機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百二十五話 戦闘停止――救われた命と、残された者――
デストロイガンダムから降りたエルミナ、サリナ、リュシエの三人はシン達の前で立っていた。
エルミナはシン達の顔を見て状況を理解していないのか笑い、サリナは小動物のように肩を震わせ胸を手に当ててぶるぶると震え、リュシエは氷のように無表情だ。
みんなマユより若い、というか幼い。
彼女達から見れば、ザフトの赤服たちは異様な集団で、かつ赤服というのは威圧感がある。
風は炎で焼かれた熱を帯びていて、先ほどまで続いていた戦闘で赤茶けたビルから飛び出た鉄骨が飴のように曲がっていた。
「どんな凄腕のパイロットが乗ってるって思ったら、こんな子達とはね」
ルナマリアがやるせない声で呟いた。
ステラ達と同じ、いやもっと残酷と言っていい。
シンから聞いていたが、実際に本物を見ると怒りがわいてくる。
隣に立つシンを見ると怒りに震えていた。
唇を噛み、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
怒り喜び笑い泣く。
理不尽に怒り泣きそうになっているシンを見ていると、ルナマリアは心が辛い。
「これがブルーコスモスの手段だ」
レイも珍しく怒りを露わにした。
非人道な扱いにはらわたが煮えくり返っていた。
自分が造られた存在だから他人事に思えない。
こんな世界を創らない為に、レイはギルバート・デュランダルの唱える思想に傾倒していった。
「ねえ、この子たちどうなるの?」
そう言いながら、ニコルの隣に立つアグネスがニコルを見つめる。
先日来見せていた、ニコルへのわだかまりは無く、ルナマリアが拍子抜けするくらい大人しい。
「そうだよ。酷いことされるんじゃないだろうな!?」
シンの悲痛な声が響く。
レイは一瞬だけ目を細めた。
シンの純粋さに眩しさを感じる。
かつてステラや他のエクステンデッドが受けた仕打ちを思い出せば、彼女たちがまともな扱いを受けるとは思えない。
「……これだけの事をしたんだから、甘い処分は無理でしょ?ベルリン市が捕虜にしてくれたらだけどね。どうなるかわからない」
この惨状を見て、ベルリン市が冷静を保てるかは疑問だ。
アグネスの意見は現実的な判断だ。
先の大戦でナチュラルもコーディネイターも捕虜を取らない事件が多発した。
だがルナマリアは気が付いた。
アグネスの話し方は今までのように挑発的ではない。
明らかにアグネスは変わった。
それが何なのか察したが、それはアグネスが気付くべきなのだ。
「捕虜にする権限はベルリン市にあります」
そういうニコルには考えがある。
ステラ達強化人間には特別な薬が必要だ。
それが無くなった時、気が狂う程の苦痛が少女達を襲うだろう。
そしてベルリン市にその薬がある筈がない。
「俺はもう、ステラみたいに誰かが苦しむなんて嫌だ。絶対に保護するべきだ……大丈夫だ。やり方は、もう分かってる」
シンがそう言って皆の前に立つ。
今なら戦場の混乱で脱出させられるだろう。
だがどうやって?
もうすぐミネルバがここに到着する。
タリア艦長が、この子達を優しく迎えるなどありえない。
最悪プラントで実験されるかもしれない。
その時だ。
全員の前にアスランとステラとマユが歩いてきた。
「それは俺たちに任せてくれないか?」
そう言って歩いてきたアスランが言った。
大量の薬が入ったバッグを手にしている。
その後ろにはステラとマユもいる。
ステラはあれだけの乱闘をしたのに、息一つ乱れていない。
対してマユは苦しそうに息をしている。
この空気の熱さは子供には辛い。
「くすり、ステラ持って来た」
「オーブのモルゲンレーテなら、薬をつくれるよ。お願いシンお兄ちゃん、ルナマリアお姉ちゃん、ニコル」
三人の言葉にシンは頷く。
オーブのモルゲンレーテの薬はブーステッドマンだけでなく、ステラ達エクステンデッドにも効果がある。
短命だと心配していたシンの目にも、見違えるほどステラは平静を取り戻していた。
オーブとプラントのマイウス市が共同で運用しているハーバーコロニーはナチュラルとコーディネイターと強化人間が一緒に暮らしている。
「そうね、あそこならきっとこの子達も安全に暮らせるわ。ううん、きっとあそこ以外は無理だと思う」
ルナマリアも同意した。
