機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第三十五話 運命のすれ違い
──同時刻。
宇宙の闇を進むアークエンジェルは、落下軌道に入ったユニウスセブンへと向かっていた。
周囲には崩れた岩塊が漂い、砕けた外壁が照明に照らされて青白く光る。岩片が装甲を叩き、鈍い衝撃が艦内に響く。
「避けきれません!」ノイマンが叫ぶ。
「構わないわ、全速力!」
マリュー・ラミアス艦長の声がブリッジに響いた。
“プラントがユニウスを報復兵器にする”
その情報を二時間前に入手したマリュー・ラミアス艦長はすぐに急行した。
モルゲンレーテの通信士が偶然解読した、ザフトの極秘通信。
確証はなかった。だが、もし本当なら――。
恐竜を滅亡させたのとほぼ同じ、直径八キロの岩塊が落下すれば地球は滅ぶ。
「そんなこと、させられないわ」
低く呟いたマリューの拳が、肘掛を握りしめた。
金属が軋む音がした。
彼女は知っていた。これが成功しても、報復は止まらない。
ナチュラルとコーディネイターの間には、また消えない憎しみが刻まれる。
それでも――今は止めなければならない。
「こうも視界が悪いと何も見えませんね」
ナタル・バジルールが言った。
艦橋の揺れの中でも、姿勢ひとつ崩さない。
「ナタル、何か方法は?」
「ゴットフリートを斉射して岩塊を破壊しながら進むことは可能です。ですが、発砲すればザフト側にこちらの位置が知られます」
「……つまり、このまま進むしかないわね」
艦外をかすめた岩片が火花を散らした。マリューは息を整え、つぶやく。
「ザフトにも、ニコルやタリアのように良識を持つ者がいる。こんな暴挙を許すはずがない」
モニターに表示される数値が、刻一刻と変化する。
視界は悪化し、電波障害も増えていた。
だが――時間は、待ってくれない。
「増速。これ以上の遅れは許されない」
「了解。機関、最大出力!」
艦が震え、重力制御が乱れた。冷たい金属音が響く。
――人類の未来が、この艦の進路にかかっている。
「……あの青い星を、守るために」
その声は、祈りのようだった。
──格納庫。
整備兵たちが走り回り、金属の匂いと熱気が立ちこめる。
ムウ・ラ・フラガがパイロットスーツのジッパーを上げながら笑った。
「地獄に突っ込む気分だな」
「やめてよ、そういうの」マユラが苦笑しジュリとアサギがムウを睨んだ。
そこにカガリとアスランが現れた。
紫と紅のスーツが照明を受け、艶やかに光る。
カガリは短く言った。
「私とアスランも出る。これはオーブだけの問題じゃない。地球の未来のためだ」
マリューは短く頷いた。
「アストレイMK-2を二機、出撃を許可する」
ムウが笑みを浮かべる。
「心強いね、お姫さま」
「今はそんな肩書き、関係ない!」
カガリの瞳の奥に、迷いがかすかに宿っていた。
アサギ、ジュリ、マユラは少しあきれ顔だ。
うちのお姫様は代表になって婚約者が出来ても、相変わらずお転婆よねと微笑む。
三人にとってカガリは可愛くて護り甲斐がある妹だった。
出撃準備の音が響く中、アスランが静かに問う。
「本当に行くつもりか?」
「行くに決まってる。誰かが止めなきゃ、みんな死ぬんだ」
「……だが、これは誤報かもしれない」
「それでも放っておけない!」
カガリは叫び、拳を握る。
「もし本当にデュランダルが仕掛けたことなら、私は――絶対に許さない!」
彼女の声は、金属の壁に反射して響いた。
アークエンジェルは誤解していた。
ユニウスセブンが意図的に地球へ落とされるまでは正しかったが、それはザフトの一部のテロリストの仕業とは思わなかったのだ。
