機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第三十四話 亡者ども

 第三十四話 亡者ども

 

 どこまでも続くなだらかな緑の丘。

 暖かな日差しを浴びて美しく輝く森の木々、湧水が美しい小川を流れていた。

 その静寂の中心に、ひときわ異様な光を放つ建造物がある。

 ──古風な装飾を施した屋根の邸宅。

 

 空調の効いた屋内には鹿の剥製が壁に並び、分厚い絨毯には赤ワインの滴が乾きかけている。

 九人の男たちが長い楕円形のテーブルを囲んでいた。

 誰もが上流社会の出であり、血筋も金も、権力も腐るほどに持っている。

 彼らの服は狩猟用の乗馬服。

 さっきまで森で鹿を撃っていたらしく、靴の底にはまだ泥がこびりついている。

 外では世界が崩壊に向かっているというのに、室内の空気は穏やかで、甘く腐っていた。

 

 壁際では、二人の男がビリヤードをしている。

 真紅の絨毯に落ちた球の音が、まるで心臓の鼓動のように乾いて響いた。

 

 その中で、最も若い一人が立ち上がる。

 白金色の髪、青白い肌、芝居じみた口調。

 ロード・ジブリール。ブルーコスモス盟主にして、この壮麗な邸宅の持ち主。

 世界を支配する“王”達を自分の邸宅に集める事が出来る男だ。

 

 「諸君。まさに未曾有の危機です」

 ジブリールは、指先でグラスを弄びながら笑った。

 「ユニウスセブンが軌道を外れ、地球へと落ちようとしている。破壊力は広島型原子爆弾の数十億倍。まるで神の鉄槌です」

 

 誰も驚かなかった。

 彼らはすでに知っていた。

 ニュースが流れるより前に、情報網は彼らの手中にある。

 

 「……人類滅亡のシナリオ、か」

 ひとりの老人がシガーをくゆらせながら呟いた。

 その顔は皺に埋もれ、瞳は濁った琥珀のようだった。

 だがその声には、わずかな愉悦が混じっている。

 

 「いえいえ、滅亡などいたしませんよ」

 ジブリールがゆっくりと首を振る。

 「むしろ、これは新しい始まりです」

 

 彼の周囲で男たちが小さく笑う。

 グラスを鳴らし、ワインを傾ける。

 その音は、まるで鎮魂歌の拍子のようだった。

 

 「まさか、そんな馬鹿なことが」

 誰かが言う。

 「こんな時に新しい始まりとは?」

 

 「ええ、もちろんですとも」

 ジブリールの声は芝居がかった優雅さを帯びていた。

 「民衆は必ず問います。“なぜこんなことになったのか”と。誰かに罪を求めるのですよ。災厄には、常に“悪”が必要だ」

 

 男たちは黙って耳を傾けた。

 ジブリールの表情に浮かぶのは、宗教家でも預言者でもない。

 ──人の死を娯楽とする狂人の笑みだった。

 

 「プラントのデュランダル議長は必死です。地球各国に警告を送り、救済の手を伸ばしている。彼は民衆の救世主を演じているつもりなのでしょう。だが、我々にとって重要なのはその後です」

 グラスの縁を指で弾く。透明な音が、空気を切り裂いた。

 「“なぜ”という問いに、我々が答えを与えてやる。答えはひとつ——あの忌まわしいコーディネイターどもだ」

 

 男のひとりが低く笑う。

 「……つまり、戦争か」

 

 「戦争?」

 別の男があくびをしながら言った。

 「だが被害によっては、戦争をする体力すら残らんぞ」

 

 会話の調子はどこまでも冷たい。

 彼らにとって戦争とは、数字と帳簿の問題でしかない。

 焼ける街も、死ぬ人も、すべては投資と収益の間にあるただの波。

 その波に飲まれないことこそが“貴族”の知恵だった。

 

 「ご心配なく」

 ジブリールはにやりと笑う。

 「人類は滅びません。滅ぶのは一部の“不要な者コーディネイター”たちです。民衆は憎悪を求めている。復讐を欲している。ならば、我々が敵を与えればいい」

 

 ひとりの老人が、炎の揺れるグラス越しにジブリールを見つめた。

 「……敵、か」

 「ええ。人類を不幸にした元凶を。“宇宙に住むバケモノども”を」

 

 しばし沈黙。

 やがて誰かが笑い出した。

 それは小さな笑いだったが、すぐに伝染する。

 腹の底でくぐもった笑いが連鎖し、部屋全体がくすくすと震えた。

 壁にかけられた鹿のはく製が、笑い声に合わせて歪んだように見える。

 明かりが男たちの顔を醜く照らした。

 

 ジブリールは立ち上がり、手を広げる。

 「だからこそ、我々は動く。地球は再び“正義”の名のもとに戦うのです。戦争は再生だ。文明は血によってしか洗われない」

 

 彼の言葉を、誰も疑わなかった。

 この部屋に“倫理”という言葉は存在しない。

 あるのは利権、資源、支配、そして支配される者たちへの軽蔑だけ。

 

 老人の一人が灰皿に葉巻を押しつける。

 煙が立ち上り、壁にかけられた鹿の剥製がその煙を浴びて、まるで笑っているように見えた。

 

 「では、我々はどう動く?」

 「まずは逃げることですな」

 「当然だ。こんなところで死んでは、誰が金を数える?」

 「避難は既に手配済みです。安全圏から次の“世界秩序”を立て直すのですよ」

 

 ジブリールは頷く。

 「ええ、もちろん。生き残った民衆には敵を。混乱には秩序を。そして我々には……莫大な利益を」

 

 その笑みは、もはや人のものではなかった。

 この場に“生命”と呼べるものは、ひとつもない。

 あるのは金で肥大した亡者たちの影だけだった。

 

 会議が終わると、老人たちはそれぞれの車へと消えていった。

 屋敷の外、凍った夜気の中で、馬が鼻息を鳴らす。

 その白い息さえ、どこか死臭を孕んでいた。

 

 ロード・ジブリールはひとり、テラスに立ち、灰色の空を見上げた。

 夜の雲の向こうで、ユニウスセブンの残骸が微かに光っている。

 それはまるで、天に浮かぶ巨大な棺のようだった。

 

 「いいぞ……この一撃が人類覚醒の炎となる」

 その呟きは、冷気とともに消えていった。

 

 やがて彼は笑った。

 その笑いは、世界を焼き尽くす業火よりも冷たかった。

 

 『青き清浄なる世界のために』

 

 その言葉が吐き出された瞬間、森の奥で一羽の鴉が飛び立った。

 翼が空気を裂く音だけが、遠い平原に残った。




他人の不幸は蜜の味。自分たちは安全だからって好き放題言ってるって図です。ユニウスセブン落下って一言でいえば恐竜絶滅レベルになるらしい。広島型原爆の下りは説明的ですが、かえってわかりにくかったかもしれません。一言で言うと、もう無茶苦茶ですな。
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