機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百二十一話 揺らぎの歌声――少女の涙が戦場を狂わせる――

 第百二十一話 揺らぎの歌声――少女の涙が戦場を狂わせる――

 

 エルミナは迫るアグネスを視認して、ビームを放ち落そうとした。

 だがアグネスはビームを予想してかわすと、ビームサーベルでデストロイガンダムを切りつける。

 

 灼熱の刃が空間を引き裂き、周囲の煙塵が一瞬だけ蒸発した。

 咄嗟に腕で機体を守ろうとしたエルミナ機は防ぎきれず、ビームサーベルがエルミナ機のコクピットを掠めた。

 

 装甲表面が赤熱し、溶断された破片が火花を散らしながら宙へ弾け飛ぶ。

 

 吹き飛ぶコクピット装甲。

 衝撃波が機体全体を震わせ、警告表示が一斉に赤く明滅した。

 

 「え───?」

 

 一瞬、ほんの一瞬。

 優れたコーディネイターでありエースパイロットのアグネスだから見る事が出来た一瞬。

 

 コクピットに乗っていたパイロットスーツが、あまりにも小さい事に。

 煙の向こう、露出したコクピットの奥で、かすかに揺れる小さな影。

 

 アグネスの呼吸が一瞬だけ止まった。

 そして無意識にビームサーベルを引いてしまう。

 

 「……何よ今の?」

 

 明らかに判断ミスだ。

 あのままコクピットを貫けば、撃墜は確実だったはずだ。

 なのに出来なかった。

 

 昔のアグネスなら躊躇せず出来ただろう。

 HUDの警告音が乾いた電子音で鳴り続けているのに、指先だけが妙に重い。

 その原因が何か。

 アグネスにはまだわからない。

 

 ◇◇◇

 

 エルミナの心拍が跳ね上がる。

 警告音と同期するように、胸の奥で鼓動が暴れた。

 死への恐怖に身体がこわばった。

 露出したコクピット越しに、冷たい外気が流れ込んでくる。

 もう守ってくれる装甲がない事に恐怖する。

 薬物投与されていても、生存本能には逆らえなかった。

 

 「エルミナの心拍が異常反応です。将軍、このままではエルミナの───パイロットの負荷が――」

 

【挿絵表示】

 

 隣で狼狽える副官のイリーナ、いや若造の言葉がロコソフスキーには忌々しかった。

 司令室の空気は冷え切っており、無数のモニター光だけが男の顎髭を青白く照らしている。

 そんな甘い事を言っていて、戦争に勝てるとでも思っているのか。

 青き清浄なる世界の為に、必要な事だ。

 部品が壊れたくらいで何を気にする。

 

 「許容範囲内だ。作戦を続行しろ」

 

 「ですが───あの子達は」

 

 更に続けようとした副官イリーナだったが、そんな情緒で作戦を撤回する人ではないとわかっていた。

 だから言い回しを変える。

 

 「……このままでは損耗が大きすぎます。高価な部品でしょう?」

 

 「高価だが役に立つかはこの戦いの結果次第だ。あんなものを作る必要があるのか」

 

 その言葉に副官は黙り込む。

 この人に何を言っても無駄だ。

 普段エルミナ達に接する事があるイリーナには、まだあの子達が幼い子供だという認識があった。

 だがロコソフスキーにとって、あの子たちは部品に過ぎない。

 

 ◇◇◇

 

 瓦礫の山を小さな影がよじ登る。

 崩れたコンクリート片が足元で崩れ、乾いた音を立てて転がり落ちた。

 

 「危ないよステラお姉ちゃん!!」

 

 「馬鹿な事はやめるんだ!!」

 

 マユの制止とアスランに羽交い絞めにされつつ、ステラは瓦礫の上からデストロイ達を見る。

 ステラは、息を切らしながら戦場を見上げていた。

 

 空を裂く光。

 重なる爆炎。

 吹き上がる黒煙が低空の風に流され、戦場の輪郭を歪ませている。

 そして――巨大な三つの影。

 

 その瞬間。

 

 ステラの呼吸が、止まった。

 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

 

