機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第二十五話 赤の誇り
雲ひとつない空が広がっていた。
春を告げる穏やかな風が校庭を抜け、若葉の香りを運んでくる。
今日、ザフト士官学校は卒業式を迎えていた。
列をなす制服姿の生徒たち。
その中央、赤服に袖を通した四人の姿がまぶしく映える。
やがて校長が壇上に現れ、全員が敬礼した。
その瞬間、凛とした空気が校庭全体を包み込んだ。
一位──アグネス・ギーベンラート。
二位──レイ・ザ・バレル。
三位──ルナマリア・ホーク。
四位──シン・アスカ。
アグネスが最初に壇上へ上がると、男子生徒たちから歓声が上がった。
赤の髪を風に揺らしながら、アグネスは微笑を浮かべて片手を振る。
その姿はまるで舞台の女王のようで、誰もが視線を奪われた。
──当然だ。
彼女は自らを磨き、実力を示し続けてきた。
容姿も才覚も武器とする強さを持ち、体調も精神も完璧に管理している。
努力の上に立つ自信、それが彼女の魅力だった。
先日ルナマリアに言われたことなど、もう頭の中にはない。
自分より下の女が何を言おうと、それは風の音にすぎない。
──そう心の奥で笑っていた。
その少し後ろ、ルナマリアは隣に立つシンをそっと見つめていた。
まっすぐ前を向くその瞳に、シンの一年間の努力が映っている。
不器用だけど真っすぐで、諦めを知らない。
シンがここに立っているのは奇跡なんかじゃない。
ステラの存在が支えになっていることは分かっている。
それでも、心の奥ではただ純粋にシンを誇らしく思っていた。
(立派になったねシン)
──シンの頑張りを、ルナマリアは知っている。
自分が赤服に選ばれた事より嬉しい。
だからこそ、嫉妬ではなく賞賛を送ろう。
笑って祝える、それが彼女の強さだった。
レイは相変わらず冷静だった。
壇上のスピーチにも動じず、淡々と立ち尽くしている。
しかし、その努力の裏側を知る者は少ない。
寡黙な彼がどれほど訓練で自分を追い込み、精神を整えてきたか。
その静けさの中にある強靭さを、シンとルナマリアだけは理解していた。
そして、壇上に名を呼ばれた少年──シン・アスカ。
光を受けて輝く赤服に身を包み、彼は深く息を吸った。
歓声が耳に届く。
だが、その中で彼の心はただ一人の少女の姿を思い浮かべていた。
──ステラ。
「やっと……ここまで来た」
胸の中で小さく呟いた言葉は誰にも聞こえない。
長かった一年。
あの日、涙の別れを交わしてから、シンはただ前を見て走り続けた。
そして今、赤い制服を纏い、ステラのもとへ帰る資格を得た。
次の配属はミネルバ。
最新鋭艦への任命という名の儀礼。
任務を終えれば、すぐにハーバーコロニーへ帰り、ステラと穏やかな日々を築く。
──もう、あの笑顔を寂しがらせない。
その想いが、胸の奥で静かに燃えていた。
観覧席の端で拍手を送るニコル・アマルフィもまた、特別な感慨を抱いていた。
彼も教官職を離れ、ミネルバへの異動を命じられている。
本来なら望まぬ前線行きだ。
マユと過ごす時間が減るという私的な理由もある。
だが見極めねばならない事がある。
ヤキン・ドゥーエで引退を考えたニコルを再び前線に戻す。
イザークやディアッカ、ラスティ、ミゲルも同じく前線だ。
アスランも交えて深い友情で結ばれた彼らとの連絡もかかさない。
──嫌な予感がする。
現議長ギルバート・デュランダルは危険な人物だとニコルは思う。
何を企んでいるのかまではわからない。
普段の言動や行動を見る限り、有能で善良な政治家だ。
だがその手法は他人の失敗や失言を誘発し、それを解決する事で自分の得点にする。
悪く言えばマッチポンプ。
プラントだけでなく地球連合にもデュランダル議長の信奉者はいる。
もし運命が再びニコルを戦場へ戻すなら、その運命を切り開こう。
