニコルはいつも私を見ていてくれた。

 アグネスの心の炎が燃えさかる。

 機体制御が、ほんのわずかだけ鋭さを増す。

 

 その変化を、レイだけが静かに観測していた。

 

 「……ようやく、か」

 

 小さな独白。

 誰にも届かない。

 だが戦況は、確実にこちらへ傾いていた。

 最後のダガーLが、インパルスの対艦刀で両断される。

 爆発。

 

 そして――

 

 不意に。

 ニコルの眉が、ぴくりと動いた。

 

 (……まだいる)

 

 センサーの奥。

 ノイズのように重い反応。

 

 数は――三。

 

 しかも、この質量はかなりのものだ。

 

 「全機、警戒を」

 

 ニコルの声が、わずかに低くなる。

 その直後だった。

 雲の向こう側が、ゆっくりと歪んだ。

 次回予告

 

 巨躯のデストロイ出現に一瞬息を呑む中、ニコルは接近戦による封殺を即断する。

 前衛に指名されたアグネスは動揺するも、「君が必要だ」という一言で心の歯車が噛み始めた。

 五機は連携を取りつつ巨体へ肉薄し、盾役の随伴機も的確に削られていく。

 だが撃てば都市が焼ける――その現実が全員の引き金を重くしていた。

 アグネスの動きは本来の鋭さを取り戻し、戦線は一気に均衡へ傾く。

 インパルスが決定打へ踏み込もうとした、その瞬間。

 戦場の喧騒を切り裂くように、柔らかな“声”が頭の奥へ直接響いた。

 ――それは、撃つことそのものを拒むような、ステラの悲鳴だった。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 百十八話 デストロイガンダム――撃てない理由を、まだ誰も知らない――

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