機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

163 / 170
第百六十二話 メサイア決戦――最後の戦場へ――

 第百六十二話 メサイア決戦――最後の戦場へ――

 

 月に集結するザフト艦隊と、オーブ・地球連合艦隊の距離が、徐々に詰まりつつあった。

 

 総数ではオーブ側が上回っている。

 だが相手はザフトの精鋭だ。

 ミネルバをはじめ、歴戦の部隊も多い。

 数だけで押し切れる戦いではないことを、誰もが理解していた。

 

 アークエンジェルのパイロットルームには、最終チェックを終えたパイロットたちが集まっていた。

 

 ムウ。

 アサギ、ジュリ、マユラ。

 ステラとマユ。

 そしてナンバー。

 

 MS部隊長であるムウが、モニターに映る戦域図を示しながら、想定される作戦を説明していく。

 

 「ここまで来たら、もう後には引けないな。お互い、相容れないところまで来ちまった」

 

 ムウの声に、いつもの軽さは少なかった。

 

 デスティニープランが施行されれば、ナチュラルは下層階級か、それに準ずる立場に置かれる。

 地球連合の多くは、そう判断していた。

 

 実際のデスティニープランが、そこまで単純な階級制度を意味するわけではない。

 だが、遺伝子操作されたコーディネイターに対する不信と憎しみは深い。

 人は、自分たちが仕分けられると感じた瞬間、理屈より先に恐怖する。

 

 「デスティニープランは、そんな欠陥を持たない」

 

 そう言ったのは、ナンバーだった。

 

 無機質な声。

 しかし、その言葉は現状を理解した上でのものだった。

 

 ムウは片眉を上げる。

 

 「じゃあ、なんでお前さんは戦う? その理屈なら、戦うにしてもあっち側だろ?」

 

 軽口の形を取っていたが、問いは鋭かった。

 

 ナンバーは少しも迷わず答えた。

 

 「ステラとマユの夢を守るため」

 

 ステラが顔を上げる。

 マユも、驚いたようにナンバーを見た。

 

 「ほう。それはまた大層な理由だ。何の夢を守るんだ?」

 

 「ステラの夢は歌い続けること。マユの夢は医学者になること」

 

 ナンバーは淡々と言った。

 

 「二人とも、検査を受けてみないと適性は分からない。それでも二人は夢を諦めない。非効率。でも、間違っていない」

 

 ムウは小さく息を吐いた。

 

 「でもそれも、遺伝子で決まるんだろ?」

 

 「夢は遺伝子では測れない」

 

 ナンバーの答えは早かった。

 

 「だから議長は強制をしない。自由意志を尊重する。適性を示し、本人に選択させる。それが本来のデスティニープラン」

 

 「だったら、なんで最前線まで出てくる?」

 

 ムウの言葉に、室内が静まった。

 

 ナンバーはすぐには答えなかった。

 

 モニターの中で、ザフト艦隊の光点がわずかに動いている。

 遠い宇宙で、戦争の形が整いつつあった。

 

 「そんな話で済むなら、俺たちはそもそも争っていない」

 

 ムウは静かに言った。

 

 「あいつらは力による解決を選んだ。俺たちは、まだ話し合う余地があると思っている。どっちが絶対に正しいって話じゃない。ただ、生き方の違いだ」

 

 ムウはナンバーを見た。

 それから、ステラとマユ、アサギたちにも視線を向ける。

 

 「そして、どっちを選ぶかは個人の自由だ」

 

 その言葉は、誰か一人に向けられたものではなかった。

 

 ステラにも。

 マユにも。

 ナンバーにも。

 そして、これから戦場へ出る全員にも向けられていた。

 

 最終決定権は、それぞれに委ねられている。

 

 それが、彼らの側が守ろうとしているものだった。

 

 ステラは、ナンバーの言葉を聞いて、胸の前で小さく手を握った。

 

 歌い続けること。

 

 それは、誰かに命じられた夢ではない。

 うまく言葉にできるものでもない。

 けれど、歌っている時だけは、自分の中にある怖いものや寂しいものが、少しだけ遠くなる気がした。

 

 「ステラ、歌いたい」

 

 ぽつりと、ステラが言った。

 

