機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

119 / 165
第十一章 ベルリン───必要。でも愛されない───
百十八話 デストロイガンダム――撃てない理由を、まだ誰も知らない――


 百十八話 デストロイガンダム――撃てない理由を、まだ誰も知らない――

 

 その機体を見た時、アグネスたちは一瞬唖然とした。

 通常のMSより大きいのは想定していたが。

 優に二倍はあるだろう。

 

 ――大きい、という言葉では足りない。

 視界の半分を塞ぐほどの巨体。

 歩くだけで地面が震え、瓦礫の粉塵がふわりと舞い上がる。

 あの腕が振れれば、そこに「避ける」という選択肢そのものが消える。

 胸部に並ぶ砲門の数が、いやに現実的だった。

 火力がどうこう以前に、あれは“都市を潰すための形”をしている。

 

 だがニコルはかつての自分の愛機『リジェネレイト・ガンダム』を操縦していた記憶がある。

 宇宙空間ならそれほど不利ではなかったが、地上では苦労させられた。

 

 同じだ。

 巨体は強みであると同時に、地上では“逃げ場のなさ”にもなる。

 重い。曲がれない。追随が遅れる。

 それを知っているからこそ、ニコルの思考は冷静に戦術へ落ちていく。

 

 「みんな落ち着いて。あれは動きが遅い、特に接近戦はね。遠距離での戦いは不利だから、接近戦で対処する。前衛はシン、ルナマリア」

 

 ――遠距離が不利。

 理由は単純だ。

 あの巨体から放たれる拡散ビームは、射線の“太さ”が違う。

 引き撃ちになれば、こちらが回避しても背後の建物や避難路を焼く。

 しかも、撃ち合いを続ければ続けるほど、遮蔽物が消えていく。

 この都市で戦うなら、撃たせないのが最優先。

 だから接近戦。

 死角へ潜り込み、砲門を封じる。

 それが、ニコルの結論だった。

 

 ニコルからの通信をアグネスは現実感無く聞いていた。

 さっきからあれだけチーム戦を乱したのだから外されても仕方がない。

 違う。

 接近戦が得意な自分を一時の感情で外すような男なのだ。

 最初から自分には釣り合わなかったのだ。

 

 つまらない男。

 そうアグネスが決めつけようとした時だ。

 

 「……アグネス、返事は?」

 

 「え、なに?」

 

 「前衛はシン、ルナマリア、そしてアグネス」

 

 「え、でも私は」

 

 「アグネス。君が必要なんだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アグネスはうっすらと涙を浮かべ口元で笑う。

 何よやっぱりよくわかってるじゃない。

 この中で一番優秀で頼りになるのは私だ。

 ニコルが自分を認めてくれた。

 それがこんなにうれしいなんて。

 

 ――違う。

 

 「実力を評価された」だけで、こんなに胸が熱くなるはずがない。

 そんな理屈は、アグネス自身が一番知っている。

 でも、それを認めたくない。

 認めた瞬間、自分の足元が崩れる気がする。

 だから彼女は、笑ってごまかす。

 これは当然。

 これは戦術。

 私は必要とされる存在。

 ただ、それだけ。

 

 ニコルの指揮の下、5機はデストロイ・ガンダムに対峙する。

 通常の2倍近いサイズを持つ巨躯。

 しかし、その動作は鈍重であり、接近戦は不得手とされていた。

 

 それでも、巨体がそこに立っているだけで圧がある。

 影が伸びる。

 風が巻く。

 デストロイが腕を少し上げただけで、空気がきしむように感じられた。

 “遅い”のに、怖い。

 “鈍い”のに、逃げたくなる。

 その感覚が、背中にまとわりつく。

 

 「各機、隊形を維持。シンは左を牽制してください。アグネスは右から突入を」

 

 「了解」

 

 「任せて!」

 

 通信越しに響く声に淀みはない。

 シンもルナマリアもすでに集中モードに入っている。

 レイは沈黙のまま、背後へ展開し砲火支援の準備に入った。

 

 沈黙は、怯えではない。

 レイは必要なことしか言わない。

 それが余計に、戦場を冷たく研ぎ澄ませる。

 そしてニコルもまた、言葉を削っている。

 削っているのに、判断だけは一切ぶれない。

 隊が動く。

 まるで最初から一つの機体だったみたいに。

 

 「行くわよ……!」

 

 アグネスは自分に言い聞かせるようにスロットルを押し込む。

 先程までの混乱が嘘のように収まりつつある。

 理由は自分でも分からなかったが、一つだけ確かなことがあった。

 

 (ニコルは……私を見てくれてる)

 

 それが全てだった。

 これまでずっと追い求めてきたものが、今ここにある。

 認められない苛立ち。

 無関心のようでいて、どこまでも公平な瞳。

 でも今は――違う。

 