───卒業証書授与が終わり、校長の声が高らかに響いた。
「以上の五名を、ザフトが誇るセカンドステージMSの正式パイロットとして任命する!」
ざわめきが広がる。
誰もが耳を疑った。
セカンドステージ──それは、次世代を担う試作MS群の総称。
正式配備前の極秘機体に、若き卒業生たちが抜擢されたのだ。
最初に読み上げられたのは、ニコル・アマルフィ。
配属機はZGMF-X31S《アビス》
───深淵を意味する機体は深謀遠慮のニコルにぴったりだ。
水陸両用にして宇宙でも運用可能な特異機。
両腕に大型ビーム砲、肩部には魚雷発射装置を装備している。
主戦場は地球圏と推測された。
「……やはり、地上か」
ニコルの声は低く沈む。
彼の直感が告げていた。再び争いの予兆がある、と。
続いて呼ばれたのはアグネス・ギーベンラート。
ZGMF-X88S《ガイア》。
───大地母神の名を冠する名前は自分にこそ相応しい。
世界を温かく包み込み、崇拝を受ける資格は自分以外にいない。
陸戦特化の機体で、四脚のMA形態を持つ。
機動性重視の設計に、彼女は満足げに頷いた。
「悪くないわね……私に相応しいわ」
その言葉は自信というより、勝者の笑みだった。
獣のように疾駆するガイア──まさに彼女の戦い方そのものだった。
三番目はレイ・ザ・バレル。
ZGMF-X24S《カオス》。
高出力ドラグーン・システムを搭載し、射撃・格闘どちらにも対応する万能機。
機体名の“混沌”は、制御を誤れば味方をも巻き込む危険性を示す。
それでもレイはただ静かに頷いた。
「悪くない……ドラグーン・システムは俺なら扱える」
かつてラウ・ル・クルーゼが扱えたように自分なら使える。
冷徹な瞳の奥に、確かな自負が宿っていた。
次にルナマリア・ホーク。
ZGMF-X23S《セイバー》。
高機動・高安定性を両立し、双胴型戦闘機への変形機構を持つ。
バッテリー駆動ながら長距離巡航が可能という異例の性能を誇る。
ルナマリアは目を輝かせながら前に出た。
「セイバー……救世主、ね。いい名前だわ」
風に揺れる赤髪が陽光にきらめいた。
その横顔には迷いがなかった。
戦う意味を知る者の顔だった。
そして最後に呼ばれたのは、シン・アスカ。
ZGMF-X56S《インパルス》。
連合軍のストライクを参考に開発された次世代主力機。
上半身のチェストフライヤー、コクピットを内蔵するコアスプレンダー、下半身のレッグフライヤーに分離する独自構造を持ち、パーツ交換で様々な戦況に対応できる。
生存性と継戦能力を両立した革新機。
ただし、複雑な機構ゆえにパイロットへの負担は大きい。
シンはその説明を聞きながら、ゆっくりと拳を握りしめた。
「これが……俺の翼になるんだな」
胸の奥に熱い鼓動が響く。
インパルス──衝撃。
まるで運命を切り拓くための名のようだった。
式が終わり、校庭を包む拍手の中で、五人の赤服が並び立つ。
彼らの表情にはそれぞれの覚悟があった。
アグネスは勝者の微笑を浮かべ、レイは冷ややかに空を見上げ、ルナマリアは希望を胸に、ニコルは不安を抱え、そしてシンは遠くの青空を見つめていた。
──その先に待つのは、ミネルバという名の新たな舞台。
戦いの女神ミネルヴァの名を冠する最新戦艦。
五人の赤服たちが歩み出す道は、再び交差し、やがて戦火の中で一つになる。
だが今はただ、この瞬間を誇りとして刻もう。
それぞれの「赤」が、新たな物語を描き出す日のために。
第二章「運命の礎」を読んでいただいてありがとうございます。
第二章はシンのザフト士官学校入学と、同期のルナマリア、レイ、アグネスとの出会いがメインでした。ルナマリアの成長が書けていたら良いのですが。
次の第三章「焔の胎動」はようやくアニメ第一話の時系列になります。
アーモリーワン襲撃、ミネルバ出撃、ユニウスセブン落下の章になります。