機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第四十七話 雨上がりの政庁 ―虹が架けた誓い―

 第四十七話 雨上がりの政庁 ―虹が架けた誓い―

 

 ニコルがオーブ行政府へ到着したころ、外は激しい雷雨に包まれていた。

 空を裂く稲光が白い庁舎を照らし、雨粒がガラス窓を叩く。

 バイクのエンジンを止めた途端、雨音が全身を包み込み、まるで世界が水に沈んだように感じられた。

 

 玄関で待機していた職員が傘を差し出し、バスタオルを貸してくれる。

 「こちらへどうぞ、すぐに着替えを」

 礼を言い、ニコルは濡れたライダースジャケットを脱ぎ、更衣室で手早く汗と雨を拭った。

 鏡に映る自分の顔には、夜を越えた疲労の影があったが、目だけは静かに光っていた。

 制服の襟を整え、深呼吸ひとつ。――ザフトレッドのニコル・アマルフィとして、再び歩み出す。

 

 案内役の少年は、年若いが聡明な瞳をしていた。

 「トーヤ・マシマと申します。代表がお待ちです」

 「ありがとう」

 重厚な廊下を抜け、応接室へ向かう。

 雨音が屋根を叩き、窓の外では稲光が一瞬、濡れた石畳を照らした。

 

 扉は古い樫の木製。金属の取っ手を回すと、油の匂いと木の温もりが混ざり合う。

 中にはカガリとアスランが待っていた。

 カガリは執務服の上着を肩に掛け、アスランは資料を束ねたまま椅子から立ち上がる。

 「お二人とも、ご無沙汰しています。急に申し訳ありません」

 「いや、いい。キラから連絡があった。何か重大な用件のようだな」

 

 ニコルは頷き、胸ポケットから小さなデータチップを取り出した。

 「これは……非常に重要な映像です。政治的な判断をお願いします」

 手渡されたチップを、アスランが慎重に受け取る。

 

 「こんな雨の中、大変だったろう。すぐにシャワーを――」

 「ありがとうございます。でも……急がねばなりません」

 アスランの気遣いに感謝しながらも、ニコルは首を横に振った。

 

 アンティークの壁時計が十時を告げる。

 その音が部屋に響くたび、外の雷鳴が少しずつ遠のいていくように感じられた。

 アスランが無言で端末を操作し、映像を投影する。

 

 モニターに映し出されたのは、ミネルバがタンホイザーを発射し、地球軍艦隊を撃沈する映像。

 そして、ザフトのMSがユニウスセブンの破片にブースターを取り付けて点火する場面――。

 だが、そこにはキラによる解析メモが重ねられていた。

 光度、推進炎、影の屈折角――わずかだが確かな不自然さ。

 

 カガリとアスランは、黙って最後まで動画を見つめた。

 時計の秒針の音と、再生音声の機械的なノイズだけが、静まり返った室内に響く。

 動画が終わった瞬間、ふたりは同時に深く息を吐いた。

 

 「どうやって……こんなものを見つけた?」

 「ミネルバには優秀な通信管制官がいます。偶然、発信ログを見つけたようで」

 メイリンの名を出すことはしなかった。

 ただ、あの夜の彼女の震える声を、ニコルは思い出していた。

 

 「これが広まれば、ブルーコスモスは狂喜するな」

 アスランが皮肉を交えた声で言う。

 「まるで“ザフトが地球を攻撃した”と見せかけるための燃料だ」

 「そうだな。彼らにとって、戦争を再開する理由になる」

 カガリの瞳に、強い怒りが宿る。

 「また……あんな悲劇を繰り返す気なのか」

 

 外では雨脚が弱まり始めていた。

 雷の残響が遠ざかり、窓ガラスを流れていた雫が、いつの間にか細い筋となって光を反射している。

 

 「このデータの出所を突き止める必要がある」

 アスランの声が低く響いた。

 「ブルーコスモスの広報系企業を調べる。発信元に潜入できれば、捏造の証拠を掴めるかもしれない」

 「アスラン……それは危険だ」

 カガリが思わず声を強めた。

 アスランは彼女の目を見つめ、穏やかに微笑んだ。

 「やらせてくれ。俺は君とオーブを守りたい」

 

 カガリの唇が震えた。

 その想いを言葉にする前に、アスランがそっと彼女を抱き寄せた。

 短い沈黙。

 外では雲が切れ、わずかな陽光が庁舎の白壁を照らし始めていた。

 

 ニコルはその光景を静かに見つめる。

 胸の奥で、青い炎のような怒りが燃えていた。

 「――ブルーコスモス。君たちは、平和を壊して満足なのか?」

 

 その後、カガリはすぐに政務室に戻り、政治的対応に取りかかった。

 

 議会の主導権を握る五大氏族――アスハ、サハク、キオウ、トキノ、マシマ。

 

 幸い、今回はカガリの訴えに多くが賛同した。

 特にモルゲンレーテを支配するサハク家が全面支持を表明したことで、議会の空気が変わる。

 

 「サハク家が動いた以上、他の三家も反対できません」

 トーヤ・マシマが報告書を片手に静かに言った。

 カガリは頷き、書類に署名をする。

 「キオウ家には通信監査を。トキノ家には外務対応を。トーヤは私と議会工作だ」

 自分が頼りにされた事と、友達のエリスがカガリに信頼されている事を知ってトーヤが微笑む。

 「エリス・トキノがすでに外交ラインを調整中です。地球連合の親ナチュラル派との会談を午後に設定しました」

 

 「頼もしいな……」

 カガリの声がわずかに和らぐ。

 外の雲は薄く裂け、太陽が雫を照らして虹色の光を放っていた。

 

 一方、アスランは情報局の職員たちと、オーブの情報を統括するキオウ家に連絡を取り、裏付け調査に動いていた。

 「証拠がなければ、どんな真実も信じてもらえない。俺がやる」

 彼の背にある静かな覚悟が、室内の空気を引き締める。

 

 やがて、すべての指示を終えたカガリが窓の外を見上げた。

 庁舎の外壁を伝う雫が、まるで夜の涙を洗い流すように光っている。

 「この嵐のあとに、必ず陽は昇る。……オーブがその証明にならなきゃならない」

 

 ニコルは席を立ち、軽く頭を下げた。

 「オーブは動き出しました。これで僕の役目は終わりです」

 「すまない、ニコル。君がいなければ、私たちは今も闇の中だった」

 「いいえ、僕はただ橋を渡しただけです」

 柔らかく笑い、ニコルは扉の前で一度だけ振り返る。

 そこには、オーブの未来を背負うカガリの姿――獅子の娘。

 彼女こそ、次の戦いを静かに始めようとしている者だった。

 

 外に出ると、雨は完全に止んでいた。

 雲の切れ間から差す陽光が、庁舎の白壁を照らし、濡れた石畳に反射して眩しいほどに光る。

 遠くの海が煌めき、潮の香りが風に混じる。

 

 ニコルは新品のライダースジャケットの襟を立て、深く息を吸い込んだ。

 「……これで、少しは前へ進める」

 そしてヘルメットを被り、エンジンをかける。

 マフラーが低く唸り、バイクは滑るように政庁を離れていった。

 

 太陽の光は強く、空はまだ少し濡れていた。

 嵐は去った。だが、戦いはこれからだ。

 ――そして誰もが、その空の向こうにある虹を信じていた。




――嵐のあとに、光は射す。

雨が洗い流したのは、迷いか、それとも罪か。
一枚の映像が、再び世界を揺るがす。

立ち上がる者、手を差し伸べる者。
そして――信じる勇気が、虹を架ける。

次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH
「第四十八話 フェイク ―偽りの真実―」

真実は、いつも光と影の狭間にある――。
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