機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第三十一話 裏切り者のコーディネイター
アーモリーワンの空が、裂けた。
白い天井に張りついた人工の昼が、爆光に染まる。
外壁の防御シールドを貫いた弾頭が、金属を歪ませ、轟音が街を包んだ。
ミネルバの艦体を照らす誘導灯が一瞬で消え、代わりに警報灯が赤く点滅する。
「艦長!! 軍港および市街地の味方機がミサイル発射! 数六! さらに別の熱源、ビーム砲多数を探知!!」
「えぇぇぇ!?」
メイリンの声が裏返り、アーサーが椅子を蹴って立ち上がる。
ブリッジの空気が一瞬で凍った。
タリアは迷わず言葉を発した。
「右舷三十、仰角十五! ミサイルは撃ち落としなさい!」
命令が響いた瞬間、艦の対空砲が一斉に火を噴いた。
火線が交差し、衝撃が艦体を震わせる。
撃ち漏らした弾頭が、すぐそばを通り抜けた。
厚い装甲の下で、鋼が軋む音がした。
「友軍を撃ったのは誰!?」
「ザフト機です! 識別信号――不明!」
「味方機? ……どういうこと?」
映像が切り替わり、スクリーンには煙を裂いて飛ぶ六機のザクウォーリアが映った。
赤いモノアイが光り、無抵抗の救難シャトルへ銃口を向けている。
機体コードは確かにザフト。
だが、搭乗者の情報は削除されていた。
ミネルバの艦橋に緊張が走る。
まるで時間そのものが止まったようだった。
「……ヤキン・ドゥーエでもいたわ。あの時も、味方に銃を向けた者たちが」
タリアの声は冷えていた。
そのとき、通信が割れた。
ノイズの向こうから、人の声がする。
『我々は神の真似をした。だから罰を受ける。お前たちも同じだ。――滅びろ、造られた者ども!』
次の瞬間、ビームが閃き、ミネルバの前方で救難シャトルが爆発した。
翼が折れ、火の粉が雪のように散る。
メイリンが悲鳴を飲み込んだ。
「第三便、墜落します!」
「アグネス、レイ! 排除を許可!」
「了解、艦長。ガイア、出るわ!」
カタパルトのゲートが開き、白い光が艦内に流れ込む。
アグネスのガイアが滑るように射出された。
獣の四肢が煌めき、赤い残光を引く。
続いて、レイのカオスが後を追った。
「通信妨害強。短文通信に切り替えます」
メイリンの言葉にタリアは小さく頷き、専用回線を開く。
緊張で息を呑む音だけが艦橋に残った。
外はもう夜のように暗かった。
炎の光だけが、コロニーの街並みを不気味に照らしている。
瓦礫の間を、黒い影が疾走していた。
敵のザクウォーリア。
破壊を恐れないその動きに、冷たさしか感じられなかった。
撃てば民間人がいる。
撃たなければ、シャトルが撃たれる。
敵は、まるでそれをわかっているようだった。
『我々は人ではない。試験管の中の失敗作だ。神の真似をして生まれた穢れだ!』
ノイズ混じりの声が、無線の中で悲鳴のように響く。
『失敗作はあんたたちよ! 才能を与えられていながら、それを腐らせるなんて!』
アグネスが吐き捨てた。
『“造られた”なら誇りなさい。それもできないなら、生きてる意味なんてないわ!』
『そんな言葉で、今を生きている人を殺すな!』
レイの声が怒りに低く唸る。
アグネスのガイアが変形し、四脚の獣形態で突進。
金属の爪が火を噴き、敵機の装甲を裂いた。
火花が弾け、コロニーの壁面を焦がす。
ザクウォーリアが跳び退き、ビームアックスを振るう。
刃がガイアの肩を掠め、火花が舞った。
『……こいつ、訓練を受けてる!』
アグネスの舌打ちが聞こえる。
その動きは、同じ教育を受けた者のものだった。
『これも……人の業か』
レイの呟きが、金属音の中に消える。
カオスがビームソードを抜き、一直線に突撃する。
近距離戦。
ライフルは使えない。
敵は、それでも撃った。
光が爆ぜ、熱が空気を焼く。
ビルが砕け、破片が降り注いだ。
地上では――
シンとルナマリアが炎の中を駆けていた。
焦げた空気に鉄の匂いが混じる。
遠くで子供の泣き声。
「シン、あそこ! 熱源二つ!」
「了解! ルナ、俺が押し上げる!」
シンは倒壊した鉄骨を押しのけ、コンテナを蹴り開けた。
中から、小さな手が伸びている。
ルナはすぐに外套を脱ぎ、子供を包み込んだ。
「大丈夫、大丈夫だから……」
息が震えていた。
だが、その声には確かな強さがあった。
背後で再び閃光。
熱風が吹き抜け、瓦礫が舞い上がる。
シンがとっさにルナを抱き寄せ、倒れ込んだ。
「くそっ……! 上空のザクが撃ってる!」
ルナが見上げた夜空には、緑と黒の閃光が交錯していた。
アグネスのガイア。レイのカオス。
そして、黒いザクウォーリア。
「やめて……あれ以上撃ったら、ここに市民が!」
シンは咄嗟に無線を開いた。
「こちら地上部隊、シン・アスカ! 救助民多数! 射線に民間施設あり、注意を!」
『わかってるわよ!』
アグネスの怒声が返ってきた。
その瞬間、黒いザクがカオスの背後に回り込む。
『レイ、後ろ!』
レイが反射的にスラスターを噴射。
ビームサーベルが一閃し、敵機の装甲を貫いた。
光の中で、敵の声が震える。
『……これでいい。生まれた意味など、最初から……なかった……』
閃光が夜を裂いた。
爆発。
空が燃え、衝撃が地を揺らす。
レイのカオスが吹き飛び、ガイアが防御姿勢でその前に立つ。
音が消えた。
熱風だけが、街を撫でた。
瓦礫の隙間で、シンとルナは子供を抱いていた。
焼け焦げた風が髪を乱し、ガラスの破片が頬をかすめる。
それでも、息があった。
「……生きてる」
ルナの声は掠れていた。
小さな鼓動が、腕の中で震えていた。
シンは短く息を吐き、空を見上げた。
そこには、二つの残光。
緑と黒の光が、夜を染めていた。
カオスとガイア。――生きている。
「アグネスとレイに助けられたな」
「あたしたちも……やれることは、やったわ」
遠くで爆炎の音がまだ響いていた。
だが、今この瞬間だけは、風が静かだった。
シンとルナは、避難した人々と共に空を見上げた。
赤い光がゆっくりと夜に溶けていく。
それは炎のようでもあり、祈りのようでもあった。
――選ばれし命と、守られし命。
同じ空の下で、ただ静かに燃えていた。