機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百五十話 選ぶ国家、揺れる少女――それでも人は、自分で決める――  

 第百五十話 選ぶ国家、揺れる少女――それでも人は、自分で決める――

 

 家族の会話の翌日。

 カガリとアスランはオーブ政庁で執務を行う。

 デュランダル議長のデスティニープランに対するオーブの立場を明確にしなくてはならないからだ。

 オーブを支える五大氏族。

 カガリのアスハ家、カガリの補佐官のトーヤのマシマ家、エリスのトキノ家。

 情報省のキオウ家、軍事のサハク家もカガリに賛同している。

 あとは議会工作だけだ。

 

 「……ザフトが地球連合の月基地に向かっている?」

 

 オーブ政庁に戻ったカガリに補佐官のトーヤ・マシマから『メイリンレポート』が届けられる。

 これはミネルバに乗艦しているメイリン・ホーク経由で届けられるニコルからの情報で、デュランダル議長の思想や今後の動きについて纏められたものだ。

 そこにはザフトが地球連合の月基地攻撃が明言されていた。

 

 そのレポートを読んだ瞬間、カガリは頭を抱え、机を思いきり叩く。

 だが、その怒りの奥にあるものを、カガリ自身が一番よく分かっていた。

 執務室に響く音にトーヤは驚きアスランはため息をついた。

 予想はしていたがデュランダル議長の決断は予想より早かった。

 ニコルの情報がなければ手を打つ暇もなかっただろう。

 

 どうあってもデスティニープランに反対する勢力を潰したいようだ。

 その導き出される答えは、従わなければ死をという事だ。

 

 「何が人類救済システムだ!!最初からこうするつもりだったんじゃないか!!」

 

 カガリが執務室で叫ぶ。

 アスランはメイリン・レポートに記されたニコルの言葉を読む。

 

 『どのみちオーブを討つ気です。デュランダル議長の世界にザフト以外の軍事組織は必要ないとデュランダル議長は判断しました』

 

 ニコルの文面には戦わなければオーブは滅ぼされると明言してあった。

 最初から選択肢はなかったのだ。

 

 「……戦うしかないのか」

 

 それは選択ではなかった。

 選ばされた結果だ。

 

 「俺たちが自由意思を守ろうとする限り、デュランダル議長は銃を下ろしはしないだろう」

 

 カガリとアスランは昨夜のナンバーの言葉を思い出す。

 

 “………その自由で、どれだけの人が死んだの?”

 

 否定しようとした言葉は、喉元で止まった。

 違う、と言い切れない。

 だが迷いながらもカガリは決断せざるを得なかった。

 一国の元首として、残酷な決断を。

 

 「──オーブは何物にも屈さず、介入せず、中立を守ってきた」

 

 言葉を選びながら、カガリは続ける。

 

 「それは……人の尊厳を守るためだ」

 

 一拍、間が空く。

 

 「だが──」

 

 視線を上げる。

 

 「その尊厳を守るために、人が死ぬのなら」

 

 「私は、それを“正しい”とは言えない」

 

 トーヤが息を呑む。

 

 アスランは黙って聞いている。

 

 「それでも……」

 

 カガリは拳を握る。

 

 「それでも、選ばなければならないのなら」

 

 「私は、自分の意思で選ぶ」

 

 「──デスティニープランは受け入れない」

 

 「そして」

 

 一歩踏み出すように言い切る。

 

 「そのために戦う」

 

 アスランとトーヤが頷いた。

 二人は予想されていた事態に対処するプランにそって準備を始める。

 

 オーブは戦いを欲しない。

 自由と尊厳を欲する。

 

 ◇◇◇

 

 オーブの海に面した邸宅で、マリュー、バルトフェルド、ムウがオーブ政庁のカガリから連絡を受けた。

 三人は頷いて通信を切る。

 

 アークエンジェル、エターナル、MS隊の指揮官はカップに入ったコーヒーを手にため息をつく。

 その三人に笑みながらバルトフェルド夫人となったアイシャがお代わりのコーヒーを注ぐ。

 

 「やっぱりこうなりましたネ」

 

 「やっぱりこうなったわね」

 

 マリューとアイシャが同時に発言すると、二人とも苦笑いした。

 オーブの理念でデスティニープランの受け入れは不可能だからだ。

 

 「僕は君とコーヒーブレンドして余生を過ごしたかったんだがね」

 

 「私もヨ。本当ならついていきたいけど」

 

 そういってアイシャが自分の少し膨らんだお腹をさする。

 そこにはバルトフェルドとの間に授かった命が宿っていた。

 

 「この子に“管理された”平和な世界なんて嫌ヨ」

 

