機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百十九話 怯える牙――恐怖の奥で、少女は最適解を選び続ける――
その声を聴いた瞬間。
デストロイガンダムに乗るサリナ・クローヴィスは瞳を見開いた。
サリナは琥珀色の瞳をきょろきょろさせて、怯える声を漏らした。
コクピットの内壁には無数の警告灯が淡く瞬き、重苦しい駆動音が少女の鼓動と重なって響いている。
「なに…なに?」
怯えるサリナの目の前に、シンのインパルスが立ちふさがった。
対艦刀を構えたインパルスが動かない。
灰煙の漂う市街地上空で、その蒼い機体だけが異様な存在感を放っている。
だがその姿はサリナの恐怖心をあおるのに十分だった。
「こわいこわいこわいこわいよ……」
戦うのは怖い。
だが戦わなければ“壊される”
研究所で何人も壊し合いをさせられた恐怖。
白い蛍光灯に照らされた無機質な訓練室の光景が、フラッシュバックのように脳裏をかすめる。
隣にいるデストロイガンダムに乗る、エルミナ、リュシエにも聞こえたはずだ。
「こわいこわい……こわいよーーっ!!」
サリナが叫びながらマーク62 6連装多目的ミサイルランチャーからミサイルを発射する。
巨大な発射口が連続して閃光を吐き、空気そのものを震わせた。
「エルミナ、リュシエ、撃って!!」
サリナが怯えながら悲鳴をあげた。
怖い怖い怖い怖い……
怖いのにやめられない。
助けてママ。
そう叫ぼうとして、サリナははっと気づく。
助けてなんて誰もしてくれない。
だったら自分でなんとかしないと。
サリナは震える手を必死に抑え、操縦桿を握り締める。
恐怖が全身を覆いつくすけれど、逃げるわけにはいかなかった。。
――サリナの叫びと同時に、発射されたミサイルの閃光が宙を切り裂き、白煙の尾を引きながらインパルスへ降り注ぐ。
インパルスのコクピットに激しい警告音が鳴り響く。
シンはルナマリアと共にミサイルの猛攻に対処するが追いつかずビルの影に退避するしかない。
爆煙がビル群の間で幾重にも膨れ上がり、砕けたガラス片が雨のように降り注いだ。
ルナマリアはビルの影から必死にビームライフルでミサイルを次々と撃ち落としながらも、その表情は複雑だった。
彼女の銃口が向けられる先──サリナ・クローヴィスのデストロイガンダム。
その巨大な機体の奥深くで震える誰かを想像してしまう。
(なんで……?)
ルナマリアの指が一瞬止まる。
ステラの叫び──あれは明らかに「撃たないで」と言っていた。
シンも対艦刀を構えたまま微動だにしない。
焼け焦げた空気の中で、二機の機影だけがわずかに揺れている。
二人とも無言のまま視線を交わす。
答えの見えない共通の疑問。
──ステラが叫ぶなら、何かがある
シンとルナマリアには先ほどの声がステラの物であることに疑問は無かった。
ステラの歌は心の奥に染み入ってくる。
それがなぜなのかわからない。
わかるのは明らかに目の前の巨大MSの動きがおかしい事だ。
先ほどまで感じた威圧的な動きではなく、混乱している。
戦闘に不慣れなのだろうか?
攻撃は激しいが避けれない程ではない。
その動きが一瞬止まった。
「怖い。怖いけど壊さなきゃ壊されるの!!」
そう叫んだサリナのデストロイガンダムからビームとミサイルが一斉に発射される。
先ほどとはまったく違う正確な攻撃に、シンもルナマリアも本気にならざるをえない。
「ルナ!いくぞ!」
「わかったわシン!」
二人はニコルに言われた通りに接近戦で対処した。
巨大ゆえに鈍重な機体を対艦刀とビームサーベルで薙ぎ払う。
───はずだった。
サリナのデストロイガンダムは、シンとルナマリアの攻撃を避けたのだ。
しかも二人の動きを先読みしている。
そして距離をとってビームを放ってくる。
「うわあ!!」
「シン!!」
シンのインパルスが被弾し、装甲に火花が散った。
姿勢制御警告と一瞬の操縦不能。
慌ててセイバーがインパルスを抱え飛ぶ。
ルナマリアは必死で回避するが、デストロイガンダムは追ってくる。
──まずい。
「ルナマリア!!」
後方にいたニコルが叫ぶ。
彼はルナマリアの危機にいち早く気づき、スラスターを全力で吹かして飛び出してきた。
その動きには一片の迷いもない。
まるでルナマリアの危機を最初から予見していたかのような反応速度。
「ルナマリア!左へ!」
ニコルの声が耳朶を打つのと同時に、ルナマリアは反射的に機体を傾けた。
一秒前まで彼女がいた空間をビームが貫く。
背筋に冷たい汗が流れた。
あと0.5秒でも遅ければ──考える余地すらない。
援護射撃しながら、レイは鈍重なはずのデストロイガンダムを射線に捕らえられないでいた。
巨体を異常な反応速度で操っている。
レイの額に、わずかな緊張が走った。
射線をずらすたび、デストロイの巨体が紙一重で回避を重ねる。
鈍重なはずの機体が、まるで未来を知っているかのように動いていた。
ビームがかすめ、装甲表面を焼く。
だが決定打には届かない。
レイは無言のままトリガーを引き直す。
精密射撃。
回避不能のはずの角度。
それでも――外れた。
「……っ」
短く息を呑む。
デストロイの機体が、わずかに揺れた。
コクピットの中で、サリナの呼吸はすでに限界近くまで乱れている。
「やだ……やだよ……」
震える声。
だが操縦桿を握る指だけは、異様な正確さで機体を制御していた。
恐怖で視界が滲む。
心臓が痛いほど鳴っている。
それなのに――
機体だけが、最適解を選び続けている。
サリナ自身も、自分の動きに追いつけていなかった。
「こわい……でも……!」
次の瞬間。
デストロイの巨体が、あり得ない角度でスラスターを噴かす。
空間を裂くような急制動。
そのまま反転し、インパルスの死角へ滑り込んだ。
「シン!」
ルナマリアの叫び。
警告音が再び跳ね上がる。
(速い……!)
シンが咄嗟に機体を捻る。
だが半瞬、遅い。
ビームがかすめ、インパルスの装甲に新たな火花が散った。
「くっ……!」
姿勢を立て直しながら、シンの背筋に冷たいものが走る。
ただの暴走ではない。
ただ怯えているだけの動きでもない。
確かに――当てに来ている。
後方で、レイが低く呟いた。
「……反応速度だけなら、エース級か」
感情のない声音。
だが、その評価は戦場の空気をわずかに変えた。
震えながらも、デストロイはなお前へ出る。
恐怖に押し潰されそうになりながら。
それでも、少女は止まらない。
次回予告
暴走するサリナ機の影で、残る二機のデストロイが静かに戦線を維持していた。
アグネスは違和感を覚えつつも単機で二機を引き受け、都市地形を使った回避機動に移行する。
だがエルミナとリュシエの連携は冷静かつ正確で、ガイアは次第に押し込まれていく。
ニコルが援護に入ろうとするも、計算された妨害で踏み込みを阻まれた。
それでもアグネスは救援を拒むように機体を捻り、強引に戦線を維持する。
一瞬の迷いを見せたエルミナに対し、リュシエは最適解のみで追撃を打ち切った。
戦場の空気が重く沈む中、孤狼のようにガイアが再加速する。
譲れない一線のため、少女はなお二機の怪物へ斬り込んでいった。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第百二十話 譲れない一線――孤狼が二機を押し返す時――