機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百二十話 譲れない一線――孤狼が二機を押し返す時――

 第百二十話 譲れない一線――孤狼が二機を押し返す時――

 

 サリナが操縦するデストロイガンダムは、巨体からは想像できない素早さで戦い続ける。

 最小の動きで無駄がない。

 それを見ていたエルミナ・ヴェイルは薄紫の瞳で不安そうに隣を見る。

 隣にはリュシエ・ファルクが搭乗するデストロイガンダム。

 

【挿絵表示】

 

 崩壊したベルリン市街の上空では、黒煙が幾筋も立ち昇り、砕けた高層ビルの残骸がまだ赤熱したまま燻っていた。

 巨大な三機の影が、その煙の層を押し分けるたび、瓦礫の粉塵が吹き上がり、視界が白く濁る。

 都市そのものが、巨大兵器同士の戦場に蹂躙されている――そんな光景だった。

 

 ベルリン市攻撃に投入されたデストロイガンダムは三機で、本来はその重火力でベルリンの完全破壊が目的だ。

 それを指揮していたユーラシア連邦に所属するブルーコスモスのロコソフスキー将軍はトレードマークの灰色の顎髭を弄りながら忌々しげに呟く。

 当初彼にはMS二個大隊があったが、そのほとんどが破壊された。

 デストロイガンダムの支援に当たっていたウィンダムで編成した護衛部隊も全滅だ。

 あとはデストロイガンダムのみ。

 

 「デストロイ、サリナ機暴走中。エルミナ、リュシエ機停止しました!!」

 

 副官のイリーナ・ヴォルコワが混乱しながら報告する。

 戦闘慣れしていないのだろう。

 先の大戦で多数の将校を失った為配属された、若い兵士だ。

 人手不足はザフトだけではなかった。

 

 暗い司令室のモニターに、三つの心拍波形が並んでいた。

 どれも許容範囲内。

 情動係数、上昇中。

 

 男は一瞥だけして、淡々と告げる。

 

 「三機とも前進。情動反応、許容範囲内だ。問題ない」

 

 その声が、機械的なノイズと共に回線へ流れた。

 

 「しかしこのままの運用を続けては」

 

 混乱しながら報告する副官のイリーナを一睨みで黙らせて彼は命令した。

 

 「死んだらまた作ればいい。あれは部品だ」

 

 デストロイガンダムに搭乗する少女たちはエクステンデッドと呼ばれる薬漬けの強化人間だった。

 

 ◇◇◇

 

 目の前で停止したデストロイガンダムを見て、アグネスは戸惑う。

 先ほどまで破壊の権化だった巨大MAが急に動かなくなったのだ。

 

 「……バッテリー切れ?」

 

 逡巡したのも一瞬で、アグネスのガイアガンダムはビームサーベルでエルミナ機に切りかかる。

 停止したと思われたエルミナ機が動き出しガイアにイーゲルシュテルンを発射しながら後退するが、積極的行動は起こさない。

 

 火線が空気を焼き、ガイアの装甲表面をかすめた衝撃がコクピットへ微細な振動となって伝わる。

 警告表示が一瞬だけ赤く点滅し、すぐに消えた。

 

 「バッテリー切れじゃない?なら撃墜するわ」

 

 今、シン、ルナマリア、ニコル、レイはサリナ機にかかりきりだ。

 いずれ倒せるだろうがそれまでアグネスが二機相手にしなくてはいけない。

 

 (でも……この感じ)

 

 アグネスは、一瞬だけ躊躇った。

 敵の動きが“妙”だ。

 巨大機動兵器にしては、あまりに人間臭い。

 狙う箇所、避け方、揺らぐ気配。

 まるで――生身の恐怖を持っているようだ。

 少なくとも、熟練の兵士ではない。

 明らかに怯えている。

 

 (……なによ、これ)

 

 HUDに映る敵機の微細な姿勢変化が、統計的な機械挙動からわずかに外れている。

 理屈では説明できる。だが本能が、違和感として警鐘を鳴らしていた。

 

 「ふざけてんじゃないわよ!!」

 

 アグネスのガイアがデストロイのコクピットを狙おうとした時だ。

 

 「……受信了解」

 

 小さく呟いたリュシエ・ファルクのデストロイが、アグネスのガイアに向かってミサイルを発射しつつ、胸部ビーム砲を放つ。

 同時にエルミナ機も急に動きがよくなった。

 

 「リュシエ、これでいいの?」

 

 わずかに不安の混じる声。

 エルミナ機の照準が、ほんの一瞬だけ揺れた。

 

 「……指示ではそうなっている」

 

 感情のない返答。

 次の瞬間、リュシエ機のミサイルが最短軌道で収束する。

 

