機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第四話 救援の翼
地球からハーバーコロニーまで通常航路で一日はかかる。
だが、そんな悠長な時間は残されていなかった。
今この時もハーバーコロニーは崩壊し爆散するかもしれない。
ザフトのタリア艦長との交信は途絶え戦況はわからなかった。
最後に見たのはコロニーの一部が崩壊する映像だけ。
その姿は、かつてザフトの攻撃で崩壊したヘリオポリスによく似ていた。
あの時と違うのはザフトと一緒にハーバーコロニーを守っているという事だ。
ナチュラルとコーディネーターの理想郷を失ってはならない。
「艦長、これ以上の速力は無理です。エンジンがオーバーヒートします!!」
「今のままじゃ間に合わない。いいえ諦めては駄目!!何か方法を考えるのよ!!」
副官ナタル・バジルールの進言に頷くしかないマリュー・ラミアス艦長。
ナタルの意見はいつも正しい。
見たくない現実を見せてくれる。
隣を航行しているドミニオン艦長アリス・ハルバートンから進言があり、アリスはマリューと協議した。
戦術データと航路図を示して最善と信じる作戦をマリューに提示する。
「MSを先に出しましょう。艦船より早いです」
「MSの電源がもたないわよ?」
「予備バッテリーを全て使えば計算上はなんとかなります」
アリスの提案はアークエンジェルとドミニオンがもつ全ての予備電源パックを使ってMSをハーバーコロニーへ到達させるという方法だ。
「クロトのレイダーガンダムに全ての予備電源を乗せて他のMSを引っ張らせます」
「……予備電源は緊急時に残しておきたかったのよね」
「今が緊急時です。今、あのコロニーで人が死んでいます。そして助けられるのは私達だけです」
アリスの声にはわずかな震えがあったが、迷いはなかった。
祖父――ハルバートン提督が守ろうとした「人としての尊厳」。
それを受け継いだ彼女は、今まさにその理念のもとに立っている。
マリューの技術士官としての頭脳がフル回転し、予備電源の残量とクロトのレイダーガンダムの推力を計算した。
可能と言えば可能だが、失敗したらMS部隊は漂流する。
「アリスさん知的で大胆ね。ハルバートン提督が生きてらしたら何ていうかしら」
「きっと褒めてくれます。祖父はそういう人です」
「失敗を考えると怖いわね」
「私も怖いです。でも見捨てる方がもっと怖いです」
マリューは沈黙した。
その計算が、何人の命の境目かを知っているからだ。
だがこのまま一日航行して待っているのは、今も懸命に防戦してくれているザフト艦隊と、コロニーの残骸。
そしてコロニー住民の死体だけだろう。
この作戦を実行しなければ、必ずそうなると理解している。
冷静さを装っているアリスも不安を押し殺しているのが見て取れた。
一年も艦長としてコンビを組んでいればわかる事もある。
アリスも不安なのだ。
だから年上の自分が引っ張らなければならない。
「わかったわ。……あなたの作戦を信じる」
アリスが敬礼すると、マリューも静かに手を上げた。
その敬礼には、艦長同士としての信頼があった。
かつて戦った者同士だから、お互いの実力は理解していた。
───ドミニオンMS格納庫
格納庫のブリーフィングルームで今回の作戦が説明された。
カラミティガンダムのパイロット、オルガ・サブナック
レイダーガンダムのパイロット、クロト・ブエル
フォビドゥンガンダムのパイロット、シャニ・アンドラス
三名が集められた。
「クロトのレイダーガンダムに鋼鉄のワイヤーをつけてアークエンジェルとドミニオンのMSを引っ張って貰います。その為にレイダーガンダムに全ての予備電源を搭載します」
アリス・ハルバートンの作戦に三人とも開いた口が塞がらなかった。
そんな方法考えた事も実行した事も無い。
肝心のレイダーガンダムのパイロット、クロト・ブエルが手を上げる。
「また無茶苦茶な作戦だな」
先に口を開いたのは、オルガ・サブナック。
鋭い視線でアリスを見つめながらも、その口調にはどこか楽しげな響きがあった。
「それって失敗したら全員漂流しないか?主力電源、ぜんぶ俺のレイダーに積むとか正気じゃねぇな」
「お前の馬鹿力が役に立つんだろ」
シャニ・アンドラスが皮肉を交えて言う。
シャニも楽し気に笑っていた。
「計算上は可能です。確かに危険な作戦です。でもこの作戦をやらなければコロニーにいる子供たちは全員死にます」
アリスがいつものように淡々と説明する。
アリスの作戦が突拍子もない事は慣れていたと思っていたが、今回は危険が大きすぎる。
「なあ、そこまでしてあのコロニーを守る理由を聞いていいか?」
「貴方たちと同じ境遇の子供たちを死なせたくないからです」
きっぱりと言い切る十七歳の天才美少女艦長アリス・ハルバートン。
あんただって子供だろとクロトは言いかけたが無駄なのでやめた。
クロトの目に、かすかな陰が宿る。
自分たちもかつて“実験体”と呼ばれた存在だった。
誰にも救われなかった過去がある。
「条件がある」
「なんでしょうか?」
「作戦が成功したら俺と一日デートするって条件でどうだ?」
「その条件でいいです。ただ急がないとデート先のコロニーが無くなりますよ。ちゃんと私とデートしてください」
「了解」
そう言って笑いながら敬礼するクロト。
オルガもシャニは不満そうだ。
「ずりーぞお前」
「抜け駆けするなって言っただろ」
「うるせえ、こっちは命懸けなんだよ」
オルガとクロトとシャニのじゃれ合いにため息をついて、アリスは帽子を被りなおしてから
「作戦開始します」
そう言って三人に敬礼した。
オルガとクロトとシャニも敬礼する。
三人が敬礼するのはアリスに対してだけだった。
彼女だけが、彼らを“人間”として見ていたからだ。。
レイダーのワイヤーをカラミティ、フォビドゥンが掴む。
同時にアークエンジェルからムウのストライクガンダム、アサギ、ジュリ、マユラのアストレイMK-2が発進し合計七機の救援部隊が編成された。
「ムウ・ラ・フラガ、出る――。まったく人使いの荒い艦長さんたちだぜ。でもこういうの俺は好きだぜ」
そう言ってストライクのコクピットでムウ・ラ・フラガは楽しそうに笑う。
七つの光が宇宙を裂き、ハーバーコロニーへと向かった。