機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第三十六話 疑惑の砲火

 第三十六話 疑惑の砲火

 

 宇宙は、息を潜めていた。

 ただ、光だけが暴れていた。

 

 ミネルバはユニウスセブン破砕作戦の最前線にいた。

 シンたちのMS部隊は瓦礫の海でザラ派の残党を追い、艦はタンホイザーの照準を岩塊群に定めていた。

 艦橋には、まるで時間が止まったかのような緊張が漂う。

 誰もが、呼吸を忘れていた。

 

 「破砕用の射角、固定完了!」

 「タンホイザー、チャージ完了まで――三秒!」

 

 アーサーの報告が響く。

 その刹那、通信士メイリンが顔を上げた。

 「識別信号、確認! ……アークエンジェルです!」

 

 「なにっ!?」

 タリアの瞳が鋭く光る。

 「チャージ中止! 急いで!」

 「駄目です! すでに発射シーケンス進行中!」

 

 閃光。

 タンホイザーの砲口から白い光が放たれ、闇を裂いた。

 巨大な岩塊が閃光に呑まれ、爆発。

 破砕された無数の破片がアークエンジェルの装甲を叩き、艦体が激しく震える。

 光の先、かろうじて回避したアークエンジェルの姿が閃光の残滓に浮かんだ。

 

 「直撃は外れましたが、これは――!」

 アーサーの声が震える。

 

 「メイリン、通信を繋いで!」

 「はいっ、でも……電磁波障害が強くて、波形が乱れてます!」

 ノイズ混じりの音声が艦橋に流れる。

 『……ク……ケル……やめ……』

 

 タリアは唇を噛んだ。

 「……何も聞き取れないわね」

 「まさか……アークエンジェルが妨害に?」アーサーが息を呑む。

 「そんな馬鹿なことあるわけないでしょう!」タリアの声が鋭く響く。

 「ユニウスが地球に落ちれば人類は終わる。彼らだって分かっているはずよ!」

 

 だが胸の奥で、冷たい予感が静かに膨らんでいく。

 ヤキン・ドゥーエで見たアークエンジェルの“正義”――あれは確かに美しかった。

 けれど、その光の下でいくつのザフト兵の命が消えたかも知っている。

 あの船はプラントのジェネシスを破壊し、地球連合のピースメーカー隊を壊滅させた。

 それは双方の絶滅を回避したが一歩間違えれば、今あるどちらの文明も滅んでいた。

 元々は地球連合の艦でザフトと戦い、ザフトは大勢の戦死者をだした。

 そして地球連合を脱走し、今度は地球連合と戦った艦。

 

 “――彼らの不可解な“正義”にプラント六千万人の命を預けるわけにはいかない”

 

 軍人として当然の判断をタリアは下した。

 

 

 「破砕作業、続行!」

 「了解、タンホイザー再装填!」

 タリアは呟く。

 「最悪のタイミングね……誤解されたまま撃てば、取り返しがつかない。でもやめるわけにはいかない」

 

 宇宙の闇の中、ユニウスセブンの残骸は燃えるような軌道を描きながら崩壊を始めていた。

 直径八キロの岩塊は、表面温度が上昇し、内部の圧力変化で断裂を起こしている。

 放っておけば、数時間後には重力に引かれ地球に落ちる。

 この数分の行動が、何十億の命を左右する――タリアはその重みを感じていた。

 

 その頃――アークエンジェル艦橋。

 

 「ミネルバ、こちらに主砲を向けてきます!」

 ナタルの声が鋭く響く。

 マリューは短く息を吸い、即座に指示を飛ばした。

 「回避!」

 白光がアークエンジェルの右舷をかすめ、衝撃波が艦を揺らす。

 

 「被弾、外板損傷軽微!」

 「……撃ってきました。直ちに反撃を!」ナタルが鋭く叫ぶ。

 「プラントが報復を?そんなはずない、タリア艦長は理性的な人よ!」

「でも現実に発砲しています!撃たれたら撃ち返すしかありません!」ナタルが反撃を進言した。

 

 「待って!」

 マリューが手を挙げた。

 「このノイズ……ミネルバの通信よ」

 

