機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第百五十四話 見えない核心――断罪の奔流――

 第百五十四話 見えない核心――断罪の奔流――

 

 その戦場の裏側で、別の戦いが進んでいた。

 シンたちが敵を引きつけているあいだに――

 “本命”は、すでに動き出している。

 

 この戦いの“核心”は、まだ誰にも見えていなかった。

 

 同時刻、イザークとディアッカ達は中継コロニーステーションに攻撃を仕掛けていた。

 前もってアスランから伝えられた、用途不明の施設。だが、そこには異常な数の地球連合守備隊が配置されていたのだ。

 

 宇宙空間に浮かぶそのコロニーは、かつての居住区の名残をわずかに残していた。

 外壁の一部は剥離し、内部の構造フレームがむき出しになっている。

 照明も途絶え、窓の向こうに人の気配はない。

 それでもなお、周囲には無数の推進光が交差し、武装した艦艇群がその廃墟を囲い込んでいた。

 静寂と緊張が同時に存在する、異様な光景だった。

 

 「あんなの守ってどうするんだろうね?」

 

 ラスティ・マッケンジーがいつもの軽口で発言すると、ミゲル・アイマンが「知るか」と肩をすくめる。

 

 モニターに映るコロニーは、外殻の一部が剥離し、明らかに放棄された施設にしか見えなかった。

 だが、その周囲には不釣り合いな数の防衛衛星と艦艇が配置されている。

 さらに、通常ならあり得ない密度でMS部隊が巡回していた。

 巡回ルートは一定ではなく、まるで何かを“中心にして”守っているようにも見える。

 

 「ただの廃棄コロニーにしては異常な警備だよな。陽動か?」

 

 ディアッカが言うと、センサーに複数のロック警告が点灯する。

 こちらを捉えた敵機が、一斉に進路を変えたのだ。

 

 「まんまとおとりにされて馬鹿を見るのは嫌だぜ」

 

 斜に構えたような口調のまま、ディアッカ・エルスマンがイザーク・ジュールを見つめる。

 イザークの艦隊は通常編成に加えて、ニコルの実家マイウス市守備艦隊、いわゆる『クライン派』も引き連れていた。

 むろんイザーク個人で集めた訳ではないが、ニコルの父親ユーリ・アマルフィ最高評議会議員兼マイウス市長の委任状を持っている。

 

 「ただちに戦闘に入る。あのマカロニが何の施設かはわからんが、アスランが言うからには何かがあるのだろう。それに、戦力は削れるだけ削る」

 

 「……それに」

 

 イザークは一瞬だけ言葉を切る。

 

 モニターに映るコロニーを睨む。

 崩れかけた外殻の奥――わずかに残る構造体の配置が、不自然に整いすぎていることに気づいていた。

 

 「ここを守る理由があるということは、破壊されれば困るということだ」

 

 その言葉と同時に、艦橋の外で閃光が走る。

 先行していたMS部隊が敵と接触したのだ。

 ビームが交差し、破片が弾ける。戦闘はすでに始まっていた。

 

 イザークの言葉にディアッカ、ラスティ、ミゲルが敬礼し、それぞれMS部隊の指揮に向かう。

 全員が艦橋から去ったあと、イザークは小さく独り言を漏らした。

 

 「……まんまと陽動に引っかかりました、などと報告したら――母上は何と言うだろうな」

 

 「情けない、の一言で済めばいいが」

 

 外では爆発光が断続的に瞬き、そのたびに艦橋の照明がわずかに揺れる。

 戦闘は激しさを増していた。

 

 「は?」

 

 「何でもない」

 

 隣で聞いていた副官を手で制してから、イザークはアスランの報告が正しいことを信じていた。

 

 ――そして、その“何か”が戦局を左右するとも。

 

 ◇◇◇

 

 地球連合軍の月基地ダイダロスでは、一進一退の攻防戦が繰り返されていた。

 ザフトの展開が早く、先制攻撃に出ようとした地球連合は、待ち構えていたザフトによって出鼻をくじかれた。

 戦力は上回っているが、ザフトが多数投入したグフの性能は予想以上だ。

 全体では優勢と言えなくないが、シン達ミネルバと正面から戦った部隊は悲惨だった。

 まるで暴風雨に薙ぎ倒されるように狩られていく。

 

 「なんなんだあれは!?」

 

 スクリーンにシンのデスティニーが映し出され、対艦刀で切り裂かれ隊列を乱された部隊が散り散りになって崩壊する。

 ばらばらに撤退する部隊は、レイのエグゼキューターの狙撃で無慈悲に撃墜されていった。

 ニコルとアグネスのドラグーンシステムに部隊ごと包囲され、次々と破壊される。

 逃げる背中を、ルナマリアのヴァルキュリアが確実に仕留めた。

 あの一か所だけ、明らかに戦力バランスが崩壊している。

 そしてザフト艦隊が、シン達が穿った穴から地球連合軍の傷口を広げにかかっていた。

 

 「このままでは突破される! 押し返せ!!」

 

