機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百五十三話 見えない核心――守られている理由――

 第百五十三話 見えない核心――守られている理由――

 

 地球連合の月艦隊が出撃した。

 先の大戦でジェネシスの射程内に入りながら、発射直前にジェネシス爆発で難を逃れたため、その戦力はプラントを凌ぐ。

 ザフトの前衛艦隊、地球連合双方からMSが発進し激しい戦闘が開始された。

 

 漆黒の宇宙に、無数の推進光が走る。

 月面近傍の宙域は静寂の世界であるはずなのに、今は爆発の閃光とビームの残光が絶え間なく瞬き、巨大な艦隊同士がぶつかり合うたびに戦場全体が脈打つように明滅していた。

 艦艇の姿勢制御噴射が白い尾を引き、発進したMSの編隊がその間を縫うように駆け抜けていく。

 戦場はすでに広がりきっており、どこを見ても敵か味方の機影があった。

 

 「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令、当艦はこれより戦闘に入ります。MS隊は直ちに発進。繰り返します、コンディションレッド発令」

 

 ミネルバ艦内にメイリン・ホークの通信が響く。

 

 シンはデスティニープランの実行に戸惑う。

 あんなのは間違えてる。

 そう思いながらも兵士である自分は戦うしかない。

 もしこの戦いに負ければ、プラントは地球連合によって滅ぼされるだろう。

 それだけは認められなかった。

 

 「シン・アスカ。デスティニー行きます」

 

 カタパルトからデスティニーを発進させたあと、ルナマリアのヴァルキュリアが発進する。

 

 「ルナマリア・ホーク。ヴァルキュリア行くわよ!」

 

 続けてレイのエグゼキューター、アグネスのレジェンド、ニコルのリジェネレイトMK2が発進した。

 五機は一筋の矢のように地球連合のMS部隊に襲い掛かる。

 

 「でりゃあああ!!」

 

 デスティニーの対艦刀がうなりを上げ、MAユークリッドを一撃で切り裂く。

 返す刀で背後に迫るダガーに蹴りを入れ、そのダガーをヴァルキュリアのビームライフルが貫いた。

 直後に爆発。

 シンとルナマリアのコンビネーションは完璧だ。

 

 切り裂かれたユークリッドの残骸が、火花を散らしながらゆっくりと崩れていく。

 装甲板がねじれ、内部フレームがむき出しになったまま宇宙へ放り出され、その破片群の合間をデスティニーが突き抜ける。

 爆発の光が一瞬だけコクピットを白く染め、次の瞬間にはまた暗い戦場へと戻された。

 

 シンが突入し、隊列が乱れた敵を、ルナマリアが仕留めていく。

 

 だがシンの気持ちは晴れなかった。

 ベルリンで知り合った地球連合のパイロット。

 一緒にステーキを食べたような気の合う人物が乗っていた可能性もあるのだ。

 

 「くそっ」

 

 思わず毒づくが、戦場は待ってはくれない。

 敵も味方も必至だ。

 MSの中に人間が乗っているなど考える余裕はない。

 

 「前に出すぎよシン!」

 

 ルナマリアの声が飛ぶ。

 ヴァルキュリアが援護射撃を放ち、シンの背後に迫っていた敵機を撃ち落とす。

 

 「分かってる!」

 

 反射的に返す。

 だが、その声にも迷いが混じる。

 

 デスティニーの機体が激しく揺れる。

 爆発の衝撃波が装甲を叩き、警告音がコクピットに鳴り響く。

 視界の端で、破壊された機体の残骸がゆっくりと漂っていた。

 無重力の空間では、破片一つひとつが鈍い光を反射しながら、終わりのない軌道を描く。

 その中に――人が乗っていたかもしれないという想像が、頭をよぎる。

 

 さらに眼前では、敵味方の識別灯が複雑に入り乱れ、わずかな判断の遅れすら死に直結する距離でビームが交差していた。

 右方で味方艦のCIWSが火線を引き、左方では撃墜されたMSが白い破片を引きずりながら回転していく。

 静かな宇宙のはずなのに、コクピットの中では警報と通信音と自分の荒い呼吸が耳を満たし、息苦しいほどだった。

 

 「……敵機、増援」

 

 ニコルの冷静な声が通信に乗る。

 

 リジェネレイトMK2が後方からカバーに入る。

 

 「二時方向。数、六」

 

 レーダーに新たな光点が灯る。

 それは瞬く間に接近し、編隊を組んだまま一直線に突っ込んでくる。

 統制の取れた動き――練度の高い部隊だった。

 

 先頭機がわずかに散開の合図を送り、後続が呼応して扇状に広がる。

 包囲の意図が見える動きだった。

 ただ突っ込んでくるだけではない。こちらの進行方向と退避経路の両方を読み、逃がさず削るための陣形。

 シンは思わず舌打ちする。

 

 「ここで踏みとどまろう」

 

 ニコルが静かに続ける。

 

 「この戦線を崩さなければ、意味はある」

 

 「……意味?」

 

 シンが眉をひそめる。

 

 「後方への圧力を維持できる」

 

 わずかに言葉を選ぶ間。

 

 「それだけで十分だ」

 

 短く言い切る。

 