 公平、じゃない。

 “私に役目を渡した”。

 その事実だけで、体温が上がる。

 心拍が少しだけ速くなる。

 嫌だ。こんな自分は。

 でも、止められない。

 

 「アグネス!!右だ!!」

 

 シンの警告。

 咄嗟に反転すると、素早くスロットルを全開にする。

 デストロイガンダムが胸部ビームを斉射する前に回避した。

 

 避けた瞬間、背中がぞわりと冷える。

 ビームが走れば、光の線では終わらない。

 大地が焼ける。

 瓦礫が溶ける。

 空気が焦げる。

 あれは「当たったら死ぬ」じゃない。

 当たらなくても、周りが死ぬ。

 

 アグネスの変わりようにルナマリアは苦笑気味だ。

 さっさと認めればいいのに。

 あんた、ニコルに恋してるのよ。

 そんな事をアグネスに言ったら絶対認めないだろうけど。

 

 アグネスの瞳が鋭く光る。

 彼女の操縦はこれまでとはまったく異なる。

 焦りや苛立ちが消え去り、本来の実力が全面に表れている。

 

 (ニコルは……私の力を信じてる)

 

 それが全てだった。

 今までは、どんなに頑張ってもニコルの視線の先には自分がいなかった。

 でも今は違う。

 彼は確実に自分を必要としている。

 自分は彼のために――戦える。

 

 ――彼のために。

 その言い方が、いちいち危ない。

 アグネスはわかっている。

 “任務のため”と言い換えることもできるのに。

 わざわざ、彼、と言ってしまう。

 その癖が、腹立たしい。

 でも、直せない。

 

 「アグネス!!左のMAが前進してくるわ!!」

 

 ルナマリアの声が鋭く響く。

 だがアグネスの反応は早かった。

 一瞬で敵機の進行方向を読み取り、機体を滑らせるように移動させる。

 

 デストロイの周囲に展開していた随伴MS。

 “巨体の盾”として動くそれらは、派手さはないが厄介だった。

 接近戦を仕掛ける前衛の動きを塞ぎ、わずかな遅れを作る。

 その遅れが、デストロイの砲門に“撃つ時間”を与える。

 

 「そこね……!」

 

 彼女の手に握られたトリガーが確かなタイミングで引かれた。

 ビームライフルが敵MSの脚部を正確に貫通し、一機がバランスを崩す。

 

 その“崩れ”だけで十分だった。

 敵がよろめく。

 盾が傾く。

 前衛の通り道が、一瞬だけ開く。

 

 「レイ!!周りのMSを撃ち落とせる!?」

 

 ニコルの指示が飛ぶ。

 レイは即座に応じて砲撃を放つ。

 冷静だからこそ、外さない。

 余計な感情が、引き金に混じらない。

 その一撃で、敵の“配置”が変わる。

 配置が変われば、戦況が変わる。

 敵機が爆散する音が戦場に響く。

 巨大MSを守る盾はいなくなった。

 

 「シン!前衛を固めて!!」

 

 「任せろ!」

 

 インパルスが突進してビームサーベルをコクピットに突き刺そうとした時だ。

 

 ――その瞬間。

 耳の奥で、音がした。

 

 違う。

 通信じゃない。

 警報でもない。

 戦闘音に紛れるはずのない、やけに柔らかい音。

 

 “声”だった。

 

 『……だめ……』

 

 誰かが、泣きそうな声で言った。

 聞き間違いじゃない。

 戦場のど真ん中で、ありえないほど近い。

 

 次の瞬間、頭の中に叩きつけるように響く。

 

 『だめーーーーーーっ!!』

 

 シンたちの頭の中に直接声が聞こえた。

 ステラの声だ。

 こんな戦場のど真ん中に、なぜステラの声が聞こえるのか。

 

 そして――

 その“声”は、懇願であると同時に、何かを止める鍵のようでもあった。

 

 次回予告

 

 ステラの声に動揺しつつも、少女は恐怖に駆られてデストロイを起動する。

 怯えた叫びとは裏腹に、機体制御だけは異様な精度で最適解を選び続けていた。

 ミサイルの雨にシンとルナは一時後退を余儀なくされ、戦場に不穏な空気が走る。

 接近戦に持ち込むも、巨体は予測不能な機動で二人の刃を回避。

 被弾したインパルスを庇い、隊形は辛うじて崩壊を免れる。

 レイの精密射撃さえ紙一重で外れ、異常な反応速度が露わになった。

 恐怖で震えながらも、少女の機体だけが冷酷に最善手を刻み続ける。

 止まりたいと願いながら、少女の牙はなお戦場へ向けられていた。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第百十九話 怯える牙――恐怖の奥で、少女は最適解を選び続ける――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。