機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百三十二話 支える者の戦場――その背中は、私が守る――
ジブラルタルを出航したミネルバは、終結していた反ロゴス同盟軍とともに、ロゴスが立てこもるヘブンズベース基地のあるアイスランド沖に布陣する。
昨日まで敵と一緒に戦う事にシンは戸惑うが、逆に高揚もしていた。
この戦いが終わればロゴスを滅ぼし戦争は終わる。
そんな保証は無いとアグネスなら一笑に付すだろう。
だがシンの目の前には大小の艦船が堂々と布陣をし、まさに鉄壁の威容。
これだけの人がロゴスを憎んでいる。
ベルリンで助けた少女達のような悲劇を繰り返さないように願っている。
「シン、ちょっと危険よ」
「何がだよルナ?」
「気分が昂りすぎって事。感情に飲まれたら死ぬわよ」
ルナマリアはシンが素直に感動している事を危ぶんでいた。
調子が良い時ほど撃墜されやすい。
パイロットの勘がそう告げていた。
今のシンは危険だ。
「いつでも冷静でいないと死ぬわよ。私はシンをステラの所に送り届ける責任があるからね」
「わかってる。ベルリンでニコルに教えて貰った。頭を空っぽにして目の前の敵に集中するんだよな」
「頭は冷静で、身体を熱くしていく……でしょ?」
「ああ」
「ならいいけど。シンなら大丈夫よね」
ルナマリアは自分に言い聞かせるように小さく笑った。
その瞳に浮かぶのは、確かな信頼と不安。
戦場に生きる者だけが知る、その矛盾した感情だった。
シンは頷いたが、その胸には奇妙な感覚が渦巻いていた。
高揚しているのは本当だ。
だが、それだけではない。
――戦いが終わったら、ステラのところに戻れる。
その思いが、彼の中で静かに膨らんでいく。
ベルリン以来、一度も彼女には会えていない。
それでも、確かな約束がある。
――必ず迎えに行く。
そう伝えあった夜。
マユと三人で交わした誓い。
それが、今のシンを支えている。
デュランダルは言っていた。
――これはロゴスとの最終決戦だ。
つまり、これが終われば戦争も終わる。
ミネルバがオーブに向かえば、そのままステラを迎えに行けるはずだ。
(あいつ、今頃何してるんだろうな)
ふとそう思い、ステラの笑顔を思い出す。
それだけでシンは心が穏やかになっていくのを感じた。
◇◇◇
それは開戦通告時間より2時間も前の事だった。
「ヘブンズベースよりミサイル多数!!」
「まだ回答時間はあるっていうのに。迎撃!!MS部隊は全機発艦!!アンチミサイル発射!!」
タリア艦長の命令と同時にミネルバはコンディションレッドを発令。
戦闘は開始された。
「シン・アスカ!DESTINY行きます!」
発進シークエンスと同時にシンのDESTINYガンダムが発進する。
続いてルナマリアのヴェルキュリア、レイのレジェンド、アグネスのエグゼキューターが発進。
最後に巨大MSリジェネレイトの正統後継者、リジェネレイトMarkⅡがパーツごとに発進し空中で合体した。
「やっぱすげえでかさだよな」
「本当ね、ベルリンの時の相手と同じくらいあるんじゃない?」
シンとルナマリアがリジェネレイトを見て感想を漏らす。
その時だった。
「来るぞ!」
シンの叫び声と同時に爆発が起こる。
その爆発を切り裂いてMSが多数出現。
ミネルバの至近距離まで接近して砲火を浴びせてくる。
「クソッ!こいつ等ビームを反射してるぞ!!」
シンの叫びと同時に各機一斉に射撃を停止。
かつて苦戦したMAザムザザーが複数機襲い掛かってきた。
彼らには至近距離での接近戦しか効果がない。
「シン、アグネスは前衛。ルナマリアは空中から支援。レイは中距離、僕は遠距離攻撃を行う」
ニコルの指示でシン達はフォーメーションを組む。
シンのDESTINYがザムザザーを対艦刀で切り裂き、アグネスのエグゼキューターがビーム薙刀で突破し暴れまわった。
「今までならこんな戦い出来ないけど」
シン以上に深入りしていると思わせるアグネスだったが、死角から 迫ってきたウィンダムをニコルのリジェネレイトがロングビームライフルで撃墜する。
「私には背中を預けられる人がいるのよ!」
絶好調のシンとアグネスに押し破られる。
上下から迫る敵機はルナマリアのヴェルキュリアがビームライフルとスピードで撃ち落とし、レイのレジェンドがドラグーンを展開し対処した。
ニコルはドラグーンではなくロングビームライフルでの遠距離支援に徹している。
先の大戦では一兵士だったからがむしゃらに戦えたが、今のニコルは指揮官だ。
何よりチームワークを重視しないといけない。
ザムザザーの装甲が爆ぜる。
対艦刀が深く食い込み、内部構造を断ち切った瞬間、火花とともに機体が崩れ落ちた。
「次!」
シンは迷わず次の標的へ加速する。
デスティニーの推進器が唸りを上げ、残光のように戦場を駆け抜けた。
速い。
速すぎる。
(――行ける!)
