機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百四十九話 選べる者と、選べない者――それでも人は選び続ける――  

 第百四十九話 選べる者と、選べない者――それでも人は選び続ける――

 

 オーブにあるキラたちの家では、カガリとラクスがキラとアスランとNo.54126の出迎え準備を整えていた。

 料理担当はキラの母親カリダ・ヤマトとラクスだ。

 窓の外には南国らしい濃い緑が揺れ、夕方の柔らかな光が白い壁と木の床に落ちている。

 食卓には湯気の立つ料理が並び、香ばしい匂いとスパイスの香りが部屋いっぱいに広がっていた。

 戦場帰りの者を迎えるには、少し眩しすぎるほど穏やかな光景だった。

 

 「ただいまラクス」

 

 「ただいまカガリ」

 

 「……」

 

 三者三様の言葉で帰宅すると、キラとラクス、アスランとカガリ、そしてカリダがNo.54126を抱きしめる。

 

 「三人とも無事でよかった。食事にしよう」

 

 そう言ってカガリが声をかける。

 皆が客間に集まると、No.54126がいつもの冷静な外見に興味の色を交えた瞳でカガリとラクスとカリダを見つめる。

 遺伝子上の叔母と姉、そして義理の姉。

 知識では知っているが、同性の自分の血縁というのはやはり慣れないものらしい。

 

 「えっとNo.54126では呼びにくいな。ちゃんとした名前をつけないと」

 

 カガリの提案にNo.54126は答える。

 

 「ナンバーちゃん」

 

 「……は?」

 

 「ステラはナンバーちゃんと呼ぶ。だからナンバーちゃんでいい」

 

 「いや、さすがにそれは安直すぎるというか。まあいい、ナンバー(仮名)。私はお前の姉のカガリ・ユラ・アスハだ」

 

 そう言ってカガリが挨拶する。

 

 「ナンバーさん初めまして。私はラクス・クライン。将来キラの妻となります。ナンバーさんにとって義理の姉ですわ」

 

 「ナンバーちゃん初めまして。私はナンバーちゃんのお母さんの妹、叔母のカリダ・ヤマトです。よろしくね」

 

 「姉、義姉、叔母。了解した」

 

 ナンバーの答えに皆、苦笑いをする。

 前もって聞いていたが、いかにも機能的な答えだった。

 食事は豪華なものだったが、ナンバーには不思議なものだった。

 その戸惑いをラクスは察知する。

 

 「お口に合いませんでしたか?」

 

 「……とても美味しい。だが量が多いし、栄養バランスも偏っている。非効率」

 

 確かにキラの好物の空揚げや、アスランの好物のロールキャベツが多い気がする。

 ロールキャベツはカリダに教わったカガリ手製で、カリダには及ばないが十分美味しいものだった。

 

 「確かに非効率かもしれませんが、これは歓迎の意味ですし、余った料理は後日温め直して食べられますわ」

 

 「……了解した」

 

 そう言ってナンバーは白身魚のフライを食べる。

 気に入ったようで、無表情な顔はそのままだが、どこか嬉しそうではある。

 そのぎこちなさがカガリたちには微笑ましい。

 

 食後、リビングでデスティニープランへの対策が話し合われる。

 窓の外はすでに薄闇に沈み、庭木の影が室内の明かりに揺れていた。

 卓上のランプが作る丸い光の中で、紅茶の湯気だけが静かに立ちのぼる。

 穏やかな家の空気のままでは済まない話だと、誰もが分かっていた。

 ナンバーにとっては今さらという気がしてならない。

 正しいことをわざわざ話し合うなど、非効率だからだ。

 

 「オーブとしては断固拒否するつもりだ。オーブは自由を貴ぶ。誰にも屈服も支配もされない」

 

 「……その自由で、どれだけの人が死んだの?」

 

 ナンバーの問いにカガリは黙る。 

 言葉は鋭くもなく、責めるようでもない。

 ただ事実だけを突きつけてくる。

 それが余計に痛かった。

 

 自由のためなら多少の犠牲はやむを得ないと言い切れるほど、カガリは政治家ではなかった。

 

 「……貴女が自由を主張するなら、デスティニープランを受け入れたほうがいい」

 

 「なぜだ?」

 

 「……デスティニープランは自由からの解放。自由というあやふやなものが、本当の自由を奪っている。自由、戦争、テロ。すべて自由を求めるから起こる」

 

 淡々とした声だった。

 だからこそ、そこに悪意は感じられない。

 

 カガリとナンバーの会話をキラとアスランは黙って聞いている。

 二人ともナンバーが決して悪人ではないと知っているからだ。

 それに、皆でナンバーを否定しても問題は解決しない。

 カガリにもラクスにも、デスティニープランのことを正面から考えてほしかった。

 

