機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第四十一話 穏やかな港
オーブ本島南部、オノゴロ島の地下に眠る秘密ドックは、まるで海の底のように静まり返っていた。
だが今、その空気には久しぶりに穏やかな熱が宿っている。
修理用クレーンの音、艦底から響く機械の唸り。そこに混ざるように笑い声が聞こえた。
ミネルバ、アークエンジェル――二隻の艦が並ぶその光景は、戦火の時代において束の間だけ訪れた“安らぎ”の象徴のようだった。
ミネルバ艦内にも、やわらかな空気が流れている。
先日行われた音楽会の余韻が、まだどこかに残っていた。
アグネスの伸びやかな歌声、ニコルの穏やかなピアノ。
その調べは、兵士たちの胸に静かな余熱を残していた。
幾度となく戦いをくぐり抜けた艦の中に、ようやく“人間らしい呼吸”が戻っていた。
そして今、二隻の艦はオーブ連合首長国の心臓部――オノゴロ島にある地下秘密ドックへ入港していた。
ここは地上で最も安全な港であり、衛星軌道からも探知されない。
地下都市の一角には、世界的に有名な軍需企業モルゲンレーテ社の研究施設が広がっている。
この企業は、オーブの技術力の象徴とも言える存在で、アークエンジェル級戦艦の建造にも関わった。
普段、アークエンジェルやドミニオンはこの施設を拠点に活動しており、表立っては「中立」を掲げるオーブが裏で支援している実質的な“影の軍港”でもあった。
表向き、オーブは戦争に関与しない中立国家を貫いている。
だが実際には、世界の争いが激化する中で、理想と現実の狭間に立たされていた。
他国の侵攻を防ぐために武力を持たざるを得ず、また時に救援活動の名目で紛争地に介入することもある。
「理想だけでは国を守れない」――それが、今のオーブの現実だった。
そんなオーブを率いるのが、若き代表カガリ・ユラ・アスハである。
引退したウズミ・ナラ・アスハが掲げた「自立と中立」の理想を受け継ぎながらも、彼女はより現実的な政策を進めていた。
それでもカガリ政権は安定していた。
理由のひとつは、オーブを支える五大氏族の存在にある。
アスハ家(カガリ・ユラ・アスハ)を筆頭に、サハク家(ロンド・ミナ・サハク)、マシマ家(トーヤ・マシマ)、キオウ家(ミヤビ・オト・キオウ)、そしてトキノ家(エリス・ロンナ・トキノ)――この五家が国家の基盤を成していた。
五家の中でも、サハク家は独自の武力を持ちながらも、カガリの中立方針に一定の理解を示している。
一方で、マシマ家とセイラン家はかつて保守派の中心としてカガリに反発していたが、両家の当主が前大戦で相次いで戦死し、今は若い後継者たちが政に加わっている。
そのひとりが――トーヤ・マシマ。
彼はカガリを「姉のように慕う」少年であり、父の遺志を継ぎつつも、平和主義を掲げるアスハ家に全面協力していた。
もう一人、注目されているのがトキノ家の養女、エリス・ロンナ・トキノ。
外交の才能に長け、わずか十代半ばにしてカガリの政務を補佐する聡明な少女だ。
もともと孤児出身で、トキノ家当主に養女として迎えられた経歴を持つ。
オーブの次代を担う若き代表候補として、国内外の注目を集めていた。
カガリとアスランにとっては、彼女もまた“妹のように愛しい存在”である。
この五家のバランスによって、オーブは今、ひとつの「平和な形」を保っている。
また、カガリとアスラン・ザラの婚約は国内外に大きな影響を与えた。
オーブの後継者とプラントの貴公子――二人の婚姻は、ナチュラルとコーディネイターの和解を象徴する歴史的出来事と評されている。
