機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第三十話 銃口の先に

 第三十話 銃口の先に

 

 アーモリーワン外壁に、突如として閃光が走った。

 次の瞬間、空が裂けたような衝撃音。

 ミラージュコロイドを解除したブルーコスモス艦隊が一斉にミサイルを放ち、白い軌跡がコロニー外壁を貫いた。

 

 『コンディションレッド発令!! 繰り返す!! コンディションレッド発令!! 当コロニーは未確認艦隊の攻撃を受けた!! 繰り返す!! 当コロニーは未確認艦隊の攻撃を受けた!! オールウェポンフリー!! 対艦・対MS戦用意!! これは訓練ではない!! 繰り返す!! これは訓練ではない!!』

 

 ヤキン・ドゥーエの戦いから二年。

 多大な犠牲を払ったザフト艦隊は、優秀な人材の補充が間に合っていなかった。

 すぐにナスカ級、ローラシア級からMSのゲイツや新型ザクウォーリアが発進するが、パイロットは新兵ばかりだ。

 それに対し、ブルーコスモス艦隊は国力に物を言わせた圧倒的な数で襲いかかる。

 ストライクダガーの後継機ダガーLを中心に、最新鋭のウィンダムで編成された艦隊だった。

 ザフト側は近隣基地からの救援で数的不利を覆せる見込みだったが――

 ブルーコスモスは、単なる数の戦いなど考えていない。

 

 アーモリーワン軍港は、外の艦隊と呼応するように潜入していた地上部隊に急襲された。

 軍港だけでなく、平和な街だった市街地や居住区にもブルーコスモスは侵入し、街を歩くコーディネイターたちに短機関銃と手榴弾を投げつける。

 通信が途切れ、警報が街を飲み込む。

 数分前まで穏やかだった人工の昼が、赤い閃光で染め上げられていく。

 戦争の記憶が、またこの空に帰ってきた。

 

 ───地響きが足元から這い上がる。

 シンはルナマリアを庇い、崩れたビルの陰に身を滑らせた。

 買い物袋が破れ、地面に転がった菓子の包みが焦げて黒く変色していく。

 

 「ルナ、伏せろ!」

 

 「っ、シン――!」

 

 叫びより早く、爆風が二人を弾き飛ばした。

 空気が焼ける匂い。金属片が頬をかすめ、耳の奥で何かが鳴り止まない。

 目を上げたルナマリアの視界に、赤いものが映る。

 母親が、子を庇うように倒れていた。

 腕の中の幼い少年は、まだ泣き声をあげている。何が起きたのかもわからずに。

 

 「……やめて……どうして……」

 

 ルナの声は震えていた。

 それでも彼女の体は動いていた。

 近くに散らばるガラス片の中に、微かに反射した銃の影。

 テロリストが笑いながら引き金を引く。

 

 「ルナ、伏せてろ!」

 

 シンの手が動いた。

 ガラス片を掴み、痛みも忘れて投げ放つ。

 鋭い破片が敵の手を貫き、銃が落ちた。

 シンはそのまま地を蹴って跳びかかり、拾い上げた銃でためらいなく撃った。

 乾いた銃声が、街の静けさを切り裂く。

 

 息を荒げながら振り返ると、シンの背後にもう一人。

 ルナの声が飛んだ。

 

 「シン、動かないで!」

 

 シンが瞬時に止まる。

 ルナの拳銃が火を噴き、背後の影を撃ち抜いた。

 弾丸が抜けた煙の先に、男が倒れる。

 動かなければ死ななかった。動けば、ルナが撃っていた。

 二人の間に、言葉にならない沈黙が走る。

 

 「……助かった」

 シンが短く言う。

 足元では、さっきの母親が子供を抱いたまま動かない。

 その小さな手が、母の服を握ったまま震えていた。

 世界が、音を失ったように静かだった。

 

 「なんで……」

 ルナマリアの声が震える。

 「こんな……なんで、こんなことになるの……」

 

 先ほどまで平和な世界だったはずなのに。

 目の前の親子は理不尽な暴力で引き裂かれた。

 なぜ?

 理由なんか簡単だ。

 ――武器を持っていなかったからだ。

 理想のために語り合った日常が、いとも簡単に踏みにじられていく。

 

 子供の泣き声が響く。

 シンは迷わずその子を抱き上げる。

 

 

 「守ろう。……俺たちがやるしかない」

 ルナは泣きながら頷いた。

 手の中の銃が重い。けれど、握り返す手には確かな力があった。

 

 ───銃声と悲鳴が街に混じる。

 シンとルナは背中を合わせて動いた。

 敵を撃ち、倒れた市民を庇い、また走る。

 撃つたびに胸が痛む。それでも引き金を離せない。

 “撃たなければ、誰かが死ぬ”――それが現実だった。

 

 「シン! 右!」

 「わかってる!」

 

 反射的に撃ち抜く。

 そのたびにルナの顔に飛ぶ火花。

 火薬の匂いの中で、二人の呼吸だけが生きている証だった。

 

 通信端末が震えた。

 ミネルバからの緊急連絡。画面には赤い文字が点滅する。

 《全員、至急帰艦せよ》

 

 「帰艦命令!? 今は無理だっての!」

 シンが怒鳴る。

 二人は必死にテロリストとの戦いを続けた。

 ここでミネルバへ戻ったら、市民は誰が守るのか。

 だがその声を、ルナの手が制した。

 

 「ちょっと待って――メイリン!」

 

 通信を繋ぐと、妹の声がノイズの向こうから届いた。

 

 「お姉ちゃん!? 無事だったの!?」

 

 ルナは短く笑って、息を整えた。

 「無事……とまでは言えないわ。市街地で交戦中。避難民が多すぎるの。市民を見捨てて帰艦は無理って、艦長に伝えて」

 

 少しの沈黙。

 そして、メイリンの震える声。

 「わかった。伝える……気をつけて、絶対だから」

 

 通信が切れる。

 メイリンの報告を聞いたタリア艦長は、市街地の映像を見据えた。

 シンとルナが戦っている場所は、そう遠くない。そこにはまだ市民がいる。

 

 タリアは立ち上がり、指揮官としての声を張った。

 「ミネルバ、市民をテロリストから保護するべく発進します。――ガイア、カオス、出撃準備!」

 

 彼女の声に、ブリッジの全員が一斉に動く。

 アグネスの瞳が炎のように光り、レイが無言で頷いた。

 

 タリアは操舵席の前で、静かに呟いた。

 「祝福の鐘が鳴るはずの港で、また警報ね……」

 誰も答えなかった。誰もがその意味を知っていたからだ。

 その唇の端がわずかに震える。

 「ミネルバ、発進――!」

 

 赤い炎が噴き上がる。

 街の灯りを押しのけるように、ミネルバは滑るように宙を駆け上がった。

 その名は、ローマの軍神ミネルヴァ――知恵と戦の女神。

 戦いを嫌いながらも、平和を守るために剣を取った女神の名。

 

 平和を誓った艦が、最初の戦火へ向かう。

 艦体を包む光は、まるで祈りの炎のようだった。

 その炎は破壊の色をしていながら、確かに“守る”ための輝きだった。

 

 その光の中で、シンとルナは振り返らずに走っていた。

 ――守るために。

 もう二度と、誰も奪わせないために。




平和から一転して戦争です。この世界のブルーコスモス艦隊は大幅に強化されているという事で。ユニウス条約?ナニそれ状態。
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