 ムウも、アサギたちも、自然と彼女を見る。

 

 「シンにも、聞いてほしい。マユにも。みんなにも。だから……歌うの、やめたくない」

 

 その言葉は幼く、拙かった。

 けれど、そこに嘘はなかった。

 

 マユも、膝の上で拳を握った。

 

 「マユも……お医者さんになりたいです」

 

 声は少し震えていた。

 戦場へ出る恐怖がないわけではない。

 兄と同じ場所に立つことが怖くないわけでもない。

 

 それでも、マユは顔を上げた。

 

 「向いてないって言われるかもしれない。もっと別の道があるって言われるかもしれない。でも、それでも……助けたいんです。誰かが怪我をして、泣いている時に、何もできないまま見ているのは嫌だから」

 

 ナンバーは二人を見た。

 

 「非効率」

 

 いつものように、機械的な言葉だった。

 

 だが続いた声は、ほんの少しだけ柔らかかった。

 

 「でも、それが夢なら守る価値がある」

 

 ムウは肩をすくめた。

 

 「まったく。お前さん、時々いいこと言うよな」

 

 「事実を述べただけ」

 

 「そういうことにしとくさ」

 

 その時、艦内に警報が鳴った。

 

 赤いランプが点滅し、パイロットルームの空気が一瞬で引き締まる。

 

 『全パイロットに通達。敵艦隊、進路変更。ザフト主力艦隊、こちらへ接近中。各員、第一戦闘配備』

 

 マリューの声が艦内放送を通じて響く。

 

 ムウは表情を変えた。

 先ほどまでの軽さが消え、歴戦の兵士の顔になる。

 

 「よし、話はここまでだ」

 

 彼は全員を見渡した。

 

 「俺たちの目的は敵を全滅させることじゃない。デュランダル議長を止めること、そしてデスティニープランを力で押し通させないことだ。無茶はするな。孤立するな。生きて帰るぞ」

 

 アサギが小さく笑った。

 

 「隊長らしくなりましたね」

 

 「元からだ」

 

 ジュリとマユラが顔を見合わせ、わずかに表情を緩める。

 だが、その笑みは長く続かなかった。

 

 戦場が近づいている。

 

 ステラは一度だけ、遠くを見るように目を細めた。

 

 「シン……」

 

 その名を呼ぶ声は、小さかった。

 誰にも聞こえないほどではない。

 けれど、誰もそれに答えなかった。

 

 この戦場の向こう側に、シンがいる。

 守りたい人がいる。

 けれど、今は同じ場所に立っていない。

 

 マユもまた、兄のことを考えていた。

 

 シンはきっと迷っている。

 怒っているかもしれない。

 苦しんでいるかもしれない。

 

 それでも、マユは思う。

 

 兄がどんな答えを選ぶとしても、自分も自分の答えを持たなければならない。

 

 「行きましょう」

 

 マユが言った。

 

 その声に、ステラが頷く。

 ナンバーもまた、静かに立ち上がった。

 

 「選択を確認。ステラ、マユの夢を守る。任務を開始する」

 

 ムウは苦笑する。

 

 「そこは普通に、行くぞでいいんだよ」

 

 「行くぞ」

 

 ナンバーが即座に言い直した。

 

 アサギたちが、今度こそ少しだけ笑った。

 そのわずかな笑いが、戦場へ向かう者たちの緊張を一瞬だけ和らげた。

 

 だが次の瞬間、メインモニターに新たな光点が表示される。

 

 それは艦隊ではなかった。

 

 巨大な質量。

 月軌道上に現れた、プラントの切り札。

 

 メサイア。

 

 誰かが息を呑んだ。

 

 白く冷たい宇宙の中で、その要塞はまるで巨大な裁きの門のように沈黙していた。

 

 ムウはモニターを見つめ、低く呟く。

 

 「出てきたか……」

 

 その言葉と同時に、アークエンジェルの格納庫が慌ただしく動き始める。

 

 戦争を終わらせるための力。

 未来を選ばせるための力。

 そして今、未来を選ばせないために振るわれようとしている力。

 

 それぞれの夢と、それぞれの正義を乗せて。

 

 最後の戦場が、静かに開き始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。