かつてハーバーコロニーを守り抜いた犠牲は無駄では無いとルナマリアは思っている。
きっとこの子達のように、戦場に駆り出されてる子達はいるだろう。
全員は助けられないが、一人でも救う事に意味はある筈だ。
「そうだな。俺もオーブなら大丈夫だと思う」
レイも頷いた。
てっきりデュランダル議長に引き渡して政治宣伝に使うべきだと言うかと思ったニコルはレイを見直す。
いつも冷静で的確な判断をするレイも、けして冷たい人間ではない。
ニコルはそんなレイを見て、自分もそうなりたいと思っていた。
ただ違う点はニコルは人を信じ過ぎるきらいがあり、レイは人に厳しくあるべきと信じている事だろう。
「私は……」
皆の視線がアグネスに集まるが、アグネスはニコルしか見ていなかった。
そんなアグネスにニコルは真剣な表情で頷く。
アグネスは口元だけで微笑む。
「貸しひとつね」
「ええ。必ず返しますよ」
ニコルの言葉にアグネスが嬉しそうに答える。
「私も同意するわ」
アグネスの同意で話は決まった。
全員がアスランの顔を見た。
「わかった。俺たちでこの子達を守ろう」
アスランはエルミナ、サリナ、リュシエの三人の前に立つ。
屈んで彼女達の顔を見た。
「俺たちは君たちを虐げたりしない。仲間が君たちを待っているんだ」
アスランの言葉に、サリナは不安気に瞳を泳がせて、エルミナは笑ったままアスランを見ていた。
リュシエの瞳には何の感情もなかった。
「ステラの仲間、優しいよ」
ステラがリュシエの前に屈んでそう言った。
「マユも一緒だから安心して。きっと仲良くなれるよ」
マユもリュシエと握手して、安心させようと努力していた。
年齢の近いマユが一番友達に近いだろうか。
「でもどうしましょう。このままだと脱出できませんよ」
ニコルの疑問にアスランは頷いて空を指さした。
その先に大気圏降下してくるドミニオンが見える。
「ベルリン救援って名目で来てもらった。ベルリン市には話を付けてある。救難活動のどさくさに紛れてこの子達を保護する」
「いつもながら手際がいいですね」
ニコルの苦笑いに、アスランは照れくさそうに頭を下げた。
「俺もシンと同じ気持ちなんだ。こんな世界は間違ってると思う」
アスランは全員と別れ、ミネルバに戻るシン達を見送る。
本当なら再会を喜び合いたいが、アスラン達がここにいる事は秘密だった。
最後にマユがニコルに振り向く。
その瞳はとても強い意志を秘めていた。
「マユは我慢する。だから無事に帰ってきて」
「………マユ」
マユはニコルの胸に飛び込みたい衝動を必死にこらえ、ニコルはマユを抱きしめたい想いに耐えた。
今はまだだめだ。
ギルバート・デュランダルの企みを掴むまでは。
この後はドミニオンの医療班に任せて、ハーバーコロニーに運ぶ手筈になっている。
オーブ軍のマークが入った輸送ヘリに彼女達が乗る。
彼女達を見ているイリーナを見つけて、アスランは敬礼する。
ブルーコスモスのイリーナも敬礼してアスランに返した。
コーディネイターのアスランにではなく、サリナ達を助けてくれたアスランに感謝の礼。
彼女が三人を想う気持ちが伝わってきて、アスランは何も言えなかった。
イリーナ自身はベルリン市の捕虜になる事を選択した。
上官の命令とはいえ、これだけの大虐殺を行った罪から逃げるつもりはない。
懲役か死刑か。
「エルミナ、サリナ、リュシエ……幸せになってね」
輸送ヘリが飛び立ち、イリーナはそれをずっと見送っていた。
やがて機影はドミニオン甲板に消え、ベルリンの空には再び重い静寂が戻る。
焦げた街の匂いの中で、イリーナは一度だけ静かに目を閉じた。
――これで、いい。
誰に聞かせるでもない小さな吐息が、戦いの終わった空気に溶けていった。
次回予告
新たな宣言は、ミネルバの空気を静かに張り詰めさせた。
映し出された現実に、誰も軽く受け止めることができない。
遠く離れた場所でも、それぞれの胸に別の波紋が広がっていく。
食堂では、理想と現実を巡る議論が静かに火花を散らした。
守りたい想いと、見据えるべき現実が交錯していく。
誰の言葉も完全には否定できず、答えは宙に浮いたままだ。
やがて艦は次の目的地へ向かい、思考だけが取り残される。
それでも彼らは、それぞれの“正しさ”を胸に前へ進もうとしていた。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第百二十六話 宣戦の余波――正しさの先で、誰を救うのか――