機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百二十二話 無機質な追撃――少女はただ命令を実行する――
デストロイガンダムを指揮する野戦指揮所でロコソフスキー将軍は机を力任せに叩いた。
テーブルの上のコーヒーカップが激しく揺れ、中身を零して倒れる。
状況はよくない。
手元に残ったデストロイガンダムがほぼ無力化したのだ。
サリナ機は一機でインパルス、セイバー、アビス、カオスの四機を足止めしているが、このままでは長くはもたない。
エルミナ機はガイア一機にてこずっている。
何より腹立たしいのは、リュシエ機が動かない事だ。
「あいつは何故動かん!!」
「もともとリュシエは命令を実行する事のみに特化した子です。立て続けの命令で、優先度の判定が混線しています」
「自分で考えない兵隊が何の役に立つ!!」
――あの子にそんな調整を施したのは貴方たちではないか。
理想の兵士。
命令に忠実で、任務を決して疑わない兵士。
だが今は言い争っている暇はない。
イリーナはあらためて最優先命令をリュシエに送信した。
◇◇◇
「……了解。これより目の前の敵機を撃墜します」
抑揚のない声。
再起動したリュシエの動きは早かった。
ミサイルランチャーから多数のミサイルが走り、ガイアを追う。
続いて胸部装甲が展開し、ビーム砲が淡く発光する。
赤い閃光が迸り、轟音と共に高出力ビームが放たれた。
一瞬前までガイアがいた空間が焼き尽くされ、地面に大穴が開く。
爆風が瓦礫と金属片を空中へ舞い上げた。
「くっ……!」
リュシエの操るデストロイの動きは洗練され、無駄がない。
機械のような精密さで攻撃を繰り出し、ガイアの逃げ道を徐々に塞いでいく。
ビームで進路を縫い、遅れてミサイルと砲弾が重なる。
「……回避行動、予測済み」
感情のない声。
逃走経路、再計算。
巻き込み被害、許容範囲内。
リュシエの指は躊躇なくトリガーを引き続ける。
そこに“敵を倒す”という意志はない。
ただ命令を最短距離で完了させる動作だけがあった。
猛烈な爆発音の中、リュシエのデストロイは一歩ずつガイアを追い詰めていく。
半開きの瞳に閃光が映り、まばたきの間隔すら一定だった。
ガイアがビルの影に隠れて防戦する。
ただでさえエルミナ機を相手しているというのに。
しかもリュシエの動きは、アグネスにとってまったく未知のものだった。
牽制に放ったビームを避けず、そのまま反撃してくる。
自機が耐えられる――そう判断しているのだろうが、人間なら咄嗟に防御を取る。
先ほどの機体もこいつもおかしい。まるで人間じゃない。
ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。
理屈じゃない。本能が先に警鐘を鳴らしていた。
「……なんなのよ、あんたたち……!!」
アグネスは防戦しながら叫ぶ。
今までこんな敵に会ったことは一度も無かった。
(まずい――)
ニコルの機体が加速する。
だが、その進路を読むようにエルミナ機の砲口が角度を変え、ビームの嵐が放たれた。
ニコルは上昇回避を強いられ、アグネスを助けにいけない。
「アグネス―――!!」
声がスピーカー越しに乱れ、ノイズに遮られて途切れた。
◇◇◇
リュシエは反応しない。
ただ次のトリガーを引くだけ。
「……目標確認。回避経路、予測済」
無機質で冷静な単調音声。優勢でも驕りはない。淡々と始末する声。
ガイアがビルの側面を蹴って横へ跳ぶ。
直後、先ほどまでの位置を高出力ビームが貫き、地面を穿った。
(やっぱり――こいつ、速い、違う……撃つ“順番”で殺しに来てる)
逃げ場が消えていく。
エルミナ機の動きが鈍いのは分かる。
だが問題はこのリュシエ機だ。
不気味なのは、このデストロイが一貫して「機体の動き」以外を見せないことだった。
戦闘データ、行動ログ、精神パターン――どれも「無」に近い。
それでもアグネスは粘る。
ガイアの機動性を極限まで活かし、ギリギリの間合いを維持する。
雨のような攻撃を回避と防御で捌き、致命傷だけは避け続けた。
(ここよ――!)