 たった一か所の傷口が塞がらない。

 時間をかせげば勝機はある。

 たった五機しかいないガンダムなのだから、補給と疲労は蓄積され、いずれ限界を迎えるだろう。

 だがその前に、地球連合軍は恐慌状態に陥りかけていた。

 

 指揮官は歯噛みし、戦術モニターを睨みつけた。

 崩れた戦線の奥へ、ザフト艦隊がじわじわと食い込んでくる。

 あの突破口をこれ以上広げられれば、防衛線そのものが裂ける。

 

 「――例の兵器を起動しろ」

 

 管制席の士官が振り返った。

 

 「し、しかし、まだ大統領の発射許可は――」

 

 「悠長なことを言っている場合か。このまま押し込まれれば終わる」

 

 別のオペレーターが戸惑いを隠せない声を上げた。

 

 「目標はどうします。機動兵器相手では命中は――」

 

 「なら後方の艦隊を狙え。連中の帰る足を叩く。旗艦を沈めれば、前に出た部隊は孤立する」

 

 指揮官の目が、戦術モニター上の一隻を射抜く。

 

 「あの最新鋭艦……ミネルバ。あれを照準中心にしろ。それと味方は下がらせるなよ」

 

 「それでは味方ごと!?」

 

 「青き清浄なる世界のために、多少の犠牲はやむを得ん」

 

 室内の空気が変わった。

 それは反撃の決断というより、封じられていた何かの封印を解く気配に近かった。

 

 「了解。戦略砲撃システム、起動シークエンスに入ります」

 

 その報告に、何人かが息を呑む。

 誰もが存在だけは知っていた。

 だが、それが実際に使用される場面に立ち会うとは思っていなかった。

 

 ◇◇◇

 

 その異変を最初に察知したのは、ミネルバ艦橋のメイリン・ホークだった。

 

 「艦長! 月基地内部に高エネルギー反応!」

 

 戦術モニターの一角に警告表示が走る。

 通常砲撃とも艦砲のチャージとも違う、異常な数値の跳ね上がり方だった。

 

 「何……?」

 

 タリアが目を細める。

 

 「解析急げ!」

 

 「照合中……でもこんな出力、データベースに一致が――」

 

 言いかけたメイリンの声が強張る。

 

 「こ、これ……基地内部に大規模砲撃システムの反応が!」

 

 「ええええ!?何だって!?」

 

 アーサーが素っ頓狂な声を上げる。

 

 「月基地に、そんなものが……!?」

 

 「発射予測は!?」

 

 「わかりません! でも発射軸が異常です! ダイダロス基地単体の射線では、本艦を捉えられないはずなのに――」

 

 その瞬間、メイリンの脳裏にひとつの断片がよぎった。

 以前、ニコルが口にしていた話だ。

 ジャンク屋経由でもたらされた情報。

 月面基地単体では成立しないはずの砲撃システム。

 起動ステーションを中継し、複数の施設を連動させて初めて成立する、戦略級の高出力ビーム兵器――。

 

 「まさか……」

 

 同じ頃、前線ではニコルもまた異変に気づいていた。

 中継コロニーステーション。

 月基地内部の異常出力。

 その二つが結びついた瞬間、ニコルの脳裏で最悪の仮説が完成する。

 

 『メイリン、ダイダロスの反応をもう一度見せてください!』

 

 回線越しに飛んできたニコルの声に、メイリンは即座にデータを転送した。

 

 「──ニコルさん、やっぱり何か知ってるんですか!?」

 

 『間違いない……! あれは単独の砲台じゃない。中継ステーションと連動する戦略兵器です!』

 

 ニコルの声から、いつもの柔らかさが消えていた。

 

 『くそっ……! シン、ルナマリアは僕に続け! アグネスとレイは後方援護を!』

 

 そう言ってニコルはリジェネレイトMK2をMAに変形させ、ダイダロス基地へ向けて一気に突入する。

 

 「ルナ! 俺たちも!」

 

 「了解! シン、捕まって!」

 

 ヴァルキュリアがデスティニーの機体を抱え込むように接続し、一気に加速する。

 単独機動では届かない速度で、二機は月基地へ向かって突っ込んだ。

 後方からアグネスのレジェンドとレイのエグゼキューターが追いかける。

 

 「どけええええ!!」

 

 ニコルのリジェネレイトMK2が高出力ロングビームライフルで立ちふさがるMSを破壊し、シンとルナマリアが突破口を開く。

 レイとアグネスの支援を受けながら、四機は一直線に基地内部を目指した。

 しかし、なお間に合わない。

 

 基地深部では、巨大なエネルギーが収束を始めていた。

 砲口と呼ぶにはあまりにも異様な構造体の奥で、光が層を重ねるように膨れ上がっていく。

 それは兵器というより、死そのものが形を得ていくような輝きだった。

 

 「チャージ完了!!」

 

 指揮官が歪んだ笑みを浮かべる。

 

 「青き清浄なる世界のために!!」

 

 そのとき初めて、管制席のオペレーターが兵器名を叫んだ。

 

 「――レクイエム、発射シークエンス最終段階へ移行します!」

 

 月基地の奥で、見たこともない規模の光が脈動した。

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