今なら、全部叩き潰せる。
そう思った瞬間だった。
警告音が鋭く鳴り響く。
「シン!!後ろ――!」
ルナマリアの声が通信に割り込む。
だが、反応が一瞬遅れた。
死角。
ザムザザーの残骸の陰から、ウィンダムが二機。
至近距離から一斉射撃。
回避機動に入るには、間に合わない距離だった。
(やば――)
次の瞬間。
閃光が横から走った。
高速で割り込んできた赤い影が、シンの機体と敵の射線の間に滑り込む。
「遅いのよ!」
ヴァルキュリアガンダム。
ルナマリアの機体が、ほとんど機体を捻じ込むようにして割り込み、ビームを弾きながら回避する。
同時に、反撃。
至近距離からの一射。
ウィンダムのコックピットを正確に撃ち抜いた。
もう一機は、旋回しながら距離を取る。
だが、その逃げ道を塞ぐように――
「逃がさない」
低い声。
レジェンドのドラグーンが展開し、四方からビームが収束する。
回避する余地はなかった。
爆発。
戦場に、わずかな空白が生まれる。
その中で、シンは一瞬だけ呼吸を整えた。
(……今の、完全に見えてなかった)
さっきまでの高揚が、ほんの少しだけ冷える。
「言ったでしょ」
ルナマリアの声が、少しだけ低く響く。
「調子がいい時ほど危ないの」
「……悪い」
素直に言葉が出た。
悔しさはある。
だが、それ以上に――
助かった。
その事実が、胸の奥に残っていた。
「謝る暇があるなら、次に集中しなさい」
だがその言葉は、叱責ではなかった。
支える者の声だ。
「シンは前でいい。無理はしないで、私が見てる」
その一言に、余計な熱が抜ける。
「……ああ」
短く応じる。
視界の中で、敵影が再び増えていく。
ザムザザー、ウィンダム、さらに後方からの増援。
だが今は違う。
一人で突っ込む必要はない。
「行くぞ!」
再加速。
今度は無茶ではない。
ルナの位置を意識し、レイの射線を外し、ニコルの支援範囲の中で動く。
その動きに、無駄はなかった。
上空からのビームが、寸分違わず敵の回避ルートを潰す。
ドラグーンが逃げ道を封じる。
遠距離からの一撃が、死角を消す。
その中心で、シンの刃が振るわれた。
「これなら――!」
確信に変わる。
(戦える……!)
一人じゃない。
それが、これほど違うとは思わなかった。
その少し後方で、アグネスはその連携を見ていた。
(……いいじゃない)
口元が、わずかに上がる。
「私も混ぜなさいよ」
エグゼキューターが加速する。
その動きは、以前のような無理な突撃ではない。
シンとルナの動きの隙間を縫うように入り込み、
確実に一機を仕留めた。
「ナイス」
短くニコルの声が入る。
それだけで十分だった。
(……見てる)
あの時と同じだ。
ニコルはちゃんと、私を見ている。
だから――
「次、行くわよ!」
エグゼキューターが再び前へ出る。
その背後には、確かな支えがあった。
戦場の中で、隊の動きがひとつにまとまっていく。
ただの寄せ集めではない。
互いを知り、互いを活かす動き。
それは、これまで積み重ねてきた時間の証だった。
次回予告
――引き金の先にあるのは、ただの敵ではなかった。
守るべきものと、撃つべき相手。
その境界は、あまりにも曖昧で。
ためらいは、命を奪う。
だが――迷いなき引き金もまた、何かを壊す。
それでも選ばなければならない。
救うために戦うという、矛盾の中で。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第百三十三話 引き金の向こう側――守るべき命がある――
――その決断が、戦場を変える。