アスラン自身は父パトリック・ザラの罪に苦しみ、過去への贖罪を胸に抱いていたが、今ではオーブ軍に籍を移し、カガリと並んで国の未来を支える立場にある。
世論も「カガリ様が選び、ウズミ様が認めた婚約者なら安心」と歓迎ムード一色だ。
かつてゲリラに身を投じたと“噂された”奔放な姫君が、ようやく隣に立つ相手を見つけた――そんな温かな安堵感が、国中に広がっていた。
ドックの片隅、艦内ブリーフィングルームでは、タリア艦長がモルゲンレーテ社の主任エリカ・シモンズと事務的な打ち合わせを行っていた。
「外装フレームの修復は予定通り進んでいます。ただ、艦尾の冷却管が少し厄介で」
「了解しました。人手は足りますか?」
「ええ、こちらからも技師を数名お貸しします」
二人の会話は淡々としていた。だが、その声には信頼の響きがあった。
軍人と技術者――立場は違えど、互いを尊重する姿勢があった。
アーサー副長が端末を抱えて控えめに口を挟む。
「補給スケジュールは今夜には確定します」
「助かります。みんな、よく頑張ってくれていますね」
エリカの微笑みは穏やかだった。その一言に、アーサーは思わず背筋を正した。
タリアは窓の外を見やる。
修理ドックでは、若い整備員たちが忙しなく動いている。
戦いの傷跡を癒やす手のひとつひとつが、まるで春風のように優しかった。
――春の陽光。
オーブは、まさにそんな空気に包まれていた。
◇ ◇ ◇
港の外では、カガリとアスランが国民の熱烈な歓迎を受けていた。
報道陣のカメラが並び、花束を差し出す子どもたちが駆け寄る。
カガリはいつもの慈母のような笑顔で応じ、アスランは少し照れくさそうに手を振る。
その光景を見つめる人々の顔には、戦乱の時代では見られなかった明るさがあった。
その後ろに立つ二人の若者――トーヤ・マシマと、エリス・ロンナ・トキノ。
どちらも次代のオーブを背負う存在だ。
トーヤはカガリを“姉”と呼ぶように慕っており、若くして政治補佐官を務める。
快活で誠実、そして民に近い目線を持つ少年。
その隣で、エリスはやや緊張した面持ちで姿勢を正していた。
彼女はトキノ家当主として外交の天才と呼ばれ、カガリの影の特使として各国との交渉に同行している。
生まれながらの名家出身ではない。
だからこそ彼女は、立場よりも「人の絆」を信じて生きてきた。
トキノ家に拾われ、カガリに家族のように迎えられた恩を胸に、今もまっすぐその背中を追っている。
「姉さまが戻ると、町全体が明るくなるみたいだ」
トーヤが小さく呟く。
エリスは頬を緩め、静かに答えた。
「カガリ様は、太陽のような方ですから」
その言葉どおり、彼女の視線の先には光があった。
オーブという国を支える人々――彼らが笑えば、国全体が温かくなる。
まるで、春の陽だまりの中にいるように。
アスランはそんな二人を見て、どこか懐かしげに目を細めた。
かつて自分も、こんな未来を夢見たことがあった。
カガリがその横顔を見つめ、微かに微笑む。
――ああ、今のアスランは優しい顔をするようになったな。
敵として出会い、そして婚約者として隣にいてくれる――その穏やかな表情が、何より嬉しかった。
公用車に乗り込んだ四人は政務庁舎に向かう。
車の中でカガリは無防備な笑顔をアスランに向けた
「どうしたんだカガリ?」
「なんでもな~い」
そう言ってカガリはアスランの肩に頭を寄せる。
アスランの前では年頃の少女でいられる。
そんなカガリを見ながらアスランは優しくカガリを胸に抱く。
トーヤとエリスはいつもの事だが視なかったふりをした。
やっと安全なオーブに入港です。
第四章は息抜き回なのでさらっと流し読みして貰えれば。
シン達もようやく一息つきましたね。
平和平和。
次回は水着回です!!