一瞬の隙を見逃さず、ガイアを四足型に変形。
弾丸のように背面へ回り込み、グリフォン2ビームブレイドを投擲した。
「………」
デストロイの巨体がわずかに揺れ、すぐに反応する。
「目標確認――追尾開始」
急速反転。
背後のガイアへ胸部ビーム砲が展開する。
「――させないわよ!」
アグネスは二足歩行へ戻し、ビームサーベルを構えた。
ビームが放たれる瞬間、最大噴射で紙一重に回避する。
砕けたコンクリート片が散弾のように跳ね、低空の死角から肉薄――そのはずだった。
金属が空気を切り裂く音。
ガイアの右脚が弾け飛んだ。
「……くっ!」
予期せぬ衝撃に機体が一瞬バランスを崩す。
振り返れば、掌部から伸びた細長いワイヤーブレードが装甲を貫きかけていた。
「反応遅延……修正完了」
リュシエの声は平坦のまま。
「攻撃パターン……回避予測モデル更新」
半開きの瞳。恐れも焦りもない。
ただ目の前の「ターゲット」を処理するプログラムが稼働し続けている。
「この……!」
アグネスはガイアの四足を翻し、ビルの谷間へ躍り込む。
瓦礫と梁が視界を遮る――はずだった。
だが障害物ごと一掃するように高出力ビームが奔り、地面が沸騰し、瓦礫が鉄塊となって飛散する。
ガイアは辛うじて回避したが、肩部装甲に亀裂が入った。
「どうして……こんなに速いのよ……!」
喉が乾く。冷や汗が滴る。
攻撃を読まれているのではない。
攻撃後の「回避」すら先に読まれている。
◇◇◇
「リュシエ……止まって……!」
エルミナが懇願する。
だがリュシエは振り向きもせず、背部スラスターを全開にした。
青い残光が尾を引く。
機体は限界速度を超えている。
それでもさらに加速する。
ピピピピッ……!
『機体温度過上昇……許容範囲超過』
「処理優先度、最高レベル。目標撃墜」
叫びは届かない。届いても意味を持たない。
「私は命令を実行します」
無機質な声。
瞳に迷いはない。
◇◇◇
アグネスはビル群の残骸を駆け抜けながら次の一手を考える。
粉塵で視界が揺れる。
それでもリュシエは確実に迫ってきていた。
ならばフェイントで攪乱する。
ガイアを四足型に変形、スラスター全開で急旋回し、斜め上へ跳び上がる。
ビルの残骸を蹴って空中へ。
陽動に見せかけた直上攻撃――。
(今度こそ——!)
だが――
「なんですって……!?」
リュシエのデストロイは完全に予測していた。
ビルの隙間から一直線にビームが迸り、ガイアの推進系が焼き潰された。
『回避不可領域:確定』
「最終射角修正。直撃コースに移行」
◇◇◇
アグネスは残ったスラスターを最大出力で噴射し落下。
瓦礫の影に隠れようとする。
だがビームは粉塵すら蒸発させながら追尾し、左腕が焼け、装甲が赤熱する。
(こんな……!)
目に涙が浮かぶ。
屈辱ではない。絶望でもない。
ただ、人間の限界を超えた存在に対する畏怖だった。
『目標機体:戦闘継続可能レベル以下/処理移行』
背後に迫る巨体。
イーゲルシュテルンが唸りを上げて回転を始め、弾丸が雨あられと降り注ぐ。
アグネスは最後の力で急旋回するが、反応が鈍い。
機体が重い。
もう満身創痍だ。
視界一杯に広がるデストロイの巨躯。死がすぐそこまで迫っていた――
――その時。
「アグネス───!!」
エルミナ機の包囲を突破したニコルのアビスが、ガイアを抱きしめて退避する。
直後、アグネスがいた場所にビームが叩きつけられ、激しい熱と爆音をたてて崩壊していた。
次回予告
戦況は膠着し、指揮所では静かな撤退判断が下される。
だが三機の巨影は、退路の外側に取り残される形となった。
最前線ではなお激しい攻防が続き、機体の挙動に微かな遅れが滲み始める。
その異変を、遠方から観測していたアスランが見逃さなかった。
さらにステラとマユも、戦場の向こうにある“違和感”を感じ取る。
敵か、それとも――という迷いが、わずかに空気を揺らした。
短い逡巡の末、アスランは静かに行動を開始する。
戦場の外で下された決断が、やがて前線の均衡を揺らそうとしていた。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第百二十三話 見捨てられた少女達――戦場の外で下された静かな決断――
作者です。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本章の執筆状況およびストック調整のため、
本話以降、章完結(残り5話予定)まで隔日投稿とさせていただきます。
物語自体は予定通り進行しておりますので、
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします。