機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百三十一話 支えたくなる理由――彼女が変わった、その日――

 第百三十一話 支えたくなる理由――彼女が変わった、その日――

 

 ミネルバ艦内のメカニッククルーを中心にささやかな変化が噂になっていた。

 アグネスの態度が最近柔らかになってきたのだ。

 ヴィーノのように単純に見る者には、いつも通り優しく丁寧で礼儀正しいと見える。

 

 格納庫には重機の低い駆動音が響き、金属を叩く乾いた音が反響している。

 オイルと焼けた金属の匂いが混ざり合い、空気はどこか重たい。

 その中で、わずかな“違和感”だけが静かに浮いていた。

 

 「最近アグネス変わったよな」

 

 相方のヨウランが格納庫内で作業しながら呟く。

 

 「そうか?俺にはいつも通りに見えるけどな」

 

 ヴィーノは配線のチェックを続けながら答える。

 だがヨウランは手を止めずに、ちらりと視線だけを向けた。

 

 アグネスは腕を組んだまま、エグゼキューターを見上げていた。

 高くそびえる機体の影が彼女を覆い、その輪郭を際立たせている。

 その表情は使命感と自信に満ち溢れている。

 

 「化粧、薄くなった気がしないか?」

 

 ヨウランの指摘通り、最近のアグネスは化粧が少し薄くなった。

 正確に言えば、誰かの好みに寄せている。

 

 ニコルの隣にいるのは、化粧など似合わない少女だった。

 

 

 ──ああいうのが、好きなんでしょ。

 

 

 口に出したことはない。

 けれど、そういう人なのだと思った。

 

 ほんのわずかな変化。

 誰にも気づかれなくてもいい。

 それでも、ほんの少しだけ近づけるのなら。

 

 それに自分を身構えなくてもいい。

 そんな事をしなくてもニコルは見てくれる。

 あの戦場でもそうだったように、求めなくても、見てくれていた。

 

 『よく支えてくれたね、ありがとう』

 

 あの一言が全てを表していた。

 

 爆炎と煙に包まれたベルリンの空。

 通信は乱れ、視界は歪み、機体の警告音が鳴り響く中で。

 それでもあの声だけは、はっきりと届いた。

 

 危機的状況で二機の巨大MAに挑んだのが時間稼ぎだと即座に見抜き、全体の指揮を取りながら限界を迎える寸前に助けてくれた。

 

 見ていた。

 ちゃんと、見ていた。

 

 それだけでよかった。

 

 今まではただの男女の仲になれば満足だったが今は違う。

 隣に立ちたい。

 

 ただ守られるだけじゃなく。

 

 同じ景色を見られる場所に。

 

 アグネスは内心で小さく笑う。

 

 その思いが、今の彼女を支えていた。

 機体の装甲に映る自分の姿が、ほんの少しだけ違って見える。

 

 「お疲れさん、アグネス」

 

 整備長のマッド・エイブスが労いの声をかける。

 その声には、わずかに探るような響きがあった。

 

 普段通り彼女はにっこりと笑って答える。

 

 「お疲れ様です。私の為に皆さんありがとう」

 

 丁寧な口調。

 どこか落ち着いた物腰。

 だがその奥に、以前にはなかった柔らかさが混じっている。

 

 マッドは驚いた顔をしてから、目元を緩めて言った。

 

 「こりゃまた随分とお淑やかになったな」

 

 「ふふ、そう見えます?」

 

 アグネスはわざとらしく首を傾げ、上目遣いでマッドを見上げる。

 だがその仕草に、以前のような媚びはない。

 

 「ニコルに言われたんですよ。機体だけでなくメカニックにも感謝して下さいって」

 

 「ほう?」

 

 「こんなに頑張ってくれてるメカニックの皆さんにお礼を言わないのはいけないと思って」

 

 そう言って、アグネスは改めてクルー達の方へ向き直り、にこやかに告げた。

 その笑顔は、以前より少しだけ柔らかかった。

 

 「いつもありがとうございます。これからも宜しくお願いします」

 

 その言葉は軽くない。

 整備員たちの手の汚れも、疲れも、きちんと見た上での言葉だった。

 

 ヨウランもヴィーノも呆然と彼女を見ていた。

 

 「本当に変わったよな。俺ああいう奴好きかも」

 

 「何言ってんだヨウラン、アグネスは俺の事が好きなんだって」

 

 「……お前本気で言ってる?それに俺が好きっていうのは恋愛系じゃないの。応援したくなるよなって意味」

 

 ヨウランにとってアグネスは本心を見せないパイロットで、

 パイロットにそういう人種は多い。

 

 だが今の笑顔は違う。

 あれは作ったものではない。

 

 「まあ、アグネスも色々あるんだろうさ」

 

 マッドは肩を竦めた。

 

 アグネスの本性がマッドには分かっている。

 

 ただ、今までと違い本当にメカニックに感謝の念を抱いている。

 それが“演技ではない”ことも。

 

 ——ニコル、か。

 

 あの男は、人を見る。

 表面ではなく、その奥を。

 

 マッドの脳裏に、ベルリンでの戦闘映像が浮かんだ。

 炎の中で並び立つ二機の機体。

 互いの動きを読み、補い合うような連携。

 

 あれは偶然じゃない。

 

 「でもあれだな、ニコルには感謝しないとな」

 

 「なんで?」

 

 「アグネスは変わった。そして俺たちメカニックに心を許してる。これはチャンスだぜ」

 

 その言葉にヨウランも頷く。

 

 「それに、あいつらが一緒の方がアグネスは絶対に伸びると思うんだ」

 

 マッドはアグネスの背中を眺めながら、満足げに言った。

 彼女はもう、ただのパイロットではない。

 

 「ああいう子は、支えたいと思わせる才能があるよな」

 

 ヨウランも、アグネスの横顔をちらりと見た。

 

 「支えるか……」

 

 ヴィーノはぼそりと呟く。

 

 「俺、前よりアグネスのこと、好きかも」

 

 「馬鹿かお前は。恋愛とか言ってんじゃねえよ」

 

 「ちげーし!そういうんじゃなくて……なんか、守りたくなる的な?」

 

 「お前の場合守るどころか守られそうだがな」

 

 ヨウランは肩を震わせて笑った。

 

 「まあ、俺たちはメカニックとして支えるしかねえよ」

 

 マッドが静かに言い、工具箱を持ち上げる。

 金属同士が触れ合う乾いた音が、格納庫に響いた。

 

 

 「早速聞きたいのですが。この可変機構について」

 

 アグネスがマッドに質問しようとした時、ヴィーノが割り込んだ。

 

 「待って待って、俺その辺詳しいからさ」

 

 アグネスの機体という事もあって、メカニックの中ではヴィーノが一番詳しい。

 なんだかんだ言って、ヴィーノも優秀なメカニックなのだ。

 

 いささか動機は不純だが。

 

 「敵に塩送ってるみたいなものだよな」

 

 そう言いながら、一生懸命に受け答えしているヴィーノを見てヨウランは吹き出す。

 

 誠意は見せて貰った。

 ならアグネスの期待に応えよう。

 

 その視線の先で、アグネスは機体を見上げていた。

 

 整備された装甲に、彼女の姿が小さく映る。

 

 そこに映る自分は、少しだけ違って見えた。

 

 もう、ただ守られるだけの自分ではない。

 

 同じ景色を見るために――

 自分の足で立つと決めたのだ。

 

 格納庫の天井灯が白く機体を照らす。

 その光の中で、彼女の影はまっすぐに伸びていた。

 

 その横顔は、確かに変わっていた。

 

 

 次回予告

 

 ――戦場に立つ理由は、人それぞれ違う。

 

 前へ進む者。

 支え、導く者。

 

 そのすべてが重なり、ひとつの力になる。

 

 熱に流されるな。

 その背中は、独りではないのだから。

 

 守るべきものは、ただ一つではない。

 

 誰かを信じることで、戦いは変わる。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第百三十二話 支える者の戦場――その背中は、私が守る――

 

 ――その連携が、運命を切り拓く。

 

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