機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第二十七話 理想と現実の狭間で

 第二十七話 理想と現実の狭間で

 

 アーモリーワンの空は、淡い人工光に包まれていた。

 天井の照明が昼を模して輝き、行き交う人々の影を床に落とす。

 戦後の活気を取り戻したこのコロニーも、今は静けさの中に緊張を孕んでいた。

 

 カガリ・ユラ・アスハは、午前の公式会談を終えると、人目を避ける場所に喫茶店を選んだ。

 繁華街の外れにある小さな店。磨かれた木のテーブルと、深煎りの豆の香り。

 窓の外には人工樹の並木道が続き、光を反射する小さな池が見えた。

 入口にはオーブとザフト、双方の護衛が無言で立つ。

 ――ここだけが、戦略と信念の狭間にあるわずかな中立地帯だった。

 

 カガリは窓際の席に座り、湯気を上げるカップを見つめていた。

 肩にかかる金髪が、光を受けて淡く揺れる。

 アスランは向かいの席で腕を組み、グラスの水を指先で転がしていた。

 ふたりの間に流れる沈黙は、互いを信じるがゆえの重さだった。

 

 扉の鈴が鳴る。

 ニコル・アマルフィ、シン・アスカ、ルナマリア・ホークが入ってきた。

 ザフトの制服に身を包んだ三人は、どこか緊張した面持ちで歩み寄る。

 

 「お待たせしました」

 ニコルが丁寧に頭を下げ、背後でシンとルナマリアも敬礼する。

 カガリは軽く頷き、指先で席を示した。

 

 「来てくれて助かる」

 その声は落ち着いていたが、奥に焦りが滲む。

 戦場を知る者ほど、理想を急ぎたがる。彼女もまた、その一人だった。

 

 ウェイターが静かにカップを並べる。

 苦味と香ばしさが、密やかな緊張を溶かしていくようだった。

 

 最初に口を開いたのはニコルだった。

 「本題に入ります。今日の会談で議長は、“抑止のための戦力整備”を繰り返し強調していました。ですが――」

 淡い茶色の瞳がカガリを見据える。

 「ミネルバとセカンドステージシリーズの設計思想は、明らかに地球圏での展開を前提にしています。……抑止ではなく、前線で使うための機体です」

 

 アスランの眉が僅かに動いた。

 「つまり、議長は次の戦場を地球上に想定している、ということか」

 

 「断言はできません。ただ、“平和のため”と呼ぶには、あまりに攻撃的です」

 ニコルの言葉は柔らかいが、その芯は鋭かった。

 戦場を音で測る男の直感だった。

 

 カガリはカップを手に取り、一口だけ口をつける。

 苦みが舌に残り、胸の奥の言葉を引き出した。

 「私もそう思ってる。強すぎる力は、必ず誰かに“使わせる”。だからこそ、抑え込むべきなのだ。……オーブは他国に派兵しない。紛争にも関わらない。自分たちの力を抑え込む。それで生きてきた」

 その言葉は鋼のように硬い。だが、その硬さは己を守るためではなく、理想を守るための盾だった。

 

 シンは黙っていた。

 指先でカップを回しながら、視線は迷うようにカガリと窓の外を行き来していた。

 シンは真剣にザフトの兵士として、元オーブの国民として考えていた。

 人工の太陽が照らす街並みの奥――そこに、かつてのハーバーコロニーの焼け跡が重なって見えた。

 どうすればあの悲劇を避けれたのだろうと悩む。

 ザフトに入隊してからずっと悩んできた。

 

 アスランが静かに問う。

 「シン。お前はどう思う?」

 

 その声に、店内の空気が止まる。

 シンは一度、息を吸い、ゆっくり吐き出した。

 「……議長が何を考えているのか、俺には分かりません。でも――」

 喉がわずかに震えた。

 「もし、あの時……ハーバーコロニーにザフトの艦も、アークエンジェルも来なかったら。僕も、ステラも、誰も助からなかった」

 

 カガリの眼差しが和らぐ。

 戦場を知る者同士だけが分かち合える痛みがそこにあった。

 「……分かってる。シンが守りたいのは、現実に生きている人だ。オーブの理想に巻き込んではいけない」

 

 「はい。だから、“力はいらない”って言い切るのは……正直、怖いです」

 シンの声は敬意を崩さず、まっすぐだった。

 ――それは、無力を知った者の言葉。

 戦場で誰かの命を抱えた手の震えを、彼はまだ覚えている。

 

 ニコルが頷く。

 「抑止のための力と、行使のための力は違います。議長の方針は後者に近い。……理想を守るには、現実の脅威に合わせた“盾の厚さ”も必要なんです。でなければ、理想そのものが砕かれてしまう」

 

 「でも、“威嚇”で守る平和なんて本当の平和じゃない!」

 カガリが思わず声を上げた。

 「『持てば使う』なんて真理じゃない。使わない覚悟だって、人間にはできるはずだ!」

 

 その叫びに、店内の客が一瞬だけ振り返る。

 カガリはすぐに息を整え、視線を落とした。

 戦うオーブの姫の瞳に、理想と現実に揺らぐ少女の影が宿る。

 

 アスランが静かに言葉を挟んだ。

 「けど、覚悟を貫くのが難しい時もある。……それが現実だ。

 俺も、カガリとオーブの理想を守りたい。けど、そのための剣まで捨てるなとも言いたい」

 

 短い沈黙。

 カップの縁に映る光が揺れ、テーブルの上に波紋を落とす。

 

 ルナマリアが、小さく息を吸って口を開いた。

 「私は……政治のことは分かりません。でも……シンが二度と、目の前で誰かを失わないようにって思うなら、撃たなきゃいけない時もあると思うんです。……たとえ、それが嫌でも」

 その声には、自分自身を刺すような痛みがあった。

 シンの肩が、小さく揺れる。ルナマリアはそれ以上言わなかった。

 

 カガリはその二人を見つめ、穏やかに言った。

 「シンの恐怖は分かる。私だって、あの戦争を見てきた。

 だけど――力は、いずれ私たちを裏切る。だからこそ、最初から“理性で縛る”べきだと私は思う」

 

 「縛るのは“持つこと”じゃなく、“使い方”だと思います」

 シンの声が少しだけ強くなった。

 「……だって、もし持ってなかったら、守れない」

 

 その瞬間、カガリの瞳にわずかな光が走った。

 少年のような正義感――だが、それは幼さではなく、命の重さを知る者の真っ直ぐさだった。

 

 ニコルが空気をやわらげるように微笑む。

 「解は一つじゃありません。オーブの理念を掲げたまま、限定的な抑止戦力を外部委託する。たとえば、連合でもザフトでもない、第三の共同安全機構を設立するんです。

 “力”は外に置き、“理念”はオーブが持つ。そうすれば、どちらにも偏らない平和が作れる」

 

 アスランが頷いた。

 「現実的だな。議長に対しても、十分な答えになる。だがそれが可能なのだろうか?」

 

 カップの底に残った黒い液面に、五人の顔が映る。

 誰もが違う理想を抱えながら、同じ一点――“平和”を見ていた。

 

 その“平和”が、誰かの涙の上に立つものでないことを、誰もが祈っていた。




書いてて期せずしてコンパス秘話っぽくなってしまいました。コンパスって戦闘するなら無理やり止めさせるっていう、かなり過激な組織ですけど、CEの住民って人の話聞かないので武力で黙らせるしかないからしかたないですね。
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