 ニコルの言葉に、シンはすぐには返さなかった。

 

 機体を翻しながら、迫る敵機にビームを放つ。

 撃ち落とす。

 だが、意識の一部はその言葉に引っかかっていた。

 

 「……なんだよ、それ」

 

 小さく吐き捨てる。

 

 「“意味がある”って……何のだよ」

 

 さらに加速し、敵編隊に切り込む。

 

 「俺たちは勝つために戦ってるんだろ!」

 

 対艦刀を振り抜き、敵機を両断する。

 

 「それとも――」

 

 一瞬だけ言葉が止まる。

 

 「……別の何かのために戦ってるっていうのかよ」

 

 通信の向こうで、わずかな沈黙が落ちた。 

 

 「……シン」

 

 ニコルが静かに呼ぶ。

 

 「今は、戦ってくれ」

 

 ニコルはそれ以上は何も言わなかった。

 

 レイのエグゼキューターが即座に反応する。

 高出力ビームライフルがシンに接近するMSを次々と撃ち落としていく。

 その動きに、一切の迷いはなかった。

 

 閃光。

 一拍遅れて爆発。

 その繰り返し。

 

 まるで作業のように、敵機が消えていく。

 

 レイの機体はほとんど揺れない。

 照準、発射、撃墜確認、次目標への移行。

 その一連の動きは滑らかで、敵味方の混線したこの距離ですら寸分の狂いもない。

 その正確さが、逆にシンには冷たく感じられた。

 

 その精密さに迷いが無いことがシンには腹立たしかった。

 兵士としてはレイのほうが数枚上手だ。

 

 (迷ってるのは……俺だけかよ)

 

 シンは歯を食いしばる。

 

 「迷うな、シン!」

 

 レイの声が飛ぶ。

 

 「今は戦闘中だ。考えるのは後にしろ」

 

 その言葉と同時に、デスティニーの装甲をかすめるビームが走る。

 反射的に機体をひねり、推進剤を吹かして回避する。

 判断が一瞬遅れていれば、直撃していた。

 

 さらにシンを囲もうとしたMSに対し、リジェネレイトとレジェンドのドラグーンシステムが包囲し、一斉にビームを放つ。

 包み込まれたMSが次々と爆発した。

 

 空間が一瞬、光で満たされる。

 その中を、ドラグーンが無機質に旋回し、次の標的を求めて散開する。

 

 まるで意志を持たない刃の群れだった。

 放たれた光条は逃げ場を許さず、敵機を包み込むように収束していく。

 回避しようと機体をひねったMSの背に別角度からビームが突き刺さり、爆散した残骸が連鎖するように広がった。

 

 そのレジェンドはデスティニーの隣に近寄り、近接戦とドラグーンでデスティニーを支援する。

 

 「無駄な動きが多いわねシン」

 

 淡々とした声で語るアグネス。

 挑発でも侮蔑でもない指摘。

 だがその言葉はシンを傷つける。

 

 「なんだと!」

 

 「敵を倒すなら、もっと効率的にやりなさい」

 

 レジェンドはドラグーンを操りながらビームライフルでもう一機落とした。

 迷いのないアグネスの動き。

 

 その射線は無駄がなく、必要な位置に必要なだけの火力を叩き込む。

 感情の介在しない、計算された戦闘だった。

 

 「戦場で迷うと死ぬわよ」

 

 「……っ!」

 

 「あんたはデスティニープランに従った方がいいわ。向いてないこと続ける方が、よっぽど残酷よ」

 

 シンはデスティニーのブースターを噴かせる。

 一気に加速し、敵編隊へと突っ込む。

 

 視界が流れる。

 加速Gが身体を押しつけ、照準表示が赤く明滅する。

 怒りに押されるような突進だったが、それでも操作だけは外さない。

 叩きつけるように踏み込んだ推力が、機体全体を震わせた。

 

 「うるさい、余計なお世話だ!」

 

 「あんたは兵士に向いてないんじゃない?向いてないことをやめさせるのがデスティニープランよ」

 

 「向いていない?」

 

 「だってそうでしょ。いまのあんた、昔のあんたより弱いもの。悩む兵士なんて足手まといよ」

 

 アグネスはそう言い捨てると、デスティニーから離れた。

 

 (くそっ)

 

 シンはビームライフルで二機の敵機を狙撃すると、再び対艦刀を抜き、斬り込んだ。

 

 機体が軋む。

 Gが身体を押し潰す。

 それでも操作は止めない。

 

 (俺は、何のために戦ってるんだ)

 

 迷いながらも、手は動く。

 いや、動かざるを得ない。

 

 戦場は容赦なく展開していく。

 

 爆炎のなかを飛び回る五機のMS。

 光と残骸が交錯する空間の中で、誰も立ち止まることは許されない。

 

 その喧騒の向こうでは、艦隊同士の主砲戦もなお激しさを増していた。

 遠方で艦影が閃き、数秒遅れて巨大な爆炎が咲く。

 戦場全体が一つの巨大な渦となって、すべてを飲み込もうとしていた。

 

 シンの悩みも、仲間の無言の圧力も、戦場の喧騒に飲まれていく。

 

 だが、この戦場の裏側で──

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