機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百五十五話 見えない核心――その光は届かせない――
「青き清浄なる世界のために!!」
基地司令の叫びとともに、レクイエムが発射された。
月基地ダイダロスの奥で収束していた莫大な光が、ついに解き放たれる。
それは砲撃というより、宇宙そのものを貫く巨大な奔流だった。
圧縮された高出力ビームは白熱した尾を引きながら一直線に走り、その異様な光芒は遠く離れた宙域からもはっきりと視認できた。
その光景は、イザークの旗艦からも観測されていた。
艦橋のモニターに映し出されたのは、月面基地から放たれた常識外れの閃光。
それがただの大出力砲ではないことは、一目で分かった。
オペレーターが必死の形相でイザークに叫ぶ。
「高エネルギー反応急速接近! こちらに向かってきます!」
「しまった……! アスランが言っていたのはこれだったのか!! ディアッカ!! ラスティ!! ミゲル!!」
イザークが即座に通信を開き、退避命令を飛ばそうとしたそのときだった。
中継ステーションの外壁に、鋭い亀裂が走った。
「全機いけえええ!!」
ディアッカの乗るブレイズザクファントムの号令とともに、一斉に放たれたバズーカ弾が中継ステーションへ叩き込まれる。
すでに損傷を受けていた外壁は耐えきれず、連続する爆発とともに大きく裂けた。
その直後だった。
レクイエムの奔流が中継ステーションへ到達する。
本来ならば、そこを経由して屈折・中継されるはずだった巨大なエネルギーは、破壊された施設によって制御を失った。
許容量を超えた出力に中継ステーションは悲鳴のように軋み、内部構造ごと一気に崩壊する。
周囲を固めていた地球連合艦隊も巻き込まれ、まばゆい閃光の中で次々と爆散した。
制御を失った高出力ビームは拡散し、狙うべき軸を喪失したまま宇宙の彼方へと流れ去っていく。
艦橋の誰もが言葉を失っていた。
指揮官席でその一部始終を見届けていたイザークもまた、しばし唖然としたままモニターを見つめていた。
やがて事態の推移を完全に確認すると、不機嫌そうな顔で椅子に座り直す。
そこへ、ディアッカ、ラスティ、ミゲルから立て続けに通信が入った。
『ふうー……危なかったぜ』
『ほんとほんと。もう少しでこっちまで消し飛ぶところだったよ』
『間一髪とは、まさにこのことだな』
三人の報告を聞きながら、イザークは憮然とした顔のまま吐き捨てるように言った。
「まったく。三人がかりであんなマカロニを割るのに手間取りおって。こんなことなら俺が出たほうが早かったな」
一瞬の沈黙のあと、通信の向こうで三人が一斉に笑った。
『はいはい、さすが隊長さんだ』
『でも今のはほんと、肝が冷えたって』
『生きて戻れただけでも上出来だろう』
その声を聞きながら、イザークはふっと口元を緩めた。
「……よくやった。急いで帰還しろ。次のマカロニへ行かねばならん」
『次の、ねえ』
ディアッカが少しだけ声音を変える。
『でもさ、イザーク。俺たちはどうするんだ?』
「どうする、とは何がだ?」
『俺たちはプラントのために戦うのか? それともデスティニープランのために戦うのかってことだよ』
その問いに、イザークは一瞬だけ黙り込んだ。
戦場の喧騒が、わずかに遠のいたように感じられる。
モニターの向こうでは、破壊された中継ステーションの残骸がなお燃えながら漂っていた。
あの兵器がもしプラントへ向けられていたなら――そう思えば、答えはすぐに出た。
イザークはゆっくりと顔を上げる。
「今はデスティニープランのことは考えるな。あんな化け物兵器がプラントを襲ったらどうする」
ディアッカが小さく息を吐く気配がした。
『……それもそうだな』
「まずは目の前の脅威を潰す。話はそれからだ」
『了解。じゃあ次のマカロニの処理に行こうぜ』
『賛成。今度はもっと早く割ろう』
『言ってろ。次も派手に片づけるぞ』
通信が切れ、艦橋に再び緊張が戻る。
イザークはモニターに映る戦場を睨み据えた。
まだ終わってはいない。
見えない核心は、まだ戦場の奥に残っている。
だが少なくとも今、守るべきもののために何をすべきかだけははっきりしていた。
──だが、戦いはそれで終わりではなかった。
中継ステーションは破壊され、必殺の一撃は逸れた。
それでも、月基地ダイダロスの奥にはなお、あの巨大兵器そのものが残っている。
──月基地周辺で戦闘を繰り広げていた艦隊にも、その一部始終は映し出されていた。
モニターに映るのは、退避命令を受けぬまま撃ち抜かれた高エネルギービームと、それに巻き込まれて爆散する地球連合艦隊。
そして、中継ステーションの崩壊。
あまりに異様な光景に、タリア艦長もアーサー副長も一瞬だけ言葉を失った。
「今のエネルギーが狙っていた場所はどこ?」
「……本艦です」
メイリンの報告に、タリアは深く息を吐いた。
その一瞬だけ目を閉じ、すぐに指揮官の顔へ戻る。
「同士討ちも顧みず撃ってくるような連中よ。幸い、あの兵器のある宙域に“穴”が開いたわ。ニコル達を向かわせなさい。急いで潰すのよ」
その通信を聞くより早く、ニコルとシン、そしてルナマリアは一条の光となってレクイエム周辺へ飛び込んでいた。
味方に撃たれたMSや艦船の残骸が宙域に散乱している。
その破片の間を縫うように突破しながら、三機は一気にレクイエムへ接近した。
──ダイダロス基地司令部は、すでに混乱の極みにあった。
「レクイエム、再チャージまであと二十分!」
「防衛艦隊から、今の攻撃に対して激しい抗議が来ています!」
「防衛区画、突破されます!!」
数多の報告に、基地司令は苦虫を噛み潰したような顔になる。
必殺のレクイエムは中継ステーションを破壊され、最大の威力を発揮できぬまま無力化された。
味方を盾にまでしたというのに、その結果がこれだった。
「ええい!! 再チャージを急げ!!」
「しかし、レクイエム周辺ががら空きです!!」
「なんだと!?」
「防衛艦隊から通信! 『我、貴官の指揮には従えず』!」
防衛艦隊が、レクイエムとダイダロス基地の防衛を拒否したのだ。
味方ごと撃たれた直後では当然だった。
その間隙を突いて、ニコルたちは一直線にレクイエムへ迫る。
「僕のビームライフルで外壁に穴を開ける。その穴から侵入して破壊するんだ!!」
「了解!!」
そう言ってニコルはリジェネレイトMK2をMS形態へ戻し、高出力ロングビームライフルを構えた。
守備隊が持ち場を放棄したことで、レクイエム外壁は一瞬だけ無防備になる。
ニコルは無言のまま引き金を引いた。
高出力のビームが外壁を穿ち、装甲に大穴をこじ開ける。
その穴へ、シンとルナマリアが迷いなく突入した。
後方では、レイとアグネスが慌てて駆け付けたMS隊を押さえ、二機の侵入を援護する。
「シン」
「なんだ、ルナ」
「私、デスティニープランが本当に正しいのかはまだわからない。けど、この戦争が終わったら……みんなで考える時間は作れるわよね」
「そうだな」
シンは短く答える。
「その時は、みんなで考えればいいさ」
デスティニーとヴァルキュリアはレクイエム内部へ侵入する。
警報が鳴り響き、赤い非常灯が通路を染める。
司令部でその報告を受けた基地司令官が最後に見たのは、一直線に迫ってくるヴァルキュリアの紅い機体だった。
次の瞬間、ヴァルキュリアが司令部へビームライフルを叩き込む。
それと同時に、シンはレクイエム砲口へ向けてビームライフルを撃ち込んだ。
チャージ途中だった巨大兵器の内部に、高エネルギーの奔流が逆流する。
制御を失った出力は行き場をなくし、砲身、伝導路、内部構造を内側から焼き裂いていった。
そして、レクイエムは大爆発を起こした。
炸裂した閃光はしばらく月面宙域を白く染め上げ、やがてその光が収まったとき、そこにもう地球連合の切り札の姿はなかった。
見えないまま戦場を支配していた脅威は、ついにその正体ごと砕かれたのだ。