機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第四十二話 水着回
午後。
オーブ政府から正式な上陸許可が下りた瞬間、ミネルバの艦内は一気に沸いた。
「休暇だ!」
誰かの叫びに、あちこちで笑い声が弾ける。
束の間の自由。長い航行と戦闘の疲れを癒やす、ほんのひとときの安らぎだった。
「ねえ、シン。オーブってあなたの故郷なんでしょ? どこか案内してよ」
ルナマリアが軽く身を乗り出して覗き込む。
シンは照れくさそうに笑い、首の後ろをかいた。
その笑顔は、戦場では見られなかった穏やかなものだった。
「いいよ。マユとよく行った砂浜があるんだ。静かで、海がすごくきれいなんだ」
その言葉に、ルナマリアの目が少しだけ潤んだように輝く。
――シンが育った場所。
彼が笑っていた日々。
その風景を見られるだけで、胸の奥が温かくなった。
そのとき、背後からヴィーノとヨウランが飛びついた。
「おいおい、デートかよ!」
「ステラちゃんに言いつけるぞ!」
「ち、違うって! みんなで行くんだよ!」
シンが慌てて振り払うと、周囲からどっと笑いが起きた。
レイがその光景を見て、わずかに口元を緩める。
――レイも嬉しいんだ。
ルナマリアはレイの表情がとても尊いものに見えた。
メイリンが姉の肩を軽く叩いた。
「お姉ちゃん。せっかくだし、新しい水着買いに行こ? どうせなら、可愛いの!」
「えっ……」
ルナマリアの頬がみるみる赤くなる。
メイリンはいたずらっぽく笑った。
「だって、シンがびっくりするようなの着たいでしょ?」
その声音に、姉を思う妹の気持ちがにじんでいた。
そのとき、背後から落ち着いた声がした。
「なら、私が選んであげるわ」
アグネスが腕を組んで立っていた。
「……アグネス?」
「似合うの、見立ててあげる。せっかくオーブに来たんだもの、楽しまなきゃ損でしょ」
アグネスは挑戦的な笑みを浮かべた。
自分に靡かない男なんていない筈――。
その確信が、どこか心を空しくしていることに、彼女はまだ気づいていなかった。
◇ ◇ ◇
翌日。
オーブ本島南部の海岸。
碧い海、白い砂。潮風が肌を撫で、どこまでも明るい。
ミネルバの仲間たちは久しぶりの自然に浮き立っていた。
最初に砂浜へ出てきたのはルナマリアだった。
陽の光を浴びた赤い髪が、海風に揺れる。
深いワインレッドのビキニに黒のリボン。
腰には短いパレオを巻いていて、歩くたびに軽やかに翻る。
健康的で、少し大胆で、それでもどこか品がある。
まさにルナマリアらしい。
「どう? 似合ってる?」
くるりと回ると、ヴィーノが思わず口笛を吹いた。
「ルナ、似合いすぎ! それ反則!」
「うるさい!」
砂を蹴り上げながら、ルナマリアは笑った。
続いてメイリン。
赤い髪を桜色のシュシュでまとめ、白とピンクのフリル付きツーピース。
胸元と腰の小さなリボンが、彼女の明るさをそのまま形にしたようだった。
「メイリン、それ可愛いな!」
ヨウランの声に、メイリンの顔がぱっと赤くなる。
「そ、そんなこと言わないでよ……!」
恥ずかしそうに笑う姿が、まるで春の光みたいだった。
そして――アグネス。
彼女が砂浜に現れた瞬間、空気が少し変わった。
太陽の光が、まるで彼女のために強くなったかのようだった。
ゆるく巻いた髪に金の飾り。
深紅と黒を基調としたワンショルダーの水着。
布の流れるラインが、彼女の動きに合わせて滑らかに形を変える。
背中は大胆に開いているが、どこか気高い。
燃える赤と静かな黒。
情熱と影――アグネスそのものだった。
「どう?」
腰に手を当て、挑むような笑み。
ヴィーノとヨウランが同時に固まった。
「……反則だろ、それ」
アグネスは小さく笑い、肩をすくめた。
けれど視線の先には、波打ち際のニコル。
目が合った瞬間、彼が穏やかに微笑む。
息が詰まった。
胸の奥で、何かが小さく揺れた。
それが何なのか、彼女にはまだわからなかった。
ただ、海の色が少し違って見えた。
静かで、やさしくて、触れたら壊れてしまいそうな色だった。
ルナマリアがそっと肩を並べた。
「ねぇ、アグネス。今日、なんか柔らかい顔してる」
「そうかしら?」
アグネスは視線を逸らした。
笑ってみせたけれど、その笑顔の奥に、
自分でも知らない影が差している気がした。
遠くから見ていたレイが、ふっと目を細める。
――何かが変わり始めた。
彼だけが、その微かな揺れを感じ取っていた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
空が金から橙に染まり、波が静かに寄せては返す。
メイリンとヴィーノとヨウランが水をかけ合い、笑い声が響く。
その光景を見ながら、ルナマリアはシンの隣に腰を下ろす。
「……懐かしいな。ここで、マユと貝殻を拾ったんだ」
シンの声が風に溶けた。
「うん」
ルナマリアは静かに彼を見つめる。
潮風が赤い髪を揺らし、指先がかすかに触れた。
言葉はいらなかった。
触れたぬくもりだけで、胸がいっぱいになった。
少し離れた場所で、アグネスがニコルの隣にいた。
「メイリンは可愛いけど、少し子どもっぽいわね」
「じゃあ、ルナは?」
「……危険ね。でもシンが清純すぎて、ちょっと同情するわ」
くすくすと笑うアグネス。
今日もニコルの視線を独り占め出来なかった。
――けれど、不思議と悔しくなかった。
波の音が、胸の奥のざらつきを静かに洗い流していく。
その感覚の名前を、彼女はまだ知らない。
夕日の光を受け、彼女の髪が金色に揺れた。
砂浜の上で、レイが腕を組んで静かに一同を見ていた。
潮風が金の髪を揺らし、瞳の中に夕日が映る。
――悪くない。
小さく息をつく。
戦いの中では決して訪れなかった、穏やかで人間らしい時間。
それが、確かにそこにあった。
南国の陽は海へと沈み、世界が金と紅に染まっていく。
それは戦火の赤ではなく、人の心を包む、静かな温もりの色だった。
さあお待ちかね水着回ですよ。
たまにはこういう話も書いてみたいのです。
ルナマリアとメイリンとアグネスらしい水着にしてみました。
第四章は平和な世界なので気楽に読んでいただければ。