機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第百六十七話 レイ・ザ・バレル――与えられた運命――
エグゼキューターとデスティニーが、戦場の中心から離れていく。
デスティニープランを肯定する者と、否定する者。
ともにミネルバで戦ってきた仲間でありながら、二人はもう避けて通れない場所まで来ていた。
シンはデスティニーを操り、得意の接近戦を挑む。
だがレイは冷静に身をひるがえし、ビームサーベルで応戦した。
エグゼキューターは本来、狙撃と制圧を主眼とした機体だ。
それでも近接戦でシンに食らいついてくる。
機体性能だけではない。
レイ自身の技量と覚悟が、デスティニーの動きを封じていた。
シンは実力を発揮できない。
友を撃墜するなどできなかった。
迷いを振り切ったレイに、分があった。
「その程度の覚悟で、議長を止めるというのか!」
レイは、普段の冷静さからは想像できない気迫でビームサーベルを振るう。
シンは迷いながら、対艦刀を振るった。
「シン! デスティニープランを受け入れないと言うなら、俺を止めて見せろ!!」
レイの声が、宇宙に響いた。
怒りだけではない。
侮蔑でもない。
ただ、決して譲れないものがあるという、静かな覚悟だった。
デスティニーは対艦刀を振り、エグゼキューターへ斬りかかる。
だがその動きは鋭さに欠けていた。
レイは冷静に身をひるがえす。
閃光が交差し、距離が再び開いた。
「お前には守りたい者がいる。ステラ、マユ、ルナマリア。だがそれは、お前が守れる実力を持っているからだ」
「お前には無いっていうのかよ!」
「俺だって、デュランダル議長の作る未来を守りたいさ」
レイの声が、わずかに低くなる。
「だが、俺にはその未来に生きる時間がない」
「なんでだよ!」
「俺が、もうすぐ死ぬからだ!」
その一言が、戦場の音を凍らせた。
デスティニーの動きが止まる。
モニター越しに見たレイの表情は、いつもの冷静さを崩していなかった。
ただ、声だけが揺れていた。
「俺はクローンなんだ。だからテロメアが短い。その影響で、俺はもう長くは生きられない。誰かの代わりとしてしか求められなかった俺を、デュランダル議長は認めてくれた」
デスティニーのカメラアイが揺れた。
シンの手が、操縦桿からわずかに離れる。
「おい……何言ってんだよ……」
「タイムリミットがあるんだよ。俺の中には。だから、少しでも早くデスティニープランを完成させる。この命が尽きる前に」
レイはスロットルを握り、バーニアを吹かす。
高速機動したエグゼキューターが、デスティニーへ迫る。
シンは寸前で回避したが、機体の装甲をかすめた光が、モニターの端で白く弾けた。
「俺は人として生まれたんじゃない。そんな俺に、議長は生きる意味をくれた。友でも、それを否定するなどさせるものか!」
レイの声が、初めて大きく揺れた。
「何も残せない生の悔しさが、お前に分かるのか!」
「そんなの勝手に決めるな!!」
デスティニーがエグゼキューターに迫り、体当たりを仕掛ける。
衝撃でエグゼキューターが吹き飛ぶ。
だがレイはすぐに態勢を整え、再びビームサーベルを構えた。
「生きる意味を、他人に決めてもらうな! 何も残せないなんてあるものか! お前は議長の道具じゃない! 俺たちは一緒に戦ってきた仲間だろ!」
「仲間だからこそ!」
レイの声が一気に高まった。
「お前には生き延びる権利がある。守るべき未来がある。だが俺には、生きる道が残されていない。だからこそ、議長の理想がすべてなんだ!」
エグゼキューターのドラグーンが一斉に展開した。
青白い光が宇宙を切り裂き、四方八方からデスティニーへ襲いかかる。
シンは咄嗟に対艦刀を盾にするが、その衝撃で機体が大きく揺れる。
「生まれた意味も、居場所も与えられなかった者がいる! そういう者にとって、適性を示されることは支配じゃない。自分にも生きる場所があると知るための救いなんだ!」
「それが全てじゃないだろ!」
シンは叫んだ。
「生きることに理由なんて要らない! 守るものだって、決めるのは誰でもない。俺たち自身だろ!」
その言葉に、レイはわずかに目を伏せた。
だが次の瞬間、エグゼキューターは急旋回し、デスティニーへと迫る。
「ならば、ここでお前を討つ。俺が唯一、命をかけられる未来のために」
デスティニーも応戦する。
ビームサーベルが閃き、対艦刀とぶつかり合う。
宇宙に火花が散る。
レイは強い。
迷いがない。
自分の命さえ、議長の理想を完成させるための道具として差し出している。
だがシンには、それがどうしても許せなかった。
レイが死ぬことを当然のように語ることも。
自分には道がないと決めつけることも。
議長に与えられた意味だけを、自分のすべてだと思い込んでいることも。
「レイ!」
シンは叫ぶ。
「お前がもう長くないっていうなら、なおさらだろ! 残された時間を、議長のためだけに使うな! お前自身がどうしたいのかを選べよ!」
「黙れ!」
レイが叫び、ドラグーンをさらに展開する。
光の檻がデスティニーを包囲する。
だがシンは退かなかった。
デスティニーの翼が大きく開く。
光の残像を引きながら、機体はドラグーンの射線を縫うように加速した。
撃たれる。
斬られる。
それでも、ここで退くわけにはいかない。
レイを倒すためではない。
レイを、議長のためだけに死なせないために。
「うおおおおおっ!!」
デスティニーの対艦刀が、エグゼキューターの懐へ届く。
レイは迎撃しようとビームサーベルを構えた。
だが一瞬だけ、反応が遅れた。
シンの言葉が届いたのか。
それとも、レイ自身の中に残っていた迷いが、わずかに指を鈍らせたのか。
その理由は、シンにも分からなかった。
閃光が走る。
エグゼキューターの右腕が、宇宙の闇へ弾き飛ばされた。
ビームサーベルを握ったままの腕が、ゆっくりと遠ざかっていく。
バランスを崩したエグゼキューターは、なおもメサイアへ機首を向けた。
敗北ではない。
撤退でもない。
レイは、それでも議長のもとへ戻ろうとしていた。
「レイ!」
シンは叫ぶ。
だが、返事はない。
エグゼキューターは片腕を失ったまま、メサイアへ向かって加速する。
シンは歯を食いしばり、デスティニーの翼を広げた。
「行かせるかよ……」
それは、追撃の言葉ではなかった。
逃がすためではない。
討つためでもない。
レイを、このまま一人で議長のもとへ行かせないために。
デスティニーは、エグゼキューターの後を追った。