神の目を持たぬ彼らの目を曇らせたのは、ミネルバとミネルバに搭載されたセカンドステージのガンダムが、地上戦闘を想定して製造されたものだったからだ。
デュランダル議長は最終判断───ナチュラルの絶滅という形で、争い自体を無くそうとしたのではないかという疑惑も強かった。
───誤解が誤解を生み、相互不信の塊となっている。
カガリはコクピットで静かに目を閉じた。
デュランダル――。
頭が切れ、理想を語り、そしてどこまでも冷静な男。
けれど、その目の奥に何か底知れぬものを感じていた
「争いが無くならぬから、力が必要なのです」
あの言葉が、カガリの耳に蘇る。
“戦いを終わらせる為に戦う”
“これは正義のための戦いだ”
この言葉に騙された者の血をインクにして、歴史の本は綴られている。
政治家の言葉など、信じられない。
歴史は何度も証明してきた。
正義を口にした者ほど、戦争を始める――。
艦の内部アラートが鳴り響く。
ノイマンの声が通信に割り込んだ。
「目標宙域まであと五分! 電磁ノイズ上昇中!」
「通信障害か……」
マリューは顔を上げる。
「ナタル、ザフトの通信は?」
「反応なし。おそらく完全に遮断されています」
「……嫌な沈黙ね」
艦橋の空気がさらに重くなる。
その沈黙の中で、誰もが同じことを思っていた。
――プラントは、本当にユニウスを落とそうとしているのか?
マリューはスクリーンを睨みながら、低くつぶやいた。
「ザフト艦と戦うことになっても、止めるしかない」
その瞬間、ブリッジの警報が鳴った。
「ザフト艦、反応あり! 宙域正面に接近!」
ナタルの報告が響く。
マリューの視線が鋭くなる。
「艦種は?」
「識別コード――“ミネルバ”!」
ブリッジがざわめいた。
マリューの心が波立つ。
――タリア艦長、あなたなの?
同じ理想を語り合った友が、今、銃口を向けてくるのか。
「迎撃態勢!撃っては駄目!何か事情があるのかも!」
艦橋に緊張が走る。
ノイマンの声が震える。
「進路、完全に塞がれています!」
「……彼らは、何をしようとしているの?」
マリューは立ち上がり、モニターに向かって叫んだ。
「こちらはアークエンジェル! 応答してください、ミネルバ!」
返事はない。
通信は完全に遮断されていた。
「まさか……ユニウスを守っている?」
カガリの声が震える。
もしそうなら、プラントはユニウスセブンを地球に落とそうとしている。
───良識派のタリア艦長がなぜ?
その瞬間、モニターの中央で光が走った。
岩塊が砕け、閃光が闇を裂く。
ミネルバの主砲が、アークエンジェルの背後を飛ぶユニウスの残骸へ向けて放たれたのだ。
「撃った……!? 何を――」
「違う……!」アスランが叫ぶ。
「あれは――破砕だ!」
ミネルバは破砕されていくユニウスセブンの残骸を更に小さくしているのだ。
だが、その光はアークエンジェルの視界をも包み込んだ。
誤解と不安と、信じたい心が交錯する。
目の前で陽電子破砕砲『タンホイザー』を発射されたのだ。
「もう一度呼びかけて! こちらに抗戦の意思はない!」
「しかし、このままでは撃沈されます!」
マリューは拳を握りしめた。
あの艦にはシンもニコルもいる。タリアも良識の人だ。
だが彼らはプラントの軍人でデュランダル議長の命令には従わねばならない。
マリュー達の正義とプラントの正義が対立すれば、ミネルバはプラントの正義に与するしか選択肢はない。
青い星を背に、二隻の艦が対峙する。
同じ星を守ろうとしながら、互いに銃口を向けた。
沈黙を裂く閃光――。
運命の誤解が始まった。
アークエンジェルの正義とプラントの正義。どちらも自分こそが正義だと信じている。もしそこに食い違いがあれば?これが人の業というものでしょうか。