機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第三話 炎の誓い

 第三話 炎の誓い

 

 轟音と共に、世界が崩れた。

 空を割るような衝撃がコロニー全体を揺らし、陽の光が一瞬にして暗転する。

 天井の透明ドームに無数の亀裂が走り、空気が唸り声をあげて宇宙へと吸い出されていった。

 強烈な爆風が湖畔を襲い、花々と木々が根こそぎ吹き飛ぶ。

 穏やかだったはずの湖が、瓦礫と炎に覆われていく。

 ステラと一緒に遊んだ草原が燃えていく。

 綺麗だと言ってくれた花が消えていく。

 先ほどまで家族連れで賑わっていた湖畔のキャンプ場も、美しい街並みも業火に焼かれていく。

 その中でシンはステラの無残な姿に叫んだ。

 何も悪い事をしていないのに。

 ステラは良い事しかしていないのに。

 ただ平和の歌を歌っていただけなのに。

 理不尽な暴力で再び命の危険に晒されている。

 

 「ステラァァァッ!!!」

 

 血がステラの白い服を染めていく。

 シンは反射的にそのガラスを引き抜こうとしたが、背後から誰かがその腕を掴んだ。

 

 「ダメだ!! 今ステラからガラスを抜いたら血が噴き出す!!」

 

 ニコル・アマルフィだった。

 彼の顔は冷静そのものだ。

 だが瞳の奥は怒りと焦燥で揺れていた。

 

 「何で止めるんだよ!! ステラが死ぬ!!」

 

 「落ち着け、シン!! 今はステラを動かすな!!」

 

 ニコルが強く言い放つが、シンの耳には届かない。

 ステラの名前を叫びながら暴れるシン。

 その頬を、ニコルの拳が打った。

 ニコルに殴られてシンが後ろにのけ反る。

 

 「……落ち着け!! ステラを死なせたいのか!?」

 

 瞬間、時間が止まったようだった。

 殴られた痛みで正気を取り戻したシンが、震える手でステラを抱きしめる。

 ステラの唇が微かに動いた。

 

 「……シン……よかった……ぶじ、だった……」

 

 「ステラ、しゃべるな!! 今すぐ助けるから!!」

 

 「こどもたち……まもっ……て……」

 

 その言葉を最後に、ステラのまぶたがゆっくり閉じた。

 

 「ステラァァァ!!!」

 

 叫びと同時に、炎の光が空を赤く染める。

 ニコルはマユの手を取り、避難するよう促した。

 シンはステラを抱きかかえたまま、燃え盛る瓦礫の中を走り出していた。

 

 「こっちだ!! 病院へ急げ!!」

 

 ニコルが先導し、マユが泣きながら子供たちが迷わないように最後尾で追いかける。

 瓦礫の下で呻く人、助けを求める声。誰もが恐怖に震えていた。

 あの穏やかなハーバーコロニーが、まるで地獄へと変わっていた。

 

 病院に着くと、そこは既に混乱の坩堝だった。

 トリアージのタグが床に散らばり、看護師たちが悲鳴をあげながら走り回っている。

 軽症者は勿論、命の危険性が低い怪我人は病院に入れず、駐車場や庭で治療されていた。

 

 「赤! こっちは赤だ!!」

 

 「酸素が足りない!!」

 

 血と煙と薬品の臭いが混じり合い、息を吸うだけで喉が焼けるようだった。

 

 「頼む!! この子を助けてくれ!! ステラが死んじまう!!」

 

 シンは医師にすがりつき、声の限りに叫んだ。

 医師が振り向いた瞬間、その顔が強張る。

 背中を貫いたガラス片、失血――普通ならもう助からない。

 だがシンの叫びに無駄と知りながら治療を施す事にした。

 

 「酸素ボンベを!! 電気ショック用意!!」

 

 「了解!!」

 

 「ステラ、お願いだ……戻ってきてくれ……!」

 

 医師の「放電!」の声と共に、ステラの身体が跳ねた。

 数秒後、モニターが小さく反応し、心拍が戻り始める。

 

 「……生きてる。ステラ、生きてるぞ……!」

 

 震える声で呟いたシンの頬を、涙が伝う。

 しかし医師の表情は重いままだ。

 

 「止血が間に合わない。このままでは……」

 

 その言葉に、シンはステラの手を強く握った。

 

 「ハウメアの神様……どうか……どうかステラを連れていかないでください……俺の命ならいくらでも差し上げます……ステラを助けてください……ステラを助けて!!」

 

 いつもそうだ、俺は祈る事しかできないのか?

 シンは自分の無力が憎かった。

 もしここにシンの愛機アストレイがあれば戦えたのに。

 ステラをこんな危険な目にあわせる事などなかった。

 

 ……再び罪を重ねるとしても。

 ステラの笑顔が守れるなら。

 ステラの歌がもう一度聞けるなら俺は戦う。

 

 祈る声が病室の喧騒にかき消される。

 病院が揺れ誰かの悲鳴が聞こえる。

 天井からぱらぱらと砕けた病院のコンクリートの粉がシンの手を白く染めた。

 冷たいステラの手。

 その手を握り続けながら、シンはステラの微かな温もりにすがった。

 

 ───外では爆発音が続いていた。

 コロニーの外壁が崩れ、空気が漏れる音が耳を打つ。

 ニコルはその音を聞きながら立ち上がった。

 

 「シン、マユ……僕は行く」

 

 「行くって、どこへ!? ニコル!!」

 

 マユが泣きながらニコルの腕を掴む。

 死地に向かうと知っているからだ。

 一年前ならマユが乗れるMAシェンウーがあった。

 でも今はニコルを守るMAはない。

 ニコルは静かに彼女を抱きしめ、髪を撫でた。

 

 「マユ。僕は必ず帰る……そう約束したい。でも今は、仲間も子供たちも君の未来も、僕が守らなきゃいけない」

 

 その声は震えていたが、迷いはなかった。

 自分が死ぬのは怖いが、マユを失う事はもっと怖かった。

 

 「……僕は永遠に、君を愛してる。」

 

 その言葉を残し、ニコルは走り去っていった。

 宇宙港へ向かう背中を見送りながら、マユは声を上げて泣いた。

 

 崩れゆく空の下、シンはステラの冷たい手を握りしめたまま、胸の奥で呟いた。

 

 ――もう二度と、何も奪わせない。

 

 その瞬間、彼の瞳に炎のような決意が宿った。

 ステラと、この世界を守るために。

 たとえ自分が再び戦場に立つことになっても――。

 ステラと自分たちの平和な世界を壊した奴らを許せない!!




このシリーズはシンちゃんが主人公です。主人公補正強めです。
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