 「だが戦争はなくなるかもしれないぞ」

 

 バルトフェルドが沈痛な面持ちで呟く。

 父親になる男にとって平和な世界を子供に残したいというのは本音だろう。

 だが母親はそれを拒絶する。

 

 「尊厳のない世界なんて、この子に残したくないワ」

 

 「……まったく君にはかなわないな」

 

 ふふ、とほほ笑むアイシャ。

 その二人を見てマリューもほほ笑む。

 

 「デスティニープランのもたらす平和は牢獄。それをオーブも私も拒否するわ」

 

 「だな。最初から決められた未来になんて従えるはずがない」

 

 マリューの言葉にムウは頷く。

 

 「それに俺だって戦うなら自由なほうがいい」

 

 ムウのそういうところが好きよとマリューは苦笑いした。

 

 「……では決まりですネ」

 

 アイシャが静かにカップを置く。

 

 「アークエンジェルはドミニオン、エターナルとともにオーブ艦隊と合流。デスティニープランに武力で抵抗します」

 

 マリューの言葉にムウとバルトフェルドは頷く。

 アイシャもコーヒーを啜る。

 コーヒーの香りが四人の鼻孔をくすぐる。

 コーヒーの苦みと酸味が鼻孔をくすぐる。

 それは平和の香り。

 

 これから始まる戦いの前には、それが最後の贅沢かもしれないと四人は感じていた。

 

 ◇◇◇

 

 キラとラクスも準備を始めた。

 人の尊厳を守る戦いに赴くために。

 その二人を見つめるナンバー。

 

 「……どうして運命を受け入れないの?」

 

 「それは、私たちが望むものではないからですわ」

 

 ラクスの言葉にナンバーは首を振る。

 以前なら理解できなかったが、彼女たちは自分とは違う。

 

 ……なら自分はどうすればいいのだろう。

 

 「ナンバー。君はどうするの?このまま運命を受け入れる?」

 

 キラの問いにナンバーは即答できなかった。

 以前なら迷うことなど何もなかった。

 デスティニープランに疑問点などなかったからだ。 

 だが今は疑問を感じてしまった。

 

 「迷ってもいいのです」

 

 慈母のような声でラクスが語り掛ける。

 

 「悩んで、それで選べばよいのです」

 

 ラクスの言葉にナンバーは揺れていた。

 デスティニープランが本当に正しいのかどうか。

 それを自分の目で確かめたかった。

 

 「……デスティニープランは正しい」

 

 ナンバーの呟きにラクスは頷く。

 否定はしない。

 ただ言葉を受け入れる。

 

 「……その他の答えは非効率」

 

 「でも──今は非効率な答えを見てみたい」

 

 そう告げたナンバーをラクスは優しく抱きしめる。

 

 「一緒に見に行きますか?」

 

 ラクスの言葉に、ナンバーはすぐには答えなかった。

 

 迷っている。

 

 これまでならありえなかった反応だ。

 

 正しい答えは、最初から決まっていたはずだった。

 

 「……わからない」

 

 ぽつりと、そう呟く。

 

 その声は小さく、かすかに揺れていた。

 

 キラが何か言おうとするが――ラクスが静かに手で制した。

 

 「それでよろしいのですわ」

 

 やわらかな声だった。

 

 否定も、肯定もしない。

 

 ただ、受け入れる。

 

 ナンバーは顔を上げる。

 

 「……わからないままでも、いいの?」

 

 「ええ」

 

 ラクスは微笑む。

 

 「人は、最初から正しい答えを持っているわけではありませんもの」

 

 一歩、ナンバーに近づく。

 

 「悩んで、迷って――それでも進む」

 

 「それが“生きる”ということですわ」

 

 ナンバーの瞳が揺れる。

 

 その意味を、まだ完全には理解できない。

 

 だが――

 

 「……非効率」

 

 「ええ」

 

 ラクスは頷いた。

 

 「とても非効率ですわ」

 

 そして、そっと手を取る。

 

 「ですが、それでも」

 

 「人は、その非効率の中でしか、前に進めませんの」

 

 ナンバーは黙ったまま、その手を見つめる。

 

 温かい。

 

 理解できない感覚だった。

 

 だが、拒絶もできなかった。

 

 「……なら」

 

 言葉を探すように、ゆっくりと口を開く。

 

 「……見てみる」

 

 それが答えかどうかは分からない。

 

 だが、それでも。

 

 ラクスは小さく頷いた。

 

 「ええ。一緒に参りましょう」

 

 窓の外では、オーブの海が穏やかに揺れている。

 

 その静けさの向こうで、

 

 世界はすでに動き始めていた。

 

 ――選ぶ時は、もうすぐそこまで来ている。

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