 「わたくしはナンバーさんの言っていることも正しいと思いますわ」

 

 そう言ってラクスが紅茶の入ったティーカップを置いた。

 琥珀色の紅茶が揺れるさまは、デスティニープランの論争に揺れる世界を表しているようだ。

 事実、世論では盛んな議論が巻き起こっていた。

 ほとんどが罵詈雑言だったが、概ね支持派と非支持派に分かれている。

 そして戦争の被害者は支持派に傾いていた。

 皆、戦争が起こらないなら。

 その願いに世論は傾いていた。

 

 「争いは嫌だ、苦しむ前に役割を決めてしまおう。それはとても合理的ですものね」

 

 ラクスの言葉にナンバーは頷いた。

 ちゃんと意味を理解しているようだ。

 

 「ですが、それは生きることではありません」

 

 ナンバーの瞳が揺れる。

 キラには、それが単なる反発ではなく、ちゃんと意味を考えようとしている揺れだと分かった。 

 

 「生きるとは、間違うことも含めて選ぶことですわ。たとえ苦しくても選ぶ」

 

 「──それが人ですわ」

 

 ラクスの言葉にナンバーはまっすぐラクスを見つめる。

 そして口を開いた。

 

 「……それは選べる側の人間の傲慢。ほとんどの人は選べない。選べないまま戦争で殺される」

 

 「──それでも自由を選ぶ? ほとんどの人は自由なんて選べない」

 

 「全員を同じスタートラインに立たせる。それがデスティニープラン」

 

 「姉さんたちは自分で選べる。地位と権力と能力を持っているから」

 

 「でも、ほとんどの人はそれを持っていない」

 

 「あなた達に世界は救えない」

 

 ナンバーの言葉にカガリが反論する。

 

 「それじゃデスティニープランなら救えるというのか?」

 

 「少なくとも自由なんていう不完全なもので、私は救われない。私はデスティニープランそのもの」

 

 「──それは……」

 

 言葉に詰まるカガリ。

 カガリにもデスティニープランの魅力は理解できる。

 確かに争いはなくなるだろう。

 だが、人間は自由を求めずにはいられない生物だ。

 

 「──自由などという不完全なものより、デスティニープランのほうが可能性が高い」

 

 ナンバーは言った。

 それが正解だとナンバーは信じている。

 

 「デスティニープランは誰でも選ばれる世界。あなた達の言う自由は、選ばれなかった人たちにどう責任をとるの?」

 

 「……」

 

 「だから私はデスティニープランが正しい。姉さんのように、選べる人間は少数なの」

 

 ナンバーの言葉に一同沈黙した。

 確かにその通りだ。

 ラクスとカガリは認めざるを得ない。

 

 「……ナンバーさんの言っていることは正しいと思いますわ」

 

 ラクスは静かに認めた。

 否定はしない。

 できない。

 ナンバーの言葉は、あまりにも現実だったからだ。

 

 だが――

 

 「ですが、それでもわたくしはデスティニープランを受け入れません」

 

 はっきりと言い切る。

 ナンバーの瞳がわずかに揺れる。

 

 「なぜ?」

 

 ラクスは少しだけ目を伏せ、そして顔を上げた。

 

 「人が“救われる”ということは」

 

 「ただ苦しまないことではありません」

 

 静かな声だった。

 だが、その言葉はまっすぐだった。

 

 「選ばされることと、選ぶことは違います」

 

 ナンバーは沈黙する。

 

 「たとえ苦しくても」

 

 「たとえ間違っても」

 

 「自分で選ぶこと」

 

 「それを奪われた時、人は“生きている”とは言えませんわ」

 

 カガリが息を呑む。

 ナンバーは、わずかに視線を落とした。

 

 「……非効率」

 

 ぽつりと呟く。

 

 「ええ」

 

 ラクスは微笑んだ。

 

 「とても非効率ですわ」

 

 そして――

 

 「ですが、それが人です」

 

 ナンバーは答えない。

 答えが出ない。

 論理としては理解できる。

 だが、それは自分の中の“正しさ”とは一致しない。

 

 だから――

 

 「……理解できない」

 

 ラクスは頷いた。

 

 「ええ」

 

 「すぐに理解できるものではありません」

 

 「だからこそ、人は悩み続けるのです」

 

 静かな沈黙が落ちる。

 窓の外では風に揺れた葉がかすかに触れ合い、夜の気配がゆっくりと部屋を包みはじめていた。

 誰も、完全な答えを持っていない。

 

 ただ一つだけ、確かなことがあった。

 

 ――それでも、人は選ばなければならない。

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