機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第三十七話 沈む光
ミネルバ、アークエンジェル――
二隻の戦艦が並び立ち、それぞれの破城砲をユニウスセブンに向ける。
砕かれた岩塊の断面には、なお赤く燃える亀裂が走り、重力に引かれて地球へと落ちようとしていた。
「照準固定――発射用意!」
「タンホイザー、ローエングリン各艦チャージ完了!」
一瞬、静寂。
その刹那、艦隊の全砲門が閃光を吐いた。
地を穿つほどの白光が宙を裂き、砕け散ったユニウスの残骸を更に粉砕していく。
だが、それでもなお、崩壊の連鎖は止まらない。
巨大な岩塊の群れは、まるで世界そのものの断片のように漂い続けていた。
――終わらない破砕作戦。
ザラ派を名乗るテロリストたちの機体が、まだ抵抗を続けている。
シンたちは、アークエンジェル隊と連携しながら戦線を押し上げた。
ビームの閃光が交差し、漂う残骸の影が踊る。
アスランは隊長機と対峙していた。
「やめろ! こんな事をしても失ったものは戻らないんだ!」
「戻らんからこそ、ナチュラル共を焼くのだ! この地は我らの聖地だ! ザラ議長の理想こそ正義なのだ!なぜそれがわからん!」
アスランの瞳が苦痛に歪む。
父・パトリック・ザラ――最後の瞬間、彼は報復を止め、和平を選んだ。
だが“ザラ派”は、その事実を見ようとしない。
彼らは己の憎悪を正義と呼び、狂信を理想と信じていた。
「父上は……わかってくださったんだ! 憎しみの果てに何があるかを!」
アスランの叫びと共に、アストレイのサーベルが閃く。
隊長機が爆炎に包まれる刹那、「パトリック万歳!」の声が虚空に消えた。
アスランはヘルメットの奥で目を閉じた。
彼らにとってパトリックの狂気こそ正しいと、自分たちの歪んだ狂気を正当化したかっただけなのだ。
それはラクス・クラインを信奉する派閥も同じ事だ。
指導者の真意に関わらず、勝手に理想像を作り出す者は多い。
誰も救えない戦い。
その重みが胸を焼いた。
「……シン、もう限界だ。このままだと俺たちも地球の重力に引きずられる」
レイの通信が割り込む。
ニコルもアグネスもミネルバへの撤退に同意する。
メテオブレイカー部隊も撤退を開始していた。
シン達の奮闘も空しく、全ての破砕は出来なかった。
それでも、シンは動きを止めなかった。
タリアもマリューも非情な決断をせざるを得ない。
このままでは彼らMS隊もユニウスセブンと共に地球に“落下”してしまう。
「俺は!俺は諦めないぞ!」
シンはインパルスガンダムのビームサーベルで小さな岩塊を割っていく。
一つでも、一欠けらでも。
一人でも助ける為に。
「馬鹿じゃないの?もう間に合わないわよ」
アグネスの言葉が通信から聞こえる。
シンにもそれはわかっている。
それでもシンは諦められなかった。
「付き合ってられないわ。せいぜい最後までヒーローごっこを楽しみなさい」
アグネスは心底呆れた声でガイアを駆って危険高度を離脱する。
世界中の人々に崇拝される地母神の名を冠したMSを受け取ったアグネスは自分に相応しいと喜んだが、彼女に地母神の意味はわからない。
母なる大地を愛するから地母神なのだ。
ただ賞賛だけを求めるアグネスにその意味は理解できないだろう。
「シン!撤退するんだ!命令だぞ!」
ニコルもこれ以上の破砕作業は危険だと判断せざるをえない。シンと同じ一パイロットならニコルも同じ事をしただろう。
だが今ニコルはMS隊隊長なのだ。
みすみすシン達を失う訳にはいかない。
アビスにも砕かれた岩塊が何度もぶつかり、コクピットが激しく振動する。
ニコルはかつてアークエンジェルに特攻をかけた事を思い出した。
あの時の自分も視野狭窄をおこしていた。
だからシンをなんとしても連れて帰ると誓う。
生きていればこそ、また戦える。
「シン!もう無理よ!このままだとシンまで死んじゃう!私そんなの絶対いや!!」
ルナマリアのセイバーがビームサーベルを振るうシンのインパルスを羽交い絞めする。
激しく振動するコクピットでルナマリアは涙する。
他人の為に命をかけられる優しさと勇気。
深い愛情を持つシンだから惹かれた。
シンの瞳が自分に向けられなくても愛する人を止めなくてはいけない。
「あんたはここで死んじゃ駄目!ステラを悲しませたいの!?」
ルナマリアの必死の叫びにインパルスの動きが止まる。
シンが口を引き結び大粒の涙を流していた。
悲しすぎて声がでない。
悔しすぎて憤りを抑えられない。
シンの言葉にならない号泣をルナマリアは確かに聞いていた。
「……シン、お願い、戻って!」
ルナマリアの声が叫びに変わる。
セイバーの腕がインパルスを掴み、羽交い締めにした。
「これ以上は――もう無理よ!」
ルナマリアの震える声に涙が混じる。
シンの胸の奥で、怒りと悲しみがせめぎ合った。
――守りたいものを守れない、この現実が。
ルナマリアのセイバーをニコルのアビスが、シンのインパルスをレイのカオスが引っ張り危険高度から離脱していく。
シンはインパルスの中で言葉にならない悲しみと怒りの叫びをあげ続けた。
四人のガンダムが高度を上げた時、ユニウスセブンが最後の破砕をおこし砕け散る。
それは地上を焼き尽くす炎の矢となって降り注ぐ。
ユニウスセブンはその背後で砕け、崩れ、火の雨となって地球へと堕ちていった。
――その光は、まるで地上を焼く涙のように。
全てを浄化する赤い炎は限りなく美しかった。
ユニウスセブン落下です。アークエンジェルが駆け付けた事で被害は小さくなりましたが、それでも損害は甚大です。戦場でシンの背中を守るルナが健気です。ステラにできない事をやるとルナは決めています。次回あたりブルーコスモスさん達がそろそろ動きます。