 「………同じ」

 

 ステラの中に、初めてできた友達を壊した記憶が蘇る。

 憎かった訳でも、死ぬのが怖かった訳でもない。

 

 ───壊さなければ、必要とされない。

 

 怖い。

 苦しい。

 消えてしまいそうで、怖い。

 

 かつてのステラと、今のエルミナ達は同じだった。

 

 ステラを愛してくれる人たち。

 シン、ルナマリア、マユ、ニコル、アスラン。

 そして、ステラの歌を聴いてくれる人たち。

 

 無意識に、ステラは胸に手を当てて息を吸う。

 瓦礫の上を舞う埃が苦しい。

 まだ熱い埃、焼けただれたコンクリートの匂い。

 遠くで爆発が連鎖し、空気そのものが震えていた。

 それでも――今するべきことを、ステラは見失わなかった。

 

 「アスランさん。お願いします」

 

 ステラの決意を感じ取ったアスランが、一瞬目を逸らした後、頷いた。

 

 気づけば、ステラの唇は静かに開いていた。

 

 鎮魂と平和の歌が、そっと零れ落ちる。

 それは、痛みと苦しみと理不尽と愛を知ったステラにしか歌えない歌だった。

 

 ───ステラの歌が脳に直接響いた瞬間、エルミナの心拍が跳ね上がった。

 

 歌声は、爆煙に覆われた戦場へ静かに広がっていった。

 耳で聞くというより、もっと奥――意識の深い場所へ直接触れてくるような、不思議な響きだった。

 

 砕けたビルの外壁が、まだ熱を帯びたまま軋む。

 遠方で誘爆が連鎖し、低い衝撃波が地表を震わせた。

 それでも歌は乱れない。

 戦場の喧騒とは無関係に、細く、しかし確かに空間へ染み込んでいく。

 

 デストロイの巨体が、わずかに挙動を揺らした。

 

 コクピット内の警告表示が一瞬だけ不規則に明滅する。

 だが制御系統に異常はない。

 数値は正常。

 それでも――

 

 エルミナの呼吸が、うまく合わない。

 

 (……なに……これ……)

 

 胸の奥が、じんわりと熱を持つ。

 怖いはずなのに。

 戦わなければいけないはずなのに。

 

 ほんのわずか、力の入り方が分からなくなる。

 

 外では、ガイアガンダムが低空を滑るように機動していた。

 瓦礫を蹴り、崩落しかけたビルの隙間を縫うように軌道を変える。

 その機動は依然として鋭く、隙はない。

 

 だが、アグネスの眉間には、消えきらない違和感が残っていた。

 

 (さっきの……)

 

 脳裏に焼き付いた、あの一瞬。

 露出したコクピット。

 小さすぎる影。

 

 思考の端で何かが引っかかる。

 だが戦場が、それを考える余裕を与えない。

 

 上空でビームが交差し、遅れて轟音が降ってきた。

 爆風に煽られ、周囲の粉塵が再び舞い上がる。

 

 それでも――

 

 歌だけは、消えなかった。

 

 細く、静かに。

 まるで誰かの心を探すように。

 

 エルミナの指先が、もう一度だけ震えた。指先が、震える。

 

 暖かい。

 聞いたことが、ない。

 

 ――どうして?

 

 数秒後、エルミナは自分の薄紫の瞳から、涙がこぼれていることに気づいた。

 

 

 次回予告

 

 戦況悪化に苛立つ指揮所で、混線していた命令が再整理される。

 再び動き出した巨影は、感情の見えない精密さで戦場を塗り替え始めた。

 予測を先回りする挙動に、アグネスの背筋を冷たいものが走る。

 救援に向かおうとするニコルも、激しい火線に進路を阻まれる。

 ただ任務だけを追うような追撃が、じわじわと包囲を狭めていく。

 切り札の機動すら読まれ、ガイアの機体に重い負荷が蓄積していった。

 死角が消え、決定的な一瞬が近づこうとした、その時――

 戦場を裂く新たな機影が、強引に割り込んできた。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第百二十二話 無機質な追撃――少女はただ命令を実行する――

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