 ナタルの指が走る。

 「スペクトラム補正……逆位相反転……信号拾えます!」

 

 ノイズが消え、声が流れる。

 『こちらミネルバ! 我々はユニウス破砕作業中! 妨害はやめてください! 当艦に交戦の意志はありません!』

 

 メイリンの叫びに艦橋の空気が一変した。

 「……なんですって?」マリューが息を呑む。

 ナタルは即座に叫んだ。

 「誤解です、艦長! ミネルバは敵じゃありません!」

 「全艦、戦闘態勢解除! 通信チャンネル、開けて!」

 

 ミネルバ側でもアーサーが叫ぶ。

 「艦長! アークエンジェル、発光信号! 『我、交戦の意志無し』と送ってきます!」

 「……敵意がない?」タリアが眉をひそめる。

 「通信も回復!」メイリンが声を上げる。「双方のチャンネル繋がりました!」

 

 メインスクリーンにマリューの顔が映る。

 『こちらアークエンジェル。誤解を招いてしまいました。私たちはユニウス落下を阻止するために来ました!』

 タリアはわずかに口元を緩めた。

 「こちらミネルバ。私たちも同じ目的です。協力を――」

 

 その瞬間、艦橋が震えた。

 「何!?」

 メイリンが叫ぶ。

 「ユニウスの残骸、自己崩壊反応! 軌道、変動しています!」

 「まだ割り切れてない部分が崩落しているのね……!」

 

 視界の先、巨大な断層が裂け、岩塊が千の破片となって散る。

 砕けた破片群がミネルバとアークエンジェルの間を通過し、衝突回避のために両艦が急回頭する。

 摩擦で燃える光が、無音の炎のように宇宙を染めた。

 

 「タンホイザー再チャージ! アークエンジェル、同調発射を!」

 「了解!」マリューの声が応じる。

 「ゴットフリート、同調射撃――照準、ユニウス残骸接合部!」

 

 ミネルバとアークエンジェルの砲口が光を帯びる。

 「撃てえ!」

 二条の閃光が重なり、断層の中心へと突き刺さった。

 爆発。

 破砕された破片が弾け、光の雨が宇宙を覆う。

 

 「やったか!?」アーサーが叫ぶ。

 「まだです!」メイリンが叫ぶ。「残骸の一部が軌道を外れています!」

 

 スクリーンに、地球を目指して落下を始める破片群が映る。

 無数の光が尾を引き、青い星を照らしていた。

 

 「……間に合わなかった、のね」タリアが呟く。

 マリューは通信越しにその声を聞き、静かに頷いた。

 「それでも、やれるだけのことはやったわ」

 

 ナタルが息をつく。

 「艦長、これ以上の破砕は危険です。もう限界です」

 「わかってる……」

 

 艦橋に静寂が戻る。

 外では、崩壊したユニウスの破片が無音の流星となり、地球の重力に吸い込まれていった。

 その光は、まるで神々の怒りのように――美しく、そして恐ろしく輝いていた。

 

 ミネルバとアークエンジェル、二隻の艦は砲を下ろし、漂う光の中で互いを見つめていた。

 ナタルが静かに言う。

 「これで……少しでも被害が減るといいんですが」

 タリアは小さく頷いた。

 「私たちは軍人よ。できることをする。それしかない」

 

 それでも、誰もが知っていた。

 この光の雨が、地球の大地を焦がすことを――。

 

 そして、宇宙の静寂の向こうで、

 誰も知らぬ運命の歯車が、静かに動き始めていた。




軍隊で脱走なんて論外で銃殺刑です。アークエンジェルはそれをやったあげく、ラクスの呼びかけで四隻同盟(この世界ではドミニオン含むアークエンジェル、エターナル、クサナギの四隻)にも参加し、ザフトと地球連合両方と戦いました。普通に危険な勢力です。ですので、プラントのミネルバはアークエンジェルが味方かどうか、毎回確認しないといけないのです。アークエンジェルの正義とプラントの正義がぶつかった時、今度は本気で戦う事になるでしょう。
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