【挿絵表示】

 

 二機のデストロイの連携攻撃に、たまらずアグネスは瓦礫と化したビル群に逃げ込むが、次の瞬間ビルが破壊された。

 ガイアは俊敏な四足の獣体型に変形して俊敏な動きでビームを回避する。

 だが幾重にも重ねられたビームの波状攻撃に防戦一方だ。

 

 「こんなの相手にどうやって近づけっていうのよ!!」

 

 ニコルの指示だった接近戦が不可能と悟り、反撃にビームを撃つが効果はない。

 やはり接近戦でなければだめのようだ。

 

 ――胸の奥が、嫌な音を立てて軋んだ。

 

 押し込まれている。

 認めたくはない。

 だが、戦況は確実にこちらの想定から外れ始めていた。

 

 「……っ!」

 

 ガイアの四肢を強引に捻り、ビルの残骸を蹴って横方向へ跳ぶ。

 その直後、先ほどまでいた空間をビームが貫いた。

 

 速い。

 しかも――迷いがない。

 

 「ふざけないで……!」

 

 吐き捨てるように言いながら、アグネスは一瞬で思考を切り替える。

 このまま押し合えば削られる。

 ならば――生き残る動きに変える。

 ガイアが低空へ滑り込む。

 瓦礫の陰、ビルの死角、崩落寸前の構造体。

 都市地形を盾にした、徹底した回避機動。

 

 ◇◇◇

 

 (まずい……このままでは)

 

 後方で、ニコルの瞳がわずかに細まった。

 

 スラスター出力上昇。

 

 だが――

 

 その進路上に、リュシエ機のミサイルが正確に割り込む。

 

 ニコルは即座に回避機動を強いられた。

 

 「……!」

 

 踏み込みきれない。

 

 ◇◇◇

 

 その一瞬の遅れを、アグネスは見逃さなかった。

 

 (来なくていい……!)

 

 胸の奥で、反射的にそう思っていた。

 

 助けは――いらない。

 

 ガイアが瓦礫の隙間へ潜り込み、スラスターを最大噴射。

 

 強引な姿勢制御。

 

 機体各部に警告が走る。

 

 (ありえない、この私が押されてる!?)

 

 それでも――

 

 「ここで落ちるわけ、ないでしょうが!!」

 

 次の瞬間、ガイアの機影がビル群の向こうへ弾かれるように離脱した。

 

 ◇◇◇

 

 エルミナの照準が、わずかに遅れる。

 

 「……あ」

 

 ほんの小さな声。

 引き金を、引き切れなかった。

 

 (……今の)

 

 エルミナの指先が、ほんの僅かに震えた。

 

 逃がした。

 

 指示通りに動いたはずなのに、

 胸の奥に、説明のつかない引っかかりが残る。

 

 ――どうして?

 

 その疑問は、言葉になる前に押し潰された。

 

 対してリュシエの声は平坦だった。

 

 「……追撃最適解、消失」

 

 リュシエの瞳は、一度も揺れなかった。

 

 逃走経路、再計算。

 追撃確率、低下。

 損耗率、許容外。

 

 「……次目標へ移行」

 

 そこに、迷いという概念は存在していなかった。

 だが、二機はそれ以上深追いしなかった。

 ただ、戦場の空気だけが――

 

 先ほどより、わずかに重くなっていた。

 胸の奥で、何かが静かに警鐘を鳴らしていた。

 エースパイロットとしての勘が、この二機を合流させては勝てないと悟る。

 それにたった一機でこの怪物二機を足止めしているのだ。

 ニコルも自分を認めざるを得ないだろう。

 

 「かかって来なさいよ……!!」

 

 ガイアガンダムはビームサーベルを抜き、敵のわずかな躊躇いを狙って突入する。

 

 

 次回予告

 

 エルミナ機のコクピットを掠めた瞬間、アグネスは内部の“あまりに小さい影”に気づき、致命の一撃を引いてしまう。

 判断ミスだと自覚しながらも、指先の重さの理由が分からない。

 司令室ではロコソフスキーが少女たちを「部品」と切り捨て、作戦続行を命じていた。

 その頃、瓦礫の上で戦場を見上げたステラは、かつての自分と重なる存在を感じ取る。

 止めなければ――その想いだけで、彼女は静かに歌い始めた。

 歌声は爆煙を越え、直接意識の奥へ触れるように戦場へ広がっていく。

 エルミナの呼吸と鼓動が乱れ、デストロイの挙動がわずかに揺らいだ。

 そして彼女は、自分の頬を伝う涙に、初めて気づいた。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第百二十一話 揺らぎの歌声――少女の涙が戦場を狂わせる――

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